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最高裁判所第二小法廷 平成3年(行ツ)204号 判決 1992年3月27日

ドイツ連邦共和国

シルタッハ七六二二 アム ホーエンシュタイン 一一三アー

上告人

ベーベーエス・クラフトファールツオイグテクニク・アクチエンゲゼルシャフト

右代表者代表取締役

ハインリッヒ・バウムガートナー

右訴訟代理人弁護士

竹内澄夫

市東譲吉

矢野千秋

前田哲男

同弁理士

富田修自

堀明〓

鈴江孝一

池田清美

大阪府東大阪市水走四六八番地の二

被上告人

株式会社アローエンタープライズ

右代表者代表取締役

本田理

大阪市西区北堀江一丁目一番三号

被上告人

株式会社インターハウス

右代表者代表取締役

菊野晴夫

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(行ケ)第六〇号審決取消請求事件について、同裁判所が平成三年四月一六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人竹内澄夫、同市東譲吉、同矢野千秋、同前田哲男、同富田修自、同堀明〓、同鈴江孝一、同池田清美の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木崎良平 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也)

(平成三年(行ツ)第二〇四号 上告人 ベーベーエス クラフトファールツオイグテクニク アクチエンゲゼルシャフト)

上告代理人竹内澄夫、同市東譲吉、同矢野千秋、同前田哲男、同富田修自、同堀明〓、同鈴江孝一、同池田清美の上告理由

一、原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背があるから、破棄を免れないものである。

1.(一) 原判決は、審決甲第五号証意匠のデスク部の内側部分(ホイール中心寄りの部分)の認定に関し、原告がこの部分が不明瞭でその構成態様を明確に把握できない、と主張したのに対し、「しかしながら、甲第五号証意匠の基本的構成態様、具体的構成態様は前記認定のとおりであって、本件意匠と対比判断するに必要な構成はすべて明確であり(審決もハブ部の外周縁付近の表面に表わされた太い線状部について、「該部が透孔としたものか、浮彫状としたものかは不明な点もあるが該部を精査すると」として、この部分を浮彫状と認定しているのであって、構成態様が明確に把握できないと認めているのではない。)原告の右主張は理由がない。」と判示する(以下、認定イ、という)(原判決第二一丁表第三行乃至第一〇行)。そして、右に言う前記認定中、デスク部の内側部分に関し、「前掲乙第一号証の一及び二によれば、甲第五号証意匠において、ハブ部の外周縁付近の表面に現された太い線状部は図として浮彫状に現されており(透孔であればデスク部の外周付近と同様に現れるべき奥行を示す線が現れていない.)また、センターキヤップ側からみて二本一対とした比較的太い起立状線として立ち上がり大きな角度のV字状に別れ、しかる後隣接する起立状線が相互に交差しながら、外輪部の内周縁端に向って同一パターンが漸次拡大反復するいわゆるメッシュ状の態様に形成されているものと認められる。」と判示し(以下、認定ロ、という)(原判決第一五丁表第九行乃至裏第七行)、さらに、本件意匠との一致点として、「そして、スポーク部とハブ部の外周縁付近の構成態様は、センターキャップ側よりは、ハブ部の内側の中心付近に残された円形状部の周縁のそれぞれ等間隔の一定の部分から太い線状部が二本一対とした比較的太い線状部として立ち上がり、その先端から大きな角度のV字状に別れ、しかる後隣接する起立状線が相互に交差しながら、云々」と判示している(以下、認定ハ、という)(原判決第一六丁裏第一一行乃至第一七丁表第五行)。

(二) 右認定イ、ロ、及びハ、について

雑誌のイラストである乙第一号証の二を見ると、当該デスク部内側部分(この部分がこの種の意匠の要部中の要部、すなわち主要部であることは後述)は、いわばハレーションを起こしたようにイラストされており、認定ロ、に言うごとき「デスク部の外周付近と同様に現れるべき奥行を示す線」などの存否を云々できるほどの明瞭性をもって表されているものでは到底あり得ない。すなわち、「奥行を示す線」のみなちず、右認定中に言う「比較的太い起立状線」さえ看取しがたい程度なのであり、換言すれば本イラストは、右「奥行を示す線」の存否を問題とするほどの明瞭さをそもそも最初から有していないものなのである。

そして、この不明瞭さは、原判決が右認定ロ、と認定ハ、とで明白な齟齬を生じ混乱していることからも明らかである。

すなわち、認定ロ、では、審決甲第五号証意匠につき、「センターキャップ側からみて二本一対とした比較的太い起立状線として立ち上がり大きな角度のV字状に別れ、」と認定しながら、認定ハ、本件意匠と審決甲第五号証意匠の一致点として、「センターキャップ側よりは、ハブ部の内側の中心付近の残された円形状部の周縁のそれぞれ等間隔の一定の部分から太い線状部が二本一対とした比較的太い線状部として立ち上がり、その先端から大きな角度のV字状に別れ、」と認定している。

そもそも、原判決は審決甲第五号証意匠のデスク部内側部分はどのような構成であると把握しているのか。原判決第一八丁裏の判示から察するに、原判決は審決甲第五号証意匠のハブ部周縁からの太い線状部の始端部分の基本形状をY字状ではなくV字状と認定しているようである。しかしそうだとすれば、右認定ロ、には合致するかもしれないが、右認定ハ、には真っ向から反する。なぜなら右認定ハ、はY字状である本件意匠と一致した認定でもあるところ、「その先端から大きな角度のV字状に別れ」と認定すれば、その先端とは、ハブ部周縁からいったん直線(すなわちY字の脚の部分に当たる)で立ち上がり、その立ち上がった直線の先端からV字状に別れていると認定せざるを得ない。しかるに、審決甲第五号証は前記原判決認定によればハブ部周縁からの始端部分からV字状に別れていっているわけであるから、そもそも立ち上がった直線部(Y字の脚の部分)を有しているはずがない(立ち上がった直線部を有すればY字状になってしまう)。

右のように、本件で最大の争点の一つとなった「太い起立状線がデスク部内側部分付近でV字状なのかY字状なのか」という点につき、かくも混乱かつ矛盾した認定判断を原判決が示さざるを得なかったということは、とりも直さず、審決甲第五号証意匠の当該部分が不明瞭であるからにほかならない。

そうだとすれば、こうしたものに引用例としての適格を認めるべきではない。なぜなら、類似の引用例となし得るためには、明確に類似していることが現されている必要がある。しかるに、審決甲第五号証意匠はそれ自体不明瞭且つ曖昧なものであり、その現している意匠自体を原判決でさえ決めかねる程度のものにすぎない。その意匠自体を決めかねるときに、その意匠が他の意匠に類似しているなどということは、その大前提自体を決めずに判断していることに均しく、明らかな論理矛盾だからである。

(三) なお、デスク部内側部分がこの種物品の意匠では要部中の要部であることは原審においても主張立証をなしたが、原判決後において特許庁で登録査定がなされた甲第一〇号証意匠からも明らかである。すなわち甲第一〇号証意匠は本件意匠とデスク部内側部分以外では酷似しているのに登録査定がなされている。すなわちこれは、特許庁がデスク部内側部分がこの種物品の意匠の類否判断においては決定的に重要な部分である、すなわち、要部中の要部であると理解しているからにほかならない。

2.以上より、原判決は意匠法第三条第一項第三号を誤って解釈適用しており、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背があり、破棄さるべきものである。

二、なお、以下は背景事情ながら、あえて述べさせていただきたい。すなわち、本件意匠が特許庁にて無効審決を言い渡されてのちというもの、本件意匠を具体化した上告人商品であるBBS-RSのイミテーション品が急激に増加かつ横行しており、ドイツ商工会議所などを通じての警告や、不正競争防止法等による提訴もこうしたイミテーション品防止の実効をあげ得ずに現在に至っている次第である。

こうしたイミテーション品は精度や強度の低いものがほとんどであり、車のホイールは人命にかかわるものであってみれば、その作出している危険には計り知れないものがあると言わねばらならない。

上告人商品と誤認して購入したとする消費者の存在も上告人の耳に入るに及んで、上告人としてはあらゆる手段を通じてイミテーション品との差別化を図ろうと試みてはいるが、そうしたメーカーの節度なき摸倣の前に抗しきれないでいるのが現状である。

裁判所におかれては、右のごとき状況もお汲み取りいただき、大所高所に立たれた御判断を賜りたい。

なお、右は、何ら主張立証の対象となるべき事項ではないものの、御庁におかれて事実上の資料提出を上告人にお命じくださるということであれば、上告人としては即刻立証資料を御提出申し上げる用意があることを申し添えておく次第です。

以上

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