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最高裁判所第二小法廷 平成18年(あ)2156号 判決 2009年6月15日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人福吉實の上告趣意は,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

なお,所論にかんがみ記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。

付言すると,本件は,暴力団構成員である被告人が,同じ傘下の暴力団の組長であるA及び被告人が所属する暴力団の組長であるBと共謀の上,ファミリーレストランの店内及び同店前歩道付近において,けん銃2丁を使用して,いずれも他の暴力団の組長であるC(当時45歳)及びD(当時39歳)を射殺した事案である。被告人らは,被告人が起こした飲食店の女性経営者に対する暴行事件に関して,Cの配下の者であるEがその所属する上部団体の名前を出して被告人及びBに対して同経営者に対する慰謝料のみならず同団体の看板料の名目で高額の金銭を要求してきたことから,この要求に屈しては被告人らの暴力団組織が面目を失い,その活動が立ち行かなくなるなどと考え,要求額の一部を支払うと偽ってEやその背後にいるCを誘い出して殺害することを企て,更には上記レストランに金員を受け取りに来た相手側関係者をけん銃で皆殺しにすることを決意したものであり,このような暴力団特有の発想に基づく犯行動機に酌量の余地はない。被告人らは,上記のように偽って相手方を呼び出した上,事前の打合せに基づき,Aが上記店内においてC及びこれに同道してきたDの面前で現金を数えて同人らを油断させつつ,Aの合図で,被告人及びBがテーブル越しに対面するC及びDに対して至近距離から立て続けに発砲し,さらに,逃げ出した両名を追い掛けて同店出入口付近及び同店前歩道付近において両名に発砲したのであって,その犯行態様は,計画的かつ巧妙であり,また,強固な殺意に基づく残忍かつ執ようなものである。Cらには,上記のとおり不当な要求をした点で,本件を誘発した側面はあるが,もとより殺害されなければならない理由となるものではなく,2名の尊い生命が奪われた本件の結果は極めて重大であり,遺族らの処罰感情も厳しい。被告人は,Cらとのトラブルの原因を作ったのは自分であるとの強い意識の下,自ら実行役を申し出て,率先して発砲するなど,終始積極的に犯行を遂行し,重要な役割を果たしている。これに加え,本件は,飲食中の一般客17名及び店員5名が現在していた営業中のレストランにおいて敢行されたものであり,また,被告人らが上記店内において発射した弾丸の一部が,被害者両名の後方の一般客が着席していたテーブルに着弾し,更には仕切りガラスを破損しているという状況等も考慮すると,同店の一般客等無関係の市民が巻き添えとなる危険性も甚だ高かった犯行である。本件が社会に与えた衝撃や不安も極めて大きい。

以上のような諸事情に照らすと,被告人が反省の情を示し,被害者両名やその遺族に対する謝罪の意を表していることなど,被告人のために酌むべき情状を十分考慮しても,被告人の刑事責任は極めて重大であり,被告人を死刑に処した第1審判決の量刑を維持した原判断は,やむを得ないものとして当裁判所もこれを是認せざるを得ない。

よって,刑訴法414条,396条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

検察官長島裕 公判出席

(裁判長裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫)

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