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最高裁判所第二小法廷 平成16年(行ツ)121号 判決 2004年11月26日

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

上記当事者間の広島高等裁判所平成13年(行コ)第16号所得税更正処分取消等請求事件について、同裁判所が平成16年1月22日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

1  原判決のうち別紙処分目録1から6までの各部分の取消請求に関する部分を破棄する。

2  前項の部分につき、本件を広島高等裁判所に差し戻す。

3  上告人のその余の上告を棄却する。

4  前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人都築弘ほかの上告理由について

1  原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

(1)  被上告人は、平成5年分から同7年分までの所得税につき、別表1から3までの各①欄のとおり申告したところ、上告人は、同9年3月12日、被上告人に対し、上記各表の各②欄のとおり更正(以下「本件各更正」という。)をし、別表4から6までの各①欄のとおり過少申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)をした。

(2)  被上告人は、上記各申告において、第1審判決別表2の②から⑳までの項目について、所得税法27条2項に基づき、同表の各「原告の申告」欄の金額を総収入金額から控除すべき必要経費に算入して事業所得を計算したが、上告人は、本件各更正において、同表の各「否認額」欄の金額を必要経費として認めなかった。

2  本件は、被上告人が、上告人に対し、本件各更正のうち申告額を上回る部分及び本件各賦課決定の取消しを求める事案である。

3  原判決は、上告人の主張を次のように摘示する。

(1)  第1審判決別表2の⑮の支払手数料(平成5年分、同6年分及び同7年分)の各「否認額」欄の金額については、所得税法157条が適用され、必要経費として認めることはできない(以下、この上告人の主張を「(1)の主張」という。)。

(2)  同表の⑥の接待交際費、⑦の損害保険料、⑫の利子割引料、⑰の組合(会)費及び⑳の雑費(いずれも平成5年分、同6年分及び同7年分)、⑪の福利厚生費(同5年分及び同6年分)、④の旅費交通費及び⑨の消耗品費(いずれも同6年分及び同7年分)、②の租税公課(同6年分)並びに⑱のガソリン代(同7年分)の各「否認額」欄の金額は、事業との関連性又は事業遂行上の必要性が認められないか、事業の遂行上の必要性のある部分が明らかでないもの、家事上の経費と認められるもの、あるいは家事関連費と認められるものであり、必要経費として認められない(以下、この上告人の主張を「(2)の主張」という。)。

4  原審は、(1)の主張が失当である旨を判示するが、(2)の主張について判断することなく、被上告人の請求を全部認容した。

5  しかしながら、(1)の主張と(2)の主張とは別個の経費を内容とするものであり、これらの経費はそれぞれ独立して必要経費に当たるかどうかが判断されるべきものであって、(1)の主張が失当であっても、(2)の主張が正当であれば、平成5年分から同7年分までの被上告人の総所得金額及び納付すべき所得税の額は、それぞれ別表1から3までの各③欄のとおりとなる。そして、この税額を前提とすると、被上告人は国税通則法65条4項にいう正当な理由があることを主張していないから、各所得税に係る過少申告加算税の額は、それぞれ別表4から6までの各②欄のとおりとなる。そうすると、(1)の主張が失当であっても、それだけでは、本件各更正のうち別表1から3までの各③欄の納付すべき税額を超える部分及び本件各賦課決定のうち別表4から6までの各②欄の税額を超える部分が違法であるにとどまり、別紙処分目録1から6までの各部分が直ちに違法となるものではない。したがって、原判決のうち上記各部分を取り消した部分には、理由不備の違法がある。論旨は理由があり、原判決のうち同部分は破棄を免れない。そして、同部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。

なお、その余の上告は、理由がないから、棄却することとする。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶谷玄 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野修)

処分目録

次のとおり上告人が平成9年3月12日に被上告人に対してした各処分のうち次の各部分

1 平成5年分所得税に係る更正のうち、納付すべき税額が20万7000円を超え95万9800円以下の部分(総所得金額が1246万9164円を超え1435万1129円以下の部分)

2 平成6年分所得税に係る更正のうち、還付すべき税額27万2980円を超え、納付すべき税額25万3300円以下の部分(総所得金額が1009万8232円を超え1222万3998円以下の部分)

3 平成7年分所得税に係る更正のうち、納付すべき税額が99万5800円を超え160万7800円以下の部分(総所得金額が1560万6755円を超え1774万6425円以下の部分)

4 平成5年分所得税に係る過少申告加算税賦課決定のうち、税額7万5000円以下の部分

5 平成6年分所得税に係る過少申告加算税賦課決定のうち、税額5万2000円以下の部分

6 平成7年分所得税に係る過少申告加算税賦課決定のうち、税額6万1000円以下の部分

当事者目録

上告人 広島西税務署長

宮本利光

同指定代理人 都築弘

小尾仁

西澤芳弘

丸山慶一郎

垣内慎司

村上泰彦

森脇秀仁

安部公一

品川昭夫

仲前二郎

被上告人 甲

同訴訟代理人弁護士 山田二郎

我妻正規

胡田敢

風呂橋誠

(別紙 上告理由書)

第1 本件事案の概要及び原判決の判示等

1 本件事案の概要

本件は、被上告人が行った平成5年分ないし平成7年分の各年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の確定申告について、上告人が、事業所得の金額の計算上

(1) 被上告人が同族会社である有限会社A(以下「A」という。)に対して支出した支払手数料(以下「本件支払手数料」という。)のうち、比準会社を基準に算出された適正価額を超える部分について、所得税法157条を適用して必要経費算入を否認し(以下「処分理由①」という。)、

(2) 被上告人が必要経費に算入していた接待交際費、損害保険料等のうち、被上告人の事業との関連性がないもの等(以下「本件接待交際費等」という。)について必要経費算入を否認し(以下「処分理由②」という。)、

本件各年分に係る所得税の更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分とあわせて「本件各処分」という。)を行ったことから、被上告人が、本件各処分の取消し等を求めた事案である。

本件の主な争点は、上告人が、①所得税法157条1項を適用して本件支払手数料の一部について必要経費算入を否認したことの適否(以下「争点①」という。)及び②本件接待交際費等の必要経費算入を否認したことの適否(以下「争点②」という。)である。

2 原判決の判示

原判決は、争点①について、上告人が支払手数料の適正価額算定の基礎とした比準会社とAには、経費率や事業規模の点で個別条件の相違を超えた違いがあり、本件の比準会社は、比準会社としての基礎的要件に欠けるため、所得税法157条の適用要件を充たさない旨判示したが、争点②については、判断を示すことなく、本件各処分を取り消した。

第2 上告理由

1 理由不備の意義

民事訴訟法312条2項6号の「判決に理由を付さないこと」とは「主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けていることをいう」(最高裁平成11年6月29日第三小法廷判決・裁判集民事193号411ページ、判例時報1684号59ページ)。

上記最高裁判決は、当該事件の原判決が、同事件被上告人の抗弁を入れながら、同事件上告人が主張した再抗弁を摘示せず、当該再抗弁について何らの判断も加えずに同事件上告人の請求を棄却した事案について、理由不備をいう上告理由に対し、上記のとおり判示した上、「原判決自体はその理由において論理的に完結しており、主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けているとはいえない」から、当該違法は、民事訴訟法312条2項6号の「判決に理由を付さないこと」には当たらないと判示した。

これに対し、本件の原判決は以下に述べるとおり、上告人の主張に係る抗弁を正しく摘示しながら、これに対する理由を欠くものである。

2 上告人主張に係る抗弁の摘示

一般に、課税処分取消訴訟における必要経費の不存在(必要経費が主張額を超えて存在しないこと)に関する立証責任は、被告課税庁が負うと解されており(最高裁昭和38年3月3日第三小法廷判決・訟務月報9巻5号668ページ参照、泉徳治ほか・租税訴訟の審理について(改訂新版)170ないし171ページ)、その主張責任も被告が負うと解されている(泉ほか・前掲租税訴訟の審理について(改訂新版)86ページ)。

原審における上告人の処分理由①、②に係る主張は、いずれも被上告人が申告において必要経費に算入したもののうち、否認した部分について必要経費の不存在をいうものであるから、上告人の抗弁に当たる。

そして、原判決が引用する一審判決の「第2 事案の概要」のうち、2、(1)、イ「支払手数料以外の費用の否認の適法性」の「(ア) 被告らの主張」(一審判決21ないし31ページ)には、処分理由②に関する上告人の主張として、被上告人が申告時に必要経費に算入したもののうち、接待交際費、組合費、雑費、福利厚生費、旅費交通費及びガソリン代には所得税法37条1項の必要経費に当たらないものがあり、損害保険料にはAの従業員等に係る保険料であって被上告人の必要経費に算入できないものがあり、利子割引料には家事上の経費(所得税法45条1項1号)に当たるものがあり、消耗品費には必要経費に算入できない家事関連費(所得税法45条1項1号の「これに関連する経費で政令で定めるもの」)に当たるものがあり、租税公課には所得税法45条1項3号(平成9年法律第5号による改正前のもの)の附帯税に当たるものがある等の理由から、これらについては必要経費の額に算入することができない旨記載されている。

このように、原判決は、上告人が処分理由①とともに処分理由②を抗弁として主張していることを正しく摘示している。

3 抗弁に対する判断の欠落

ところが、原判決は、処分理由①に係る抗弁については判断したが、処分理由②に係る抗弁については何ら判断を加えていないのに、主文において本件各処分の全部を取り消しているのであり、判決自体がその理由において論理的に完結しておらず、主文を導き出すための理由の一部が欠けていることが明らかである。

したがって、原判決には民事訴訟法312条2項6号の理由不備の違法がある。

第3 結論

以上のとおり、原判決には理由不備の違法があるから、原判決を破棄し、相当の裁判をすることを求める。

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