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最高裁判所第二小法廷 平成3年(オ)1993号 判決 1994年7月18日

上告人

小松傳治

右訴訟代理人弁護士

大西英敏

被上告人

安田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

有吉孝一

右訴訟代理人弁護士

吉原省三

草薙一郎

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人大西英敏の上告理由について

保険契約において、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は、特段の事情のない限り、右指定には、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれているものと解するのが相当である。けだし、保険金受取人を単に「相続人」と指定する趣旨は、保険事故発生時までに被保険者の相続人となるべき者に変動が生ずる場合にも、保険金受取人の変更手続をすることなく、保険事故発生時において相続人である者を保険金受取人と定めることにあるとともに、右指定には相続人に対してその相続分の割合により保険金を取得させる趣旨も含まれているものと解するのが、保険契約者の通常の意思に合致し、かつ、合理的であると考えられるからである。したがって、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合に、数人の相続人がいるときは、特段の事情のない限り、民法四二七条にいう「別段ノ意思表示」である相続分の割合によって権利を有するという指定があったものと解すべきであるから、各保険金受取人の有する権利の割合は、相続分の割合になるものというべきである。

これを本件についてみると、原審の確定した事実は、次のとおりである。(1) 上告人の妻である小松美代子は昭和六一年七月一日被上告人との間で、被保険者を美代子、事故による死亡保険金を一〇〇〇万円、保険期間を五年とするなどの内容の積立女性保険契約(以下「本件契約」という。)を締結したところ、美代子は昭和六三年九月二八日事故により死亡した。(2) 本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の記入はされていなかったが、同欄には「相続人となる場合は記入不要です」との注記がされており、また、本件契約の保険証券の死亡保険金受取人欄には、「法定相続人」と記載されている。(3) 美代子の相続人は配偶者である上告人及び兄弟姉妹(代襲相続人を含む。)の一〇名であり、上告人の法定相続分は四分の三である。

右事実関係によれば、本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の記載はされていなかったが、同欄には前記のような注記がされていたのであるから、美代子は右注記に従って保険金受取人の記載を省略したものと推認するのが経験則上合理的であり、したがって、美代子は本契約に基づく死亡保険金の受取人を「相続人」と指定したものというべきである。そうすると、前に説示したところによれば、上告人は、本件契約に基づく死亡保険金につき、その法定相続分である四分の三の割合による権利を有することとなる。

原審は、本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の記載がないことから、本件契約においては保険金受取人の指定がなかったものとし、仮に右の指定があったと推認されるとしても、保険金の帰属割合についてまでの指定はなかったとし、本件においては、本件契約に適用される保険約款の定めによって美代子の法定相続人が死亡保険金の受取人となり、その割合は民法四二七条により平等の割合になるものと判断したが、右認定判断には、経験則違背ないし保険契約者の意思解釈を誤った違法があるというべきであって、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、被上告人の抗弁の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中島敏次郎 裁判官木崎良平 裁判官大西勝也 裁判官根岸重治)

上告代理人大西英敏の上告理由

原判決は、何らの証拠調べもなさず、一審判決を取り消したが、これは、以下に述べるとおり第一に法令及び経験法則に違背して、誤った事実認定をし、その結果、判決に影響を及ぼして一審判決を取り消してしまったもので、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背があり(法三九四条)、また第二に、審理が不尽のため、結局判決に理由不備(法三九五条一項六号)をきたしているから、原判決は破棄されるべきである。

一、本件の争点

1 本件の争点は、第一審の判決で整理されているが、現時点では次の二つであろう。

① 本件保険契約における死亡保険金受取人として法定相続人が指定されていたのか、あるいは、保険約款第四条(甲第七号証参照)により法定相続人が、受取人となったのか。

② 法定相続人が死亡保険金受取人の場合に、各相続人の取得割合は、相続の場合に準じて法定相続分の割合によるのか、単純に頭割によるのか。

2 そして右の二つの争点の判断においては、本件保険契約である積立女性保険の正確な理解が前提として重要である。そこで、まず本件保険契約の性格を検討したのち、本件の争点についての上告の理由を述べることにしたい。

二、本件保険契約(積立女性保険)の性格について

1 本件保険は約款からもわかるとおり、被保険者が、急激かつ偶然な外来の事故によって身体に傷害をこうむったときに保険金を支払うことを目的とするいわゆる傷害保険であることは、当事者間に争いはない。

そして傷害保険契約は、損害保険契約と生命保険契約の両者のそれぞれの要素を併行的にもつ中間形態のものと解されている(筑摩書房現代法学全集26保険法(第二版)四〇六頁)。

つまり、それが人保険であり、かつ定額ないし準定額保険契約である限りにおいては生命保険契約と共通の性格を有するとともに、他面、その保険事故ないし危険の内容が傷害という特殊の事故であることからみれば損害保険契約と共通の性格をもっているからである。

2 しかし、本件保険契約は、右傷害保険の性格の他に、保険料一括前払いで、五年後に満期返戻金を受け取ることができ、これは実質的には、五年定期預金と同じ利益を契約者に与えている。本件においては甲第一号証の保険証券によれば、九四二、二七〇円が五年後に一〇〇万円となることになり6.127パーセントの高利回りとなっている。そして、この保険契約が締結されたころは、各損保会社は、まさに定期預金と同じ性格のものとして保険加入をすすめていたのであり、本件においてもその支払い方法が一括前払いであり、しかも、五年という短期であることからして、亡小松美代子が、本件保険契約を締結した目的は、前記の傷害保険の保障よりは、むしろ高利回りの貯金を目的としたものであったというべきである。

3 この点、第一審判決においても、また原判決においてもこの本件保険契約がいかなる機能を有し、また契約当事者がいかなる目的でいたかについて何らの検討もなしていないが、これは、後述の契約当事者の合理的意思を推認する前提となるのだから、検討を省略することは許されるべきではない。

三、死亡保険金受取人の指定の有無(争点その一)

1 この点、第一審判決も、原判決も本件保険契約においては受取人の指定はなされていなかったと認定している。

その理由は第一審は、何らの説明もなく立証責任で判断しているようであり、原判決は第一に本件契約の申込書(乙第一号証)の死亡保険金受取人欄が空白となっていたこと、第二に、弁論の全趣旨によれば、被上告人は右のような申込書の場合には、受取人は約款の規定により法定相続人となることから、改ざん防止等のため保険証券の死亡保険金受取人欄に「法定相続人」と記載していることが認められるとしている。

2 しかし、第一に本件の保険証券(甲第一号証)には、明確に法定相続人と記載されており、保険金受取人の指定は保険証券への記載によってなされる(商法六七三条、六七九条三号)こと、第二に、原判決も理由中で述べているが、前示乙第一号証によれば、本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄には「相続人となる場合は記入不要です」との注記がなされており、このことから亡美代子が、死亡保険金の受取人を自己の相続人とする意図のものに、ことさら同欄を空白としたものと推認する余地がないではない。

そうだとすると、原判決の理由とするところは、商法六七九条三号に明確に違反するし、また、二番目の理由も何らの証拠調べをせず、三回の口頭弁論しか開いていない原審が、弁論の全趣旨からどうしてかような認定ができるのか、理解に苦しむ。弁論の全趣旨による事実認定は何人も異論のない場合に用いられるべきであり、本件のような場合には、用いるべきではない。

3 結局、受取人の指定については、保険証券によって、明確に法定相続人と定められており、原判決の認定は誤りである。

四、法定相続人が受取人とされた場合の各相続人の保険金の取得割合(争点その二)

四―一 受取人が法定相続人と指定された場合

1 最小二判昭和四〇年二月二日(甲第二号証参照)

右判決は、次のように述べている。

『一、養老保険契約において、被保険者死亡の場合の保険金受取人が単に「被保険者死亡の場合はその相続人」と指定された時は、特段の事情のない限り、右契約は被保険者死亡の時における相続人たるべきものを受取人として特に指定した「他人のための保険契約」と解するのが相当である。

二、前項の場合には、当該保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱しているものと解するべきである。』

したがって、原判決が理由中で判旨するごとく相続の問題は生じないことは明らかである(この点当事者間にも争いはない)。

しかし、そのことから原判決のごとく、民法四二七条を単純に適用して、各相続人が均等の割合で保険金を取得するのか、東京地裁昭和六〇年一〇月二五日判決(甲第三号証)のように、民法四二七条の別段の意思表示として法定相続分による分配の意思を推認するのかは、右の判決からは直ちに明らかにならない。けだし、右判決の根拠とするところは、結局、当事者の合理的意思解釈によるからである。(甲第二号証の解説二〇頁、冒頭の部分)。

2 本件保険契約当事者の合理的意思

(一) この点、上告人は、従来から亡小松美代子の意思について次のように主張していた(上告人の平成二年七月二四日付準備書面二2(三)以下)。

『(1) そこで、この点を検討するに、原告と亡小松美代子には、子供がおらず、亡小松美代子の親族関係は、複雑であって、同人と親族、特に、兄弟姉妹とのつきあいはほとんどない状態であり、その仲は決してよいものではなかった。

(2) 現実に、同人の葬式の際、原告は、兄弟たちが同人のことを悪くいったり、保険金はなかったかなどと話をしているのを聞いていやな思いをしたり、自動車事故の損害賠償についても、原告と、兄弟姉妹たちは別々に訴訟を行なっている。

本件保険金についても、当初兄弟姉妹たちは全部原告にあげてもよい旨話していたが、結局その分配の話は決裂しており、原告との行き来もとだえている状況である。

(3) 右のような事実を前提に本件保険契約を締結した亡小松美代子の意思を推測すれば、やはり、最愛の夫以外の相続人のことは眼中になかったというのが正しいところであろう。』

(二) しかし、第一審判決や原判決でも判旨されているとおり、相手方である保険会社の事情も充分に検討しないと片手落ちである。

そこで、本件保険契約当事者双方の事情を検討する。

(1) 原判決は、次のように判旨する。

① 美代子と兄弟姉妹との仲がよくなかったからといって、直ちに美代子の意思を推認することは困難である。

② 商法六七七条一項において、保険契約者が死亡保険金の受取人の指定を保険者に通知しなければこれを保険者に対抗できないと定めていることや一般に保険契約の期間が長期にわたり、かつ、保険者において大量の保険事務を処理しなければならないことに鑑みると、保険金の帰属割合に関する指定は、被保険者が死亡するまでに、保険者が明確に確認することができる方法によって行なわれることを要すると解すべきところ、本件に表われた証拠によっては、保険会社の担当者が美代子の死亡までに右の事情を知ることができたものと認めることはできず、この点に関して、指定というに足りる行為があったということはできない。

(2) しかし、一審判決の次の判旨は、原判決に比してより常識的な認定といえる。

『しかしながら、法律行為の解釈は、それによって、当事者が達成しようとしていた経済的・社会的目的を考慮し、これに適合するように解釈されなければならないところ、本件は、保険契約であるから、本来、保険事故により生じた被保険者側の経済的、精神的等社会生活面での何らかの不利益の救済を、動機あるいは目的としているはずであって、そのことは、当然保険会社である被告は知っているはずである。そこで、本件のように、小松美代子死亡時のその相続人たるべき者が多数いて、その中で、夫であった原告の他は全て美代子とは経済的及び精神的生活面での関係が稀薄である場合には、死亡保険金は、法定相続分の割合に応じて各受取人に帰属させる趣旨で本件保険契約が締結されたものであると解するのが相当である。そして、このように解することは、死亡による保険の場合、自己のためではなく身近で密接な生活関係を有している相続人のために加入するものであるという常識にも合致する。』

