最高裁判所第二小法廷 平成22年(し)288号 決定 2010年7月02日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ職権により調査すると,裁量により保釈を許可した原決定には,本件勾留に係る公訴事実とされた犯罪事実の性質等に照らせば,所論が指摘するような問題点もないとはいえないが,いまだ刑訴法411条を準用すべきものとまでは認められない。
よって,同法434条,426条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 須藤正彦 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫 裁判官 千葉勝美)
《参考・特別抗告及び裁判の執行停止申立書》
第1 申立ての趣旨
1原決定のうち,傷害・窃盗被告事件(平成21年10月6日付公訴事実)及び強盗致傷被告事件(同22年2月5日付公訴事実)につき被告人の保釈を許可するとする部分を取り消し,当該部分に係る弁護人の準抗告を棄却する旨の裁判を求める。
2原決定により直ちに被告人を保釈した場合には,本件特別抗告が認容されても,当該認容決定はその実質的意味を有しないこととなるので,本件特別抗告の裁判があるまで,原決定のうち,上記部分についての執行停止を求める。
第2 理由
1 はじめに
(1)特別抗告申立てに至る経緯
本件は,平成21年9月4日(①),同年10月6日(②),同22年2月5日(③)及び同年3月5日(④)に東京地方裁判所に公訴提起された傷害(①。以下「エレベーター事件」という。),傷害・窃盗(②。以下「公園事件」という。),強盗致傷(③。以下「マンション事件」という。)及び器物損壊(④)被告事件であり,被告人は①~③について勾留されており,④については別件勾留中として公訴が提起されたものである。
本件は同地方裁判所刑事第5部に係属中であるが,同部は,本件各公訴事実につき,順次公判前整理手続に付する決定及び各公訴事実に係る公判を併合する決定をした。各公訴事実のうち,③は裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下「裁判員法」という。)第2条第1項第1号に該当するものであることから,本件については,全体として,いわゆる裁判員裁判によって審理が行われることとなった(裁判員法第4条)。
公判前整理手続において,弁護人は,①及び④の事件については公訴事実を争わないものの,②及び③の事件については犯人性を争う旨主張し,検察官は,これら両事件を中心として9名の証人尋問を請求し,採用された。これらの主張及び証拠の整理を経て,本件に係る裁判員裁判については,同年7月20日から延べ8日間(土・日曜日を除く連日開廷)の日程で開かれることが決定され,同月1日及び同月7日にさらに公判前整理手続が開かれる予定である。
この間,弁護人は,同年5月28日,被告人の勾留事実である①~③の公訴事実につき保釈を請求したが,同地方裁判所刑事第14部は,これらの公訴事実に関しては,被告人に罪証隠滅のおそれがある(刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)第89条第4号)ほか,③の事実は同条第1号にも該当し,被告人については同法第90条所定の裁量保釈を認めることも相当ではないとして,弁護人の保釈請求を却下する決定(以下「原々決定」という。)をした。
これに対し,同月7日,弁護人が準抗告を申し立てた。当該申立てを受理した同地方裁判所刑事第18部は,同月10日,弁護人から,「6月23日に公判前整理手続が終了する予定であり,場合によっては,同日まで判断が留保されても異議は述べません。」等の記載を含む準抗告申立補充書の提出を受けた後,同月22日,原々決定を取り消した上,被告人の保釈を許可する旨決定したため,検察官は,本特別抗告に及んだものである。
(2)特別抗告の理由
ア 高等裁判所の判例違反
原決定による保釈許可の対象となった勾留事実(公訴事実)中,前記③の事実は,刑訴法第89条第1号に当たるものであるところ,同号該当事実についての被告人の裁量保釈に関して,最高裁判所の判例はないが,高等裁判所の判例として,東京高等裁判所昭和60年8月16日決定及び同高等裁判所平成元年2月21日決定があるところ,原決定は,以下に詳述するとおり,これらの2判例と相反する判断をしたので,法第433条第1項,第405条第3号の特別抗告理由が存し,かつ,これら2判例の判断は正当なものであり,これを変更すべき理由はないから,原決定中当該事実に係る部分は取消しを免れない。
イ 著しく正義に反する法令違反(刑訴法第411条第1号の準用)
原決定による保釈許可の対象となった勾留事実(公訴事実)中,前記②の事実については,前記のとおり連日開廷に係る裁判員裁判による審理が行われ,犯人性立証のため多数の証人尋問が予定されているところであるが,同事実につき被告人が保釈された場合には,以下に詳述するとおり,公判前整理手続で策定された審理計画に従って,これらの証人尋問を実施することは極めて困難と予想される。
裁判所が刑訴法第90条による裁量保釈を認めるについては,公判の円滑適正な進行の確保を図る上での影響の有無及び程度をも慎重に判断すべき法的義務があるところ,原決定はこの点に関する配慮をしないまま,漫然と裁量保釈を認めるという違法な決定をしたものであり,その結果,裁判員裁判の円滑適正な遂行が危殆に追いやられるという著しく正義に反する結果に陥っているのであって,貴裁判所の職権により,原決定中,前記②の事実について保釈を許可するとする部分を取り消すべきである。
なお,この趣旨は,勾留事実(公訴事実)中,前記③の事実について原決定が保釈を許可した点にも及ぶものであるが,他方,前記①の事実について原決定が保釈を許可した点については,同事実との関係では証人尋問により証明すべき事実の重要度が同②及び③の事実との関係におけるものと比較すれば相対的に低いことから,原決定中,前記①の事実について保釈を許可した部分については,刑訴法第411条第1号の準用による職権発動の申立てには及ばないものである。
2 高等裁判所の判例違反
(1)高等裁判所の判例
① 東京高等裁判所昭和60年8月16日決定(東京高等裁判所(刑事)判決時報36巻8・9号59頁)
本決定の原決定は,革労協の幹部である被告人が革マル派に属する被害者に対して犯した傷害致死等事件(刑訴法第89条第1号該当)について,次回公判期日において論告・弁論が予定されている段階で,被告人の保釈を許可するとするものであったが,これに対する検察官の抗告を受けて,東京高等裁判所は,本件が革労協の組織的犯行であることを指摘した上で,「(被告人が)捜査段階で黙秘し,公判段階で徹底的に争っていることなどを勘案すると,……検察側,被告人側の双方について,今後なお立証の余地が残されていない訳ではないから,現段階においてもなお,被告人を釈放すると,被告人が組織内における自己の影響力を行使し,自らあるいは組織を通じて,右組織に属する共犯者などの事件関係者に働き掛けるなどして,罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるものと認められる。」として,権利保釈は許されず,「本件各事案の罪質,態様,公判審理の経過その他記録に表れている諸般の事情に徴すると,裁量による保釈も適当とは認められず,また,本件各勾留が不当に長くなったものとも認められない。」と判断し,前記原決定を取り消して,保釈請求を却下した。
② 東京高等裁判所平成元年2月21日決定(判例時報1311号153頁)
本決定の原決定は,強盗致死事件(刑訴法第89条第1号該当)等について,結審後判決宣告前の段階で,保釈保証金を1000万円として,被告人の保釈を許可するとするものであったが,これに対する検察官の抗告を受けて,東京高等裁判所は,「本件事案の罪質,態様,事件関係者に対する被告人の影響力等の諸点に徴すると,……被告人を保釈すれば,なお被告人が事件関係者らに働き掛けたりするなどして,罪証を隠滅する虞れがないとはいえない。」として,被告人が指名手配をされ約10年間潜伏していたことなどの事情も併せ考慮すると,「1000万円という比較的多額の保証金を定め,事件関係者との面接,接触を禁止する等の条件を附したからといって,必ずしも裁量保釈を相当とする状況がととのったとは考えられず,……裁量により保釈を許さなければならない特段の事情があるとは認め難く,また,公判審理の経過に照らし,勾留が不当に長期に及んでいるとも認められないから,被告人に対し保釈を許した原決定は裁量権の行使を誤ったものであるといわざるをえない」と判断し,前記原決定を取り消して,保釈請求を却下した。
(2)最高裁判例の不存在
なお,刑訴法第90条の裁量保釈に関する最高裁判所の裁判としては,平成17年3月9日最高裁判所第2小法廷決定(平成17年(し)第110号)がある。同決定に係る事案は,前科前歴のない被告人が,共犯者と大麻樹脂約1.153グラムを共同所持したというものであり,被告人及び共犯者は概ね事実を認めているところ,最高裁判所は,保釈請求の却下決定を是認した原決定に対する弁護人の特別抗告を受け,「本件事案の性質,その証拠関係,被告人の身上経歴,生活状況などに照らすと,保釈請求を却下した原々審の裁判及びこれを是認した原決定には,裁量の範囲を逸脱し,刑訴法90条の解釈を誤った違法があり,これを取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。」と判断したものである。
しかし,同事案は,被告人が有罪と認められても,通常は執行猶予付きの判決が予想される比較的軽微な事案であり,本件のような,刑訴法第89条第1号に該当し,有罪と認められた場合には相当重い刑に処せられることから裁判員裁判の対象にもされているような重大事案とは異なるものである。
したがって,刑訴法第89条第1号に該当することにより権利保釈が認められない場合における裁量の範囲が問題となった最高裁判所の判例は存在しないものと考えられる。
(3)高等裁判所判例としての判旨の捉え方と当該判旨の正当性
これに対して,前記(1)①・②の各決定は,刑訴法第89条第1号に該当する事案における裁量の範囲を直接の問題とした判例であるところ,その判旨としては,同号に該当することにより権利保釈が認められない事案において裁量保釈を認めるには,事案の罪質,態様,公判審理の経過その他諸般の事情を考慮し,裁量により保釈を許さなければならない特段の事情が必要であるというものであると理解される。
刑訴法第90条は「裁判所は,適当と認めるときは,職権で保釈を許すことができる。」とするものであるが,この「適当と認めるとき」の意味については,保釈制度の目的・機能に照らし,具体的合理性があるものでなければならないことはいうまでもないところであるし,権利保釈の除外事由に当たる場合は,原則として保釈が適当でないとされるのであるから,裁量保釈を認めるためには,被告人の保釈を相当とする特別の事情が必要であるとする考え方が有力であるといわれている(大コンメンタール刑事訴訟法第2巻164頁)。
この有力とされる考え方は,権利保釈の除外事由に当たる場合一般についてのものであるが,特に刑訴法第89条第1号に該当する事案においては,同号が権利保釈の除外事由とされる趣旨は,そのような重い刑に当たる事案では,保釈保証金の担保によっては逃亡を防止することができないと定型的に考えられるという点にある(大コンメンタール刑事訴訟法第2巻161頁)のであり,保釈制度の目的は,まさに保釈保証金の担保によって被告人の逃亡や罪証隠滅を防止するという点にあるのであるから,そのような保釈制度の目的・機能に照らした場合,同号に該当する事案においては,被告人の保釈を相当とする特別の事情が必要であるとする上記の考え方が一層妥当するものといわなければならない。
そして,前記(1)①・②の各決定は,まさにその理を判旨とするものであるから,刑訴法第89条第1号に該当することにより権利保釈が認められない場合における裁量の範囲に関する同法第90条の解釈として正当なものであり,変更されるべき理由はない。
(4)原決定の判断と高等裁判所判例との相反性
原決定による保釈を許可するとした前記1(1)③の勾留事実(公訴事実)は,刑訴法第89条第1号に当たるものであるところ,原決定が裁量保釈を相当とした理由は,「公判前整理手続がまもなく終了する現時点において,……③事件については,罪証隠滅の具体的なおそれがあるとは認められない。……そして,被告人の両親が被告人の身元を引き受ける旨誓約しているところ,被告人は,保釈後,自宅でE店を営む父親,母親,祖母と同居することになり,保釈期間中の手厚い監督体制も見込まれる。被告人は……既に約11か月にわたりその身体を拘束されたままであり,その期間が長くなっている。さらに,本件は,いずれも裁判官と裁判員の合議体によって,本年7月20日から8日間にわたり,……連日開廷で審理される予定であるところ,このような連日開廷に対応した効果的な弁護活動を行うためには,被告人と弁護人が即時かつ緊密に打合せを行う必要がある。」というものである。
しかし,このうち,罪証隠滅のおそれがないとする点については,原々決定がいうように,むしろ罪証隠滅のおそれはあると認めるべきである(この点については,後記第2・3(5)(6)参照)し,その点を措くとしても,前記のとおり,高等裁判所の判例は,刑訴法第89条第1号該当事案における類型的な逃亡のおそれの高さを理由として,裁量保釈につき特別な事情の存在を要求するものであり,罪証隠滅のおそれが認められれば,同条第4号という別途の権利保釈の除外規定が認められるということはあるとしても,それが認められないということが,これらの判例がいう特別の事情にあたるものにならないということは,論理上明らかである。
また,被告人が既に約11か月にわたって拘束されているということは事実であるが,被告人が前記1(1)③の勾留事実(公訴事実)につき犯人性を争っていることや,強盗致傷罪の法定刑の短期は6年であることからすれば,これをもって裁量保釈を認めるべき特段の理由とすることはできない。
裁判員裁判における連日開廷を問題とする点についても,弁護人の主張や立証計画を前提にした審理計画が策定されつつあるのであるから,これをもって裁量保釈を認めるべき特段の理由とすることはできないし,むしろ後記第2・3(6)エで述べるように,本件が裁判員裁判によって審理されるということは,被告人に裁量保釈を認めるべきではないとする最大の根拠であるとすらいえるのである。
一方,被告人の監督体制に論及する部分については,その「監督体制」なるものは,実質的には被告人がこれまで生活を営んできた環境そのものであるところ,そのような環境下において,被告人は,本件公訴事実に係る一連の犯行を含む多数の犯罪行為に手を染めてきたのであって,これが裁量保釈を認めるべき特段の理由に当たるようなものでないということは一見明白である。
その点については,原決定も「被告人の粗暴性がうかがわれることから,裁量によって被告人を保釈するのも相当ではないようにも考えられた」とするのであるが,原決定は,「弁護人が疎明するとおり」とするのみで,その実質を示さずに,「被告人は,平成20年秋ころを転機として,このような性向が改善された様子がうかがえる」とするのである。
しかし,前記1(1)③の勾留事実(公訴事実)は,まさに原決定が「転機」とする平成20年秋ころより後に敢行されたものであり,当該事案についての審理を待つことなく,この「転機」以降,被告人の「性向が改善された様子がうかがえる」とする根拠は不明というほかない。
以上によれば,原決定は,言葉面での問題は格別として,実質的には,裁量保釈を認めるべき特段の理由がないにもかかわらず,刑訴法第89条第1号に当たる前記1(1)③の勾留事実(公訴事実)につき裁量保釈を認めたものであり,前記高等裁判所の判例と相反するものであることは明らかである。
3 原決定には,裁量の範囲を逸脱し,刑訴法90条等の解釈適用を誤った違法があり,これを取り消さなければ著しく正義に反すること(刑訴法411条準用)
原決定が,公園事件については被害者との関係で刑訴法89条4号の事由を認め,マンション事件については刑訴法89条1号の事由を認めながらも,保釈を許可したことは,裁量の範囲を逸脱し,刑訴法90条等の解釈適用を誤った違法があり,これを取り消さなければ著しく正義に反する。
(1)原決定の取消を求める2つの事件の概要
公園事件は,被告人が東京都F区内の公園で,ベンチに腰かけていた被害者である男子専門学校生に対し,その顔面を刃物様のものを持ったげん骨で殴りつけて全治10日間の傷害を負わせ,同人所有の現金,自動車運転免許証等在中の財布を窃取した事案(傷害,窃盗)であり,マンション事件は,被告人が同区内のマンションエントランス内で,帰宅途中の女子大学生に対し,背後から同人が所持していた手提げバッグを引っ張った上,その右前胸部を刃物様のもので突き刺したが,同人に抵抗されて手提げバッグを強奪することができず,同人に入院加療16日間を要する傷害を負わせた事案(強盗致傷)である。
いずれも,一面識もない専門学校の生徒や女子大生に対し,いきなり刃物様のもので目元を切りつけ,あるいは胸部を突き刺すなどの危険な行為を行って,財布やハンドバックを得ようとした通り魔的な悪質事案であり,特に,マンション事件の被害者の傷は,深さ4センチメートルで右肺に達し,血気胸を生じさせるなど一歩間違えると死亡の危険もあり得た重大事件である。
(2)裁判員裁判の審理予定
公園事件,マンション事件は,余罪である前記第2,1(1)のエレベーター事件及び被告人が量販店の出入口ドアガラス1枚をけり破った器物損壊事件と併合され,本年7月20日から8日間にわたり,裁判員裁判により審理される予定であり,現在までに10回の公判前整理手続が実施されている。
(3)争点整理の進捗状況
被告人は,エレベーター事件及び器物損壊事件についてはこれを認めて争っていないが,公園事件及びマンション事件については,捜査段階で黙秘し,公判前整理手続では犯人性を否認し徹底的に争っている。そして,検察官請求証拠に関し,証人9名の採用が決定されたものの,書証及び証拠物合計30点の採用決定が未了である。
(4)公園事件及びマンション事件の立証構造
ア 公園事件について
検察官は,被告人が公園事件の犯人であることを推認させる間接事実を積み重ねることによって立証する予定であり,証明予定事実記載書面のとおり,①犯人が犯行現場に遺留したと認められるたばこの吸い口部分のDNA型と被告人のDNA型が一致すること,②被告人が,本件被害品である被害者の健康保険被保険者証や自動車運転免許証を所持していたこと,③犯人を目撃している被害者が,被告人は犯人に間違いないと思う旨識別したこと,④被告人が公園事件の犯行により右手を負傷したことの各間接事実を立証する予定である。
イ マンション事件について
検察官は,被告人が,マンション事件の犯人であることを推認させる間接事実を積み重ねることによって立証する予定であり,証明予定事実記載書面のとおり,①犯人が犯行現場付近に遺留したと認められるたばこの吸い口部分のDNA型と被告人のDNA型が一致すること,②犯人が犯行時につかんでいた被害者の手提げバッグの持ち手から採取された混合DNA型の分析結果が,被告人が犯人であることを強く推認させること,③被害者が,被害直後から供述する犯人の特徴と,被告人の年齢,身長,普段の服装等が矛盾しないことの各間接事実を立証する予定である。
(5)原決定が認定しなかった重要証人に対する罪証隠滅・証人威迫の具体的なおそれについて
ア 被告人の特異性について
被告人は,F区内の親元で生活しながら,定職に就くことなく,地元を徘徊し,前述のとおり,器物損壊事件,エレベーター事件,公園事件,マンション事件を敢行したものであり,かかる犯行態様からは,被告人が昼夜を問わず,自宅を出て地元を徘徊しては,目を付けた対象に突然暴力を振るっていたことが明らかであり,その凶暴性,犯罪傾向は深化しており,平成21年6月発生のマンション事件の時点では,女性被害者の胸を刃物様のもので突き刺し,その場に放置して逃走したほど深刻なものとなっている。
また,器物損壊事件及びエレベーター事件の犯行に及んだ動機は,犯行状況を動画に残し,後日鑑賞して楽しむためであった。このことから,被告人には,暴力それ自体を愉しみ,他者に暴行を加える自己の姿に喜びを感じる異常な傾向さえ窺われる。
さらに,被告人は,本件で全事件について証人尋問が予定されているA(以下「A」という。)が被告人との口約束を守らなかった際,同人の頭部に軟式野球のボールを投げつけたり,理由もなく同人の実家の玄関ガラスを同人の目の前でバットで叩き割ったり,また,スプレーで同人の実家の玄関に「ゴミ屋」,自動車に「次は殺す。」と書いて脅迫するなどしており,自己の意のままにならない相手に対して異様な執着心をもって攻撃するなどの性格が認められる。
なお,Aの実家の玄関ガラスをバットで叩き割った件は,同人から被告人が犯人であることを聞いていない同人の父親が,犯人不詳として警察に被害届を提出していること,Aが,被告人を畏怖して父親にも被告人が犯人であることを打ち明けていないなどの事情から,いずれの事件も立件されていないことが,原決定後のAからの事情聴取で判明した。
イ 争点整理,証拠整理の結果と証人威迫・罪証隠滅のおそれとの関係について
被告人は,公園事件及びマンション事件について犯人ではない旨徹底的に争っており,これによって,公園事件では,①被告人を犯人として識別した被害者,②犯人が刃物様のものを持った右手のげん骨で被害者の顔面を殴り付けた状況を目撃し,かつ,事件発生時刻から被告人のDNAが付着したたばこが発見されるまでの時間が短時間であった状況を体験した当時の女子専門学校生,③たばこを発見した専門学校講師の合計3名の一般私人が証人として出廷し,マンション事件では,④犯人の格好及び犯人が手提げバッグのどの部分を素手でつかんだのかなどの犯行態様を目撃した被害者が証人として出廷し,全事件について,⑤Aが証人として出廷する予定である(ほかに鑑定人,警察官が出廷予定)。
これら5名の一般私人は検察官が厳選した末の証人であって,いずれも被告人の刑責を決する重要証人であるということは,公判前整理手続に出廷して経過を把握している被告人も十分承知しているところであり,被告人からすれば,自己の刑責を免れようとするため誰に働き掛けることが最も効果的なのかが一目瞭然である。そして,もし,これら証人が,被告人やその家族などから,たとえ謝罪の電話があったり手紙を送付されたりなどの行為であっても,それだけでも不出廷となる可能性があり,そうなれば検察官の立証計画が大きく崩れ,審理日程が狂い,期日が空転する可能性があり,本件では,争点整理がほぼ終了しつつあることは,罪証隠滅のおそれを軽減することには決してならないのである。
ウ Aに対する罪証隠滅・証人威迫のおそれ
証人として出廷する予定のAは,エレベーター事件及び器物損壊事件では,被告人の指示により被告人の犯行をデジタルカメラで撮影していた者であり,また,公園事件に関しては,被告人から指示されて,大学ノートに被害者の氏名・生年月日等を繰り返し筆記した者で,被告人から指示された状況等について証言することが予定されている。さらに,Aは,公園事件及びマンション事件に関し,被告人がたばこをポイ捨てするときの癖,被告人の性格等について証言することも予定されており,全事件について重要証人となる位置づけにある。
Aは,被告人が犯したエレベーター事件や自己の実家に対する攻撃などの具体的体験等から,被告人の凶暴な性格や異様な執着心を見せつけられ,被告人方が実家から歩いて数分程度の場所にあることもあって別の住居に移ることを余儀なくされたほど,被告人と接触することを極端に恐れており,被告人が保釈になったことを伝えただけで,現在の住居地からも逃走し,連絡もつかなくなる可能性が極めて高いため,今もなお,Aに対し,保釈許可決定の事実を伝えることができない状況にある。
そして,Aの被告人に対するこのような恐怖心は,自己の体験した被告人からの執ような暴力や陰湿な脅し行為からすれば,極めて自然な感情であり,本件の保釈の当否を検討するにあたっては,全事件についての重要証人であるAと被告人との関係を最大限考慮する必要がある。
