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最高裁判所第二小法廷 平成4年(行ツ)3号 判決 1992年3月27日

ドイツ連邦共和国

シルタッハ七六二二 アム ホーエンシュタイン 一一三アー

上告人

ベーベーエス・クラフトファールツオイグテクニク・アクチエンゲゼルシャフト

右代表者代表取締役

ハインリッヒ・バウムガートナー

右訴訟代理人弁護士

竹内澄夫

市東譲吉

矢野千秋

前田哲男

同弁理士

富田修自

堀明〓

鈴江孝一

池田清美

大阪府東大阪市長田西五丁目八〇番地

被上告人

株式会社 レイズ

右代表者代表取締役

斯波真澄

奈良市杉ケ町三五番地

被上告人

株式会社 クリムソン

右代表者代表取締役

西田亘雄

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(行ケ)第六一号審決取消請求事件について、同裁判所が平成三年六月一一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人竹内澄夫、同市東譲吉、同矢野千秋、同前田哲男、同富田修自、同堀明〓、同鈴江孝一、同池田清美の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木崎良平 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也)

(平成四年(行ツ)第三号 上告人 ベーベーエス クラフトファールツオイグテクニク アクチエンゲゼルツャフト)

上告代理人竹内澄夫、同市東譲吉、同矢野千秋、同前田哲男、同富田修自、同堀明〓、同鈴江孝一、同池田清美の上告理由

一 原判決には、以下に述べるように判決に、理由不備、審理不尽の違法があり、または判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背があるから破棄を免れないものである。

1 すなわち、第一に、別紙意匠目録二記載の意匠(以下、これを「引用意匠一」という)が掲載きれた、ドイツ雑誌「auto motor und sport」(一九八三年六月二九日号、以下この雑誌を「本件雑誌一」という)が、別紙意匠目録一記載の意匠(以下、これを「本件意匠」という)のドイツでの登録出願日(以下、これを「本件出願日」という)である同年七月二一日に頒布されていたか明らかでないのに意匠法三条一項二号を適用した点で、右法律の解釈適用を誤ったものである。原判決は、本件雑誌一に「29.Juni1983」の記載をもって、同年六月二九日を頒布された日と推定する。しかし、意匠法三条一項二号の「頒布された刊行物」とは、公開的に配られた刊行物を意味する。したがって、本件雑誌一のような場合は、一般的に店頭に並んだ状態になったとき、初めて頒布があったといえるのである。そして、上記記載が「発行日」であることは経験則上推定できるが、この発行日が何を意味するかについては(たとえば、印刷された日か、発送された日か)、不明である。またドイツ各地に配送するのには、かなり時間を要するであろうから、実際に頒布されたのは、右発行日より後になることが考えられる。よって、本件のように、同年の六月二九日(発行日)と七月二一日(本件出願日)のように近接している場合は、頒布があったのは、本件出願日以降の可能性が高いと言える。

したがって、原判決が、右発行日に本件雑誌一が頒布したと推定したのは、大きな飛躍が有り、よって理由不備の違法がある。また、頒布があることの立証責任は、被告側にあり、それにもかかわらずその点について充分な証拠調べをせずに右事実を認定したことは、審理不尽の違法を犯すものである。

2 第二に、引用意匠一が本件意匠と類似であるとしたのは、意匠法三条一項三号の解釈適用を誤るものである。以下に理由を述べる。

(一) 上記主張の理由の概略

まず原判決は、本件雑誌一に掲載された自動車の右斜め横から描いたイラスト中に描かれた右自動車に使用されているホイールを、引用意匠一(別紙意匠目録二は、本件雑誌一に掲載されたものである)とし、本件意匠を比較している。しかし、類似か否かの判断するのに、右のように斜めからの図だけに頼るのは妥当でない。けだし、正面等他の角度から見た場合、全く違う印象を受ける可能性があるからである。更に、本件においては、ホイールが、自動車の一部等して描かれているだけであり、しかも写真ではなくイラストであることから、引用意匠一自体が不明確である。

