最高裁判所第二小法廷 平成20年(行ヒ)432号 判決 2010年9月10日
主文
原判決中上告人敗訴部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。
前項の部分に関する被上告人らの請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
理由
上告代理人高坂敬三ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)について
1 本件は,a市長(以下「市長」という。)が平成7年度から同16年度にかけて各年度の6月及び12月に同市の臨時的任用職員に対し一時金(期末手当)を支給したことにつき,当該一時金は,非常勤の職員に対する手当であり,その額及び支給方法が条例で定められてもいないから,これを支給することは,常勤の職員に対してのみ手当の支給を許容し,手当の額及び支給方法は条例で定めなければならないとした地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの。以下同じ。)に違反する違法な公金の支出に当たり,同市が当該支出相当額の損害を受けたとして,同市の住民である被上告人らが,上告人に対し,同法242条の2第1項4号に基づき,その支給当時に市長の職にあった者に対する損害賠償の請求をすることを求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) a市は,平成7年度から同16年度にかけて,各年度の6月及び12月の2回にわたり,地方公務員法22条5項の規定による臨時的任用職員として採用された者のうち,1週間当たり3日以上勤務する者で,6月15日及び12月1日の各基準日にそれぞれ2か月以上在職し,かつ,支給日現在において在職するものに対し,1人当たり一律に上半期増給分(基準日が6月15日であるもの)として4万円及び下半期増給分(基準日が12月1日であるもの)として4万5000円をそれぞれ支給してきた(以下,上記各増給分を「本件一時金」という。)。
本件一時金の支給は,毎年度,a市の人事課において各年度の支給金額及び支給対象者を起案して市長の決裁を受けて,その支出負担行為は年度当初又は任用時に同市の企画財政部長の専決により行われ,その支出命令は支給時にそれぞれの金額に応じた専決権者の専決により行われていた。
(2) a市は,その大半の部署に臨時的任用職員を配置しており,その中にはパートタイムの職員も相当数存在していた。本件一時金の支給を受けた臨時的任用職員は,平成16年度の上半期で761人,下半期で810人であり,同年度に支給された本件一時金の総額は6689万円である。
また,a市においては,正式任用の常勤の職員(以下「正規職員」という。)のうち通常の勤務形態のものの勤務時間について,1週間当たり38時間45分(1日当たり7時間45分)とされていたところ,臨時的任用職員の勤務時間は上記の勤務時間よりも1日当たり15分短く設定されていたから,臨時的任用職員が週3日間勤務した場合の合計勤務時間は通常の勤務形態の正規職員の1週間当たりの勤務時間の6割弱となり,また,パートタイムの臨時的任用職員が週3日間勤務した場合の合計勤務時間は更に短いものとなるものであった。
(3) a市における一般職の職員の給与の額及び支給基準等については,一般職の職員の給与に関する条例(昭和32年a市条例第49号)で定められていたが,本件一時金の支給当時,同条例には,臨時的任用職員の給与についての定めは置かれていなかった。
なお,同条例36条は,「この条例に定めるものの外,必要な事項は規則で定める。」と規定していたが,本件一時金の支給当時,臨時的任用職員について,同条に基づく規則は制定されておらず,臨時的任用職員の取扱いに関する内規(昭和39年a市内規第1号)が定められていた。同内規は,その7条において,臨時的任用職員の日給額等は別に定めるなどとしていたが,本件一時金についての定めは置かれていなかった。
(4) a市は,本訴提起後の平成17年11月,平成17年a市条例第26号により,臨時的任用職員の給与に関する規定の新設を内容とする前記一般職の職員の給与に関する条例の改正を行い(以下,この改正前の同条例を「旧条例」,この改正後の同条例を「新条例」という。),新条例は同年12月1日から施行された。
新条例においては,①臨時的任用職員の賃金は,日給又は時間給とし,日額1万3000円又は時間額1730円の範囲内において,規則で定める基準に従い任命権者が別に定める(36条1項本文),②臨時的任用職員のうち規則で定める者については,規則で定める通勤手当相当分及び期末手当相当分の賃金を支給することができる(同条2項),③新条例の施行日の前日までに臨時的任用職員に支給された賃金(通勤手当相当分及び期末手当相当分を含む。)は,新条例及びこれに基づく規則の相当規定に基づき支給された賃金とみなす(附則4項)等の規定が設けられた。
また,新条例を受けて制定された臨時的任用職員に関する規則(平成17年a市規則第40号)においては,新条例に定められた期末手当相当分の賃金の支給額及び支給要件につき,前記(1)の本件一時金の支給に係る従前の運用におけるものと同じ内容の規定が置かれた。
(5) 昭和36年5月5日自治丁公発第47号高知県総務部長あて公務員課長回答「臨時職員の給与の取り扱いについて」(以下「昭和36年回答」という。)は,一般職の職員の給与に関する条例中に「臨時職員の給与については,この条例の規定にかかわらず予算の範囲内で任命権者が別に定める」と規定するのは,地方公務員法24条6項の規定に違反するか否かという照会に対し,「地方公務員法第22条の規定に基づく臨時的任用職員の給与については,他の職員と同様に給与に関する条例を適用すべきものであるが,同条例中に特別の定をして差支えないものと解する。」と回答している。
また,平成19年4月25日の時点において,大阪府及び同府内の33市には,臨時的任用職員の給与について条例にその具体的な金額を定めているものはなく,具体的な金額の決定を規則に委任しているものが3市,具体的な金額の決定を任命権者に委任しているものが7市,条例に何ら規定を置いていないものが同府及び23市であった。
3 原審は,上記事実関係等の下において,被上告人らの訴えのうち,平成7年度から同15年度までの本件一時金の支給に係る部分の訴えについては,適法な監査請求を経ていないから不適法であるとしてこれを却下すべきものとしたが,同16年度の本件一時金(以下,本件一時金というときは同年度のものをいう。)の支給に係る部分については,要旨次のとおり述べて,当時の市長であるAに対する損害賠償の請求をすることを求める被上告人らの請求を一部認容すべきものとした。
(1) 本件一時金は,期末手当に該当し,地方自治法上,常勤の職員に対してしか支給は許されないところ,週3日以上の勤務をするというだけでは常勤の職員に当たるといえず,そのような勤務態様の臨時的任用職員に本件一時金が支給されたものであるから,当該支給は違法である。また,旧条例において手当の支給額等を定めないまま本件一時金の支給をしたことは同法に違反するし,新条例において臨時的任用職員に対する期末手当の支給額等の定めを規則にゆだねたことも同法に違反するから,新条例を遡及適用することによっても本件一時金の支給が適法になるものではない。
(2) 本件一時金の支給は,旧条例の下で,条例の根拠を欠くままされたものであり,当時の市長であるAはその違法を容易に知り得たというべきであるから,支給に係る前記決裁をしたことにつき市長として尽くすべき注意義務を怠った過失がある。なお,本件一時金の支給当時,大阪府及び同府内の各市において,臨時的任用職員等の給与を条例で定めていないものが大半であったが,任命権者の裁量により臨時的任用職員の給与を決定する旧条例下の取扱いを法が許容していると解するのは困難であるし,昭和36年回答も上記のような取扱いを是認するものであったとまでは解されないから,Aの過失についての上記判断は左右されない。
4 しかしながら,原審の上記3の判断のうち,(1)は是認することができるが,(2)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)ア 地方自治法は,常勤の職員については,給料及び旅費を支給する(204条1項)ほか,法定の各種手当を支給することができるが(同条2項),非常勤の職員については,報酬及び費用弁償を支給するものとし(203条1項,3項),これらに加えて期末手当を支給することができるものとして議会の議員のみを規定しており(同条4項),また,いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずにはこれらの職員に支給することができないとしている(204条の2)。