一方,被告人は,公園事件,マンション事件について徹底的に争っている上,自己が有罪となるか否かが被害者等事件関係者の証言内容にもっぱらかかっている状況にあるところ,自らは無為徒食で,父親が自宅兼店舗で営むE店の手伝いをしたり,理容専門学校の通信課程にレポートを提出するほかは,自由であるため,現段階で被告人を釈放すれば,地元を徘徊する時間はいくらでもあり,被告人の実家とAの実家が徒歩で数分程度しか離れていないことを考慮すると,被告人が直接的にAに圧力をかけるまでもなく,同人の実家の周りを徘徊するだけで,同人を気遣う両親を通じて同人に被告人の行動を連絡させることにより証人出廷を断念させる効果は十分に認められる。
また,被告人は,Aが自己を恐れていることを知悉していることから,同人に対し,全く接触しなくとも,謝罪の体裁をとりつつ,自己が釈放された事実を知らせ,そのことによって同人を畏怖せしめ,被告人に不利な証言をさせないよう圧力をかけることも考えられるところであり,実際,このような巧妙な手段により罪証隠滅行為に及ぶおそれが極めて高い。
エ 公園事件の目撃者である当時の女子専門学校生に対する罪証隠滅のおそれ
同女は,公園事件の犯人を識別していないが,犯人が刃物様のものを右手拳に持っていた状況及び犯行を目撃し,燃焼中のたばこが発見されたのが事件発生直後のことであったことなどを体験に基づき語ることのできる唯一の重要証人であり,被告人側は,第三者による犯行の可能性を主張して,たばこの発見状況や燃焼時間を争っていることから,被告人にとって被害者と同様最重要証人である。そして,同女は,自己の通っていた専門学校のすぐ近くで,被告人から一方的に因縁を付けられた上,被告人の犯行を目の当たりにした体験に基づき,被告人のことを極度に恐れている。
同女は,既に専門学校を卒業しているが,同校は被告人の生活圏内に所在しており,被告人が保釈されれば,同校に赴き,卒業生名簿を調べるなどして,同女の現在の居場所を探し出し,直接的に圧力をかけることは不可能とはいえず,また,被告人が,同女を探し出す行動をとっているというだけで,同女に対して証人出廷をためらわせるほどの精神的な圧力がかかることは明らかで,被告人がこのような罪証隠滅行為に及ぶおそれは十分認められる。
オ マンション事件の被害者に対する罪証隠滅のおそれ
マンション事件は,被害者の供述する犯人像を基に被告人が犯人として割り出された経緯があり,同女の記憶する犯人像と被告人が矛盾しないことが犯人性を推認する間接事実の柱の一つであることから,マンション事件の最重要証人である。同女は,初めて体験した本件被害に肉体的にも精神的にも大きなショックを受けるとともに犯人を極度におそれており,現在では犯人として起訴された被告人が罪を認めずに争っていることを知り,できれば,証人として出廷したくないという心境にあり,住居地は変更したものの,被告人や家族が元の住所地に手紙を出すなどの手段で連絡を取ろうとする程度の行動で公判出廷が困難となる状態にある。
被告人も,マンション事件における被害者証人の重要性を十分理解している上,事件現場のマンションも知っていることから,元の住所地宛に謝罪文を送るなど,巧妙な手口で証人に働き掛け,事実と異なる供述を求めたり,あるいは証人出廷を断念させるなどの罪証隠滅行為に及ぶおそれは十分認められる。
(6)裁量保釈を認めた原決定には,看過しがたい法令違反があり,これを是正しなければ,著しく正義に反すること
ア 原決定が,公園事件の被害者との関係についてのみ罪証隠滅のおそれを認定し,Aや女子専門学校生に対する関係での罪証隠滅については何ら判断しなかったこと,マンション事件の被害者との関係で罪証隠滅のおそれを認めなかったことは,刑訴法89条4号の解釈を誤り,ひいては同法90条の裁量権の範囲を著しく逸脱したものである。
公園事件に関する弁護人の予定主張は,概ね,「①被告人のノートに被害者の氏名・住所が記載されており,かつ,Aのノートに被害者の氏名・生年月日,被害者の父親の氏名等が記載されていた理由は,被告人が公園事件の犯人として被害者から財布を窃取して被害者の運転免許証等を手に入れたからではない。被告人が,たまたま被害者の財布を拾ったので,中に入っていた運転免許証などをメモして偽名として利用しようとし,さらに,Aに対し,被告人の代わりに古本屋へ本を売りに行ってもらおうとして偽名の練習を頼んだからである。②公園事件の犯行現場付近に被告人のDNAが付着したたばこが落ちていた理由は,被告人が犯人として犯行現場に存在したからではない。たまたま,被告人が,現場付近でたばこをポイ捨てしたからである。実際に,被告人方から発見されたハードディスク内の画像には,被告人がたばこをポイ捨てしている画像が存在する」というものである。
前記予定主張では,被告人が,いつ,どこで,どのようにして被害者の財布を拾ったのか,ハードディスクの画像の撮影時刻,撮影場所といった重要な事項が何ら具体化されておらず,実際の主張は,公判廷における被告人質問及びAに対する反対尋問を待つほかない状況にある。
これまで述べたとおり,Aに対する強い影響力を有する被告人が保釈されれば,Aに対し,「被告人が財布を拾ったと聞いたことがある。」,「被告人から他人名義で本を売ってこいと頼まれたことがある」,「ハードディスク内にある画像のうち,被告人が喫煙している画像は,正に公園事件の発生日時に撮影した画像である」などと証言させ,あるいはあいまいな証言をするよう働き掛ける危険性は極めて高い。現在,Aは,被告人との接触を恐れて実家を出て生活しており,被告人はその現住所を知らないが,原決定が被告人の制限住居とした被告人方とAの実家は,徒歩5分程度しか離れておらず,前述のとおり,被告人は,Aが被告人との口約束を守らなかったという些細な事に対してさえ,その実家の玄関に「ゴミ屋」,自動車に「次は殺す。」とスプレーで書いて脅すなどしたことがある上,Aらの証言次第で長期間の服役を余儀なくされるかどうかが決まる現状において,被告人がAの実家に赴き,同様の行為に及ぶ,あるいはその両親に働き掛けることによって,Aに間接的に圧力をかけ,これに成功する可能性は極めて高い。
公園事件の目撃者であるB証人やマンション事件の被害者C証人との関係でも,前述のとおり,それぞれ被告人が様々な方法で罪証隠滅あるいは証人威迫行為に及ぶ可能性が十分認められる。
それにもかかわらず,原決定は,公園事件につき,被害者に対する関係でのみ罪証隠滅のおそれを認定しただけであり,マンション事件のC証人との関係ではこれを明確に否定し,A証人やB証人に至っては,検察官が罪証隠滅のおそれを具体的に主張したにもかかわらず,その判断を全くすることなく,被告人の保釈を裁量で許可している。かかる判断は,刑訴法89条4号の判断を明らかに誤った違法があり,ひいては同法90条の裁量権を著しく逸脱していることも明らかである。
イ 原決定は,裁量により保釈を認める事情として,①保釈後,両親や祖母と同居して手厚い監督体制が見込まれること,②被告人が,平成20年秋ころを転機として粗暴的性向が改善された様子がうかがわれることを認定しているが,これも証拠に基づかない極めて恣意的な判断で,裁量を著しく逸脱している。
原決定は,弁護人が提出した被告人自筆の「19才の頃の反省」や理容専門学校の成績に関する報告書などを根拠に,被告人が,平成20年秋以降,改善更生したとの認定をしているが,真実19才当時の自己の行為を反省して平成20年秋以降改善更生したというのであれば,それ以前に犯した器物損壊事件及びエレベーター事件について,両親に打ち明け,各被害者に対して謝罪や慰謝の措置を講じる時間はいくらでもあったはずであるのに,被告人も両親も,両事件が捜査機関に発覚する同21年夏までの2年間余りの間,各被害者に対して謝罪一つしていないことが全く説明できない。
それどころか,被告人と実姉Dとのメールを分析すると,平成20年秋ころ,被告人は,身分証明証の偽造や大麻の栽培などの犯罪行為を繰り返し行っていたことが明らかに認められ,しかも,それについて実姉と堂々とメールを交わし,自己が父親とともにサイパンに渡航した体験を踏まえて大麻の購入やその種子の密輸についてもメールを交わしていた。
被告人の両親がこれに全く気づいていなかったというのであれば,もはや被告人の両親にその監督を期待することは極めて困難であるし,これらメール交換の経過からは,被告人の生活態度を平成20年秋の前後で区切ることはできないばかりか,平成21年6月にマンション事件を起こしたことからすれば,平成20年秋ころを転機として被告人の粗暴的性向は,改善されるどころか,いっそう,その犯罪性向を強めていったと見るべきである。原決定は,このような証拠上明白な事実関係に全く触れることなく,弁護人の提出した疎明資料のみを平面的にとらえ,弁護士の主張どおり平成20年秋ころを転機として被告人の粗暴的性向が改善されたと認定しており,原決定は,被告人の保釈を認めるために,証拠から認められる事実を明らかに無視して認定を行ったというほかない。
そうすると,原決定は,明らかに証拠に反する極めて恣意的ともいえる判断を前提に保釈を認めており,明らかに裁量権を逸脱した違法がある。
ウ 原決定は,弁護人による準抗告申立がなされた日から14日間も判断を留保し,原々決定の時点では裁判官が知らなかった資料を弁護人に追加提出させ,かつ,原々決定より後の事情である公判前整理手続の見込みを重要な要素の一つとして裁量保釈を許可しているが,このような準抗告審の判断過程自体にも準抗告審の制度趣旨に反する訴訟手続の法令違反がある。
すなわち,準抗告は,その判断対象や制度の趣旨からして,速やかに判断すべきものであるところ,原決定は,合理的期間の範囲を超え,特段の事情もないのに意図的に判断を遅らせ,また,本来事後審であるのに,原々決定後の事情をことさら斟酌して裁量保釈を認めている点について,違法の誹りを免れない。
