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最高裁判所第二小法廷 平成18年(あ)809号 判決 2009年7月10日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人武市吉生の上告趣意のうち,憲法37条2項違反をいう点は,実質は単なる法令違反の主張であり,その余は,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

なお,所論にかんがみ記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。

付言すると,本件は,暴力団組員である被告人が,所属する暴力団の組長Aから命じられるなどして,(1) 対立する暴力団の幹部らを殺害することを企て,共犯者Bと共にスナックの店内等でけん銃を発射し,一般客3名を含む4名を殺害し,他の2名に重傷を負わせるなどし,(2) 同事件の前に,他の者と共に火炎びんを用いて対立する暴力団の別の幹部宅に放火しようとして未遂に終わり,逃げる際にけん銃を発射するなどし,(3) それらの襲撃準備のためにけん銃や盗難自動車を譲り受け,また,けん銃を試射するなどし,(4) 上記(1)事件の後に海外へ逃亡するため他人名義の旅券申請書を偽造,行使して,他人名義の旅券の交付を受け,出国の際,これを行使した事案である。

いずれの犯行も,対立暴力団幹部に対する報復ないしはその準備等として行われたもので,動機において酌量の余地はない。

これらの犯行の中でも取り分け重大事犯である(1)の殺人等事件は,事前の計画に基づき強固な殺意をもって共犯者Bとスナックに赴き,いずれも至近距離から無防備な各被害者にけん銃を発射し,スナック店外で暴力団幹部のボディガード1名を射殺した上,スナック店内ではたまたま居合わせた暴力団とは何ら関係のない一般客3名を射殺し,暴力団幹部とその連れ(非暴力団組員)に重傷を負わせたもので,冷酷で残虐な犯行態様である。同事件の結果,4名の貴重な人命が奪われ,2名が重傷を負っており,結果は誠に重大である。遺族らの処罰感情は厳しい。住宅街の飲食店において敢行された上記犯行により,一般客が3名も殺害されたことが,地域社会に与えた衝撃も計り知れない。また,火炎びん等で対立暴力団の別の幹部宅を襲撃した(2)の放火未遂事件も非常に危険なものであり,対立暴力団に対する報復行動の準備として行われた(3)の各犯行や殺人等事件の後に国外逃亡するために行われた(4)の犯行も反社会的で悪質である。

被告人は,放火未遂事件においても,殺人等事件においても実行役としてかかわっており,殺人等事件においては自らの手によって2名(ボディガード及び一般客各1名)を射殺したのであって,これらを含む各犯行において果たした役割には大きいものがある。

以上の事情に照らすと,被告人には前科がなく,自首こそ成立しないものの,殺人等事件をはじめとする一連の事案の全容解明に協力し,反省の態度を示していることや,本件各犯行が首謀者である所属暴力団の組長に命じられて実行したものであることなど,被告人のために酌むべき情状を十分考慮しても,被告人の刑事責任は極めて重大であり,被告人を死刑に処した第1審判決を維持した原判断は,当裁判所もこれを是認せざるを得ない。

よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

検察官中井國緒 公判出席

(裁判長裁判官 竹内行夫 裁判官 今井功 裁判官 中川了滋)

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