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最高裁判所第二小法廷 平成2年(オ)1625号 判決 1990年12月21日

福岡県大川市大字津一〇番地の四

上告人

石川尚義

右訴訟代理人弁護士

永尾廣久

中野和信

被上告人

右代表者法務大臣

梶山静六

右指定代理人

小山田才八

右当事者間の福岡高等裁判所平成二年(ネ)第二二一号損害賠償請求事件について、同裁判所が平成二年七月一九日に言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申出があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は、上告人の負担とする。

理由

上告代理人永尾廣久、同中野和信の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。よって民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

(平成二年(オ)第一六二五号 上告人 石川尚義)

上告代理人永尾廣久、同中野和信の上告理由

第一 原判決には審理不尽、理由不備の違法がある。

一 釈明権不行使の違法

1 一審判決は、藤吉係官が一九八五年三月二〇日に「誤った教示をしたと仮定しても、そのことと原告が別件租税訴訟において出訴期間を遵守できなかったこととの間には、何らの因果関係をも認めることができない」と判示し、原判決にも右判示を何らの証拠調べもせずに追認した。

2 上告人の証言(乙第一七号証)によると、

藤吉係官は「判決の日から三か月を経過しているからできないとか、もう三か月が近づいているからできないとか、そういう話はなかった」(八一項)「(二回目のときにも)藤吉係官から裁判をやりなさいという話が出た」(八三ないし八七項)

上告人は、二回にわたる藤吉係官の「いつでも裁判は出来る」旨の説明を聞いて、出訴期間の制限がないと誤解して「ゆっくり構えとった」(同八九項)のである。

3 藤吉係官が二回目にどのような教示をしたかは、一回目の教示内容と密接不可分であるのに、単に二回目の教示の時期が出訴期間を経過したというだけで、その教示の有無・内容を排斥しているのは重大な釈明権不行使の違法が認められるものであり、明らかに審理不尽の違法があるものである。

4 すなわち、原審は、上告人側の主張に即して、藤吉係官の二回目の教示内容について被上告人側にも求釈明すべきであったし、その点についての証拠調べをなすべきであった。

原判決は、この点からしても破棄を免れないものである。

二 経験則違背

1 原判決は藤吉係官について、出訴期間の制限について「断定的に応答できるほどの法的知識は持ち合わせていなかったことが認められる」とし、「終始曖昧な受け答えにおわっていた」と認定した。

しかし、原判決の右認定は明らかに経験則に反するものである。

2 藤吉係官は、一九四八年四月に入署以来三六年間も、税務署で仕事をしてきた人物である。

このような超ベテランの税務署員が出訴期間の制限を知らなかったなどということは、健全な社会常識に照らしてとうてい是認できないところである。

そこには、タメにする嘘が隠されているとみるべきである。すなわち、藤吉係官は、出訴期間について、上告人にいつでも提訴ができる旨の誤った教示をしたが、それが後で問題になったため、その後になって、出訴期間の制限をそもそも知らなかったとして責任回避を図っているものと思われる。

一審および原審裁判所が、このような嘘に乗せられた形で、被上告人国を救済しようとするのは、いかにも見苦しい。

3 超ベテランの税務署員について、当該分野の出訴期間の制限を知らなかった旨の原判決は、経験則に反するもので、右認定をなすに至った理由に不備があるものと言わざるをえない。

よって、原判決は、この点でも破棄を免れない。

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