これらの規定によれば,臨時的任用職員に対する手当の支給が地方自治法204条2項に基づく手当の支給として適法であるというためには,当該臨時的任用職員の勤務に要する時間に照らして,その勤務が通常の勤務形態の正規職員に準ずるものとして常勤と評価できる程度のものであることが必要であり,かつ,支給される当該手当の性質からみて,当該臨時的任用職員の職務の内容及びその勤務を継続する期間等の諸事情にかんがみ,その支給の決定が合理的な裁量の範囲内であるといえることを要するものと解するのが相当である。
これを本件についてみると,本件一時金は,週3日以上の勤務をした臨時的任用職員に支給されるというのであるが,前記のとおり,a市においては,週3日の勤務では通常の勤務形態の正規職員の勤務時間の6割に満たず,しかも,パートタイムの臨時的任用職員が週3日勤務した場合の勤務時間は更にそれより短いものとなるのであって,人事院規則15-15が,国家公務員について,非常勤の職員の勤務時間は常勤の職員の4分の3を超えない範囲において各省各庁の長が定めるとしていることなどをも参酌すると,勤務日数が週3日という程度では,その勤務に要する時間に照らして,その勤務が上記正規職員に準ずるものとして常勤と評価できる程度のものとはいい難い。そうすると,勤務日数が上記程度の臨時的任用職員に対する本件一時金の支給は,本件一時金の性質及び当該臨時的任用職員に係るその他の事情について検討するまでもなく,地方自治法204条2項の要件を満たさず,違法というべきである。
イ また,地方自治法は,常勤の職員であると非常勤の職員であるとを問わず,その給与の額及び支給方法を条例で定めなければならないと規定している(同法203条5項,204条3項)。これは,職員の給与の額及び支給方法を議会が制定する条例によって定めることにより,地方公務員の給与に対する民主的統制を図るとともに,地方公務員の給与を条例によって保障する趣旨に出たものと解される。同法の上記規定の趣旨,特に議会による民主的統制の要請に照らすと,職員の給与の額及び支給方法を条例で定めないことは許されないし,また,条例において,一定の細則的事項を規則等に委任することは許され得るとしても,職員の給与の額及び支給方法に係る基本的事項を規則等に委任することは許されないというべきである。
ところで,臨時的任用職員は,緊急の場合又は臨時の職に関する場合などに任用される(地方公務員法22条2項,5項)が,当該職員が従事する職が当該普通地方公共団体の常設的な事務に係るものである場合には,その職に応じた給与の額等又はその上限等の基本的事項が条例において定められるべきである。他方で,当該職員が従事する職が臨時に生じた事務に係るものである場合には,その職に応じた給与の額等についてあらかじめ条例で定め難いことも考えられるが,上記の地方自治法の趣旨によれば,少なくとも,その職に従事すべく任用される職員の給与の額等を定めるに当たって依拠すべき一般的基準等の基本的事項は,可能な限り条例において定められるべきものと解される。
これを本件についてみると,a市においては,本件一時金の支給を受けた者だけでも約800名に及ぶという多数の臨時的任用職員が同市の大半の部署に配置されており,その多くが常設的な事務に係る職に従事していたことがうかがわれるにもかかわらず,旧条例では,臨時的任用職員に対する給与の額及び支給方法又はそれらに係る基本的事項について定めがなく,また,新条例でも,規則で定める者に規則で定める期末手当等を支給する旨規定したのみで,条例自体には手当の額及び支給方法又はそれらに係る基本的事項について定めがない。このように手当の額及び支給方法又はそれらに係る基本的事項について条例に定めのないまま行われた本件一時金の支給は,職員の給与の額及び支給方法を条例で定めなければならないとした地方自治法の上記規定に反するものであり,違法というべきである。
ウ したがって,前記ア及びイの各点に関する論旨は採用することができない。
(2) そこで,本件一時金の支給についての当該支給当時の市長であるAの過失につき,以下検討する。
