最高裁判所第二小法廷 平成16年(行ヒ)253号 判決 2007年1月19日
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 上告人が被上告人に対し平成12年8月31日付けでした別紙物件目録記載1の土地の土地課税台帳に登録された平成12年度の価格についての審査の申出に対する決定のうち、価格1億4789万6699円を超える部分を取り消す。
(2) 被上告人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は、これを20分し、その1を上告人の負担とし、その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人外立憲和ほかの上告受理申立て理由第1の2及び3について
1 本件は、別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)の固定資産税の納税義務者である被上告人が、三鷹市長により決定され土地課税台帳に登録された本件土地の平成12年度の価格について、上告人に対して審査の申出をしたところ、上告人から、平成12年8月31日付けで本件土地の価格を1億5305万7116円とする決定(以下「本件決定」という。)を受けたため、本件決定のうち価格6309万0646円を超える部分の取消しを求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1)ア 市町村長は、自治大臣が告示する固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないところ(地方税法(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下「法」という。)403条1項、388条1項)、三鷹市においては、固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。平成12年自治省告示第217号による改正前のもの。以下「評価基準」という。)及びこれに基づいて定められた三鷹市固定資産(土地)評価事務取扱要領(8三市資発第117号。平成14年12月18日付け14三市資発第60号による改正前のもの。以下「取扱要領」という。)によって土地の評価を行っていた。
イ 評価基準には、<1>市街化区域農地の評価については、沿接する道路の状況、公共施設等の接近の状況その他宅地としての利用上の便等からみて、当該市街化区域農地とその状況が類似する宅地の価額を基準として求めた価額(以下「基本価額」という。)から当該市街化区域農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する額を控除した価額によってその価額を求める方法によること、<2>各筆の宅地の評点数は、路線価を基礎とし、画地計算法(各筆の宅地の立地条件に基づき、個々の宅地の形状に応じた補正を適用して評価額を求める方法)を適用して付設すること、<3>この場合において、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは、画地計算法の附表等について、所要の補正をして、これを適用すること、<4>一画地は、原則として、土地課税台帳等に登録された1筆の宅地によるが、1筆の宅地又は隣接する2筆以上の宅地について、その形状、利用状況等からみて、これを一体を成している部分に区分し、又はこれらを合わせる必要がある場合においては、その一体を成していると認められる部分の宅地ごとに一画地とすること、<5>不整形地、無道路地、間口が狭小な宅地等については、その形状等に応じ、評点数を求めること、<6>無道路地については、原則として、当該無道路地を利用する場合において、その利用上最も合理的であると認められる路線の路線価に奥行価格補正率表によって求めた補正率(以下「奥行価格補正率」という。)、通路開設補正率表によって求めた補正率(以下「通路開設補正率」という。)及びその無道路地の近傍の宅地との均衡を考慮して定める無道路地補正率を乗じて1m2当たりの評点数を求め、これに当該無道路地の地積を乗じてその評点数を求めることなどが定められている。
ウ 取扱要領には、市街化区域農地を評価する際の基本価額については、画地計算法は適用せず、これに代えて、三鷹市内を12か所に区分して定めた状況類似地域ごとに、各地域内の宅地の平均路線価格に所定の割合(0.75)を乗じて得た価額とすること、その際、各地域内の宅地の平均路線価格は、市街地宅地評価法により評定された各路線価格の平均価格とすることなどが定められている。また、画地計算法を適用した宅地の評価に当たり、無道路地については、奥行価格補正、通路開設補正及び無道路地補正を適用するが、実際に利用している街路への通路が同一の所有者に帰属する場合は、通路開設補正は適用しないことなどが定められている。
(2) 本件土地及び別紙物件目録記載2の土地(以下「別件土地」という。)は共有者をすべて同じくする土地であり、被上告人はその共有者の1人である。本件土地は、別件土地を隔てて幅員約7mの街路(以下「南側街路」という。)に接続する市街化区域農地(畑)である。本件土地と別件土地は、地番、地目を異にしており、現況も一体として利用されていない。本件土地への出入りは、別件土地を利用して行われている。南側街路の路線価は24万6000点であり、両土地の形状等を前提とすると、本件土地に奥行価格補正、通路開設補正及び無道路地補正が適用されるとした場合の評価基準及び取扱要領に基づく補正率は、それぞれ0.81、0.6及び0.6である。
(3) 三鷹市長は、評価基準及び取扱要領所定の前記市街化区域農地の評価方法に基づき、平成12年1月1日を賦課期日とする平成12年度の本件土地の価格を1億9199万6897円と決定し、これを土地課税台帳に登録した。
(4) 被上告人は、上記(3)の価格を不服として、上告人に対し、法432条1項の規定に基づき審査の申出をしたところ、上告人は、上記(1)ウの取扱要領所定の割合0.75を無道路地補正率に相当する0.6と修正して適用することとし、平成12年8月31日付けで、本件土地の価格を1億5305万7116円と減額するほかは、被上告人の審査の申出を棄却する旨の本件決定をした。
3 原審は、上記事実関係等の下において、次のとおり判断して、本件決定のうち本件土地の価格8765万6461円を超える部分を取り消すべきものとした。
(1) 市街化区域農地に係る評価基準の評価手法は、一般的な合理性を有すると認められるが、三鷹市のような大都市近郊の市街化区域内においては、特段の事情のない限り、同一の位置にある農地の基本価額が宅地の価額を上回ることは想定し難いというべきであるから、本件土地の評価額が本件土地を宅地と同様に画地計算法に従って評価した価額を上回る場合、その限度で違法となるというべきである。
(2) 本件土地に画地計算法を適用する場合、通路開設補正については、<1>本件土地の利用に当たって通路の開設が必要となることは、これに接して同一の所有者の土地があるか否かにかかわらないというべきであり、道路の取得、開設費用が架空の費用であるとはいえないこと、<2>評価基準が想定する補正率に関する所要の補正は、当該宅地の客観的状況を考慮した補正であると解すべきであり、無道路地である当該宅地に通じる別画地に含まれる通路の権利関係を確定した上で補正率等に補正を加える取扱いをすることを想定しているとは解し難いことを考慮すると、事実上、同一所有者の土地を利用して街路への通路としている場合につき、通路開設補正率の適用自体を否定することは、評価基準の想定する所要の補正の範囲を超えるものというべきであり、このような評価は、その限度で評価基準に従った評価とはいえないと解すべきである。したがって、本件土地の評価に当たっては、通路開設補正(補正率0.6)を適用すべきである。
(3) 以上によれば、本件土地の1m2当たりの評点数は、南側街路の路線価(24万6000点)に奥行価格補正率0.81、通路開設補正率0.6及び無道路地補正率0.6を乗じた7万1733点(小数点以下切捨て)となり、これに本件土地の地積の平米数(1286.67)を乗じた9229万6699点(小数点以下切捨て)が本件土地の評点数となる。本件土地の平成12年度における価格は、これに基本価額の算出基準日である平成11年1月1日から同年7月1日までの地価下落に伴う時価下落修正率0.979を乗じた9035万8468円(1点数当たり1円。小数点以下切捨て)から本件土地を宅地に造成するための土地造成費相当額270万2007円を控除した8765万6461円である。したがって、本件決定は上記価格を超える限度において違法である。
4 しかしながら、原審の上記3の判断のうち、同(1)は是認することができるが、同(2)及び(3)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
評価基準は、無道路地に対し画地計算法を適用するに当たり、路線価に奥行価格補正率、通路開設補正率及び無道路地補正率を乗じて1m2当たりの評点数を求め、これに当該無道路地の地積を乗じてその評点数を求めることとしているが、ここにいう通路開設補正率は、当該無道路地が公路に接続しない状態を解消するための通路を確保するのに必要な費用及び期間に着目した補正率であると解される。そうすると、現に自己所有地を通路として使用し、これによって公路に接続している土地は、たとえ公図上は公路に接していなくとも、新たにこれを公路に接続させる通路を確保するための費用及び期間を要しないのであるから、通路開設補正を適用しない取扱いをすることも許されるものと解するのが相当である。したがって、取扱要領が上記のような土地について通路開設補正を適用しないものと定めていることには合理性があり、この定めが評価基準に反し違法であるということはできず、本件土地の評価に当たっては、取扱要領に従い、通路開設補正を適用しないで評価すべきものである。
これを前提として平成12年度における本件土地の価格を算定すると、本件土地の1m2当たりの評点数は、南側街路の路線価(24万6000点)に奥行価格補正率0.81及び無道路地補正率0.6を乗じた11万9556点となり、これに本件土地の地積の平米数(1286.67)を乗じた1億5382万9118点(小数点以下切捨て)が本件土地の評点数となる。本件土地の平成12年度における価格は、これに前記の時価下落修正率0.979を乗じた1億5059万8706円(1点数当たり1円。小数点以下切捨て)から前記の土地造成費相当額270万2007円を控除した1億4789万6699円である。
5 以上によれば、本件土地の評価に当たり取扱要領の定めに合理性がないとして通路開設補正を適用すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。
その余の上告受理申立て理由は、上告受理の決定において排除された。
そうすると、本件決定のうち価格6309万0646円を超える部分の取消しを求める被上告人の請求については、価格1億4789万6699円を超える部分の取消しを求める限度において理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。これと異なる原判決は主文のとおり変更すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 津野修 裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)
(別紙物件目録)省略