最高裁判所第二小法廷 平成25年(許)4号 決定 2013年11月13日
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告代理人山本晋の抗告理由について
1 本件は,抗告人が,更生会社である株式会社A(平成24年3月1日に商号をB株式会社に変更した。以下,この商号変更の前後を通じて「A」という。)の管財人である相手方に対し,抗告人が更生手続開始前にAを被告として提起した過払金返還請求訴訟(以下「本案訴訟」という。)に係る訴訟費用につき,本案訴訟終了後に,その負担を命ずる決定の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。本案訴訟に係る訴訟費用請求権(以下「本件訴訟費用請求権」という。)が更生債権に当たるか否かが争われている。
2 記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。
(1) 抗告人は,平成22年8月19日,札幌地方裁判所に対し,Aを被告として本案訴訟を提起し,同社との間の継続的な金銭消費貸借取引において発生した過払金及びこれに対する支払済みまでの利息の支払を請求した。
(2) Aは,本案訴訟係属中である平成22年9月28日,更生手続開始の申立て及び保全管理命令の申立てをした。東京地方裁判所は,同日,保全管理命令を発し,同年10月31日,更生手続開始の決定(以下「本件開始決定」という。)をして,相手方を管財人に選任した。本案訴訟の訴訟手続は,上記保全管理命令により中断した。
(3) 抗告人は,Aの更生手続において,本案訴訟において請求していた金員のうち更生手続開始後の利息を除く268万1853円につき,更生債権として届出をし,同更生債権の内容等は会社更生法150条1項の規定により確定した。しかし,抗告人は,本件訴訟費用請求権については,更生債権として届出をしなかった。
(4) 東京地方裁判所は,平成23年10月31日,Aにつき更生計画認可の決定(以下「本件認可決定」という。)をした。
(5) 本案訴訟は,会社更生法150条1項の規定による更生債権の内容等の確定及び本件認可決定により当然に終了した。
(6) 抗告人は,平成24年3月5日,札幌地方裁判所に対し,本件申立てをした。
3 原審は,本件訴訟費用請求権は更生債権に当たり,更生債権として届出がされなかったため,本件認可決定があったことによりAはその責任を免れたとして,本件申立てを却下した。
4 所論は,本件訴訟費用請求権は共益債権又は開始後債権に当たり,更生債権には当たらないから,本件認可決定後においても訴訟費用の負担を命ずる決定の申立てをすることができるというのである。
5 訴訟の当事者は,訴訟が完結したときは,その当事者に生じた訴訟費用につき,民訴法に規定する手続に従って,相手方当事者に請求をすることができる(民訴法第1編第4章第1節)。このように,訴訟の当事者に生じた訴訟費用については,民訴法に規定する要件及び手続に従って相手方当事者に対する請求権が発生するものとされている以上,その具体的な内容が更生手続開始後に当該訴訟が完結してから確定されることになるとしても,更生手続開始前にその訴訟費用が生じていれば,当該請求権の発生の基礎となる事実関係はその更生手続開始前に発生しているということができる。そうすると,当該請求権は,「更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」(会社更生法2条8項)に当たるものというべきである。
したがって,更生債権に関する訴訟が更生手続開始前に係属した場合において,当該訴訟が会社更生法156条又は158条の規定により受継されることなく終了したときは,当該訴訟に係る訴訟費用請求権は,更生債権に当たると解するのが相当である。
これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本案訴訟は,更生債権に関するものであって,本件開始決定前に係属し,その訴訟が会社更生法156条又は158条の規定により受継されることなく終了しているのであるから,本件訴訟費用請求権は,更生債権であるといえる。そして,本件訴訟費用請求権は,更生債権として届出がされず,Aは本件認可決定があったことによりその責任を免れたのであるから,本件申立ては,申立ての利益を欠き,却下すべきものである。
6 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸)