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最高裁判所第二小法廷 平成18年(あ)1741号 判決 2009年12月11日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人Aの弁護人森岡かおり,同湯山孝弘の上告趣意のうち,憲法36条違反をいう点は,死刑制度が憲法の同規定に違反しないことは,当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁,最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁,最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月19日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)とするところであるから,理由がなく,憲法38条違反をいう点は,被告人A及び同Bの捜査段階における供述が所論のような捜査官の不当な取調べ等によって得られたと疑うべき証跡は認められないから,前提を欠き,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するもので本件に適切でないか,実質は量刑不当の主張であり,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,再審事由の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

被告人A本人の上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,再審事由の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

被告人Bの弁護人大澤英雄,同高橋正俊の上告趣意のうち,憲法13条,31条,36条違反をいう点は,死刑制度が憲法のこれらの規定に違反しないことは,当裁判所の判例(上記各大法廷判決)とするところであるから,理由がなく,その余は,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

なお,所論にかんがみ検討しても,刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。

付言すると,本件は,(1) 被告人両名が,地域開発事業に絡んで多額の利益獲得をもくろんでいたところ,事業を推進していた男性(当時59歳)が,被告人両名を事業から排除するのではないかとの疑念を抱いたことから,同人を殺害しようと企て,誘い出した同人を緊縛し,その頸部を両手で絞め付けるなどして殺害し,死体を地中に埋めて遺棄したという殺人,死体遺棄の事案,及び,(2) 被告人両名が,建設会社社長である男性(当時54歳)に架空の工事話を持ち掛け,事業関係者に資金力を示すため見せ金が必要であるとして金員等を用意させた上,誘い出した同人を緊縛し,その頸部をロープで絞め上げて殺害し,現金900万円と約束手形2通(額面合計4100万円)を強取し,死体を地中に埋めて遺棄したという強盗殺人,死体遺棄の事案,並びに,(3) 被告人Aが,高齢の女性から額面600万円の小切手をだまし取ったという詐欺の事案である。被告人両名による(1),(2)の犯行は,いずれも経済的利欲のために行われたもので,計画性が高く,被害者を二人がかりで縛り上げて絞め殺し,死体を重機で掘った穴に埋めて遺棄するという犯行態様は残虐かつ非情であり,何ら落ち度のない2名の被害者の生命を奪ったという結果は誠に重大である。各遺族の被害感情は厳しく,短期間のうちに連続して行われた犯行が地域社会に与えた影響も大きい。被告人Aは,各犯行を主導し実行した首謀者であり,その供述態度からは反省の情はうかがわれず,遺族に対する慰謝の措置も講じていない。そうすると,業務上過失傷害罪,傷害罪による罰金前科各1犯,道路交通法違反による懲役前科2犯以外に前科がないことなどの酌むべき事情を考慮しても,その刑事責任は極めて重大であり,被告人Aを死刑に処した第1審判決を維持した原判断は,当裁判所もこれを是認せざるを得ない。被告人Bは,被告人Aに誘われて各犯行に加わったものであるが,自らの利欲的動機から,確定的故意をもって各犯行を共同実行しており,その果たした役割は大きく,(2)の犯行では相応の分け前を得ている。そうすると,各犯行は被告人Aが主導したものであること,被告人Bの供述により事案が解明されたこと,各遺族に対して謝罪の意思を表明し,(1)の遺族に対して100万円を支払っていること,前科がないことなどの酌むべき事情を十分考慮しても,その刑事責任は極めて重大といわざるを得ず,無期懲役の第1審判決を破棄して被告人Bを死刑に処した原判断は,やむを得ないものとして当裁判所もこれを是認せざるを得ない。

よって,各被告人につき,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

検察官相澤恵一 公判出席

(裁判長裁判官 古田佑紀 裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 竹内行夫)

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