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最高裁判所第二小法廷 平成6年(オ)2371号 判決 1997年10月31日

札幌市豊平区豊平四条八丁目二番七号 小野ビル

上告人

株式会社 北雄産業

右代表者代表取締役

佐藤昌義

右訴訟代理人弁護士

石川元也

間瀬場猛

大阪市中央区高麗橋二丁目一番一〇号

被上告人

株式会社 ジオトップ

右代表者代表取締役

藪内貞男

右当事者間の大阪高等裁判所平成三年(ネ)第二七一六号損害賠償参加事件について、同裁判所が平成六年七月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人石川元也、同間瀬場猛の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難し、独自の見解に立って原判決を論難するか、又は原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものであって、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成六年(オ)第二三七一号 上告人 株式会社北雄産業)

上告代理人石川元也、同間瀬場猛の上告理由

第一、はじめに

原判決は、その結論七において、「B-2装置は、本件発明の技術的範囲に属するものということはできないし、ロ号装置も、同様本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない」として、損害等の判断に入ることなく上告人の請求を斥けた。

その理由とするところは、本件発明の構成要件Cのうちの「スクリュー翼片の圧土縁」の厚みに関し、特許請求の範囲の記載にない独自の見解、解釈を打ち出して、B-2装置も、ロ号装置(四〇ミリメートルの肉厚)も「通常の厚み」を超えるものではないとした点にある。

原判決の右判断は、以下の誤りをおかしているもので、破棄を免れないものと思料する。

第二、原判決には判決に影響を及ぼすべき明かな法令違背がある。

一、本件発明にかかる基礎杭の施工装置についての特許請求の範囲は「先端部に先堀刃3を配設すると共にスクリュー外周縁に上下略同径寸aの圧土縁2'を形成せるスクリュー翼片2を外周面に付設しでなる円錐状の傾斜面を有するオーガヘッド1の上部に、前記スクリュー翼片2の外径寸aと略同径寸bのらせん状凸状部分5を形成設けてなるケーシング4を一体的に連設配置した基礎杭の施工装置」である。

原判決は本件発明の構成要件C「圧土縁2'」について、「通常の範囲の厚みを有するにすぎず、圧土縁を形成するものではないスクリュー翼片は本件発明の構成要件Cでいう『圧土縁2'を形成せるスクリュー翼片2』に該当するものではないというべきである」とし、スクリュー羽根の厚さが二〇ミリメートルを超えないと推認されるB-2装置のスクリュー羽根は、通常の鉄板の厚さを超えるものではないこともおよそ明かな事実であり、本件発明の構成要件Cでいう「圧土縁2'を形成せるスクリュー翼片2」に該当しない、としている。

ところで、特許法七〇条によれば、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならない」と規定している。

そこで、本件発明の構成要件Cの「圧土縁2'を形成せるスクリュー翼片2」についてみると、本件特許請求の範囲の記載には、単に「圧土縁2'」と記載するのみで、右縁の厚みについては何等の限定も加えていない。

従って、原判決が「圧土縁2'」について「通常の厚みを有するにすぎない」スクリュー翼片は本件発明の圧土縁ではない、という解釈は本件特許請求の範囲の記載からは理解することはできないのである。

もとより、特許請求の範囲の記載から一義的に技術的範囲が確定できない場合においては、発明の詳細な説明や図面、あるいは出願から特許に至るまでの経過を通じて出願者が示した意図、特許庁が示した見解を参照にすることは許される。

しかし、本件発明の特許請求の範囲の「圧土縁2'を形成せるスクリュー翼片2」の記載のみで、「圧土縁2'」とは「縁」とみられる一定の厚みを有するもので足りることは一義的に解釈されるものであり、原判決の如く右をさらに発明の詳細な説明や図面から「通常の厚み」を有するにすぎないものを排除するとすることは許されないものであり、この点からも原判決は特許法七〇条の解釈を誤ったものというべきであり、右が判決に影響を及ぼしていることは明白である。