ア まず,地方自治法204条2項に規定する同条1項の常勤の職員に該当しない臨時的任用職員に対し期末手当に該当する本件一時金を支給した点についてみると,前記のとおり,国家公務員については,人事院規則15-15が非常勤の職員の勤務時間について定めているものの,地方公務員については,地方自治法及び地方公務員法その他の法令は,常勤の職員と非常勤の職員とを区別する一般的基準について具体的な定めを置いていない。そして,普通地方公共団体の議員の兼職禁止を定めた地方自治法92条2項に規定する「常勤の職員」の解釈については,隔日勤務の職員でも,その職務内容の性質から他の常勤の職員の勤務と同一のものとして取り扱われるものは常勤の職員に当たるとされている(昭和26年8月15日地自行発第216号鳥取県総務部長あて行政課長回答)が,本件のように手当の支給が問題となる場面における上記区別の基準について,これを直接に読み取ることができる法令の具体的な定めは存しない上,本件一時金の支給当時,これを明らかにした行政実例又は裁判例があったとはうかがわれず,前記(1)アの説示に係る解釈を採るべきであるとの認識が一般に実務において共有されていたともうかがわれない。このような事情に照らすと,当時の市長であるAにおいて,地方自治法204条2項の要件との関係で,勤務日数が週3日程度の臨時的任用職員に対し本件一時金を支給することの適法性について疑義があるとして調査をしなかったことがその注意義務に違反するものとまではいえず,これを支給することが同項の要件を満たすものでないことを容易に知り得たとはいい難い。
イ また,本件一時金の額及び支給方法又はこれらに係る基本的事項について条例に定めのないまま本件一時金を支給した点についてみるに,前記のとおり地方自治法は職員の給与の額及び支給方法を条例で定めなければならないと規定しているところであり(同法203条5項,204条3項),既に説示したとおり,臨時的任用職員についても,給与の額及び支給方法又はこれらに係る基本的事項は条例に定めるべきものと解される。
もっとも,他方において,臨時的任用職員の制度は,一般職に属する正規職員を中核とする人的体制を補完し,その時々の行政需要に柔軟に対処するためのものであって,この点において臨時的任用職員は正規職員と性格が異なること,国家公務員に関しては,正規職員との対比において上記と同様の側面も有する非常勤の職員(委員等以外のもの)の給与について,各庁の長が,常勤の職員の給与との権衡を考慮し,予算の範囲内で給与を支給するものと定められていること(一般職の職員の給与に関する法律22条2項),昭和36年回答は,各地方公共団体における一般職の職員の給与に関する条例中に臨時的任用職員の給与は任命権者が別に定める旨を規定することの許否に関する照会に対し,そのような取扱いが許されない旨を明示的に回答しておらず,差し支えないものとされた上記条例中の「特別の定」の解釈によっては,これを許容する趣旨の回答であると解する余地もないとはいえないことに加え,平成19年4月25日の時点においても,大阪府及び同府内の各市において臨時的任用職員に係る給与の額及び支給方法又はこれらに係る基本的事項につき条例で具体的に定めていたものはなく,同府及び多数の市ではa市の旧条例と同様に条例において臨時的任用職員の給与について何らの規定も置いていなかったこと等の事情が認められる。これらの事情に照らすと,当時の市長であるAにおいて,地方自治法の上記規定との関係で,臨時的任用職員に係る本件一時金に関する旧条例の定めの適法性について疑義があるとして調査をしなかったことがその注意義務に違反するものとまではいえず,これを支給することが同法の上記規定に反するものであることを容易に知り得たとはいい難い。
ウ 本件のように,普通地方公共団体の長の権限に属する財務会計上の行為を,補助職員が専決により処理した場合には,長は,補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失によりこれを阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,普通地方公共団体が被った損害を賠償する義務を負うものである。上記ア及びイに説示したところによれば,本件一時金の支給当時の市長であるAにおいて,補助職員が専決により財務会計上の違法行為である上記支給をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失によりこれを阻止しなかったとまではいえないから,Aに市長として尽くすべき注意義務を怠った過失があるとして同人のa市に対する損害賠償義務を肯定し,被上告人らの請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,この点に関する論旨は理由がある。