特に、本件意匠の要部はスポーク部であるが、本件意匠の内側スポーク部は、浮彫りになっている。しかし、後述するように、引用意匠一では、全くその点は不明である。このように類似か否かの判断に重要性の高い要部の状態さえ把握出来ないのでは、引用意匠一が、本件意匠の類似意匠に該当するか否かの判断することはできないと言わざるを得ない。従って、引用意匠の不明確性により、類似意匠か否かの判断が困難であるにもかかわらずかかわらず、引用意匠一を本件意匠と類似する判断し、意匠法三条一項三号を適用したことは、法令の解釈適用を誤るものである。

(二) 引用意匠一の不明確性

(1) 原判決の理由の概略

原判決は、引用意匠一については、外側スポーク部が、透彫りであることを示す暗調子で描かれたいるのに対し、内側スポーク部は暗調子に因る表示が全くなされていないこと及び内側スポーク部のスポークによって区画された空間部が透彫りになっているのならばスポークのリヤーリム部側の線が奥行きを現す線として現れるはずなのに現れていないことを理由に内側スポーク部は、浮彫りであると認定している。

しかし、後述するように、右点からだけでは、内側スポーク部が浮彫りか透彫りかを認定することは困難である。

(2) 右原判決の判断の不当性について

そもそも、引用意匠一を正面から見たと仮定すると、スポーク部の内側に行けば行く程、スポークによって区画された空間部の占める面積は、スポーク正面の占める表面積と比較して小さくなっていくであろう。したがって、引用意匠一のように斜めからみた場合、斜めに外側スポーク部の空間部に入射した光線は、ほとんどが、リヤーリム部側にそのまま抜けて行くであろう。よって、外側スポーク部においては、空間部は暗調子となり、スポークのリヤーリム部側の線が奥行きを現す線が生じるであろう。しかし内側スポーク部においては、もし透彫りとしてしても、スポークによって区画された空間部の占める面積は、スポーク正面の占める表面積と比較して小さくなっていくために、斜めに外側スポーク部の空間部に入射した光線は、スポークの側面に当たってしまいリヤーリム部まで突き抜けないであろう。したがって、斜めから見れば、内側スポーク部の空間からは、スポークの側面部分しか見えないことになる。したがって暗調子も生じないし、リヤーリム部側の線が奥行きを現す線も生じないであろう。また斜めになればなる程、上記のような傾向が顕著になろう。したがって、本件のようにイラストにした場合、絵の作者が、上記のような場合を描いたのか、それとも内側スポーク部を浮彫りとして描いたのかは、判別不可能である。したがって、原判決において、右事項を看過ごして内側スポーク部を浮彫りであると判断しているのは不当である(また、右事項を看過ごしているため、甲第八号証の鑑定意見も無視している。)。

(三) 類似意匠に該当するかの判断の困難性

(1) 本件意匠と引用意匠一の相異点

本件の引用意匠一と本件意匠とは、下記に述べるようにの<1>~<3>の相異点が存在する。

<1> 立体的対平面的

第一に、本件意匠と引用意匠一の相異点については、本件意匠のスポークの方が引用意匠一のスポークと比較して太く、また後者のそれが角張っているのに対し、前者のそれが丸みを帯びている点で相異すると言うことであり、原判決にもその点は認めている。

それにもかかわらず、原判決は、上記点は、機能上の制約を受けないかぎり、使用者の選択の問題であって、その一方を選択したかにより、一方が他に勝り著しく異なった美的印象を看者に与えると認めることは出来ないとする。

しかし、本件意匠のスポークが引用意匠一のスポークと比較して太く且つ丸いことから、本件意匠を立体的に見せる。これに対し、引用意匠一は、細くかつ角張ったスポークを使用しているために、引用意匠一を平面的に見せる。

そして、この部分が、本件意匠の要部である事から、この相異は重要である。

<2> 内側スポーク部と外側スポーク部における

コントラストの有無

(ⅰ) 本件意匠においては、以下に述べる内側スポーク部と外側スポーク部の各々の空間部分の構成の差異により、内側スポーク部と外側スポーク部が強いコントラストをなし、それが本件意匠の特長となっている。そしてこの特長をいっそう目立たせるために、後述する(ⅱ)(ⅲ)の差異が付けられているのである。これに対し、引用意匠一には、内側スポーク部と外側スポーク部とに分けるような特長は何もない。

すなわち、原判決において、本件意匠においては、ホイール中心付近部分であるデイスク部の内側部分のスポーク部の基本形状をY字形としたことにより内方が大きく五角形状に区画されているのに対し、引用意匠一においては、上記部分の基本形状をV字形としたことにより内方が三角形状に区画されると認定している。

それにもかかわらず、原判決は、上記点について、内側スポーク部は外輪部内周とハブ部外周の間の環状部分であるが、右形状の存在する部分がハブ部外周付近に占める3分の1の領域にすぎず、デイスク部全体としてみた場合、これと一体をなすクロススポーク模様が全体として看者に与える支配的印象を変更せしめる程強いものとはいえないこと及び本件意匠の上記部分の形状に類似するものは広く用いられていることを理由に、本質的差異ではないとする。

しかし、本件意匠は、前記部分がY字形となっているためにハブ外周部分に接する空間が五角形を為し(ここで、五角形をなすすべての空間部分を「一列目空間部分」とよび、センターキャップの中心を中心とする同心円上に位置する空間部のうち、一列目空間とスポークの交差する点を除くスポークと一本のみを隔てて接する空間部分を、「二列目空間部分」とよび、以下「三列目空間部分」、「四列目空間部分」、以下同じ(引用意匠一においても同じ命名法を使用する))、そのために二列目空間部分の面積の方が一列目空間部分の面積とよりも小さく、また次の三列目空間の面積の方が二列目空間の面積よりも大きくなっている。このように、本件意匠においては、一列目空間部分から三列目空間部分までの面積に余り大きな差異はない。そして、右部分は内側スポーク部分に存在する。これに対して、外側スポーク部の大部分を占める四列目空間部分の面積は、三列目空間部分の面積より明らかに大きい。

このように、本件意匠においては、内側スポーク部分に存する空間部分の面積が、ただ単純に外側へいく程、大きくなる訳ではなく且つその面積がほぼ等しいのに対し、四列空間部分の面積を急に大きくすることによって、内側スポーク部と外側スポーク部間にコントラストを設け、右不連続的変化が看者に新鮮な印象を形成するのである。

これに対して、引用意匠一の方は、右V字形のために一列目空間部分がそれぞれ三角形をなしてハブ外周部に接する。そのために一列目空間部分の面積は、非常に小さく、もっとも外側の6列目空間部分を除いて、外側にいく程空間部分の面積が急速に巨大化してゆくのである。このように、引用意匠一には、ただ単に外側に行く程、空間部分の面積が大きくなっていくだけであり、内側スポーク部と外側スポーク部には差異はなく、したがって両者間にはなにもコントラストは発生しない。

また、原判決は、本件意匠のような上記Y字形は、他の意匠においても一般的に使用されるとするが、上記Y字形が上記Y字形を使用している意匠においてどいう役割を担っているかを比較しないで、単に他に使用されていると言うことは全く意味がないことは言うまでもない。原判決は、右事項を全く看過ごして判断しているものである。

(ⅱ) 細線の存在

原判決において、本件意匠が内外スポーク部境界付近に細線を施し、センタープレートを設けているのに対し、引用意匠一には、上記細線は見られないということを認定しているにもかかわらず、右差異は以下の理由によりたいした差異でないとする。

すなわち、原判例は上記理由につき細線といえる程目立つ存在でないこと、別紙意匠目録三記載の意匠(以下、これを「引用意匠二」という)において既に本件意匠と類似したカバープレートを採用していることを上げる。

けれども、右理由のうち、後者については、右部分を使用している意匠において全体的にどういう役割を担っているか、つまり意匠全体として見た場合上記部分の存在によりどういう印象を与えるのかをを比較しないで、単に他に使用されていると言うことは全く意味がないことは言うまでもない。そして、後述するように、引用意匠二は、引用意匠一よりも更に本件意匠と異なることは歴然である。

また、前者の理由のついては、右(2)で述べた事項とともに、右細線の存在が、本件意匠においては、内側スポーク部と外側スポーク部を分け、それにより内側スポーク部と外側スポーク部のコントラストを強調する働きをしているのである。したがって、本件意匠との類似を判断する場合、右細線の有無は重要である。