二、また、仮に本件発明の特許請求の範囲の「圧土縁2'を形成せるスクリュー翼片2」の記載のみで右「圧土縁2'」の形状が一義的に定まらず発明の詳細な説明や図面、あるいは出願から特許に至るまでの経過を通じて出願者が示した意図、特許庁が示した見解を参照にし確定しなければならないとしても、原判決の「圧土縁2'」について「通常の厚みを有するにすぎない」スクリュー翼片は本件発明の圧土縁ではないという原判決の解釈は誤っており、右は特許法七〇条の法意に違背する。

原判決は、本件公報に記載の本件発明の詳細な説明欄に記載の発明の目的と作用効果を整理すると

1、本件発明は、「スクリュー翼片、ケーシング等の外周部に肉厚状の圧土面を形成してなる特殊型状のスクリューオーガを用いて堀孔時に前記圧土面の作用によって孔周壁を強固に圧締し孔周を崩壊することなく、杭柱を所定地盤に完全確実に施工しょうとする基礎杭の施工装置」の問題点を解決するためのものである

2、圧土縁を構成することを要件としたのは、円錐状傾斜面の作用と相まって「掘進と同時に削除孔A'せる孔周壁Aはオーガヘッド1の円錐状傾斜面にて外方に拡開され此れがスクリュー翼片2外周縁の圧土面2'により強固に拡開圧締されているが、同時にオーガヘッド先端の掘削土Bも前記孔周壁A'面に自動的に圧土され此れが孔周壁A'面をより強固に押圧締結し以て作業中における孔周壁Aの落土崩壊を完全に防止する「従来の排土作業を大幅に軽減」し得る効果を奏するためである

3、圧土縁について、特許請求の範囲では「圧土縁2'」との名称を付しているが、発明の詳細な説明及び図面の簡単な説明中には「圧土面2'」の語も用いており、「圧土縁2'」が平面状の広がりを有する厚みを持つものが前提となっている

4、圧土縁を具体的に図示した唯一の実施例である願書添付図面第1図にはスクリュー翼片の螺旋間距離の約五分の一ないし六分の一の幅を有する断面L字形の「圧土縁」が図示され、同図に示された「らせん状凸状部分」は「圧土縁」と全く異なる形状で、「圧土縁」より著しく幅(厚み)の小さい鉄線状物として示されている

5、ケーシング4にはスクリュー翼片2の外形寸aとほぼ同径寸bのらせん状凸状部分が設けられ(構成要件D)、発明の詳細な説明から「圧土縁2'」が、ケーシング外周に形成されたらせん状凸状部分とは異なる作用効果を奏する形状のものであり、針金鉄筋のような簡単な構造物ではないこと前提としているとし

本件発明の圧土縁は、結論として、作業中における孔周壁A'の落土崩壊を完全に防止できる効果を奏し得るだけの厚み及び径寸を有し、且つその縁部がほぼ平面状になっていることが必要である、と解し、本件発明の「圧土縁2'を形成せる」とは通常の縁のままとどめておく態様のものから、更に要件への絞込みを加えたものと理解すべき、とし、「通常の厚み」を有するにすぎなスクリュー翼片は本件発明の「圧土縁」ではないとしているのである。

三、しかし、前記1ないし5からは原判決の結論は出てこない。すなわち、

前記1の点では、「スクリュー翼片、ケーシング等の外周部に肉厚状の圧土面を形成してなる特殊型状のスカリューオーガを用いて堀孔時に前記圧土面の作用によって孔周壁を強固に圧締し孔周を崩壊することなく、杭柱を所定地盤に完全確実に施工しょうとする基礎杭の施工装置」の「問題点を解決するためのもの」に重点がある。

つまり、本件発明は、特許公報(甲第二号証)第一欄の三五行から第二欄三行に記載があるように、「掘進する孔周が既に強力に固結されているがためにその後の作業行程である杭柱、またはケーシング等を孔内に挿入する際に該ケーシング周面に強力な摩擦抵抗が生じ、故に該挿入に相当なる圧力を必要とし、而も、挿入時間に非常な時間を要する欠点」を改善し、前記ケーシング挿入作業を極めて円滑良好とすること等を目的するものであり、それは結局、前記5の「ケーシング外周にらせん状凸条部分を付設する」ことで前記の摩擦抵抗を減少せしめることに成功したものである(右経過は原特許との関係で四において説明する)。

従って、かかる目的とスクリュー翼片の構造、圧土縁の厚さや構造とには直接の関係はない。

前記2の点からも、圧土縁は、円錐状傾斜面の作用と相まって孔周壁を強固に圧締させ作業中における孔周壁の落土崩壊を完全に防止する作用を有すれば足り、右圧土縁も円錐状傾斜面との相乗効果によりかかる効果が生じる形状で十分であり、厚みについて何等の限定はない。

前記3の点については、発明の詳細な説明及び図面の簡単な説明中には、「圧土面」の語も用いられてはいるが、それは、「平面状の広がりを有する厚みを持つもの」であればよく、それが厚みについて一定の限定を加える意味は全くなく、まして原判決がいう「通常の厚み」を超える「厚み」を必要とするとの限定は出てこないのである。つまり、肉厚状の圧土縁(面)を形成しておればよく、その圧土縁が回転駆動することによって孔周壁面に圧土するのである。

「施工方法」の「改良に係る」(原判決三一頁九行)のは、前記1で述べたように「ケーシング外周にらせん状凸条部分を付設」したことにあるのであり、スクリュー翼片の外周縁を「通常の厚み」以上の厚みをもたせたことではない。原判決は、本件発明の「改良」点を読みちがえている。

前記4点には、その前段は添付図面を引用し断面L字型の「圧土縁」の図示されていること、後段では「らせん状凸条部分」が「圧土縁」と異なる形状であることをあげ、前記5点では、「らせん状凸条部分」の作用効果をあげている。4の後段と5の点は、まさに本件発明の改良点に関わり、「ケーシングの下降作動を頗ぶる円滑容易に行わしめることができ得る」ことと説明しているのであって、スクリュー翼片の「圧土縁」とは直接関係がない。こうしてみると、4の前段の図示の点のみが「通常の厚み」では足りないとする論拠として上げられるのみなのである。

結局、原判決が、「通常の厚み」を有するにすぎないものは本件発明の「圧土縁」に該当しない、とするのは、わずかに願書添付図面1図(本件公報の第1図)において、「圧土縁」がスクリュー翼片の螺旋間距離の約五分の一乃至六分の一の幅で図示されていることに尽きるのである。

しかし、願書に図面を添付するのは、発明の内容を理解しやすくするため明細書の補助として使用されるものであり、発明にかかる作用、効果の内容を明確にし理解せしめるために必要な場合には実施例の装置等をそのまま縮尺せず特定部分を拡大提示することは当然である。

しかも、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならないため、図面に記載された実施例のみに限定して定めることは出来ないことは明かである。

本件発明についていえば、本件発明は「圧土縁」が円錐状傾斜面と相俟って孔周壁を強固に圧締する作用、効果を平易に説明するために「圧土縁」を拡大し図示したものにすぎず、実施例をそのまま縮尺したものでないことは極めて明白である。

従って、原判決が、本件発明の「圧土縁」を願書添付図面1図の螺旋間距離の五分の一乃至六分の一と推定し、かかる推定をもと「通常の厚み」の圧土縁を本件発明の「圧土縁」より除外するとしたことは理由がない。

四、原判決は、本件発明の出願から特許に至る経過あるいは特許庁が示した判定を看過し本件発明の技術的範囲を誤って認定している。

1、特許請求の範囲の意義を明確に理解するためには、出願から特許になるまでの経過を通じて出願人が示した意図を斟酌すべきである。

本件特許(登録番号第一一五三三六一号)は出願日昭和五二年二月二六日(特願昭五四-一六九二八九〇、但し、追加の特許出願[特願昭五二-二〇五二七]を独立の特許出願に変更)、となっているが、右追加の特許出願[特願昭五二-二〇五二七]は昭和五二年二月二六日、特願五〇-一五九〇四九の追加として出願され、それが、昭和五三年九月一四日、特許出願公開昭五三-一〇五八〇八として公開されたもので、右が昭和五四年に独立の特許出願に変更され、特願昭五四-一六九二八九となったが、その出願日は右の昭和五二年二月二六日が維持され、特公昭五七-四四七九四をへて、昭和五八年六月三〇日設定登録されたものであるが、原特許となった右の特願昭五〇-一五九〇四九(出願日昭和五〇年一二月三〇日、出願公告日昭和五七年六月九日、設定登録日昭和五八年二月二八日、登録番号第一一三六一七七号)そのものも「基礎杭の施工装置」である。(丙第二六~二八号証)

右原特許と本件特許との異同は、原特許はオーガヘッド部分のみの発明であり、右による工法(従来工法)においては、ケーシング等を孔内に挿入する際に協力な摩擦抵抗を生じ、これを著しく減少せしめるため本件特許は更にケーシングの外周にスクリュー翼片と略同径寸のらせん状凸条部分を付設すること(構成要件D)により右を解決したものであり、原判決が本件特許の構成要件としているAの円錐状の傾斜面を有するオーガヘッドを有すること、Bのオーガヘッドの先端部に先堀刃を配設すること、Cのオーガヘッドの円錐状傾斜面の外周面にスクリュー外周縁を上下略同径寸の圧土縁を形成せるスクリュー翼片を付設することは原特許も本件特許も全く同一である。かかる経緯からみると、本件発明の「圧土縁」と原特許の「圧土縁(面)」とは同一のものであることは明かであり、従って、本件発明の「圧土縁」がいかなるものかを認定するにあたっては、原特許において出願者が「圧土縁」をいかに意図し特許庁が判断したかを斟酌することも必要である。

そこで、原特許の公開特許公報(証丙二六号証)の「特許請求の範囲」をみると「外周縁に肉厚状の圧土面2を形成せる」との記載があり、原特許においては「圧土縁」は「肉圧状」のものとされ、その厚みについては「通常以上の厚み」等の特定はなんらされていないのである。

2、また、脱退原告が、ロ号装置と図面を共通にする基礎杭の施工装置について、本件発明の技術的範囲に属するか否かの判定を求めた判定請求事件(昭和五九年判定請求第六〇〇〇一号、甲三号証)の判定も、本件発明の構成要件Cの圧土縁について、「此種オーガにおいて、スクリュー翼片外周部の圧土面は肉厚状のものが普通の形態と思慮され、即ち、掘削土壌の圧締作用のの際の圧力によってスクリューの外周端部が屈曲されるのを防止できるだけの剛性即ち厚みを具備していれば足り、この厚みは掘削場所の土壌の性状、硬さ等により決定されるものと考えられる。」「単にスクリュー翼片を肉厚状にしたものでもよく」「肉厚一八ミリメートル~四〇ミリメートルのものであり、てれが掘削土壌の圧締作用に十分役立つものである」と判定し、肉厚状のものであれば厚さが一八ミリメートルのものであっても本件発明の「圧土縁」に該当する、としている。

判定制度による決定すなわち「判定」(特許法七一条)は、特許権の設定に関与した行政庁が行う一種の鑑定であり、法的拘束力はないと考えられてはいるが、少なくとも専門的、技術的な行政官庁が行う鑑定であるから、裁判所も右を有力な判断資料として斟酌すべきであり、名古屋高裁金沢支部昭和四二年六月一四日判決でも「判定は単なる私的鑑定に過ぎないものとみるのは相当でなく、公正な手続のもとにおける専門家の公的技術的判断とすべきであり、一応権威ある判断の一つとみなければならない」と判示している。

従って、原裁判所においても右判定を尊重し、判定と異る技術的範囲を認定するためには明白で合理的な理由、根拠を示すべきであるが、右はなんら示されていない。

五、以上のとおりであり、原判決は特許法第七〇条適用及び解釈を誤った法令違背があり、右が判決に影響を及ぼすことは明かであり破棄は免れない。

第三、原判決は、採証法則の適用の誤り、審理不尽、理由不備があり右は判決に影響を及ぼすことは明かである。

一、原判決は、本件発明の「圧土縁」がいかなる厚み形状を意味するものかを、「特許請求の範囲の記載」に基づき解釈すべきであり、そのためには本件発明の作用、効果と被上告人装置であるB-2装置の作用、効果の比較及び本件発明にもとづいて現に一審脱退原告(四国地方のみ)及び上告人(それ以外の地域)が実施している具体的装置であるタップヘッド工法による「圧土縁」を検討すべきであるにもかかわらず、これらの証拠を採用せず、且つ右について審理をなさなかった違法がある。

発明における技術的範囲を単に「特許請求の範囲の記載に基づき」文理解釈をなすのみではなく、思想として発明が同一である限り保護すべきであり、特許請求の範囲を記載を出願人が意図した意味を探求して補充する必要がある。

本件発明は、基本的には圧土縁が円錐状傾斜面と相まって土壌を強固に圧締する無排土の基礎杭施工装置であり、原裁判所は、被上告人装置であるB-2装置がかかる本件発明の思想と共通か否かを吟味するべきであった。

もとより、本件特許と全く異なった形状を有する装置で本件発明にかかる装置と同様の作用、効果を生じる場合には右吟味の必要性はないが、原判決においても認めるとおり、少なくとも外形状は円錐状傾斜面を有し、且つ圧土縁に「類似」する幅二〇ミリメートルのスクリュー羽根の厚みを有するB-2装置がいかなる作用、効果を有するのか、仮に本件発明と同一の孔周壁が強固に圧締され排土をなさないならば、本件発明の思想といかなる点が異なるのかを確定する必要がある。

上告人は、原審において右を証明するために小川ひろし氏を証人として申請したが、原裁判所は右を採用せず検討を放棄したのである。

また、原裁判所は、一、二審を通じ提出された証拠で右B-2装置の作用効果を認定すべきであるが、右もなしていない。

更に、原判決は、原審脱退原告の実施するタップヘッド工法装置が本件発明の実施品であると認めるべき証拠はない、としているが、上告人は検丙第一二号証乃至一七号証を提出し、且つ右を立証する小川ひろし氏を証人として申請したものであるが、原裁判所は右を無視もしくは採用をなさず、採証拠法則の適用を誤ったものである。

二、判決は、本件発明の構成要件Cの「圧土縁2'を形成せるスクリュー翼片2」について、「通常範囲の厚みを有するスクリュー翼片」は右に該当しない、としている。

右が誤りであることは、前記第二において詳細に論じたが、更に判決は右「通常範囲の厚み」についてB-2装置の「二〇ミリメートル」を超えないスクリュー羽根の厚みが「通常の鉄板の厚さを超えるものではなことはおよそ明らか」としている。

しかし、およそ工学的な発明の技術的範囲を論じる場合には、判決のいう「通常範囲の厚み」がいかなる数値を意味しているかを理由を示して明かにされるべきであり(例えば、二〇ミリメートルであれば本件発明の圧土縁が予定している効果を生じないとか、本件発明の「圧土縁」はその作用、効果からみて何ミリメートルを超える必要があるとかを科学的に明かにする)、「通常の鉄板の厚さを超えない」から「通常の厚み」である、とするのは全く理由とはならないものである。

更に、原判決は、ロ号装置についても「肉厚が四〇ミリメートルのものであったとしても、通常範囲の厚みを超えるものとは容易に認め難い」と判示するにいたっては、およそ裁判所の理由を付した判決とは言い難いものとなっている。

このように、原判決においては本件発明の「圧土縁」の「厚み」については理由を付さずに認定したもので、これが判決に影響を与えていることは明白である。

原判決の如く、本件発明の「圧土縁」を抽象的に「通常の厚み」を有するものを含まず、とし、具体的な数値を示さないとすれば、およそ本件発明に類似する装置は全て「圧土縁」が「通常の厚み」との理由で本件発明の技術的範囲に含まれないこととなり、その不当性は明かである。

三、前記第二で詳しく論じた如く、原判決は、本件発明の技術的範囲である「圧土縁」に関し、「特許請求の範囲の記載」「発明の群細な説明や図面」「本件特許の出願から特許に至る経緯」「特許庁の示した見解」についての証拠判断を誤っており、右が判決に影響を与えることは明かである。

以上

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