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最高裁判所第二小法廷 平成19年(行ヒ)285号 判決 2008年10月24日

主文

1  原判決中,都民税の法人税割及び延滞金に係る還付加算金の請求に関する部分を破棄する。

2  前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

3  上告人のその余の上告を棄却する。

4  前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人宮武敏夫,同藤田美穂の上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)について

以下に摘示する地方税法(以下「法」という。)の各条項は,それぞれ別表記載のものをいう。

1  本件は,都民税等の減額更正により生じた過納金の還付を受けた上告人が,その際に支払われた還付加算金は起算日を誤って算定されており,正当な金額の一部しか支払われていないと主張して,被上告人に対し,還付加算金の残額等の支払を求める事案である。

2  原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)  上告人は,ドイツ連邦共和国(以下「ドイツ」という。)の法人であり,昭和50年ころから東京都千代田区内に東京連絡事務所を有していたが,後記(2)アの決定等を受けるまで法人税及び都民税等の申告納付をしていなかった。

(2)ア  麹町税務署長は,平成10年6月23日,上告人に対し,上記事務所が「所得に対する租税及びある種の他の租税に関する二重課税の回避のための日本国とドイツ連邦共和国との間の協定」(以下「日独租税条約」という。)の定める恒久的施設に該当するものとして,同4年7月1日から同7年6月30日までの3事業年度にわたり,法人税の決定及び無申告加算税の賦課決定を行った。

イ  上告人は,同10年7月22日,東京都千代田都税事務所長(以下「処分庁」という。)に対し,上記3事業年度分の都民税等の確定申告書を提出した。

ウ  上告人は,同月21日に上記3事業年度分の都民税の本税を,同月31日に同延滞金をそれぞれ納付した。

(3)ア  麹町税務署長は,平成13年6月27日,上告人に対し,同8年7月1日から同10年12月31日までの3事業年度(最終の事業年度は同年7月1日から同年12月31日まで)にわたり,法人税の決定及び無申告加算税の賦課決定(以下,これらの決定を前記(2)アの決定等と併せて「本件法人税決定」という。)を行った。

イ  上告人は,同13年7月30日,処分庁に対し,上記3事業年度分の都民税等の確定申告書を提出した(以下,この申告を前記(2)イの申告と併せて「本件申告」という。)。

ウ  上告人は,同月27日に上記3事業年度分の都民税の本税を,同年9月14日に同延滞金をそれぞれ納付した。

(4)ア  上告人は,平成10年8月24日付けで,ドイツの権限ある当局(ミュンヘン税務署)に対し,日独租税条約に基づく相互協議の申立てを行ったところ,同15年7月ころ,日独当局の相互協議において,上告人の東京連絡事務所が恒久的施設に該当するものであることが確認されるとともに,同事務所に帰属する所得について再計算が行われた。

イ  麹町税務署長は,同年9月16日付けで,上告人に対し,上記相互協議の結果に従い,本件法人税決定に係る法人税について減額更正(以下「本件法人税減額更正」という。)をした。

ウ  都民税の法人税割は,法人税額を課税標準として課されるところ(法23条1項3号,292条1項3号,734条2項3号,3項),処分庁は,同16年1月26日,上告人に課すべき都民税の法人税割額について,本件法人税減額更正後の法人税額を課税標準として税額の計算を行い,減額更正(以下「本件都民税減額更正」という。)をした。

エ  処分庁は,同年3月16日,上告人に対し,本件都民税減額更正により生じた過納金(以下「本件過納金」という。)について還付を行った。また,これに付する還付加算金については,法17条の4第1項4号,地方税法施行令(以下「施行令」という。)6条の15第1項1号を適用して,本件都民税減額更正があった日の翌日から起算して1か月を経過する日の翌日を還付加算金の起算日として金額を計算し,これを支払った。

(5)  都知事は,過誤納に係る都の徴収金があるときは,遅滞なく過誤納金を還付しなければならず,その場合には,後述する起算日から都知事が還付のため支出を決定した日までの期間の日数に応じ,その金額に所定の割合を乗じて計算した還付加算金をその還付すべき金額に加算しなければならない(法17条,17条の4第1項,1条2項)。

この還付加算金の算定の起算日は,法1条2項により準用される法17条の4第1項1号によれば,①更正,決定若しくは賦課決定,②法53条10項若しくは法321条の8第10項の規定による申告書(法人税に係る更正又は決定によって納付すべき法人税額を課税標準として算定した都民税の法人税割額に係るものに限る。)等の提出又は③過少申告加算金,不申告加算金若しくは重加算金の決定により納付し又は納入すべき額が確定した都の徴収金に係る過納金については,当該過納金に係る徴収金の納付又は納入があった日の翌日とするものとされている。なお,法734条3項により準用される法53条10項及び法321条の8第10項によれば,法人税に係る修正申告書の提出又は法人税に係る更正若しくは決定の通知により,それまでに申告書を提出し,又は更正若しくは決定を受けたことにより確定していた都民税の額に不足が生じたときは,当該法人は,その不足額について申告納付をしなければならないとされている。

これに対し,法1条2項により準用される法17条の4第1項4号及び施行令6条の15第1項1号によれば,法17条の4第1項1号ないし3号に掲げる過納金以外の都の徴収金に係る過誤納金のうち,申告書の提出により納付し又は納入すべき額が確定した地方税に係る過納金でその納付し又は納入すべき額を減少させる更正(更正の請求に基づく更正を除く。)により生じたものについては,その更正があった日の翌日から起算して1か月を経過する日の翌日を還付加算金の起算日とするものとされている。

