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最高裁判所第二小法廷 平成16年(行フ)7号 決定 2005年6月24日

抗告人

横浜市

同代表者市長

中田宏

同代理人弁護士

栗田誠之

相手方

X1

外64名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人栗田誠之の抗告理由について

1  記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。

株式会社東京建築検査機構(以下「本件会社」という。)は、建築基準法77条の18から77条の21までの規定の定めるところにより同法6条の2第1項所定の指定を受けた者(以下「指定確認検査機関」という。)である。本件会社は、横浜市内に建築することが計画されていた大規模分譲マンションである本件建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであること等につき同項所定の確認(以下「本件確認」という。)をした。

相手方らは、本件建築物の周辺に居住する者であるが、本件建築物が建築されることによって生命、身体の安全等が害されるなどと主張して、本件会社を被告とする本件確認の取消しを求める訴えを提起した。相手方らは、本件建築物に関する完了検査が終了し、上記訴えの利益が消滅したことから、行政事件訴訟法21条1項の規定に基づいて、上記訴えを、本件確認の違法を原因として抗告人に対する損害賠償を求める訴えに変更することの許可を申し立て、原々審は、これを許可した。

2  建築基準法6条1項の規定は、建築主が同項1号から3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合においてはその計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて建築主事の確認を受けなければならない旨定めているところ、この規定は、建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることを確保することが、住民の生命、健康及び財産の保護等住民の福祉の増進を図る役割を広く担う地方公共団体の責務であることに由来するものであって、同項の規定に基づく建築主事による確認に関する事務は、地方公共団体の事務であり(同法4条、地方自治法2条8項)、同事務の帰属する行政主体は、当該建築主事が置かれた地方公共団体である。そして、建築基準法は、建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて、指定確認検査機関の確認を受け、確認済証の交付を受けたときは、当該確認は建築主事の確認と、当該確認済証は建築主事の確認済証とみなす旨定めている(6条の2第1項)。また、同法は、指定確認検査機関が確認済証の交付をしたときはその旨を特定行政庁(建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいう。2条32号)に報告しなければならない旨定めた(6条の2第3項)上で、特定行政庁は、この報告を受けた場合において、指定確認検査機関の確認済証の交付を受けた建築物の計画が建築基準関係規定に適合しないと認めるときは、当該建築物の建築主及び当該確認済証を交付した指定確認検査機関にその旨を通知しなければならず、この場合において、当該確認済証はその効力を失う旨定めて(同条4項)、特定行政庁に対し、指定確認検査機関の確認を是正する権限を付与している。

以上の建築基準法の定めからすると、同法は、建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについての確認に関する事務を地方公共団体の事務とする前提に立った上で、指定確認検査機関をして、上記の確認に関する事務を特定行政庁の監督下において行わせることとしたということができる。そうすると、指定確認検査機関による確認に関する事務は、建築主事による確認に関する事務の場合と同様に、地方公共団体の事務であり、その事務の帰属する行政主体は、当該確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体であると解するのが相当である。

したがって、指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体」に当たるというべきであって、抗告人は、本件確認に係る事務の帰属する公共団体に当たるということができる。

また、本件会社は本件確認を抗告人の長である特定行政庁の監督下において行ったものであること、その他本件の事情の下においては、本件確認の取消請求を抗告人に対する損害賠償請求に変更することが相当であると認めることができる。

3  以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原決定に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官・福田 博、裁判官・滝井繁男、裁判官・津野 修、裁判官・今井 功、裁判官・中川了滋)

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