つまり、美代子側の事情としては、同人の死亡時には、夫以外に相続人たる者が多数いるが、夫以外の他は、全て経済的及び精神的生活面での関係が稀薄であり、同人としては、夫以外に保険金がいくことは望んでいなかったこと、又保険会社側の事情としても、保険事故により生じた被保険者側の経済的、精神的等社会生活面での何らかの不利益の救済を動機あるいは目的としており、死亡の場合には、自己のためでなく、身近で密接な生活関係を有している相続人のために加入していることは当然知っていることであろう。

してみると、原判決がいうとおり不仲の事情から美代子の意思を推認することは困難だとしても、民法の相続割合の定めが相続当事者の通常の意思、公平等を前提とした規定であることを保険加入の通常の意思に加味して考慮した場合美代子の合理的意思として、法定相続分による分配を推認できるし、保険会社も予期しうることであろう(甲第三号証参照)。

実際、社団法人日本損保協会の回答によれば均等分配説を適用している会社が六社、法定相続割合を適用している会社が四社(甲第八号証の一)、生命保険協会の回答によれば、均等分配説が一四社、法定相続分説が六社(甲第八号証の二)となって扱いが分れており、一部の保険会社は、契約者の合理的意思を汲んでいる事情もある。

また、原判決の理由②の保険会社側の事情については、本件においては契約時の契約当事者の合理的意思が問題とされるべきであるから、契約時から死亡時までの間の帰属割合についての指定の有無を論ずるこの理由は、やや的はずれの議論といわざるをえない。

保険会社が大量の保険事務を処理しなければならないからといって、相続分による取得の障害にはなりえない。

けだし、保険会社は、すべての相続人の戸籍謄本を要求しており、総額において一定額を払えば、何らの危険負担はないからである。

実際に、被上告人会社の担当者も当初法定相続分に従い支払う旨回答している(上告人の平成三年七月二日付準備書面三2(四)参照)ことからもわかるとおり、この取得割合について、保険会社側の事情を斟酌する必要はない。

(3) 加えて、本件保険契約当事者の合理的意思を推認する場合に前述のとおり本件保険がいわば利殖目的で締結されたことをいかに考えるべきか、一般に、利殖目的の預金等は、自己又は家族のためになされるものであり、今回の美代子の動機も、特段他の目的があったとの事情は存しない。結局、美代子側の事情として、本件保険契約を主として利殖のために締結したとすれば、そもそも自分自身も死亡することを予期しておらなかったと解するのが正しい。してみれば、亡美代子の意思として、本件保険金を家族でない兄弟姉妹に帰属させることは、基本的にありえない話である。

また、本件会社としても、利殖目的であることは、充分に予期できたはずであり、そうだとすれば、亡美代子の意思として、自己又は家族である夫のために本件保険契約を締結したと理解することは極めて容易なことであろう。

したがって、本件保険契約においては死亡保険金の取得割合についての契約当事者の合理的意思解釈として、最も、密接な関係のある相続人が多く分配を受けるものとする意思を推認することが法常識に合致することになると思われる。

(定期預金の相続なら法定相続分どおりとなろう)。

(三) 結局以上のところから本件保険契約当事者の合理的意思は、法定相続人が法定相続分の割合に応じて死亡保険金を取得するものであったと推認すべきであり、原判決の認定は経験的に違背する誤ったものであるというべきである。

四―二 受取人が約款の定めにより法定相続人と定まる場合

1 前記三で述べたとおり本件保険契約においては、死亡保険金の受取人は当初より法定相続人と指定されていたと認定されるべきであるが、第一審、原判決のいずれもが、指定はなく約款により法定相続人と定まったのであると判旨しているので、以下、約款によった場合についても保険金の取得割合についていかに解すべきかを検討しておくことにする。

この点については、上告人の平成二年七月二四日付準備書面三以下で詳述しているので、次に引用する。

『三、仮に本件において被告の主張どおり死亡保険金受取人が指定されていなかったとされた場合は結論がことなるであろうか。

1 東京地判、昭和六二年三月三一日について(甲第五号証参照)

この判決は被告が訴えられた事件であるが、まさに死亡保険金受取人の指定がなく(保険証券上も空白)、保険約款上、法定相続人が請求権者とされた事案において、保険金取得の割合について平等の割合によって定めたものである。この判決は一見被告の主張に沿うもののようであるが、判決理由四の部分にあるように、結局、当事者の合理的な意思解釈によるものであることは明白である。したがって、甲第五号証のコメント欄の指摘にもあるとおり、東京地判、昭和六〇年一〇月二五日との差は相対的なものでしかなく、事実認定の問題に帰するものというべきである。

2 なお、この被保険者死亡の場合保険金受取人の指定のないときは保険金を被保険者の相続人に支払う旨の約款のある保険契約について、最二小判、昭和四八年六月二九日の判決は次のように判示している(甲第六号証参照)。

「被保険者死亡の場合、保険金受取人の指定のないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う旨の保険約款の条項は、被保険者が死亡した場合において、被保険者の相続人に保険金を取得させることを定めたものと解すべきであり、右約款に基づき締結された保険契約は、保険金受取人を被保険者の相続人と指定した場合と同様、特段の事情のない限り、被保険者死亡のときにおけるその相続人たるべき者のための契約であると解するのが相当である。」

すなわち、保険約款の右のような定めをもって、保険金受取人を法定相続人と指定した場合の指定と同視できるかにつき、肯定したものである。その根拠は、やはり、契約当事者の意思に合致することにある。

してみると、約款による指定も、被保険者による法定相続人の指定も実質的には異ならないというべきであろう。

3 ちなみに、本件の保険約款第四条には、右裁判と同様な規定がある(甲第七号証参照)。』

2 ちなみに、前述した第一審判決の認定も約款による指定の場合について判旨したものである。

五、高裁段階での逆転の不自然さ

1 以上みたとおり、本件は主として契約当事者の合理的意思解釈の問題であるが、第一審判決と原判決とでいずれが法常識に合致するであろうか。

その内容は実体的には前述のとおりであるが本件裁判の進行についても分析を加えたい。

2 原判決は、上告代理人、控訴人代理人のいずれも予想しえないものであった。

それは第一審判決が出た段階で、被上告人は控訴したものの、同時に上告人以外の美代子の相続人に訴訟告知をなし、高裁においては、第一回口頭弁論において裁判長の方から他の保険会社の実情はどうかと被上告人が釈明を求められたが、第二回口頭弁論において被上告人の方から和解してほしい旨申出があり、ただちに終結して和解が進められた。

そして、この和解の話の中では、他の相続人の利害関係人としての参加を求めることとし、(弁護士を被上告人がつける方向)三回行なわれたが、結局相続人の方で受領した保険金の返還はできないといわれ、和解が不調となったものである。

この間、和解の裁判官から上告人が不利であるとの意見を一回たりとも聞かされておらず、逆に被上告人の方には、強く和解を進めていたのであった。

そして、被上告人は和解打切り後、準占有者の弁済の抗弁を出し、これに対し、上告人は甲第八号証の一、二の弁護士照会回答書を提出したものであった。

3 右のような進行の中で、一審裁判官、上告人代理人、控訴人代理人、原審の和解担当裁判官のいずれもが、法定相続分説を前提とした行動をしていたのであって、結局、何ら証拠調べもせず、合議で関与した他の二人の裁判官の考え方により、第一審が逆転したものと考えざるをえない。

本件が前述のとおり法常識を問われるものであるとしたら、ほとんど審理に関与していない裁判官が自らの予断と偏見により経験則の適用を誤ったというべきではないか。

最高裁判所の良識ある法常識をお示しいただければ幸いである。

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