最高裁判所第二小法廷 平成20年(受)1535号 判決 2009年12月04日
主文
1 原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
2 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
3 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人梅本弘ほかの上告受理申立て理由第2について
1 本件は,被上告人が,亡Aがその遺産の多くを上告人に相続させる旨の遺言をしたことにより,Aの養子である被上告人の遺留分が侵害されたと主張して,上告人に対し,民法1041条1項に基づく価額の弁償及び遅延損害金の支払を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) Aは,大正6年9月17日,Bとの間で,同人を養親とする養子縁組をし,同人が戸主である家(以下「B家」という。)に入り,大正8年6月8日,同人の死亡によりその家督を相続した。
(2) 被上告人は,昭和14年8月30日,実姉であるAとの間で,同人を養親とする養子縁組をした。
(3) Aは,同年11月2日,隠居した上,同月29日,Cと婚姻してB家を去った。
(4) Aは,平成10年11月17日,長男である上告人にAの遺産の多くを相続させることなどを内容とする公正証書遺言をした。
(5) Aは,平成15年5月24日,死亡した。
(6) 被上告人は,平成16年5月13日,上告人に対し,遺留分減殺の意思表示をした。
3 原審は,上記事実関係の下において,被上告人がAの養子であることを前提として,被上告人の上記意思表示による遺留分減殺の効果を認め,被上告人の請求を一部認容した。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
昭和22年法律第222号による改正前の民法730条2項は,「養親カ養家ヲ去リタルトキハ其者…ト養子トノ親族関係ハ之ニ因リテ止ム」と定めるところ,養親自身が婚姻又は養子縁組によってその家に入った者である場合に,その養親が養家を去ったときは,この規定の定める場合に該当すると解すべきである(最高裁昭和42年(オ)第203号同43年7月16日第三小法廷判決・裁判集民事91号721頁参照)。前記事実関係によれば,Aは,Bとの養子縁組によりB家に入った者であって,被上告人と養子縁組をした後,Cと婚姻してB家を去ったというのであり,Aの去家により,同項に基づき,Aと被上告人との養親子関係は消滅したものというべきである。
5 以上と異なり,被上告人がAの養子であることを前提として,被上告人の前記意思表示による遺留分減殺の効果を認めた原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求を棄却した第1審判決は結論において正当であるから,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫)