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最高裁判所第二小法廷 平成17年(行ヒ)390号 判決 2007年10月19日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人石上晴康,同田口大輔の上告受理申立て理由第2について

本件は,被上告人がした医療法(平成18年法律第84号による改正前のもの。以下「法」という。) 7条に基づく病院の開設許可(以下「本件開設許可」という。)について,同病院の開設地の市又はその付近において医療施設を開設し医療行為をする医療法人,社会福祉法人及び医師並びに同市内の医師等の構成する医師会である上告人らがその取消しを求めている事案であり,原告適格の有無が争点となっている。

法は,都道府県その他の7条の2第1項各号所定の者が申請した場合を除き,病院の開設許可については,その申請に係る施設の構造設備及びその有する人員が21条及び23条の規定に基づく厚生労働省令の定める要件に適合するときは許可を与えなければならないこと(7条4項),営利を目的として病院を開設しようとする者に対しては許可を与えないことができること(同条5項)を定めており,許可の要件を定めるこれらの規定は,病院開設の許否の判断に当たり,当該病院の開設地の付近で医療施設を開設している者等(以下「他施設開設者」という。)の利益を考慮することを予定していないことが明らかである。

法30条の3は,都道府県は医療を提供する体制の確保に関する計画(以下「医療計画」という。)を定めるものとし(同条1項),そこに定める事項として「基準病床数に関する事項」を掲げており(同条2項3号),法30条の7は,医療計画の達成の推進のために特に必要がある場合には,都道府県知事が病院開設の許可の申請者に対し病院の開設等に関し勧告することができるものとしているが,病院開設の許可の申請が医療計画に定められた「基準病床数に関する事項」に適合しない場合又は更に当該申請をした者が上記の勧告に従わない場合にも,そのことを理由に当該申請に対し不許可処分をすることはできないと解される(最高裁平成14年(行ヒ)第207号同17年7月15日第二小法廷判決・民集59巻6号1661頁,最高裁平成15年(行ヒ)第320号同17年10月25日第三小法廷判決・裁判集民事218号91頁参照)。また,法30条の3が都道府県において医療計画を定めることとした目的は,良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保することにあると解されるから(最高裁平成14年(行ツ)第36号,同年(行ヒ)第39号同17年9月8日第一小法廷判決・裁判集民事217号709頁参照),同条が他施設開設者の利益を保護する趣旨を含むと解することもできない。

法の目的を定める法1条及び医師等の責務を定める法1条の4の規定からも,病院開設の許可に関する法の規定が他施設開設者の利益を保護すべきものとする趣旨を含むことを読み取ることはできず,そのほか,上告人らが本件開設許可の取消しを求める法律上の利益を有すると解すべき根拠は見いだせない。

そうすると,上告人らは,本件開設許可の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 津野修 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)

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