大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 平成20年(受)951号 判決 2009年4月17日

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人高橋郁夫の上告受理申立て理由について

1  本件は,被上告人の株主であり平成19年6月28日当時被上告人の取締役であった上告人らが,被上告人に対し,① 同日に開催されたとする被上告人の臨時株主総会における,上告人らを取締役から,Bを監査役から解任し,新たな取締役及び監査役を選任することを内容とする株主総会決議(以下「本件株主総会決議」という。),② 同日に新たに選任されたとする取締役らによって開催されたとする被上告人の取締役会における代表取締役選任決議(以下,上記両決議を併せて「本件株主総会決議等」という。)の不存在確認を求める事案である。

記録によれば,上告人らは,平成19年7月10日,福島地方裁判所に本件訴訟を提起したが,被上告人は,第1審係属中の同年9月7日,破産手続開始の決定を受け,破産管財人が選任されたことが明らかである。

2  原審は,次のとおり判断して,上告人らの訴えをいずれも却下した。

被上告人が破産手続開始の決定を受け,破産管財人が選任されたことにより,本件株主総会決議で選任されたとする取締役らは,いずれも,被上告人との委任関係が当然終了してその地位を喪失し,他方,同決議で解任されたとする取締役らについても,本件訴訟で勝訴したとしても,破産手続開始の時点で委任関係が当然終了したものと扱われるので,被上告人の取締役らとしての地位に復活する余地はないから,特別の事情がない限り,本件株主総会決議等不存在確認の訴えは訴えの利益がない。そして,同訴えにつき訴えの利益を肯定すべき特別の事情があるとは認められない。

3  しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

民法653条は,委任者が破産手続開始の決定を受けたことを委任の終了事由として規定するが,これは,破産手続開始により委任者が自らすることができなくなった財産の管理又は処分に関する行為は,受任者もまたこれをすることができないため,委任者の財産に関する行為を内容とする通常の委任は目的を達し得ず終了することによるものと解される。会社が破産手続開始の決定を受けた場合,破産財団についての管理処分権限は破産管財人に帰属するが,役員の選任又は解任のような破産財団に関する管理処分権限と無関係な会社組織に係る行為等は,破産管財人の権限に属するものではなく,破産者たる会社が自ら行うことができるというべきである。そうすると,同条の趣旨に照らし,会社につき破産手続開始の決定がされても直ちには会社と取締役又は監査役との委任関係は終了するものではないから,破産手続開始当時の取締役らは,破産手続開始によりその地位を当然には失わず,会社組織に係る行為等については取締役らとしての権限を行使し得ると解するのが相当である(最高裁平成12年(受)第56号同16年6月10日第一小法廷判決・民集58巻5号1178頁参照)。

したがって,株式会社の取締役又は監査役の解任又は選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に当該株式会社が破産手続開始の決定を受けても,上記訴訟についての訴えの利益は当然には消滅しないと解すべきである。

4  以上によれば,被上告人が破産手続開始の決定を受け,破産管財人が選任されたことにより,当然に取締役らがその地位を喪失したことを前提に,訴えの利益が消滅したとして本件株主総会決議等不存在確認の訴えを却下した原審の判断には法令解釈の誤りがあり,この違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,本案につき審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 今井功 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例