最高裁判所第二小法廷 平成29年(許)7号 決定 2017年8月30日
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告人の抗告理由について
1 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
(1) 利害関係参加人は,振替株式を発行している株式会社マツヤ(以下「本件対象会社」という。)の株式を公開買付けにより取得して会社法(以下「法」という。)179条1項の特別支配株主となり,平成27年12月,本件対象会社に対し,同項の規定による株式売渡請求をしようとする旨及び株式売渡請求によりその有する株式を売り渡す株主(以下「売渡株主」という。)に対してその株式(以下「売渡株式」という。)の対価として交付する金銭の額(以下「対価の額」という。)等,法179条の2第1項各号に掲げる事項を通知した。
(2) 本件対象会社は,上記の通知に係る株式売渡請求を承認し,法179条の4第1項1号及び社債,株式等の振替に関する法律161条2項に基づき,上記の承認をした旨,対価の額等,法179条の4第1項1号に定める事項について公告(以下「本件公告」という。)をした。
(3) 抗告人は,本件公告後に,本件対象会社の売渡株式のうち3000株(以下「本件株式」という。)を譲り受けた。
2 本件は,抗告人が,本件株式について,法179条の8第1項に基づく売買価格の決定の申立て(以下「売買価格決定の申立て」という。)をした事案である。本件公告後に本件株式を譲り受けた抗告人が売買価格決定の申立てをすることができるか否かが争われている。
3 所論は,法179条の8第1項は,売買価格決定の申立てをすることができる売渡株主について何ら限定していないから,本件公告後に売渡株式を譲り受けた者も売買価格決定の申立てをすることができる旨をいうものである。
4 特別支配株主の株式売渡請求は,その株式売渡請求に係る株式を発行している対象会社が,株主総会の決議を経ることなく,これを承認し,その旨及び対価の額等を売渡株主に対し通知し又は公告すること(法179条の4第1項1号,社債,株式等の振替に関する法律161条2項)により,個々の売渡株主の承諾を要しないで法律上当然に,特別支配株主と売渡株主との間に売渡株式についての売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずることになり(法179条の4第3項),特別支配株主が株式売渡請求において定めた取得日に売渡株式の全部を取得するものである(法179条の9第1項)。法179条の8第1項が売買価格決定の申立ての制度を設けた趣旨は,上記の通知又は公告により,その時点における対象会社の株主が,その意思にかかわらず定められた対価の額で株式を売り渡すことになることから,そのような株主であって上記の対価の額に不服がある者に対し適正な対価を得る機会を与えることにあると解されるのであり,上記の通知又は公告により株式を売り渡すことになることが確定した後に売渡株式を譲り受けた者は,同項による保護の対象として想定されていないと解するのが相当である。
したがって,上記の通知又は公告がされた後に売渡株式を譲り受けた者は,売買価格決定の申立てをすることができないというべきである。
抗告人は,本件公告後に本件株式を譲り受けた者であるから,売買価格決定の申立てをすることができない。
5 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 鬼丸かおる 裁判官 小貫芳信 裁判官 山本庸幸 裁判官 菅野博之)