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最高裁判所第二小法廷 平成14年(許)32号 決定 2003年3月14日

抗告人

永山秀好

同代理人弁護士

竹川秀夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人竹川秀夫の抗告理由について

一定の金額を限度とする支払保証委託契約を締結するという方法によって担保を立てることを条件に、仮執行宣言付第一審判決の強制執行を停止する旨の決定に基づき、被告が、金融機関との間で支払保証委託契約を締結するとともに、上記金額と同額の定期預金をしたところ、第三者が、転付命令により、この定期預金払戻請求権を取得した場合において、上記第三者が上記担保の取消しの申立てをすることはできないと解すべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原決定に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官・福田博、裁判官・北川弘治、裁判官・亀山継夫、裁判官・梶谷玄、裁判官・滝井繁男)

許可抗告申立理由書

1 実務は、かねてより支払保証による銀行への預金債権について、担保権者が差押転付命令を得た上で、担保取消決定を得て、預金の払い戻しを受けるという実務方法を長く認めてきた。

2 その理論的根拠としては、差押転付命令の効力が主物従物理論により、預金債権の転付とともに、担保取消申立権者たる地位(支払保証委託者の地位)も移転したと解されていたことによる。

民事執行の理論において、差押(転付命令)の効力が従たる権利にまで及ぶのは定説である(田中康久著・新民事執行法の解説三一一頁、三五〇頁)。

原決定は、以上の点の解釈を誤っている。

3 支払保証委託契約の方法においても、担保としての実質を有するのは定期預金債権であり、まさしく、そのためにそれを確保するために、質権を設定しているのであるから、その定期預金債権を転付命令を得て取得した担保権者は、担保取消の申立ができると解するべきである。

形式理論としては、定期預金債権と支払保証委託契約の地位とは別個のものであるとしても、別個のものだから運命を伴にしないとは限らない。

従物は、主物に従うの理論により、従たる権利は、主たる権利に従うのであるから、定期預金債権の移転に伴って、従たる権利として(地位というのも結局のところ権利義務の総称にすぎない)支払保証委託者の地位も移転すると解するべきである(民法第八七条第二項)。

むしろ、従たる権利は、主たる権利に付随して移転するのが、私人間の法律関係を律する上で自然かつ合理的である(たとえば、借地上の建物所有権を譲り受けた者は借地権〔借地人たる地位〕も、従たる権利として譲り受けるというのが通説・判例である)。

支払保証のための預金債権は、まさしく、その名の通り支払保証のためのものであり、預金債権と支払保証委託契約の地位(担保取消申立権者たる地位)とは、機能的・目的的に不可分一体的なものであり、預金債権の転付命令による移転に伴い、従たる権利として、担保取消申立権者たる地位も移転すると解すべきである。

平成九年の大阪高裁決定(平9.11.21、判例タイムズ九六四、二七二頁)は、この点、単に両者が違うものであることから、それぞれが異別の運命をたどるものと早計に考えてしまったものであり誤っている。

同決定は、担保としての実効があるのは、銀行の支払能力に疑問がないからだなどと言ってるが、それは、抽象論として成り立つ議論であって、いかに銀行と言えども預金もしていない担保義務者の支払保証をするわけではない。

銀行は、担保義務者が預金するからこそ、それを担保にして保証するわけである。

そして、それを万全にするためにこそ、預金債権の上に質権まで設定しているのである。

同決定の考えは、観念論にすぎず実のある議論とは言えない。

また、支払能力に疑問がない点では、国である供託金取戻請求権の場合も同様であり、異別に解する理由はない。

以上により、同決定は誤っているというほかない。

実際の実務においても、同決定が出た後も、この決定によらずに、担保取消がなされている。

それは、同決定が不合理であるからであり、実務に合理的に適応できないからである。

実務は、単なる形骸化した形式論によって行われるものではなく、法の機能等をも視野に入れた現実的で合理的なものでなくてはならない。

同決定は、余りにも不合理な形式理論の解釈論であり、法の解釈・適用を誤っていると言わねばならない。

4 供託金取戻請求権の転付命令についても、それとともに担保取消権者たる地位も移転することを判例実務は認めているのだから(大決昭5.7.4評論一九巻民訴四〇九頁、大決昭7.11.18民集一一巻二一九七頁)、預金債権(預金払戻請求権)の転付命令の場合には認めないというのでは論理として一貫しないし、実務においても混乱し不合理である。

論理として一貫性をもたせ、かつ、実務面における法的処理の妥当性の見地からも認めるべきである。

5 原決定のように認めないとすることは、平成一二年四月七日の最高裁決定平成一一年(許)第四二号の意味を失わせることになり、同決定の趣旨ともそぐわない。

6 以上により、原決定は、上記各判例に違反し、かつ、民訴法第七九条第一項並びに民法第八七条第二項、民事執行法第一五九条第一項の解釈を誤っており、それは、極めて重要な問題を含んでおり、しかも、実務に与える影響が極めて大きいので、ぜひとも最高裁の判断をあおぐべきである。

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