最高裁判所第二小法廷 平成2年(オ)1330号 判決 1991年5月10日
上告人
金英信
同
李順煕
同
張晃生
同
張本行成
同
安竜吉
同
金順子
右六名訴訟代理人弁護士
田中郁雄
被上告人
金呂生
右訴訟代理人弁護士
飯野紀夫
主文
一 原判決及び第一審判決を次のとおり変更する。
浦和地方裁判所越谷支部が同裁判所昭和六一年(手ワ)第二四号事件について昭和六一年九月九日言い渡した手形判決のうち上告人らに関する部分は、「被上告人は、上告人金英信に対して金三〇〇万円、上告人李順煕に対して金三六二万六五五三円、上告人張晃生に対して金五〇〇万円、上告人金順子に対して金三〇〇万円、上告人張本行成に対して金六〇〇万円、上告人安竜吉に対して金五〇〇万円及び右各金員に対する昭和六一年八月六日から各支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。」とする限度で認可する。
二 訴訟の総費用は、被上告人の負担とする。
理由
一上告代理人田中郁雄の上告理由について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、原判決を正解せず、判決に影響のない事項の違法を主張して原判決を論難するか、又は原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
二職権で調査するに、
1 原審は、(一) 訴外金宮立治こと金同元(以下「訴外金宮」という。)は、被上告人及びその夫である梁川栄三(以下「栄三」という。)両名を連帯債務者として、第一審判決添付の別紙三の「貸金」欄記載のとおり、金員を貸し付けた(以下、右貸金を「本件貸金債権」という。)、(二) 被上告人は本件貸金債権に係る自己の連帯債務の支払のために第一審判決添付の別紙一の「手形目録」1ないし12記載の本件各約束手形を振り出した、(三) 本件各約束手形のうち右手形目録1、2記載の約束手形に係る借入金は弁済され、同目録3記載の約束手形に係る借入金の元本も弁済により一六二万六五五三円となった、(四) その後、訴外梁瀬真一(以下「転付債権者」という。)は、訴外金宮に対する金銭債権に基づき、栄三を第三債務者として、本件貸金債権のうち本件約束手形1ないし6及び10ないし12の一部に係る部分について差押・転付命令を得たが、右命令は本件各約束手形の満期前である昭和六一年一月二五日に栄三に送達され、その後に確定した、(五) 上告人らは、いずれも、本件各約束手形の満期後に、第一審判決添付の別紙二の「手形譲受一覧表」のとおり訴外金宮からそれぞれ本件各約束手形の白地裏書を受け、各約束手形を所持する者であるとの各事実を適法に確定した上、右転付命令の発効により、右転付に係る本件貸金債権は転付債権者に移転し、訴外金宮は右債権を失ったところ、満期後の裏書人に対しては手形行為の原因関係の消滅をもって対抗することができるから、被上告人は上告人らに対して、右転付された債権の支払のために振り出された約束手形の支払を拒絶することができるとして、右(三)記載の弁済がされた部分を除く本件約束手形金請求のうち右(四)記載の差押・転付命令の目的とされた債権に係る部分を棄却すべきものとした。
2 しかしながら、右判断は是認することができない。
すなわち、原審は、連帯債務者の一人であった栄三に対する債権が転付債権者へ移転することにより、他の連帯債務者である被上告人に対する債権も同様に移転することを前提としているものと解されるところ、連帯債務者はそれぞれ独立の債務を負担するものであるから、連帯債務者の一部の者に対する債権が転付命令によって第三者に移転したとしても、その余の連帯債務者に対する債権の帰属に変更が生ずるものではない(大審院昭和一三年(オ)第一三一五号同年一二月二二日判決・民集一七巻二三号二五二二頁)。
したがって、本件貸金債権を目的とするものであっても、栄三を第三債務者とする本件転付命令の効力が生じたにすぎない場合に、訴外金宮の被上告人に対する債権が転付債権者に移転するものではなく、本件転付命令の効力が生じたことをもって被上告人が本件約束手形金の支払を拒絶する理由もないといわねばならない。
3 そうすると、連帯債務者の一部の者に対する債権が転付命令によって第三者に移転したことによりその余の連帯債務者に対する債権も第三者に移転することを前提とする原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れない。そして、前記認定事実によれば、本件請求中、前記1(四)記載の差押・転付命令に係る約束手形金の支払を求める部分も理由があることになるから、これと異なる原判決及び第一審判決を主文第一項のとおり変更することが相当である。
三よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官木崎良平 裁判官藤島昭 裁判官香川保一 裁判官中島敏次郎)
上告代理人田中郁雄の上告理由<省略>