最高裁判所第二小法廷 平成20年(あ)254号 判決 2011年10月03日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人Aの弁護人鈴木敏彦の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,量刑不当の主張であり,同被告人の弁護人樋口明巳の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は事実誤認,量刑不当の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
被告人Bの弁護人福島昭宏,同松井仁の上告趣意のうち,憲法12条,13条,36条違反をいう点は,その執行方法を含む死刑制度が憲法の上記各規定に違反しないことは当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁,最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁,最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月19日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)及びその趣旨に照らして明らかであるから,理由がなく,その余は,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,各所論に鑑み記録を調査しても,いずれも刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。
付言すると,本件は,被告人A及びその夫Cが,金融業を営むDについてかねてから抱いていた憤まんの情を晴らすとともに,同女方にあるとされた多額の現金を奪うために同女を殺害することを企てていたところ,順次,次のような犯行が行われた事案である。
(1) 平成16年9月16日,上記計画を打ち明けられていた被告人Aらの実子Eにおいて,被告人AらがDの殺害をためらっている間に,自らD方に一人でいる同女の二男F(当時15歳)を殺害して同女の現金を手に入れようと企て,実弟である被告人Bを誘い,両名において,共謀の上,Fに対し,背後からその頸部をタオルで強く絞め付けるなどして失神させ,D所有の指輪等在中の金庫1個(時価合計約398万円相当)を強取した後,意識を取り戻したFに対し,二人掛かりでその頸部をロープで強く絞め付け,その身体にコンクリートブロック3個を結び付けて川に投げ込み,同人を殺害した(強盗殺人)。
(2) 同月18日,被告人A,C,E及び被告人Bの4名において,共謀の上,① D(当時58歳)を殺害してその現金を奪うため,睡眠薬入りの弁当を食べて抵抗できない状態に陥っている同女の背後からその頸部をワイヤー錠で強く絞め続けて殺害し,同女の手提げバッグの中から現金約26万円を強取し(強盗殺人),② さらに,同女の長男G(当時18歳)及びたまたま同人と一緒にいたその友人H(当時17歳)を,口封じなどのために殺害することを企て,G及びHに対し,その頭部及び胸部に向けて至近距離から自動装填式けん銃で銃弾を3発ずつ発射し,Hに対しては更にアイスピックで1回胸を突き刺し,両名を殺害し,その際,自動装填式けん銃1丁を適合実包6発と共に携帯して所持し(殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反),③ その後,D,G及びHの各死体を載せた軽四輪乗用自動車を川に水没させて3名の死体を遺棄した(死体遺棄)。
いずれも現金奪取や犯跡隠蔽などのために敢行されたものであり,動機に酌量の余地はない。強盗殺人や殺人の犯行態様は,二人掛かりでロープで頸を絞め付けた上,身体にコンクリートブロックを結び付けて川に投げ込んだり,ワイヤー錠で頸を強く絞め続けたり,頭部や胸部に向けてけん銃を発射したりしたもので,いずれも強固な殺意に基づく冷酷,非情で残忍なものである。上記のとおり,被告人Aは3名の殺害に関与し,被告人Bは4名の殺害に関与したものであって,犯行結果も重大である。遺族らの被害感情も極めて厳しく,地域社会に与えた影響も大きい。被告人Aは,自らは直接殺害を実行してはいないが,E及び被告人Bを(2)の犯行に引き込み,Dに睡眠薬入りの弁当を食べさせたり,同女の頸部をしっかり絞めるようにと被告人Bを叱咤したり,同女を殺害した後に手提げバッグの中から現金を強取したり,けん銃で胸部も撃つようにとのCの指示を被告人Bらに伝えたりするなど,自らも積極的に各犯行に関与している。被告人Bは,自らの手で4名の被害者を相次いで殺害した実行犯である。
以上の事情に照らすと,被告人両名が捜査段階から犯行を認めて反省の態度を示していることなど,被告人両名のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人両名の刑責はいずれも極めて重大であり,被告人両名を死刑に処した第1審判決を維持した原判断は,当裁判所もこれを是認せざるを得ない。
よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官城祐一郎 公判出席
(裁判長裁判官 須藤正彦 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫 裁判官 千葉勝美)