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最高裁判所第二小法廷 平成7年(あ)896号 決定 1995年11月16日

本籍

東京都足立区舎人五丁目二四番地の五七

住居

同青梅市新町一一二二番地の二

会社役員

伊倉邦夫

昭和一九年一一月一四日生

右の者に対する法人税法違反、所得税法違反被告事件について、平成七年八月九日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人武田聿弘の上告趣意は、違憲をいう点を含め、その実質は量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 福田博 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一)

平成七年(あ)第八九六号

上告趣意書

被告人 伊倉邦夫

右の者に対する法人税法違反、所得税法違反被告事件について、上告の趣意は左記のとおりである。

平成七年一一月八日

右弁護人 武田聿弘

最高裁判所第二小法廷 御中

第一 原判決には、刑の量定において、憲法一四条の違反がある。

一 原判決の刑の量定の基礎となる第一審判決の罪となるべき事実の要旨は、(1)被告人は、第一審相被告人伊藤茂(以下「相被告人伊藤」という)と共謀し、第一審被告会社大東産業株式会社の昭和六二年八月一日から昭和六三年七月三一日までの事業年度における法人税額二億七二八七万〇一〇〇円を免れることに加担した、という法人税法違反、(2)被告人は、自己の確定申告書を提出しないで、昭和六二年分の所得税一億五六四二万九八〇〇円、昭和六三年分の所得税三七二〇万二六〇〇円を免れた、という所得税法違反の各罪である。

二 第一審判決は、相被告人伊藤に対し懲役二年、三年間刑の執行猶予、被告人に対し懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円の刑を言い渡し、被告人の刑の量定を不服とする控訴に対し、原判決は控訴を棄却し、第一審の実刑判決を維持した。

(なお、相被告人伊藤に対する判決は控訴なく確定)

三 しかし、本件法人税法違反の首謀者は相被告人伊藤だったのであり、被告人は一従業員として相被告人伊藤の意向に従って行動していたにすぎない。被告会社の設立自体がオーナーとしての相被告人伊藤の脱税の目的からなされているのであり、被告人は相被告人伊藤に使われる身だったのである。

そして、所得税法違反の点は、被告人が相被告人伊藤から分配された右法人税法違反工作により作り出された被告会社の裏金の一部を所得として申告しなかったというものである。被告人としては、右法人税法違反に協力した手前、相被告人伊藤をかばうためにも所得税の申告ができなかったというのが実情である。

右のとおり所得税法違反の点は法人税法違反に派生して生じたものであり、法人税法違反の主犯たる相被告人伊藤をかばうためのものだったのであるから、本件においては法人税法違反が主たるもので、所得税法違反は従たる犯罪ということができる。

そうすると、右法人税法違反の首謀者たる相被告人伊藤が執行猶予付判決であるのに対し、被告人が実刑判決に処せられることは、他の事情を斟酌しても不公平であり、憲法一四条の平等原則に違背するというべきである。

第二 原判決の量定が甚だしく不当であって、これを破棄しなければ著しく正義に反する。

一 本件で主たる犯罪となる前記法人税法違反の点については、被告会社においてほ脱本税は勿論、加算税他関連する地方税等もすべて納付済であり、被告人としてもこれを援用する。

二 被告人は、現実に納税できるか否かはさて措き、本件で所得税の申告さえしておけば脱税の罪に問われることはなかったのであるが、前述のとおり法人税法違反の発覚を避けるために申告できなかったというのが実情である。

しかし、平成元年一二月被告人は期限後申告を了した。

三 被告人は、所得税の納付ができないでいるが、税金納付の意思はあり、そのための努力もしてきた。

被告人は、数年来、手がけている不動産事業(マンション用地の取りまとめ)に多額の資金投下をしているが、現下の不動産不況のため右資金が焦げついた状態にあり、納税資金の捻出ができないでいる。

本件において、被告人が収監される事態となれば、右不動産業の遂行が不能となり、結果的に税金納付の余地がなくなることが明らかである。

四 前述のとおり、本件では法人税法違反の主犯である相被告人伊藤には執行猶予付判決が確定しており、バランスのうえからも被告人のみ実刑に処するのは著しく不当である。

以上の諸点に、被告人の家族関係等被告人に有利な事情を総合考慮すれば、被告人に対する実刑判決を維持した原判決の刑の量定は甚だしく不当であって、これを破棄しなければ著しく正義に反するというべきである。

以上

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