5 以上によれば,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,上記部分に関する被上告人らの請求は理由がないから,同部分につき第1審判決を取り消し,同部分に関する請求を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見がある。
裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に加え,次の点を補足しておきたい。
地方公共団体における臨時的任用職員の制度は,法廷意見が述べるとおり,本来,一般職に属する正規職員を中核とする人的体制を補完し,その時々の行政需要に柔軟に対処するためのものであるが,a市においては,本件一時金の支給を受けた者だけでも約800名に及ぶ多数の臨時的任用職員が同市の大半の部署に配置され,その多くが常設的な事務に係る職に従事していたようである。近年,a市に限らず,各地の地方公共団体において,各種の行政需要が増大し,それに対応する正規職員の数は,定員の枠に縛られているため,現実の必要性に迫られて,定員制限のない(地方自治法172条3項)臨時的任用職員を採用し,恒常的に,常設的な事務に従事させ,その結果,その数が無視できない規模にまで拡大する傾向が指摘されているところである。そこでは,正規職員とかなり近い形での勤務内容や勤務時間となっている場合も多いため,その処遇に当たっては,法的な可否を十分吟味することなしに,正規職員と同様の手当を支給するという傾向になりがちであり,また,臨時的任用であるということから,給与の額及び支給方法又はこれらに係る基本事項については,条例で具体的に定めることをせず,あるいは具体的な金額の決定を条例により規則や任命権者に丸ごと委任している例も見られるところである。
臨時的任用職員の中には,常勤とまでは評価できないものの,勤務時間や勤務期間が長い者もいるであろうが,これらの職員に対し,生活給的な手当の性格を有する一時金を支給する現実的な必要性があることは理解できないではない。しかしながら,地方自治法204条は,議会の議員以外は常勤職員についてのみ法定の各種手当の支給を認めているのであるから,上記の性格を有する一時金を適法に支給するためには,当該職員の勤務実態を常勤と評価されるようなものに改め,これを恒常的に任用する必要があるときには,正規職員として任命替えを行う方向での法的,行政的手当を執るべきであろう。また,臨時的任用職員であっても,これらの職員に対する給与の額及び支給方法又はそれに係る基本的事項については,条例で定めるべきことが同法204条の2等で要請されているところであるから,その職が文字どおり臨時に生じた事務に係るものであっても,少なくとも給与の額等を定める際の一般的基準等の基本事項は条例に盛り込む必要があろう。そして,これらの対応のためには,当該地方公共団体の人的体制・定員管理の在り方や人件費の額等についての全体的な検討を余儀なくされる場面も生じよう。
本件におけるa市はもとより,以上のような要請を満たしていない地方公共団体においては,本判決の言渡し後は,臨時的任用職員に対する手当等の支給については,地方自治法204条2項及び同法204条の2の要件との関係で,その適法性の有無を早急に調査すべきである。その結果,本件と同様な実態が存する場合には,上記要件を欠く支給であることは容易に知り得るのであるから,そのような違法状態を解消するため条例改正が速やかに行われるべきであって,漫然と条例を改正しないまま手当等の支給を続けるときには,当該地方公共団体の長は,違法な手当等の支給について過失があるとして損害賠償責任が追及されることにもなろう。
もっとも,条例改正には,手続と時間を要するものであるが,当該公共団体において,条例改正のために要する合理的な期間を徒過してもなお条例の改正がされず,違法な支給を継続する場合には,もはや過失がないとはいい難く,今後の司法判断において,厳しい見解が示される可能性があることを留意すべきである。
(裁判長裁判官 竹内行夫 裁判官 古田佑紀 裁判官 須藤正彦 裁判官 千葉勝美)