最高裁判所第二小法廷 平成13年(行ヒ)8号 判決 2004年2月13日
上告人
京都市長
桝本賴兼
同訴訟代理人弁護士
崎間昌一郎
被上告人
藤田孝夫
主文
1 原判決中,上告人が被上告人に対し平成9年9月19日付けでした公文書一部非公開決定のうち第1審判決別紙目録3の番号1,7,10,13,23,28,39及び43並びに同目録4の番号3,6,7,14,15,17,18,20,23,25,38及び43の記載部分を非公開とした部分に関する部分を破棄する。
2 上記部分について,第1審判決を取り消し,被上告人の請求を棄却する。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 訴訟の総費用は,これを10分し,その7を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人崎間昌一郎の上告受理申立て理由第一について
1 本件は,被上告人が,京都市公文書の公開に関する条例(平成3年京都市条例第12号。平成12年京都市条例第41号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,上告人に対し,平成6年度及び同7年度の飲食を伴う接遇に関する京都市(以下「市」という。)の清掃局分の経費支出決定書(以下「本件各文書」という。)の公開を請求したところ,平成9年9月19日付けで一部非公開決定(以下「本件処分」という。)がされたので,その一部取消しを求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 本件条例8条は,「実施機関は,次の各号の一に該当する情報が記録されている公文書については,公文書の公開をしないことができる。」と定め,その1号において,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で,個人が識別され,又は識別され得るもののうち,公開しないことが正当であると認められるもの」と規定している。
(2) 本件各文書には,接遇の相手方の氏名,肩書等が記載されている。接遇の内容等は,次のとおりである。
ア 本件文書1
第1審判決目録(以下「目録」という。)3の番号1,7,13,23,28及び39並びに目録4の番号3,7,14,15,18,20,25及び43の文書(以下,これらの文書をまとめて「本件文書1」という。)は,既存又は計画中の埋立処分地,清掃工場,清掃事務所等に関して,清掃局の職員が地元関係者と行った会合の経費支出決定書である。これらの会合は,上記施設等の稼働又は建設計画に関して地元関係者と内密に個別折衝するために開催されたものであり,会合の相手方出席者は,地元住民,地元諸団体の役員等である。
イ 本件文書2
目録3の番号10及び43並びに目録4の番号6,17,23及び38の文書(以下,これらの文書をまとめて「本件文書2」という。)は,計画中の埋立処分地の造成,既存の清掃工場の建替え又は運営,空き瓶の収集等に関して,清掃局の職員が地元関係者と行った会合等の経費支出決定書である。これらの会合は,清掃事業推進のため,上記施設等の稼働又は建設計画等に関して地元関係者の理解を得るために開催されたものであり,会合を開催したことは,地元住民にも明らかにしている。会合の相手方出席者は,地区の対策委員会,自治会,保健協議会,PTA等の関係者である。
ウ 本件文書3
目録3の番号5,12,19,33,34,38及び40並びに目録4の番号11,24,30及び40の文書(以下,これらをまとめて「本件文書3」という。)は,清掃事業等に関して学識経験者に調査研究,講演等を依頼し,その結果報告等を受けたり,技術指導を受けたりするために開催された会合の経費支出決定書である。会合の相手方出席者は,学識経験者である。
エ 本件文書4
目録3の番号3,14,24及び42並びに目録4の番号16,26及び33の文書(以下,これらをまとめて「本件文書4」という。)は,清掃工場の各種機器の性能検査等に関して,市を訪れた関係者と各種機器の内容,状態等について協議を行った際の経費支出決定書である。会合の相手方出席者は,市を訪問した清掃事業に関係する団体の職員である。
オ 本件文書5
目録3の番号6,8及び31並びに目録4の番号9,10,27,29,35,47及び49の文書(以下,これらをまとめて「本件文書5」という。)は,市の清掃事業等について関係団体の職員,他の地方公共団体の職員,関係業者等と協議を行った際の経費支出決定書である。
カ 本件文書6
目録3の番号41及び目録4の番号37の文書(以下,これらをまとめて「本件文書6」という。)は,市の環境美化事業の調査等のために市を訪問した他の地方公共団体の職員又は関係団体の職員と情報交換,協議を行った際の経費支出決定書である。
(3) 上告人は,本件文書1ないし6に記録されている情報については本件条例8条1号所定の非公開情報に該当し,本件文書1及び2に記録されている情報については同条7号所定の非公開情報にも該当すること等を理由として,本件各文書中の目録1及び2の「非公開部分」に対応する部分を非公開とする本件処分をした。被上告人は,本件訴訟において,本件処分のうち本件各文書中の目録3及び4の「非公開部分」に対応する部分の取消しを求めている。
3 原審は,次のとおり判断して,本件処分のうち本件文書1ないし6中の目録3及び4の「非公開部分」に対応する部分を非公開とした部分を取り消すべきであるとした。
(1) 本件文書1ないし6に記録されている情報は,本件条例8条1号所定の非公開情報に該当しない。
(2) 本件文書1及び2に記録されている情報は,同条7号所定の非公開情報にも該当しない。
4 しかしながら,原審の上記判断(1)のうち,本件文書3ないし6に記録されている情報が本件条例8条1号所定の非公開情報に該当しないとした部分は是認することができるが,本件文書1及び2に記録されている情報が同号所定の非公開情報に該当しないとした部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 本件文書1について
本件文書1に記録されている情報は,地元住民,地元諸団体の役員等が清掃局の開催した会合に出席したことに関する情報であることが原審において確定されており,これらの者の社会的活動にかかわる情報であって,氏名,肩書等により特定の個人が識別され,又は識別され得るものである。そして,本件条例8条1号は,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報が記録されている文書を公開しないこととしているものであるところ,前記事実関係等によれば,上記会合は,既存又は計画中の埋立処分地,清掃工場,清掃事務所等の稼働又は建設計画に関して地元関係者と内密に個別折衝するために開催されたというのであるから,これらの者の上記会合への出席に関する情報は,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たるというべきである。そうすると,本件文書1に記録されている情報は,同号所定の非公開情報に該当する。
(2) 本件文書2について
本件文書2に記録されている情報は,地区の対策委員会,自治会,保健協議会,PTA等の関係者が清掃局の開催した会合に出席したことに関する情報であることが原審において確定されており,これらの者の社会的活動にかかわる情報であって,氏名,肩書等により特定の個人が識別され,又は識別され得るものである。そして,前記事実関係等によれば,上記会合は,計画中の埋立処分地の造成,既存の清掃工場の建替え又は運営,空き瓶の収集等の事業推進について,地元関係者の理解を得るために開催されたというのであるから,これらの者の上記会合への出席に関する情報は,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たるというべきである。そうすると,本件文書2に記録されている情報は,本件条例8条1号所定の非公開情報に該当する。
(3) 本件文書3について
本件文書3に記録されている情報は,氏名,肩書等により特定の個人が識別され,又は識別され得るものである。しかしながら,前記事実関係等によれば,本件文書3に係る会合は,清掃事業等に関する調査研究,講演等を依頼した学識経験者から結果報告を受けたり,技術指導を受けたりするために開催されたというのであるから,学識経験者の上記会合への出席に関する情報は,公開によりその者の職業ないし職務上の地位が判明することを考慮しても,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たるということはできない。そうすると,本件文書3に記録されている情報は,本件条例8条1号所定の非公開情報に該当しないというべきである。
(4) 本件文書4について
本件文書4に記録されている情報は,氏名,肩書等により特定の個人が識別され,又は識別され得るものである。しかしながら,前記事実関係等によれば,本件文書4に係る会合は,清掃事業に関係する団体の職員が清掃工場の各種機器の性能検査等を実施した際に,各種機器の内容,状態等について協議するために開催されたというのであるから,上記職員の上記会合への出席に関する情報は,公開によりその者の職業ないし職務上の地位が判明することを考慮しても,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たるということはできない。そうすると,本件文書4に記録されている情報は,本件条例8条1号所定の非公開情報に該当しないというべきである。
(5) 本件文書5について
本件文書5に記録されている情報は,氏名,肩書等により特定の個人が識別され,又は識別され得るものである。しかしながら,前記事実関係等によれば,本件文書5に係る会合は,市の清掃事業等について関係団体の職員,他の地方公共団体の職員,関係業者等と協議するために開催されたというのであるから,これらの者の上記会合への出席に関する情報は,公開によりその者の職業ないし職務上の地位が判明することを考慮しても,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たるということはできない。そうすると,本件文書5に記録されている情報は,本件条例8条1号所定の非公開情報に該当しないというべきである。
(6) 本件文書6について
本件文書6に記録されている情報は,氏名,肩書等により特定の個人が識別され,又は識別され得るものである。しかしながら,前記事実関係等によれば,本件文書6に係る会合は,市の環境美化事業の調査等のために市を訪問した他の地方公共団体の職員又は関係団体の職員と情報交換及び協議を行うために開催されたというのであるから,これらの者の上記会合への出席に関する情報は,公開によりその者の職業ないし職務上の地位が判明することを考慮しても,個人識別情報のうち公開しないことが正当である私事に関する情報に当たるということはできない。そうすると,本件文書6に記録されている情報は,本件条例8条1号所定の非公開情報に該当しないというべきである。
5 以上によれば,原審の前記判断中,本件文書1及び2に記録されている情報が本件条例8条1号所定の非公開情報に該当しないとした部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原判決中上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件処分のうち本件文書1及び2中の部分を非公開とした部分に違法はないから,上記部分については,第1審判決を取り消して被上告人の請求を棄却するのが相当であるが,本件処分のうち本件文書3ないし6中の部分を非公開とした部分の取消請求に係る上告は棄却すべきである。
なお,その余の上告については,上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判官・北川弘治,裁判官・亀山継夫,裁判官・滝井繁男 裁判長裁判官・梶谷玄は,差し支えにつき署名押印することができない。裁判官・北川弘治)