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最高裁判所第二小法廷 平成16年(あ)1264号 判決 2009年7月17日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人黒田純吉,同深澤信夫,同桑村竹則の上告趣意のうち,憲法13条,36条違反をいう点は,死刑制度がこれらの規定に違反しないことは当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁,最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁,最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月19日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)とするところであるから,理由がなく,憲法29条違反をいう点については,国土利用計画法(平成10年法律第86号による改正前のもの)23条1項,47条が憲法29条に違反しないことは,当裁判所の判例(最高裁昭和31年(オ)第326号同35年2月10日大法廷判決・民集14巻2号137頁,最高裁平成12年(オ)第1965号,同年(受)第1703号同14年2月13日大法廷判決・民集56巻2号331頁)の趣旨に徴して明らかであるから,理由がなく,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

なお,所論にかんがみ,記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。

付言すると,本件は,オウム真理教(教団)幹部であった被告人が,共犯者らと共謀の上,(1) 教団の出家信者(当時21歳)が,教団内で修行中に死亡した他の信者の死体の処理に関与した後,教団からの脱退を強く希望するようになったため,口封じ等を目的にこれを殺害し,(2) 教団に対抗して被害対策弁護団の中心となり活動していた弁護士(当時33歳)を,同人のみならずその妻(当時29歳)及び長男(当時1歳)と共に,その自宅において殺害し,(3) 無差別大量殺りくを目的として,教団施設内に化学プラントを建設し,化学兵器である神経剤のサリンを大量に生成しようと企てて殺人の予備をし,その他,国土利用計画法違反,公正証書原本不実記載,同行使,麻薬及び向精神薬取締法違反(LSDの製造),犯人隠避教唆,建造物侵入の各犯行を行った事案である。

上記のうち,(1)及び(2)の各犯行は,教団の組織防衛のみを目的とする殺人の事案であって,動機において酌量の余地はないところ,取り分け,(2)の犯行は,正当な職務上の活動をしていた弁護士を,敵対するというだけで家族もろとも皆殺しにしたという,反社会性の極めて強いものである。(1)の犯行では,被害者のけい部にロープを巻き,被告人を含む4人がかりで,これを引っ張って締め付け,更にそのけい部を強くひねるなどして殺害し,(2)の犯行では,被告人を含む6名が,深夜弁護士方に押し入り,就寝中の被害者3名に対し,顔面を手けんで殴打し,あるいは,腹部に膝を打ち付け,首を締め付けるなどして,全員を窒息死させたものであり,犯行態様は,いずれも,組織的かつ計画的で,冷酷,残忍である。4名もの生命を奪った結果は極めて重大である上,各犯行後は,(1)の被害者の死体を焼き尽くし,灰状にして地面にまいて捨て,(2)の各被害者の死体を県を異にする山中にそれぞれ埋めるなどして,犯跡の隠ぺいを図っている。これらの事案の遺族の処罰感情は厳しく,社会に与えた衝撃は大きい。

その余の各犯行の悪質さも多言を要しないところであり,(3)の犯行については,兵器として開発された殺傷能力の非常に高いサリンによる無差別大量殺りくの現実的危険性が差し迫っていたということができる。

被告人は,教団によって組織的に行われた各犯行に,教団幹部の立場で積極的にかかわっており,その果たした役割は,非常に大きい。

以上のような事情に照らすと,被告人について反省悔悟の情が認められること,前科がないことなど,酌むべき事情を十分考慮しても,被告人の刑事責任は,極めて重大であるといわざるを得ず,被告人を死刑に処した第1審判決を維持した原判断は,当裁判所もこれを是認せざるを得ない。

よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

検察官吉田広司 公判出席

(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 今井功 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫)

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