最高裁判所第二小法廷 平成3年(オ)1943号 判決 1994年4月22日
上告人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
右代表者代表取締役
江島優
右訴訟代理人弁護士
高橋正明
上林博
被上告人
坂本光志
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
一上告代理人高橋正明、同上林博の上告理由第一及び第二の二について
1 原審が適法に確定した事実関係の大要は、次のとおりである。
(一) 上告人は、企業の依頼に応じてその求める人材を探索し、勧奨して、求人企業に就職させるいわゆる人材スカウト等を目的とする会社であり、有料職業紹介事業を行うことにつき、職業安定法三二条一項ただし書に基づく労働大臣の許可を得ている。被上告人は、「メルズクリニック」の名称で内科及び婦人科の診療所を経営する者である。
(二) 上告人は、昭和六二年七月一〇日ころ、被上告人に対し、右診療所の院長として勤務することのできる内科又は婦人科の医師を探索し、紹介する旨を約し、同月一三日ころから医師の探索を始め、数人の医師を被上告人に紹介したが、被上告人と右医師らとの間で契約成立に至らず、平成元年二月一五日ころ、被上告人に対し、吉田武彦医師を紹介した。その結果、被上告人は、吉田医師との間で、同年四月一日から同医師を右診療所の院長として年俸一〇〇〇万円で雇用する旨の契約を締結した。
(三) 被上告人は、上告人に対し、平成元年三月三〇日ころ、吉田医師の就職に至るまでの上告人の業務(以下「本件業務」という。)の対価として、調査活動費の名目で五〇万円、報酬の名目で一五〇万円の合計二〇〇万円を同年六月三〇日限り支払うことを約した。
(四) 被上告人は、本件業務は、一体として職業安定法五条一項、三二条一項ただし書の規定する職業紹介に当たるから、その報酬額は、同条六項、同法施行規則二四条一四項、別表第三により、吉田医師の六か月分の賃金の10.1パーセント相当額である五〇万五〇〇〇円が最高額であり、これを超える金額については支払義務がないと主張して、右最高額を超える部分の支払を拒むに至った。
2 職業安定法にいう職業紹介におけるあっ旋とは、求人者と求職者との間における雇用関係成立のための便宜を図り、その成立を容易にさせる行為一般を指称するものと解すべきであり(最高裁昭和二八年(あ)第四七八七号同三〇年一〇月四日第三小法廷決定・刑集九巻一一号二一五〇頁)、右のあっ旋には、求人者と求職者との間に雇用関係を成立させるために両者を引き合わせる行為のみならず、求人者に紹介するために求職者を探索し、求人者に就職するよう求職者に勧奨するいわゆるスカウト行為(以下「スカウト行為」という。)も含まれるものと解するのが相当である。けだし、同法は、労働力充足のためにその需要と供給の調整を図ることと並んで、各人の能力に応じて妥当な条件の下に適当な職業に就く機会を与え、職業の安定を図ることを目的として制定されたものであって、同法三二条は、この目的を達成するため、弊害の多かった有料の職業紹介事業を行うことを原則として禁じ、公の機関によって無料で公正に職業を紹介することとし、公の機関において適切に職業を紹介することが困難な特別の技術を必要とする職業に従事する者の職業をあっ旋することを目的とする場合については、労働大臣の許可を得て有料の職業紹介事業を行うことができるものとしたものであるところ(最高裁昭和二四年新(れ)第七号同二五年六月二一日大法廷判決・刑集四巻六号一〇四九頁参照)、スカウト行為が右のあっ旋に当たらず、同法三二条等の規制に服しないものと解するときは、以上に述べた同法の趣旨を没却することになるからである。この理は、スカウト行為が医師を対象とする場合であっても同様である。
また、同法にいう職業紹介に当たるというためには、求人及び求職の双方の申込みを受けることが必要である(同法五条一項)が、右の各申込みは、あっ旋に先立ってされなければならないものではなく、例えば、紹介者の勧奨に応じて求職の申込みがされた場合であってもよい。
以上を本件についてみるのに、前記1の事実関係の下において、吉田医師に対するスカウト行為を含む本件業務が一体として同法にいう職業紹介におけるあっ旋に当たるものとした原審の判断は、正当として是認することができる。また、前記1の(二)のとおり、上告人において医師を探索し、被上告人に吉田医師を紹介し、その結果、被上告人と同医師との間に雇用契約が成立した旨を認定する原判決は、上告人が被上告人に同医師を紹介する以前に、同医師から上告人に対する求職の申込みがされたことを認定し、判示しているものというべきであるから、原判決が同医師の求職の申込みを認定していない旨の論旨は、原判決を正解しないでこれを非難するものというべきである。論旨は、いずれも採用することができない。
二同第二の三について
職業安定法三二条六項は、有料職業紹介の手数料契約のうち労働大臣が中央職業安定審議会に諮問の上定める手数料の最高額を超える部分の私法上の効力を否定し、右契約の効力を所定最高額の範囲内においてのみ認めるものと解するのが相当である。けだし、同法の前記一の2のとおりの立法趣旨にかんがみ、同条項は、右手数料契約のうち所定最高額を超える部分の私法上の効力を否定することによって求人者及び求職者の利益を保護する趣旨をも含むものと解すべきであるからである。
したがって、本件報酬契約のうち同法施行規則二四条一四項、別表第三所定の紹介手数料の最高額を超える部分の効力を否定した原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
三その余の上告理由について
前記一の1の事実関係の下においては、所論のその余の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。
四よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官根岸重治 裁判官中島敏次郎 裁判官木崎良平 裁判官大西勝也)
上告代理人高橋正明、同上林博の上告理由
原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈・適用の誤りあるいは憲法の違背があり、その内容は次のとおりである。
第一 序論
一 人材スカウトとは、求人企業とのコンサルティング契約により、企業の求める企業幹部、高度又は特殊の専門知識技術を有する人材(労働者という場合があるが、必ずしも適語ではなく、人材というべきである)を探索し、スカウトしこれを求人企業に就職させることを業務の内容とする。アメリカやヨーロッパでは成熟した業務となっているが、わが国でも、昭和五〇年ごろを境に、近時の経営の多角化などによる新規事業分野への進出の増大、金融の自由化、国際化の進行、外国企業や外資系企業の増加等を背景として企業の需要によって急激に増加した(<書証番号略>)。これらの業務は、労働市場の開拓と労働者の能力に応じて適当な労働関係の成立の助成を立法目的(法第一条)とする現行職業安定法制定当時には存在しておらず、また、予期すらされていなかった。
二 本件は、人材スカウト(いわゆるヘッドハンティング)を業とする上告人が、被上告人から診療所長(院長)として勤務する医師のスカウトを依頼され(被上告人は医師法二、七条によって単独で診療所を経営する資格はない)、一年九ケ月という長期にわたる人材の調査発掘と交渉の結果、ようやく吉田医師を探索し、被上告人に紹介し、被上告人は同医師を院長として採用、その間、上告人と被上告人との間で締結したコンサルティング契約に基づき、上告人は、被上告人に対し、コンサルティング業務に関する調査活動費五〇万円及び右吉田医師のスカウト報酬金一五〇万円の支払いを求めたところ、支払い拒否にあったためその支払いを訴求した事案である。
原審判決は、上告人が被上告人の依頼により吉田医師を探索し被上告人に紹介し、前記メルズクリニックの院長として採用させた上告人の業務を「本件業務」としたうえで、本件業務は、職業安定法第五条第一号に規定する「職業紹介」に該当し、有料職業紹介事業に関する同法三二条一項但書及び六項の適用を受け、同六項に基づく同法規則二四条一四項、別表第三で制限された報酬額を超える部分については支払う旨の契約は無効であるとして、その部分についての上告人の請求を斥けた。
三 およそ原審判決の失当性は、「いわゆる人材スカウト業の実体が、法の体系、殊に報酬額の規制と整合しない面がある」ことを認めながら、一方、規制の有無及びその内容については、「企業社会の需要と労働者の利益保護との調和を計りながら、慎重に検討すべき労働政策論及び立法論の問題であって、現実が先行しているからといって、現行法の解釈論としては、法の理念及び文理に照らし、いわゆる人材スカウト(ヘッドハンティング)業が現行法の規制の枠外にあるものと解することはできない」と判示した点に要約できる。
原審判決は、そもそも適用外の事案ないし事業に形式論理を用いて法を適用したにすぎず、これが司法の解釈(立場)であると開き直ったとしても、現実を無視し、日常の経済、経営、国際感覚からずれているとしたら司法の機能と役割とは一体何か疑問を抱かざるをえない。職業安定法所定の報酬によるときは人材スカウト業およびそれを一内容とする経営コンサルタント業は生業として全く成立しない。
四 前記の通り、人材スカウト業は、法制定当時には存在しておらず、且つ、同法は将来のスカウト業の発生を予想しこれを規制する法体系を有していない。現実に先行しているスカウト業を規制する法律は、現行職業安定法の立法目的、趣旨と異なり、単に、現行法の補正改正ですむものではなく、新しい制度として別個の法体系を必要していることは明白である。
民間労働力需給制度研究会報告書によっても(<書証番号略>)、人材スカウト(ヘッドハンティング)業について「特定労働者募集受託事業」として新たに制度化することが適当であると考えるとし、高度又は特殊な専門的知識、技術を要する職業分野に限定し、民営職業紹介事業と同様労働大臣の許可制とする旨を提言している。この趣旨は、明らかにスカウト業は現行法の規制の枠外にあることを認めたものである。
五 もし、原審が、スカウト業の実体が法の予定した行為とは異質なものであり、現行法の体系と整合しないというのであれば、「人材スカウト(ヘッドハンティング)業が現行法の規制の枠外にあるものと解することはできない」旨判示すべきではなく、むしろ、法の規制の枠外にある行為というべきである。そして、そのことによって、何らかの問題が生じることがあるとすれば立法によって解決するのが筋というべきである。もし、現行法の法体系と整合しないというのであれば、契約自由の原則上、被上告人に対し契約の遵守を認め、個別の事案ごとに暴利行為や公序良俗違反の有無を検討すればすむことであって、敢えて、実体と整合しない現行法を適用して規制する必要性をみない。
六 法律行為の解釈は一定の基準ないし法則による判断であるところ(民法総則・我妻栄・二五九頁)、原審判決の言う法の理念とは何か、文理に照らすとは何か、その判断する点があまりにも時代錯誤であり、被上告人が「報酬の支払いを約し、後に右約定を翻したことは前示のとおりであり、これは、信義にもとる行為であるというべきである」と判示しておきながら、結論として、被上告人の支払い義務を否定するといった極めて奇妙な解釈論と相俟って不可解である。
上告人は、いわゆる法の理念、及び、文理に照らし、まず、法律解釈上、本件スカウト行為が、現行法の規制の枠外にあることを以下に述べる。
第二 法令違反
一 職業安定法三二条一項但書に言う「特別の技術を有する職業」の範疇に「医師」を含ませた同施行規則二四条一項、同別表第二は、法三二条に違反し、同規則を本件スカウト業務に適用した原審判決は取消を免れない。
1 法三二条一項は、「何人も、有料の職業紹介事業を行ってはならない」と規定し、同但書は、労働大臣の許可を得て行うことができる有料職業紹介事業として、「美術、音楽、演芸その他特別の技術を必要とする職業」を列挙している。これを受けた同法施行規則は、「法三二条第一項但書の美術、音楽、演芸その他特別の技術を必要とする職業は、別表第二に掲げるものとする」とし、その別表第二には、美術家からはじめ二七職種を列挙している。
右の「その他特別の技術を有する職業」とは、文理解釈上、美術、音楽、演芸等に関連する職業と解する余地があるが、必ずしも、これに拘束されないとしても、法文の語句が多義的であることから、合理的妥当な結論を導くためには、公共職業安定所において適切な職業紹介を行うことが技術的に困難というだけでなく、法三二条が有料職業紹介事業を禁止した立法目的を考慮した、いわば、目的論的解釈が必要である。本条一項但書は、本来禁止事項とされるものを例外的に認めた規定だからである。
2 有料職業紹介事業が従来甚だしい弊害を及ぼしてきた事実は顕著なものがあったといわざるを得ない。職業安定法三二条の有料職業紹介事業禁止原則の趣旨は、有料職業紹介事業が営利の目的のため、労働者に不利益な契約を成立せしめた事例が多く、これに基因する弊害が甚だしかったことは顕著な事実であるとして、公共の福祉のためにこれらの弊害を除去する点にあった(最高裁昭和二五年六月二一日大法廷判決、刑集四巻六号一〇四九頁、別冊ジュリスト・職業安定の目的・安屋利人)。わが国の職業紹介事業は、古くは徳川時代から肝煎、口入屋、桂義庵などの民間営利事業として発生し、明治二〇年代の紡績業を中心とする資本主義の急速な発展が飛躍的な労働力需要を生み出した過程で大きくクローズアップされた。企業は労働力の給源を半封建的な農村の子女に求めたが、自己調達のほかに、求職者と企業の結合を媒介する在来の営利職業紹介業が強く要請され重要な機能を果たしたが、とくに、一方、遠隔地募集業は、求職者の知識不十分を奇貨として、甘言と前借金で求職者を誘い出し、ともかく強制的に雇用契約を成立させることが多く、この裏では職業紹介業者が報酬と中間搾取による大きな利益を得てきた点が指摘されている(別冊ジュリスト・公共の福祉による営業の自由の制限・保木本一郎・一〇五頁及び同論稿に引用する文献参照)。
3 このような労働力調達過程にみられる労働者の無知を悪用した斡旋、不当な労働条件の押しつけ、中間搾取、人身売買等の封建的弊害を除くことが有料職業紹介の禁止乃至規制を行う立法的根拠であり、法三二条は、この基盤に立つものである。従って、まず、右の弱者たる労働者の実態的経験的あるいは社会政策的な労働者保護の観点が、現行職業安定法の法律解釈を規制する指導原理となるべきものである。とするならば、職業安定法の対象たる求職者の概念は、おのずから労働法の労働者の概念と同一に考えるべきであり、従って、又、雇用関係と労働関係とは同一の概念ということができる(ジュリスト・雇用関係の定義・河野広・一五頁)。そして、労働法上の「労働者」の定義については、その解釈基準となるのは従属なる概念である。労働の従属性の本質的理解については学説は多岐にわたるが、工場労働者だけでなく、広範な労働者に適用される面において共通の基準となるのは、「他人に使用され、その指揮、命令の下で労働すること」即ち「使用従属関係」といった点が指摘されている(前掲河野参照)。
4 法三二条一項但書は、美術、音楽、演芸等を列挙したのであるが、これに基づく別表第二は、法が予定する職業だけでなく、予定しない職業まで広範囲にとり込んでいる。その二七種について、逐一検討しないが、保健婦、看護婦、バーテンダー、マネキン、美術モデル、家政婦等は労働の従属性の観点からも「その他特別な技術を必要とする職業」とすることに異論を唱えるものではないが、医師、歯科医師、弁護士、弁理士(以下、単に、医師、弁護士という)などという職業をも対象に含まれる根拠はどこにあるのであろうか。
これらの職業に現在は勿論法制定当時においても、専門職(プルフェショナル)であり、極めて独立性が強く、第三者に雇用されることはあっても、強制労働、中間搾取、人身売買等の被害を受けるおそれはなく、所謂「他人の指揮、命令の下で労働する」といった使用従属関係にない。医師や弁護士は、自己の判断と責任において、その職務を行うのが通常であって、これらの者は、法のいう「労働者」の範疇に属せず、従って、対象が、労働者であることを前提とする三二条は適用されず、それ故に又三二条但書にいう「特別の技術を要する職業」には含まれない。しかるに当該規則は、「医師」をもこの中に含ませており、法三二条一項の立法趣旨に明白に違反し、一部無効である。
二 さらにもし、医師が「労働者」にあたるとしても、なおヘッドハンティング業は、職業安定法三二条一項にいう「職業紹介」にあたらないのであり、本件に三二条を適用した原審判決は取消を免れない。
1 職業安定法における「職業紹介」については、同法五条一項で「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立を斡旋することをいう」と定義している。
右規定にいう「職業紹介」は、求人者及び求職者の双方から申込みを受けることを要件としており、これを受けて、同法三二条の規制対象とする有料職業紹介事業は、求人者と求職者の双方から受付手数料を徴収し、求人者から紹介手数料を徴収することを内容とするものである(同法施行規則二四条一四項別表第三)。原審判決は、「労働大臣の許可を得た控訴人が、被控訴人からの求人の依頼に基づいて吉田医師を探して被控訴人に紹介し、被控訴人は、吉田医師を年俸一〇〇〇万円で、四月一日から採用することとし、吉田医師は、右約定で被控訴人に勤務することを承諾したというものであるから、控訴人は、求人及び求職の申込みを受けて求人者と求職者の間に介在し、両者間における雇用関係の成立のための便宜を図り、その成立を容易ならしめたというべきである」と判示した。しかし、職業紹介の要件として、「求人及び求職の申込みを受けて」とあるうち、「被控訴人からの求人の依頼に基づいて」と認定した部分が、「求人の申込」に該当することは明白であるが、「吉田医師は、右約定で被控訴人に勤務することを承諾した」とあるのみで、求職者たる吉田医師の「求職の申込」は何らの事実認定もない。吉田医師が、求人の申込みを承諾した、つまり、同医師が被控訴人に勤務することを承諾したというにすぎない。
2 次に、「雇用関係の成立を斡旋する」とは、一般論としては、「求人者と求職者の間に介在し、両者間における雇用関係成立のための便宜をはかり、その成立を容易ならしめる行為一般を指標する」(昭和三〇・一〇・一四最判刑集九・一一・二一五〇)といえるが、具体的には、公共職業安定所での職業紹介を想定したものというべきであって、求人者求職者双方を登録した名簿の中から双方の条件に適合する者を引き合わせることによって双方の間をとりもち、雇用関係の成立が円滑に行われるよう便宜をはかることをいうものと解される。これらは極めて単純な業務であり、一部の民間職業紹介所において行われている方法であり、手数料の徴収も行われている。しかし、本件業務は、求人者のみの依頼により、そのニーズに応じた特定の知識技術を有する人材を調査・発掘し、その対象者に働きかけに説得し就職させることを主たる内容とする。求人者の立場に立ってその募集活動を代行するものであって、これに要する費用、報酬も求人者からのみ徴収する。その性質は、請負又は請負類似の無名契約であって、その最終過程で「紹介」的な要素は否定しないが、その実質は、委託業務の完成の概念に包摂されるものである。
3 従って、このような人材スカウト業務が、文理上、職業安定法における「職業紹介」に該当しないことは明らかである。また業務の内容上からみても、本件業務は、コンサルティング業務の一環であり、求人者側に立って対象者を調査・発掘し、これに働きかけることにあり、職業紹介における求人者求職者双方から申込みがあった者同士を引き合わせるのとは、業務内容のみならず要するノウハウ、労力、費用等において著しく異なる。
原判決は、本件業務にその最終履行過程において「紹介」的要素ある点を過大に評価して、本件業務自体を「職業紹介」であると認定したのであるが、これは、「職業紹介」の解釈を誤った上、本件業務の実態を理解しないものといわざるを得ない。
4 職業安定法が有料職業紹介事業を規制している労働者保護の立法趣旨の観点から考察してみても、その背景、対象者の特性等からして、労働者(というより「人材」)にとって、転職により、経済的、社会的に有利な条件を得ることができるこそすれ、前記のような強制労働等の被害を受けるおそれは全く考えられず、前記研究報告書においても、控えめながら、「人材スカウト業は、他の労働力需給調整機能によっては充足することが困難な高度ないし特殊な専門的知識、技術を有する労働者の需給調整を行っているものであり、またその対象である労働者が高度に専門的な技術者等である限りは、自らの判断で合理的な職業の選択を行い得る上、労働条件が向上することが一般的であることなど労働者に被害が発生する恐れは少ないものと考えられる」(二三頁)と指摘している。そして、右研究報告書は、人材スカウト業に対し「特定労働者募集受託事業(仮称)」として新たに制度化するよう提言しているが、それは、人材スカウト業者が労働者を求人会社に就職させようとするあまり虚偽や歪んだ情報を提供するおそれ」等を理由とするものであり、現行職業安定法の規制対象とは考えていないことを前提とするものといえる。
5 参考までに、人材スカウト業に対する法規制の実情についてみてみると、まず人材スカウト業を行っている事業者は、平成二年には約三〇〇社に達しているが、そのうち有料職業紹介所の許可を受けないで業務を行っている者は、三、四〇社にものぼり(第一審における証人村木秋良の証言等)、特に我国に進出して人材スカウト業を行っている外国系企業の多くは右許可を受けていない。そして、業者が受取る対価は、就職させた者の年収の三〇%前後が平均で、職業安定法施行規則で定める限度額を遙かに超えているのが実情である(研究報告書八頁等)。
ところが、これまで人材スカウト業に対し、無許可営業や報酬額について、行政当局の具体的な指導や警告・取締は全くなされたことがなく、ましてや、職業安定法違反として処罰された事例は皆無である(前記村木証言、研究報告書九頁等)、このような行政当局の法の運用の実態からみても、人材スカウトが職業安定法の規制の枠外と考えられているものと解せざるを得ない。
6 原審判決は、上告人が「職業安定法三二条による許可に基づき本件業務を行っており、このことは法の規制を受けることを前提として営業を行っているとみるべきである」と判示している。しかしながら、同法の許可を受けたのは、当局の行政指導によるものであって、上告人の業務の中に、同法所定の「職業紹介」の業務があればその部分としては規制を受けることになるが、上告人は、本件業務は、「職業紹介」と異なり、スカウト業の主張をしているのであるから、右判示は無意味であるうえ、上告人が同法の許可を得ているのは、社会的信用を得る企業として活動するためと考えたからにすぎず(前記村木証言)、本件業務について同法の規制に服するためではない。もし同法の規制を受けることを前提にして営業を行うのであれば、当然、罰則を伴う手数料の規制にも従うのが自然であるが、本件業務に限らず、右規制には一切従ってはいない。
7 原審の第二回口頭弁論期日において、原審裁判所は、訴訟指揮の一環として、本件業務には、「職業紹介」のみでなく、これに含まれない部分があり、その部分は職業安定法の規制する手数料とは別個の報酬として請求しうると構成し、立証があればこれを認めるが、これを予備的主張してはどうかとの勧告があった。上告人は、これを容れ、予備的主張として、第三回口頭弁論期日において、その旨主張した(準備書面(三))。原審の勧告の趣旨は、本件業務の内、「職業紹介」部分(法定の手数料)とスカウト部分の報酬があると分析し、これらの立証が得られれば認容されると考えていた。ところが、原判決は、右予備的主張をも排斥した。
その理由として原審は、「本件契約の締結の経緯、契約書の記載内容からみると、本件業務のうち、本件スカウト部分と本件職業紹介部分とは一体として取り扱われており、特に本件スカウト部分のみを分離して独立の契約として取り扱うべき根拠に乏しいと認められること(報酬契約も一体のものとしてされており、紹介のみで雇用に至らなかった場合についての定めてない)になどからみると、本件スカウト部分を本件職業紹介部分とは別個の業務であるとか、本件スカウト部分は独立の報酬の対象とみることはできないと判示した。しかし、これは、詭弁というほかない。少なくとも、本件業務の主たる内容は、人材スカウト業務であって、上告人が一年九ケ月の歳月を費やして吉田医師のスカウトに成功し、被上告人が同医師を採用した事実は、十分に立証されたのであるから、この部分(一五〇万円相当)がまず認容されるべきは当然である。なお「紹介のみで雇用に至らなかった場合についての定め」がないのは、本件契約書は本件スカウト業務完了後に作成されたのであるから当然のことであって、原判決の判示は形式的な根拠にすらなり得ないものである。
三 原判決認定は、本件業務全体は、職業安定法にいう「職業紹介」に該当し、上告人が受領する報酬は、同法三二条六項の規制を受け、同項に基づく同法施行規則二四条一四項、同別表第三により制限される報酬額を超える報酬を支払う旨の契約はその超える部分について無効であると判示した。しかしながら、原判決の右判断は、同法三二条六項の解釈適用を誤り、以下述べるような不当な結果を招くものとなった。
1 まず、原判決のいうように、人材スカウト業に職業安定法三二条六項、同法施行規則二四条一四項、同別表第三が適用され、これに違反する報酬契約は無効であり、制限額を超過する部分の報酬額を契約の相手方すなわち求人者に請求できないとすると、次のような種々の不都合が生ずる。
(一) 求人者は、契約報酬額を全額支払っていた場合、制限超過部分について、不当利得として返還請求することができることになる。この結論が不合理、かつ、非常識であることは、前述した人材スカウト業の実態からして明らかである。もし、不当利得による返還請求を否定するとすれば、(a)狭義の非債弁済(民法七〇五条)、(b)不法原因給付(同法七〇八条)、あるいは(c)権利の濫用(同法一条三項)の成立を認める以外あり得ないが、人材スカウト業務においては、いずれの成立を認めることは無理である。右(a)については、求人者が債務不存在を知りつつ支払うなどということは契約の締結経過からも、業界の実態からもあり得ないことである。右(b)については、「不法の原因」とは、「公の秩序若しくは善良の風俗に判示してされた給付」(最判昭和二七・三・一八民集六・三・三二)「その原因となる行為が、強行法規に違反した不適法なものであるのみならず、さらにそれが、その社会において要求される倫理、道徳を無視した醜悪なものであることを必要とする」(最判昭和三七・三・八民集一六・三・五〇〇)と解されており、職業安定法三二条六項が強行法規であるかはともかく(後述するように強行法規とみるべきではないが)、人材スカウト業において実際に行われている報酬契約(前述したように、すべて制限額を遙かに超過している)が「その社会において要求される倫理、道徳を無視した懇意なもの」とは到底言うことができず、この理論で不当利得による返還請求を否定することは不可能である。右(c)については、右(a)(b)を否定しながらこれを認めるのは筋違いである。
かくして、事後の返還請求を認める根拠がなく、これを否定すべきであるとするならば、そもそも当初の給付自体が有効と解すべきであり、従って、報酬契約自体が有効であると解されなければならない。
(二) 次に、求人者との間で職業安定法所定の制限額を超過する報酬額が約定され、まず求人者に右制限額の金員が内金として支払われたという場合を考えてみると、原判決の考え方によれば、求人者は残額は支払わないが、契約通り人材スカウト業務を完遂することを要求できることになる。しかしながら、人材スカウトの業務内容は前述したとおりで多大の労力、費用を要するものであり、右求人者の要求を正当化するならば、人材スカウト業者は、酷な結果となり、個々の業者の経済的基盤を否定することになる。換言すれば、原判決は、人材スカウト業の社会的必要性を全く無視するものであり、時代錯誤を甚だしい非常識な結果を招来するものである。
(三) さらに、原判決の考え方を認めれば、求人者としては当初から職業安定法に約定額の報酬しか支払う意思がないのにもかかわらず、これを秘して、右約定額を超える契約を締結し、人材を獲得させるという詐欺的行為を容認することになる。原判決でも「被控訴人が、いったん本件契約を締結して控訴の趣旨記載の報酬の支払を約し、後に右約定を翻したことは前示のとおりであり、これは信義にもとる行為であるというべきである」と判示している。にもかかわらず、結論として約定通りの報酬額を支払わなくてもよいという矛盾した結果に至ったのは、職業安定法三二条六項を効力規定と解した上、人材スカウト業務にも同条を適用したことに基因することは明らかである。
以上のように、原判決の考え方を採用すれば、右のような重大な不都合、矛盾が生ずることは明らかであり、外資系企業も含め三〇〇社にのぼる人材スカウト業の経済的存立基盤を実質的に奪うものであって、右業界自体の存在を否定するに等しく、そのような不当、不合理な結果を生ずるのは、ひとえに原判決の職業安定法の誤った形式的解釈、適用によるものであり、到底是認することはできない。
2 次に、法三二条六項の規定の性質について検討する。同法に違反する報酬を受ける契約の効力については明文の定めはないが、原判決は「仮に右違反する契約を処罰されるだけで契約としては有効であるとすれば、処罰による不利益を承知の上で契約する者に対しては、法による規制の実効が上がらない結果になり、報酬額に対する規制は、有名無実となるおそれがある。法がそれを容認する趣旨であるとは考えられない。」として、同条を効力規定と解した。
しかしながら、人材スカウト業務に同条の規制が及ぶとしても、同条は効力規定ではなく、単なる取締規定を解すべきであり、この点においても原判決は、法の解釈を誤ったものである。その理由は次のとおりである。
(一) 同条の違反に対しては、六ケ月以下の懲役又は一〇万円以下の罰金が科される(法六五条二号)。その趣旨は、戦後の経済の混乱と労働市場の無秩序の中で、口入屋、手配師、労働ブローカー等による人身売買的な就業斡旋や、中間搾取等の弊害を防止して労働者の保護を図ることにあり、このような違法行為に対しては直接的に刑事罰をもって禁止することが有効であると考えられたのであった。違反行為の防止にどのような法的手段を用いるかは違反行為の違法性の程度、防止手段の有用性、効率性のみならず、それがもたらす社会的影響、例えば一般取引に及ぼす不利益などを総合勘案して決められるべきものであるが、その一手段である刑事罰を科したことは、必ずしも民事上の効力まで影響を及ぼすと解する根拠とはなりえない。いわゆる取締規定にとどまるものも少なくないのである。従って、原判決が、同法三二条六項の立法趣旨について、右と同様の理解の上に立っても、「右の立法趣旨に鑑みれば、右の制限された報酬額を超える報酬を支払う旨の契約は、その超える部分について無効であり」と結論づけることは論理的飛躍があると言わざるを得ない。
(二) 本条六項が効力規定か、単なる、取締法規かの問題については、同条の立法趣旨、違反行為の違法性の程度、契約当事者間の信義、公正、一般経済取引に及ぼす影響などを慎重に検討してなされなければならない(四宮和夫「民法総則第三版」二〇五頁、磯代通「民法総則第二版」(一九九頁等参照)。
法三二条六項は前述したとおり労働者保護の見地から労働者から法外な手数料を徴収することを禁じ、求人者からの手数料の制限はこれを間接的に実現しようとするものと考えられるが、その違反に対して直接罰則をもって対処すれば足り、民事上の効力まで否定しなければ、法の目的が達せられないというものではない。
特に、人材スカウト業については、前述したように現行職業安定法立法当時存在ずまた予期しえなかった業態であり、その背景、対象者(求人企業)、契約内容の特性等からして、当事者間の契約を規制する必要性は全くない。契約の効力まで否定することになれば、前述したように当事者間の信義に反するのみならず、取引の安全を害し、経済取引に重大な悪影響を及ぼすことは明らかである。従って、そもそも、人材スカウト業に本条を適用すること自体間違いなのであるが、それはさておいても、本条は単なる取締規定と解すべきであり、原判決が効力規定としたのは同法の解釈を誤ったものといわざるを得ない。
四 仮に、本件業務が職業安定法の規制対象となり、本件報酬契約が同法三二条六項に違反するものであったとしても、被上告人は自らの事業経営のために上告人に強く本件スカウトを依頼し、診療所の経営を行うことができるようになったのであるが、被上告人は、約定の報酬の支払いを免れるために、右スカウト報酬支払いの段階になって、約定を翻し、本件報酬契約の無効を主張している。これは、明らかな信義則違反(禁反言)であって、到底許されるべきことではない。この点について、原判決を前述したとおり、「信義にもとる行為であるというべきである」としながら、「しかし、本件契約が、その報酬額につき、制限を超える部分については法の保護を受けられないことは前示のとおりであるから、右認められる範囲での支払い義務を主張することをもって信義則違反として排斥することはできない」と判示した。
しかしながら、仮に法三二条六項が効力規定であるとしても、その事をもって信義則違反の成立を否定することは論理の飛躍である。すなわち、信義則はいうまでもなく、民法一条二項で明文をもって規定されているものであり、契約の効力が無効であるとしても、それを主張することが信義則に違反するのであれば、無効の主張を認めることは許されないというべきであり、このような場合にこそ、信義則の規定が意味を持つのである。特に法三二条六項は、その民事上の効力について明文で規定しているわけでもなく、一方、本件信義則違反の程度は重大であるから、仮にその双方が抵触するとしても、信義則規定が優先されてしかるべきであろう。
この点についても、原判決は、民法一条二項及び職業安定法三二条六項の解釈を誤ったというべきである。
第三 憲法違反
一 (罪刑法定主義(憲法三一条)違反について)
1 法は、右の立法趣旨を貫徹するため、法三二条一項本文の規定又は同項但書の規定の違反に対して一年以下の懲役、又は、二〇万円以下の罰金を科している(同法六四条一号)。
従って、法三二条一項本文及び同但書は刑罰法規としての機能を有している。本件そのものは、右三二条一項を適用した場合、これに違反する契約の民事上の効力が問題となっているが、同条違反については、右のような刑罰が科されているのであるから、同条は、刑罰法規として、その解釈にあたっては、罪刑法定主義(憲法三一条)の要請が働く。
2 憲法三一条の法律主義の結論として、行政機関がつくる法規である政令その他には、罰則を設けることができない。ただ、憲法七三条六号は、「特にその法律の委任がある場合」には、例外的に、法律が政令に罰則を設けることを委任することができることを認めている。しかし、この特定委任は、基本となる法律に「具体的な委任」、すなわち処罰の対象とすることができる行為の大枠を定めた委任があることを必要とする(刑法総論一〇〇講・大谷實編著・三〇、三一頁)。このような刑罰が科される行為については法文による明文化が要請され、規則にその細目を委任する場合にも法律の委任の範囲をこえることができない。
三二条一項但書は「その他特別の技術を要する職業」として、明確にその職業の範囲を例示していない。このような場合は、空白部分を補充する他の法令、行政処分が必要とされるが、この場合にも、法律の予定している範囲を超えることができないことは罪刑法定主義の見地から同様である(刑法講義総論・成文堂・大谷實・六二頁)。
それでは、三二条一項但書所定の「その他特別の技術を要する職業」とはいかなる範囲の職業が許されるのかが問題となるが、少なくとも、前記の通り、本法三二条の立法趣旨に照らし、規則別表二の中に医師、弁護士等を規定していることは法が予定している範囲内のものとは到底考えられず、法の委任の範囲を超え、憲法違反である。
二 営業の自由(憲法二二条)違反について
1 人材スカウト業は、営業の自由(財産権の一つとして考える説もある)として、憲法二二条一項の保障する「職業選択の自由」の一環として、憲法上保障された権利であり、公共の福祉によって制約されることがあっても、その制約は必要最小限度のものでなければならない(憲法十三条参照)。
ところで、職業安定法は同法三二条一項で有料職業紹介事業を原則的に禁止しているが、右禁止について、かつて最高裁は合憲とした(最判昭和二五・六・二一刑集四・六・一〇四九)。その理由は、「在来の自由有料職業紹介においては営利の目的のため条件等のいかんを問わず、ともかくも契約を成立せしめて報酬を得るため、さらに進んで多額の報酬を支払う能力を有する資本家に奉仕するため、労働者の能力、利害、妥当な労働条件の獲得、維持等を顧みることなく、労働者に不利益な契約を成立せしめた事例は多く、これに基因する弊害もはなはだしかったことは顕著な事実である。職業安定法は公の福祉のため、これら弊害を除去し、各人にその能力に応じ、適当な職業を与え、もって職業の安定を図らんとするものであり、その目的のために従来弊害の多かった有料職業紹介を禁じ、公の機関によって無料にして、公正の職業を紹介することにしたのであり、決して憲法の各条項に反するものではない」というものである。すなわち、右判決は、職業安定法の対象となる有料職業の紹介事業は、労働者に不利益な契約を締結させるなどの弊害をもたらすおそれがあり、そのような事業であるからこそ、同法による規制は営業の自由に対する必要最小限の制約の範囲内にあるものとして、その合憲性を認めたものである。
2 右合憲性を判断するにあたっては、職業安定法制定時の「立法事実」を審査しているが、「立法事実」は、法制定時のみならず裁判時にも存在することが必要であり、裁判時、法律による規制を裏付ける事実状況が存しないときは、不必要の基本権規制として違憲無効とされる(佐藤幸治「憲法、新版」三三七頁等参照)。これを職業安定法三二条についてみると、現在の立法事実として依然強制労働、中間搾取、人身売買等の事案が皆無ではないから、同条の規定自体が違憲であるとはいえない。しかしながら、そのような弊害が生ずるおそれのない行為について、単に部分的に職業紹介的要素を含んでいるとしても、同条を適用することは、営業の自由に対する不当な制約となり、憲法二二条に違反し違憲となる。
3 また、職業安定法三二条一項の「職業紹介」の解釈において、本件業務をこれに該当するとすることは、前述したように少なくとも不当な拡張解釈であり、いわゆる合憲限定解釈によって本件業務を適用しないことが可能であるのにあえて適用したという点においても、右解釈、適用は憲法二二条に違背する。いずれにしても、原判決が本件業務に職業安定法三二条六項を適用したことは、いわゆる「適用違憲」であって、許されるべきものではない(「適用違憲」については、前記佐藤「憲法・新版」三三一頁以下、伊藤正巳「憲法」六一七頁以下等参照)。
三 右に関連して、原判決が、本件業務についての本件コンサルティング契約(報酬契約)を職業安定法三二条六項に違反し、無効とした点についてであるが、それは、契約締結の自由に対する制約でもある。契約の自由あるいは契約締結の自由は、憲法上直接的明文規定はないが、経済的自由権の一つとして憲法上の保障を受けることに異論はないところである(最判昭和四八・一二・一二民集二七・一一・一五三六参照)。この権利に対しても公共の福祉による一定の制約があり得ることは当然としても本件業務については、職業安定法三二条を適用すべきものでない以上、本件契約についても同条を適用して無効とすることは契約自由に対する不当な制約として、これまた違憲というべきである。
以上述べたとおり、原判決には、職業安定法の解釈・適用を誤ったばかりでなく、憲法上の営業の自由等を侵害するものであって、明白な違法があり、判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、破棄されるべきである。
以上