最高裁判所第二小法廷 平成14年(し)218号 決定 2002年8月19日
申立人 A
主文
原決定を取り消す。
被告人の保釈を許可する。
保証金額は金500万円とする。
出監後は、別紙の指定条件を誠実に守らなければならない。これに違反したときは、保釈を取り消され、保証金が没取されることがある。
理由
本件抗告の趣意は、憲法違反をいう点を含め、実質は事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
しかし、所論にかんがみ、以下、職権をもって検討する。
本件公訴事実の要旨は、「被告人は、相被告人Bと共謀の上、平成14年7月9日午後6時40分ころ、神奈川県D市のE海水浴場沖合において、サーフィン中のCがBのサーフボードに接触して傷を付けたことなどに因縁を付け、Cから金品を喝取しようと企て、同所及び同海水浴場砂浜等において、同人に対し、その顔面を手けんで数回殴打し、腰部付近を数回足蹴にするなどの暴行を加えた上、サーフボードの修理費用等を出すよう語気鋭く申し向けて金品の交付を要求し、この要求に応じなければ、同人の身体、財産等にいかなる危害をも加えかねない気勢を示して脅迫し、その旨同人を畏怖させ、よって、同日午後7時ころ、E地下駐車場において、同人から現金5000円、携帯電話1台及びパスポート1通の交付を受け、もってこれを喝取したものである。」というにあるが、一件記録によれば、本件においては、次のような事情が認められる。すなわち、本件は、サーフィン中のCがBのサーフボードに誤って接触し傷を付けたことを発端とする偶発的な事案であること、関係者の供述に若干の食い違いが存在するとはいうものの、大筋においては供述が一致しているとみることが可能であること、被告人は、これまでに前科前歴がなく、社会人として安定した職業、住居、家庭を有するものであること、BとCとの間では、平成14年7月27日、Bは、本件被告事件に係る損害賠償金として14万円をCに支払い、Cに対するサーフボードの修理代金債権を放棄する、CはBに対し宥恕の意思を表明するなどを内容とする示談が成立したこと等の事情が存在する。
以上のような本件事案の性質、その証拠関係、被告人の身上経歴、示談の成立状況などに照らすと、被告人に保釈を許可した原々審の裁判を取り消して保釈請求を却下した原決定には、裁量の範囲を逸脱し、刑訴法90条の解釈適用を誤った違法があり、これが決定に影響を及ぼし、原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。
よって、刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し、同法434条、426条2項により更に裁判して保釈を許可することとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 福田博 裁判官 滝井繁男)
(別紙)
指定条件
1 被告人は、Fに居住しなければならない。住居を変更する必要ができたときは、書面で裁判所に申し出て許可を受けなければならない。
2 召喚を受けたときは、必ず定められた日時に出頭しなければならない(出頭できない正当な理由があれば、前もって、その理由を明らかにして、届け出なければならない。)。
3 逃げ隠れしたり、証拠隠滅と疑われるような行為をしたりしてはならない。
4 海外旅行又は5日以上の旅行をする場合には、前もって、裁判所に申し出て、許可を受けなければならない。
5 被告人は、その弁護人を介する場合を除き、その方法のいかんを問わず、C及びBと一切の接触をもってはならない。