最高裁判所第二小法廷 平成18年(あ)2414号 判決 2009年3月23日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人中井淳の上告趣意のうち,死刑に関して憲法前文,13条,31条,36条違反をいう点は,死刑制度がこれらの規定に違反しないことは当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁,最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁,最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月19日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)及びその趣旨に照らして明らかであるから,理由がなく,その余は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は事実誤認,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。
付言すると,本件は,被告人が,(1) 共犯者らと共謀の上,自己の所属する暴力団の組長方において,同組長(当時56歳)及びその妻(当時52歳)をけん銃で射殺し,その際,けん銃2丁を適合実包12個と共に携帯して所持したという殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反のほか,(2) 共犯者らと共謀の上,飲食店の営業を妨害する目的で店内に侵入し,同店の設備等を損壊して営業を困難にしたという建造物侵入,威力業務妨害,(3) 愛人女性と共に覚せい剤を使用したという覚せい剤取締法違反から成る事案である。
いずれの犯行についても,動機・経緯に酌むべき点は認められないが,取り分け本件殺人は,被告人らにおいて,上記暴力団組長を排除し,被告人らの利益を図る目的で,同組長方を標的とする襲撃計画を立てて実行に移そうとしたものの,実行役の中国人らが逮捕されてその計画がとん挫した際,同人らの所持していた物品が警察に証拠として押収されて,組長夫婦が警察署へその証拠品の確認に行くことになったところ,被告人は,組長夫婦が同証拠品を確認すれば,自己が上記襲撃計画に関与したことが発覚し,組長から厳しい制裁を受けると考えたことから,これを避ける目的も加わって,実行役の共犯者に依頼して,組長夫婦を殺害させたものである。同犯行は,自宅にいた組長夫婦に対し至近距離からけん銃を発射して即死させるという残虐な態様で敢行されており,その罪質は極めて悪質であるところ,被告人は実行行為には直接携わっていないものの,実行犯に対し,凶器に使用されたけん銃を手渡したり,組長夫婦の動静を伝えてその殺害を促すなどしており,犯行に主体的,積極的にかかわっている。2名の尊い生命を奪った結果は甚だ重大であって,組長夫婦の一人娘を始めとする遺族らの処罰感情は極めて厳しい。また,白昼,住宅街にある民家で,けん銃により敢行された同犯行が近隣住民や社会一般に与えた影響も大きい。加えて,被告人は,長年にわたって暴力団の世界とかかわり合いを持ち続け,多数の前科も有しているのであって,規範意識は鈍麻しているといわざるを得ない。
以上のような事情に照らすと,被告人の刑事責任は極めて重大であるから,本件殺人のうち上記組長の妻の殺害に関する共謀の点を除いて事実関係を認め,反省の態度を示していることなど,酌むべき事情を考慮しても,原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は,当裁判所もこれを是認せざるを得ない。
よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官慶徳榮喜 公判出席
(裁判長裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫)