大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 平成18年(オ)1186号 決定 2009年3月27日

上告人兼申立人

同訴訟代理人弁護士

宮里邦雄

中野麻美

秦雅子

被上告人兼相手方

株式会社伊予銀行

同代表者代表取締役

被上告人兼相手方

いよぎんスタッフサービス株式会社

同代表者代表取締役

上記当事者間の高松高等裁判所平成15年(ネ)第293号雇用関係確認等請求事件について、同裁判所が平成18年5月18日に言い渡した判決に対し、上告人兼申立人から上告及び上告受理の申立てがあった。よって、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

本件を上告審として受理しない。

上告費用及び申立費用は上告人兼申立人の負担とする。

理由

1  上告について

民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、違憲及び理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。

2  上告受理申立てについて

本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。

よって、申立人の相手方いよぎんスタッフサービス株式会社(以下「相手方」という)に対する上告受理申立てについて裁判官今井功の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

裁判官今井功の反対意見は、次のとおりである。

私は、本件のうち、申立人の相手方に対する請求に関する部分は、以下に述べる理由から、重要な法律問題を含む事件として、これを受理すべきものと考える。

申立人は、昭和62年2月、特定労働者派遣事業を行っていた伊豫銀ビジネスサービス株式会社(以下「IBS」という)に派遣労働者として雇用され、その後平成12年5月までの13年間、6か月ごとにIBS又はその営業の譲渡を受けた相手方との間の雇用契約を更新されて、継続的に伊予銀行の支店に派遣され、事務用機器の操作の業務に従事していたところ、同年5月に雇用契約の更新を拒絶された。原審は、本件雇用契約は、伊予銀行を派遣先とするもので、伊予銀行と相手方との派遣契約が終了したから、本件雇用契約も当然終了するとして、更新拒絶に合理的な理由があるか否かを実質的に判断することなく、更新拒絶を正当と判断した。

本件は、①派遣労働者である申立人が派遣元であるIBS又は相手方にいわゆる「常用型」として雇用されていた者であるか、②長期間更新を繰り返された雇用契約の更新拒絶について認められるいわゆる「雇止めの法理」(客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには更新拒絶は許されないとする法理。最高昭和45年(オ)第1175号裁同49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁、最高裁昭和56年(オ)第225号同61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁参照)が、派遣労働者の雇用契約についても適用されるかという2点において、派遣労働者の雇用関係についての重要な法律問題を含む事件である。

①の問題点については、IBSは、申立人と雇用契約を結んだ時点では、特定労働者派遣事業の届出をしていたにすぎず、一般労働者派遣事業の許可を得ていなかったところ、特定労働者派遣事業とは、その事業の派遣労働者が常時雇用される労働者のみである労働者派遣事業をいうのであり、常時雇用される労働者でない労働者を雇用して事業を行った場合には、罰則を科されることになっていた。そして、申立人の雇用形態がその後変更された形跡はうかがわれず、更新拒絶の時点に至ったことからすると、申立人が「常時雇用される労働者」であって、申立人と相手方との間の雇用契約が常用型に当たると解する余地が十分にある。また、②の問題点については、申立人のように長期にわたって雇用契約の更新を繰り返されてきた労働者については、派遣労働者であっても雇止めの法理が適用される場合があり得るところ、本件がそのような場合に当たると解する余地があり、更新拒絶について合理的な理由があるか否かを判断しなければならないことになる。

したがって、本件のうち上記部分を受理し、この点について上告審としての判断を示すのが相当であると考える。

(裁判長裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例