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最高裁判所第二小法廷 平成8年(ク)493号 決定 1997年1月20日

名古屋市東区東新町1番地

抗告人

中部電力株式会社

右代表者代表取締役

太田宏次

右代理人弁護士

高橋正蔵

奥村〓軌

《住所略》

相手方

中川徹

《住所略》

相手方

三浦和平

《住所略》

相手方

早川善樹

《住所略》

相手方

早川彰子

《住所略》

相手方

柴原洋一

《住所略》

相手方

田中良明

《住所略》

相手方

中垣たか子

《住所略》

相手方

小松猛

《住所略》

相手方

増田勝

《住所略》

相手方

小木曽茂子

《住所略》

相手方

天野美枝子

《住所略》

相手方

河田昌東

《住所略》

相手方

大嶽恵子

《住所略》

相手方

大谷早苗

《住所略》

相手方

竹内泰平

《住所略》

相手方

杉本晧子

《住所略》

相手方

小野寺瓔子

《住所略》

相手方

寺町知正

《住所略》

相手方

寺町緑

《住所略》

相手方

大中眞弓

右20名代理人弁護士

松葉謙三

齋藤誠

石坂俊雄

新海聡

名嶋聰郎

平井宏和

矢花公平

米山健也

右抗告人は、名古屋高等裁判所平成8年(ラ)第67号補助参加申出却下決定に対する抗告について、同裁判所が平成8年7月11日にした抗告棄却の決定に対し、更に抗告の申立てをしたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

民事事件について最高裁判所に特に抗告をすることが許されるのは、民訴法419条ノ2所定の場合に限られるところ、本件抗告理由は、違憲をいうが、その実質は原決定の単なる法令違背を主張するものにすぎず、同条所定の場合に当たらないと認められるから、本件抗告を不適法として却下し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

●特別抗告理由書(平成8年7月31日付)

特別抗告理由書

当事者の氏名

特別抗告人 中部電力株式会社

被特別抗告人 中川徹

外19名

事件の表示

名古屋高等裁判所 原審事件番号 平成8年(ラ)第67号

特別抗告受理事件番号 平成8年(ラク)第74号

右当事者間の名古屋高等裁判所平成8年(ラ)第67号補助参加申出却下決定に対する即時抗告事件の決定に対する特別抗告に関し、特別抗告人は、次のとおり特別抗告の理由を提出する。

平成8年7月31日

右特別抗告人代理人

弁護士 高橋正蔵

同 奥村〓軌

最高裁判所

御中

特別抗告の理由

一、原決定には、次のとおり憲法の違背がある。

Ⅰ、第一点

原決定は、憲法第32条に違反するものである。

<1>、憲法第32条は「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」と規定している。この『裁判を受ける権利』は、国民の基本権の一つであるばかりでなく、他の基本権規定(憲法第14条・21条・24条・29条など)との関係において、憲法が基本的人権の保障を裁判所の裁判を通じて司法的に確立するシステムをとっていることを示すものであり、この意味で『裁判を受ける権利』は、一つの基本権たるにとどまらず「基本権を確保するための基本権」として最も尊重されるべき権利である。

また、このことは法の与えた権利が手続の仕組みによって骨抜きになることがないよう「手続法規は、それを超える高次の法である憲法によって根本原則を固定・確保されている」ことを示すものであり、手続法規の立法についてはもちろん、手続法規の解釈に当たっても憲法の定める『裁判を受ける権利』の理念の実現が常に要請されているものである。

而して、民事訴訟手続においては、憲法で保障された『裁判を受ける権利』の発現として、『手続保障(公正な手続の確保)』の理念の実現が要請されているというべきであり、右『手続保障』の理念とは「訴訟において裁判所の判断の対象となる権利義務あるいは法律関係に関しては、それらの法律関係の主体に主張・立証の機会が与えられなければならない」ということを意味している。

<2>、原決定は、「民事訴訟法第64条によれば、補助参加できる者は『訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者』であることを要するところ、『訴訟ノ結果』とは、立法論は格別として、右文言及び趣旨に照らし、訴訟の勝敗即ち本案判決の主文で示される訴訟物たる権利又は法律関係の存否を指し、判決理由中で判断される事実の存否についての利害関係では足りないと解するほかない。」と述べて、特別抗告人の為した抗告を棄却した。

<3>、しかしながら、民事訴訟法第64条は、補助参加できる者について単に「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」と定めているだけであり、「『訴訟ノ結果』とは、訴訟の勝敗即ち本案判決の主文で示される訴訟物たる権利又は法律関係の存否を指す」と規定している訳ではなく、したがって、立法を待つまでもなく、右規定の解釈に当たっても憲法の定める『裁判を受ける権利』の理念の実現が図られるべきである。

<4>、ところで、本件訴訟における原告ら(被特別抗告人ら)の主張は、

ⅰ、中部電力(特別抗告人)は、平成5年12月16日、古和浦漁協に金2億円を支払った。

ⅱ、右中部電力の為した金2億円の支出は違法なものであり、中部電力は、かかる支出を為したことにより、金2億円の損害を蒙った。

ⅲ、被告らは、中部電力の取締役として、善管注意義務ないし忠実義務に基づき、かかる違法な支出を防止すべき義務を負っていたのに、これを怠り中部電力に金2億円相当額の損害を蒙らせた。

ⅳ、よって、被告らは、中部電力に金2億円を賠償すべき義務がある。

というもの〔付属書類一「訴状」-請求の原因・第三〕であり、「『特別抗告人の行為』たる2億円の支出を違法な行為であるとし、その特別抗告人の行為の違法性を前提として、被告らがその違法な支出を防止すべき善管注意義務ないし忠実義務を怠ったこと」をもって<請求原因>としているものである。

したがって、本件訴訟の訴訟物たる被告らの損害賠償義務の存否の判断は、『特別抗告人の行為の違法性』の判断を前提として為されることになるものであり、本件訴訟においては、訴訟物についての判断の前提として、必ず『特別抗告人の行為の違法性』についての判断が為されるものである。

<5>、而して、訴訟物についての判断の前提としてではあれ、『自らの行為の違法性』が判断される裁判について、その行為者自身「自らの行為に違法性がない」と考える場合、その行為者に『自らの行為の適法性』について主張・立証する機会が与えられるべきことは、憲法第32条の定める『裁判を受ける権利』の理念(その発現としての『手続保障(公正な手続の確保)』の理念)からしてあまりに明らかなことであり、本件訴訟のようにその行為者が当事者になっていない場合、その目的は当該訴訟に補助参加することによってしか達せられず、また、補助参加する相手方(被参加人)は『自ら(会社)の行為』を違法であると主張する者(即ち、原告ら)の対立当事者(即ち、被告ら)以外にはあり得ない。(この意味で、本件訴訟の場合、特別抗告人と被告らとは『利害』を共通にし、逆に、特別抗告人と原告らとは『利害』が相反するものであり、原決定は、この点でも『利害』についての洞察を欠く不当なものである。この点は、本項の最後で再述する。)

なお、「その行為者の行為の違法性についての判断は、判決の理由中で示されるものであり、既判力その他の効力を有するものではないから、その行為者が『自らの行為の適法性』について裁判を受けたいのであれば、別訴を提起して裁判を受ければよい」という考え方を述べるものがあるかも知れないが、たとえその行為者が当事者になっていない第三者間の裁判であっても、何らの主張・立証の機会も与えられないまま、『自らの行為の違法性』について誤った判断が為される危険性を甘受しなければならない理由は毫も存在せず、ましてや誤った判断が為された場合、その行為者はその人権を著しく侵害されるに至るものであり、右のような考え方が誤りであることは明らかである。

<6>、以上のとおりであり、前記の如き理由で特別抗告人の抗告を棄却した原決定は、憲法第32条に違反するものである。

なお、原決定は、「本件訴訟の訴訟物は、被告らの抗告人に対する善管注意義務違反ないし忠実義務違反に基づく抗告人の被告らに対する損害賠償請求権及びこれについての遅延損害金請求権であって、本件訴訟の判決の主文における判断について、抗告人は原告である相手方らとは実体法上の利害を共通にし、対立する関係にはなく、逆に、被告らとは実体法上の利害が相反し、対立する関係にあることが明らかであり、もし、被告らへの補助参加を認めることになると、抗告人は、自己に属し、自らがその存否について既判力を受ける損害賠償債権につき、その存在を争う当事者のために訴訟行為をすることが許されるという関係になり、民事訴訟の基本構造に反する結果となる。」とも述べているが、右判示は、極めて皮相的な形式論に過ぎず、本件訴訟のように訴訟物たる被告らの損害賠償義務の存否の判断の前提として『特別抗告人の行為の違法性』が主張されている場合に、特別抗告人が自らの行為に違法性がない(したがって、訴訟物たる被告らの損害賠償義務もないことになる)と考える場合には、前述したとおり特別抗告人と被告らとは『利害』を共通にし、逆に、特別抗告人と原告らとは『利害』が相反するものであり、特別抗告人が被告らに補助参加しても何ら民事訴訟の基本構造に反するものではない。

Ⅱ、第二点

原決定は、憲法第14条1項にも違反するものである。

<1>、憲法第14条1項は「すべて国民は、法の下に平等である。」と規定している。この『法の下の平等』の理念は、当然のことながら単に実体法だけでなく、手続法規たる民事訴訟法においてもその実現が求められているものであり、民事訴訟手続においても「等しい事項は、等しく取り扱われなければならない」ということを示しており、同じ手続申立の法的処理が、事件毎に恣意的に決せられることは許されない。

<2>、而して、原決定は、前記の如き理由で特別抗告人の抗告を棄却したが、他方、本件訴訟と同様の株主代表訴訟に関し、東京地方裁判所民事8部〔商事部〕は、平成7年11月30日の決定(資料版/商事法務143号163頁以下)において、補助参加の趣旨・目的について「補助参加の趣旨・目的は、補助参加人が被参加人を補助して訴訟活動を行うことにより被参加人の勝訴を助け、そのことを通じて補助参加人自身の利益を守るところにあるが、補助参加は、不利益な判決の既判力が自己に及ぶことを避けるためではなく、被参加人敗訴の本案判決がされることによって補助参加人の私法上・公法上の法的地位あるいは法的利益に事実上の不利益な影響が及ぶことを防止するためのものと解される。」とし、「判決の効力が及ぶか否かという観点からは、判決主文中の訴訟物に関する判断と、判決理由中の争点あるいは攻撃防御方法に関する判断との区別は重要であるが、被参加人敗訴判決の補助参加人の法律上の地位(利益)に対する事実上の影響という観点から見ると、それが判決主文中の訴訟物に関する判断によってもたらされるのか、判決理由中の争点あるいは攻撃防御方法に関する判断によりもたらされるのかの区別は必ずしも重要ではないと考えられるから、判決理由中の判断についてのみ法律上の利害関係を有する場合であっても、補助参加人がその法的地位(利益)を守るために被参加人を補助して主張・立証の機会が与えられるべき場合には、参加の利益が認められるというべきである。」とし、「商法上の株主代表訴訟を始めとする代表訴訟においては、役員の個人的な権限逸脱・権限濫用行為が問題となる場合もあるが、会社等の正規の意思決定に基づいて行われた役員の行為の適否・当否が争われる場合もあり、会社等が自ら役員の責任追及を行わないのは、右意思決定を正当と認めるが故ということも、当然あり得る。その場合、会社等は、判決の理由中で右意思決定を違法不当と認められないことにつき、独自の利益をもっているというべきである。・・・・・被告役員の勝訴は、会社等の請求権の否定を意味するが故に、会社等が被告側に補助参加することは、一見、自己矛盾であるように見えるが、代表訴訟には、会社等の損害を回復するという目的とともに、株主等からする会社等の業務執行に対する監督是正権の行使という側面があり、会社等が意思決定を正当として役員の責任追及を行わないという態度をとっている場合、右側面から見れば、会社等は提訴した株主等と対立する隠れた当事者ともいうべき立場にある。したがって、会社等が被告側に補助参加し、提訴株主等と対立する立場で訴訟活動をしたとしても、会社等が前記独自の法律上の利益を有する限り、代表訴訟制度の趣旨に反するものではなく、むしろ、会社等に主張・立証の機会を与えてその意思決定の適否・当否を判断することが適当である。」として、会社の被告側への補助参加を認めており、原決定との間で著しい違いを見せている。

<3>、もとより、裁判官は憲法第76条3項によってその独立が守られており、ある裁判所が、同一の事項について、他の裁判所が他の事件について判示したのと異なる法解釈をとって判断したからといって、直ちに憲法違反ということになる訳ではないが、このような裁判官の独立を考慮に入れてもなお、「合理的に思考する者を納得させることのできないような差別」までが許される訳ではない。もし、そのようなことが許されるとすれば、それは最早「法による裁判ではなく、人による裁判に服することになる」と言わざるを得ない。

この意味で、「裁判官の独立を考慮に入れてもなお、合理的に思考する者を納得させることのできないような差別」の存在する裁判は、憲法の定める『法の下の平等』を害するものである。

<4>、翻って、前記東京地方裁判所の決定に関する訴訟と本件訴訟とを見るに、何れも同じ株主代表訴訟であり、かつ取締役の個人的な権限逸脱・権限濫用行為が問題とされている訳ではなく、被告ら取締役の責任(損害賠償義務)の存否についての判断の前提として『会社の行為(ないし意思決定)そのものの違法性』の存否が争われる事件であるという点においても全く同種の訴訟である。

然るに、前記東京地方裁判所の決定に関する訴訟では会社の被告側への補助参加が認められているのに対し、本件訴訟については会社の被告側への補助参加が認められなかったという決定的な差別が生じているのである。

而して、右差別は、結局のところ「前記東京地方裁判所の裁判官は、補助参加の趣旨・目的や株主代表訴訟の本質、更にはその点を踏まえた株主代表訴訟における関係当事者相互間の『利害』について深い洞察をした上で判断を行ったのに対し、原決定の裁判官が、こうした点について何らの考慮も払わず、<請求の趣旨>にのみ囚われ当事者相互間の『利害』についても形式論で判断した」ことによって生じたものであり、到底「合理的に思考する者を納得させることができる」ような理由によるものではない。

<5>、而して、訴訟物たる被告ら取締役の責任の存否についての判断の前提として『会社の行為(ないし意思決定)の違法性』についての判断が為されるような株主代表訴訟については、前記Ⅰで述べたところからも明らかなとおり、前記東京地方裁判所の判断こそ正しいものであり、補助参加の趣旨・目的や株主代表訴訟の本質、更にはその点を踏まえた株主代表訴訟における関係当事者相互間の『利害』について何らの考慮も払うことなく、当事者相互間の『利害』についても形式論で判断して特別抗告人の為した抗告を棄却した原決定は、極めて不当なものであって、そのまま放置されてはならず、憲法の定める『法の下の平等』に違反するものとして、取り消されるべきものである。

二、付言

株主代表訴訟については、平成5年の商法改正により、《財産上の請求に非ざる請求に係る訴》として、その貼用印紙額が一律8,200円とされたこともあって、その後多くの株主代表訴訟が提起されるに至っている。

このような状況の中、取締役の個人的な権限逸脱・権限濫用行為が問題とされる事件は別にして、取締役の責任の前提として『会社の行為(ないし意思決定)の違法性』が原告によって主張され、訴訟物たる取締役の責任の存否についての判断の前提としてその点についての判断が為されることになる訴訟で、会社が自らの行為や意思決定に違法性がないと考える場合の会社の被告側への補助参加についてすら、裁判所によって判断が区々に別れるというような状態はあってはならないと確信し、このような場合には、前記一のⅠで述べた『裁判を受ける権利』の確保という観点から、会社が『自らの行為(ないし意思決定)の適法性』について主張・立証する唯一の機会として、会社の被告側への補助参加が認められるべきであると確信する。

本特別抗告の申立は、右の如き強い想いから、憲法の定める『裁判を受ける権利』や『法の下の平等』の理念に基づく御庁の公正かつ妥当なご判断を求めるために行ったものである。

是非とも、原決定を取り消し、相当のご判断をされるよう求める次第である。

以上

付属書類

一、名古屋地方裁判所平成6年(ワ)第1486号事件の「訴状」

二、右事件に関する「請求の減縮申立書」

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