(6)  上告人は,本件過納金の還付に際して加算すべき還付加算金の起算日は納付の日の翌日とすべきであると主張して,これを基に計算した金額と既払の還付加算金との差額等の支払を求めている。

3  原審は,上記事実関係等の下において,要旨以下のとおり判断して,上告人の上記2(6)の請求を棄却すべきものとした。

(1)  本件が,法17条の4第1項1号のうち,更正,決定若しくは賦課決定又は不申告加算金等の決定により納付すべき額が確定した場合に当たらないことは明らかである。そして,上告人に係る都民税は,申告書を期限内に提出したこと又は更正若しくは決定を受けたことによって確定していたわけではなく,本件申告は,本件法人税決定を受け,申告書の提出期限後に法53条8項及び法321条の8第8項の規定に従ってされたものであるから,本件申告をもって法53条10項又は法321条の8第10項に定める申告(以下「義務修正申告」という。)に当たるということはできない。

(2)  そうすると,本件過納金は,法17条の4第1項1号ないし3号に掲げる過納金以外の過誤納金であり,申告書の提出により納付すべき額が確定した地方税に係る過納金であって,更正の請求に基づかずにされた減額更正により生じたものであるから,同項4号,施行令6条の15第1項1号の定める過誤納金に該当し,還付加算金の起算日は,本件都民税減額更正があった日の翌日から起算して1か月を経過する日の翌日というべきである。

4  しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1)  法17条の4第1項及び施行令6条の15第1項は,不当利得の法理を踏まえ,過納に係る地方税の額が地方団体の更正,決定等により確定したものである場合にはその納付又は納入があった日の翌日から,納税者の申告によって確定したものである場合には,原則として,減額更正があった日の翌日から起算して1か月を経過する日の翌日から,それぞれ還付加算金を加算することとしている。ただし,過納に係る地方税の額が義務修正申告(法人税に係る更正又は決定によって納付すべき法人税額を課税標準として算定した法人税割額に係るものに限る。以下この項において同じ。)により確定したものである場合,その還付加算金の起算日については,地方団体の更正,決定等により確定した場合と同列に扱うこととしている。これは,義務修正申告が法人税の更正,決定に伴って義務的に行われるものであり,過納となったことにつき納税者に帰責事由があるとはいえないこと,この場合に,税額の確定が申告によりされているとして,減額更正があった日の翌日から起算して1か月を経過する日の翌日からしか還付加算金を加算しないこととすると,義務修正申告を怠ったために増額更正を受けた場合には納付又は納入があった日の翌日から還付加算金が加算されることと比べて,不合理な結果が生ずることを考慮したものである。

(2)  前記事実関係等によれば,麹町税務署長は,上告人の東京連絡事務所を恒久的施設と認定した上,その法人税額を具体的に確定させる本件法人税決定を行ったというのであるから,都民税の法人税割の課税標準である法人税額は,権限ある国税官署により一応有効に確定された状態にあったということができる。そして,処分庁は,上告人が本件法人税決定により確定された法人税額に従って都民税の申告納付を行えば,これをそのまま是認することになるが,上記法人税額と異なる内容の申告がされた場合には,上記法人税額に従った更正をすることとなり(法55条1項,321条の11第1項参照),また,都民税の申告が行われなかった場合には,上記法人税額に従った都民税の決定をすることとなる(法55条2項,321条の11第2項参照)。

ところで,本件申告は,都民税について先行する税額確定行為が存在しないため,法53条10項又は法321条の8第10項所定の義務修正申告に当たるということはできず,本件法人税決定を受けた上告人が,これらの条項に基づき,都民税の申告納付をすべき義務はなかったものである。しかしながら,本件申告は,それ自体は法令により義務付けられたものではなかったとしても,本件法人税決定を受けたことを契機として,法の定めに従い同決定により確定した法人税額を課税標準として行われたものであり,上告人が自らの計算により法人税額及び法人税割額を算出したものではなかったのであるから,本件申告により確定した法人税割額が過納となったことにつき,上告人に帰責事由があるということはできない。また,この場合に還付加算金の起算日を納付の日の翌日であると解さないとすると,本件法人税決定に従って都民税の申告納付をした場合の方が,申告納付の措置を採らずに放置して都民税について決定を受けた場合に比べ,還付加算金の算定において著しい不利益を受けるという不合理な結果を生ずることとなる。

以上のような事情にかんがみると,本件過納金の還付に際しては,法17条の4第1項1号の趣旨に照らして,同号の場合と同様に,納付の日の翌日から還付加算金を加算すべきものと解するのが相当である。

5  以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち都民税の法人税割及び延滞金に係る還付加算金の請求に関する部分は破棄を免れない。そして,還付加算金の額の算定等の点について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。

なお,その余の上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 津野修 裁判官 今井功 裁判官 古田佑紀)

別表

法1条2項

平成18年法律第53号による改正前のもの

法17条

現行の規定

法17条の4第1項,23条1項3号,

53条8項,10項,55条1項,2項,

292条1項3号,321条の8第8項,

10項,321条の11第1項,2項,

734条3項

平成14年法律第80号による改正前のもの

法734条2項3号

平成20年法律第21号による改正前のもの

説示に影響しない改正の経緯については,その記載を省略した。

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