すなわち,準抗告裁判所は,弁護人から準抗告の請求があった3日後に検察官から速やかな判断を要望され,判断のための本件一件記録を検察庁に返還した後も,特段の理由もなく11日間も決定を引き延ばし,検察官からの再度の速やかな判断の要請を受けて,申立てから14日後に保釈許可決定を行っているが,このこと自体合理的期間内の判断を著しく逸脱している。
加えて,準抗告裁判所は,弁護人をして,準抗告申立から3日後に「準抗告申立補充書」なる書面にて「なお,6月23日に公判前整理手続が終了する予定であり,場合によっては,同日まで判断が留保されても異議は述べません。」との書面を提出させているところ,一刻も早い保釈を希望する弁護人の立場からすると,弁護人が自発的にこのような申し入れをすることは考えられない上,その文面からは,裁判所が弁護人に対し,公判前整理手続終了が見込まれる6月23日に被告人を保釈する旨暗黙の約束をしたものとも解釈できるところであって,上記の遅延の理由は,もっぱら公判前整理手続の終了を待っていただけとも推測でき,そうであれば,なおさら一方当事者のみに加担した不公平な取扱いである上,実質的に公判前整理手続の実質的な終了をもって,裁量で保釈を認めたものとも言え,明らかに裁量を著しく逸脱している。
エ 被告人の保釈を認める原決定を是正しなければ著しく正義に反すること
原決定は,前述のとおり,裁量保釈の裁量の範囲を著しく逸脱した違法なものであるが,これを放置し原決定を是正しなければ,既に詳述したとおり,被告人を極度におそれるAを初めとする各重要証人が,被告人が保釈されたと知っただけで,恐怖心から眠れない日々を過ごすであろうことは想像に難くなく,2重,3重の被害を与えかねず,そのこと自体,著しく正義に反することは明らかである。
その上,これら重要証人の一人でも公判に出廷しなければ,被告人に対する裁判員裁判の進行に重大な支障をきたすこととなり,その点からも,被告人を保釈することは著しく正義に反する。
すなわち,これまでの弁護人の立証方針からすると,被告人が働き掛ける可能性が最も高く,かつ,それによって不出廷になる危険が最も高い証人は,これまで述べてきたとおり,Aであり,同人のこれまでの検察官との証人テストの応対ぶりを見ると,被告人が保釈されるような事態になれば,今の職場や住居を放棄してでもどこかに逃げることが明らかで,勾引以外に公判出廷は望めない状態であり,未だ保釈許可決定が出たことさえ告げられない状態にある。
裁判員裁判は,公判前整理手続において,審理計画を的確に立て,これに従って進めるべきものである上,本件は,東京地方裁判所では初めての間接事実積み上げ型の立証による裁判員裁判であり,通常よりも連日開廷日数を長く設け,多数の証人尋問が予定されている。もし,被告人が証人予定者に明示的・黙示的に圧力をかけることによって証人が出廷しなかった場合,公判を円滑に進行することができず,裁判員裁判が混乱することは必至である。
検察官としては,原決定を受け,念のために証人全員の出廷を確保し,裁判員裁判の公判期日の混乱,空転を回避するため,急きょ,A以外の証人と連絡を取り始めた。
その結果,保釈許可決定を知ってビデオリンク方式による証人尋問を希望したマンション事件の被害者の意向を裁判所に連絡したところ,裁判所からは遮へい措置しか予定しておらず,ビデオリンク用の法廷を都合することができないとの連絡があり,最重要証人の証人尋問の実施が危ぶまれる状態になっている。しかも,この裁判所の回答を,直ちに同女に連絡しようと試みたが,事情の詳細は不明であるものの,同女は電話に出なくなってしまっている。
また,公園事件の被害者は,保釈許可決定を知って被告人をおそれつつも出頭に応じる旨の回答があったものの,その元恋人で目撃者である女子専門学校生は,事情は不明ではあるものの,電話連絡がつかない状態になっており,現在,裁判員裁判の期日が間近に迫った状況下において,証人出廷の確保が著しく困難な事態が発生してしまっている。
これは,各証人側から見ると,どうして被告人が保釈で出るのかと憤りを通り越して,極度の不安感に陥っていることの証左と考えられるところ,このまま,被告人が保釈されたまま裁判員裁判が実現できないような事態になれば,著しく正義を欠く結果になることは火を見るよりも明らかである。
4 結語
以上述べたとおり,原決定は,マンション事件に関する判断については判例違反である上,公園事件及びマンション事件に関する判断は,法令に違反し,これを是正しなければ著しく正義に反することが明らかであることから,原決定のうち,公園事件及びマンション事件につき被告人の保釈を許可するとする部分を取り消し,当該部分に係る弁護人の準抗告を棄却する旨の裁判を求める。
第3 添付書類<省略>