最高裁判所第二小法廷 平成17年(許)18号 決定 2005年12月09日
抗告人
有限会社Y
同代表者代表取締役
甲野太朗
同代理人弁護士
若柳善朗
相手方
株式会社つぼ八
同代表者代表取締役
松下明弘
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告代理人若柳善朗の抗告理由について
不作為を目的とする債務の強制執行として民事執行法172条1項所定の間接強制決定をするには、債権者において、債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り、債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はないと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
間接強制は、債務者が債務の履行をしない場合には一定の額の金銭を支払うべき旨をあらかじめ命ずる間接強制決定をすることで、債務者に対し、債務の履行を心理的に強制し、将来の債務の履行を確保しようとするものであるから、現に義務違反が生じていなければ間接強制決定をすることができないというのでは、十分にその目的を達することはできないというべきである。取り分け、不作為請求権は、その性質上、いったん債務不履行があった後にこれを実現することは不可能なのであるから、一度は義務違反を甘受した上でなければ間接強制決定を求めることができないとすれば、債権者の有する不作為請求権の実効性を著しく損なうことになる。間接強制決定の発令後、進んで、前記金銭を取り立てるためには、執行文の付与を受ける必要があり、そのためには、間接強制決定に係る義務違反があったとの事実を立証することが求められるのであるから(民事執行法27条1項、33条1項)、間接強制決定の段階で当該義務違反の事実の立証を求めなくとも、債務者の保護に欠けるところはない。
もっとも、債務者が不作為義務に違反するおそれがない場合にまで間接強制決定をする必要性は認められないのであるから、この義務違反のおそれの立証は必要であると解すべきであるが、この要件は、高度のがい然性や急迫性に裏付けられたものである必要はないと解するのが相当であり、本件においてこの要件が満たされていることは明らかである。
以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・古田佑紀、裁判官・滝井繁男、裁判官・津野 修、裁判官・今井 功、裁判官・中川了滋)