よって、右細線が右のように重要な役割を担っている以上、右線を施し、センタープレートを設けているのとないのとでは、大きな相異が存在すると言えるのである。

(ⅲ) 浮彫りと透彫り

本件意匠においては、以下に述べる内側スポーク部と外側スポーク部の空間部分の構成の差異により、内側スポーク部と外側スポーク部が強いコントラストをなし、それが本件意匠の特長となっている。そして、本件意匠が、内側スポーク部が浮彫りに、外側スポーク部が透彫りとなっているため、右特長をいっそう強調されることになるのである。したがって、内側スポーク部が、浮彫りか透彫りかと言う点は、本件意匠と引用意匠一が類似か否か判断するのに、重要な要素となるのである。よって、引用意匠一のスポーク部分に浮彫りか否かが不明な場合は、右類似か否かの判断は困難である。

また、もし引用意匠一の内側スポーク部が浮彫りだとしても、引用意匠一のスポーク部分は、前述したように内側スポーク部と外側スポーク部の空間部分により作られたコントラストが存在する構成にはなっていないのであるから、根本的に本件意匠とは異なるのである。

したがって、本件意匠と引用意匠一は類似意匠ではないのであって、それにもかかわらず、原判決が、右意匠を類似意匠としたのは、理由不備、審理不尽の違法があるとともに、意匠法第三条一項三号を適用した点に、法令の解釈適用の誤りがあるから、原判決は破棄されるべきある。

二 引用意匠二との類似性について

(一) 引用意匠二についても、別紙意匠目録二を見るとわかるように、引用意匠一と同様な問題がある。すなわち別紙意匠目録二に記載された引用意匠は、右意匠を装着した自動車の一部とし描かれているイラストにすぎないものである。しかも、右意匠は、斜めから描かれているにすぎないものである。よって、引用意匠二の場合も、本件意匠との類似を判断する上で、別紙意匠目録二記載のイラストのみでは、不十分と言えよう。

(二)<1> また、次に述べるように、別紙意匠目録二記載から認識しうる本件意匠との差異だけで、引用意匠二と本件意匠を比較した場合、本件意匠と引用意匠二は類似意匠ではない。

<2>(ⅰ) 第一に、引用意匠一で述べた事と同じく、本件意匠ではスポークが丸みを帯びており太いのに対し、引用意匠二では、角張っており且つ細い。以上に差異から本件意匠は立体的に見えるのに対し、引用意匠二は平面的に見える。

(ⅱ) 第二に、引用意匠一で述べた事と同じく、引用意匠二では、スポークが作り出す空間部分は、ただ単に外側にいく程、大きくなっていき本件意匠のものとは異なる。

(ⅲ) また本件意匠においては、外側スポーク部の外側の外周部分に、外側スポーク部を取り囲むようにボルトが配置してあるのに対し、引用意匠二においては、何も設けられていない。確かにこの部分は、要部とは言えないが、要部の回りを取り囲んでいる部分であると言う意味で全体として観察すれば、かなり目立つ部分である。また、一方がボルトを何本も配置しているのに、他方には何も無いということ自体が、顕著な差異であって、たとえ要部でなくとも明白に相異すれば、両者を比較した場合、看者の注意を引くのは当然である。そして、前記ボルトを配置した外周部分も含む更に外側の部分の形状も全く相異しているのである。

(ⅳ) 第四に、引用意匠二と本件意匠とは、ハブの形状が全く相異する。すなわち、本件意匠が、ほとんどハブ部を占める大きな偏六形のハブキャップより形成されているのに対し、引用意匠二の方は、本件意匠の場合と比較してハブキャップのハブ部において占める割合が、かなり小さい背の高い六角形のハブキャップより形成されている。

<3> このように、引用意匠二と本件意匠は、類似意匠ではない(なお、参考のため、ドイツ、デニッセルドルフ地方裁判所のBBS/A.C.T.間の本件意匠に関する侵害訴訟の判決の英訳認証謄本を証拠として提出する)。

三 したがって、原判決を破棄して更に相当なる判決を求める次第である。

以上

(添付書類省略)

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