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最高裁判所第二小法廷 平成8年(行ツ)191号 判決 1997年10月17日

金沢市武蔵町三番五号

上告人

パテントマニジン株式会社

右代表者代表取締役

木下外枝

右訴訟代理人弁理士

戸川公二

松田忠秋

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 荒井寿光

右当事者間の東京高等裁判所平成五年(行ケ)第一九二号審決取消請求事件について、同裁判所が平成八年五月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人戸川公二、同松田忠秋の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。右判断は所論引用の判例に抵触するものではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田博 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一)

(平成八年(行ツ)第一九一号 上告人 パテントマニジン株式会社)

上告代理人戸川公二、同松田忠秋の上告理由

第一点 原判決には、判決の結論に影響を及ぼすこと明らかな法令違背がある。

一、上告人の不服事由(その一)

実用新案法第三条第二項は当該出願前に公知であった技術から「きわめて容易に考案することができた」考案のみを進歩性を欠如したものとして保護の対象から排除しているところ、原判決は同条項における「きわめて容易に」の実体的意義の解釈を誤り、本願考案に実用新案法が要求する以上の高度の進歩性を求めたものであって、違法である。

そもそも、実用新案法が保護の対象とする考案については、特許法が保護対象としている発明とは異なり、国の技術水準を積極的に向上させる資質を備えているか否かということよりも、寧ろ既成の技術と技術との間に存する隙間を埋め既成物品の実用性や利用性を増進させて国民生活ないしは産業技術を充実化させ得る資質の有無が重視される。このことは、特許法が保護客体である“発明”を「自然法則を利用した技術思想の創作のうち高度のものをいう」(特許法第二条第一項)と定義して「創作の高度性」を発明の成立要件としているのに対し、実用新案法では保護客体である“考案”を単に「自然法則を利用した技術的思想の創作をいう」(実用新案法第二条第一項)と定義して「創作の高度性」を考案の成立要件から外し「創作の高度性」の有無を問わないことからも明らかであり、其処に既成の技術と技術との間に存する隙間を埋めて既成物品の実用性や利用性を増進できる考案(技術的創作)の保護・利用を促進せんとする実用新案法固有の法意の発現が見られる。

特許法と同じく新規技術の保護と利用を目指しておりながら、実用新案法が同法第三条第一項各号列記の公知技術に照らして、特に、当業者が「きわめて容易」に予測できる考案のみを進歩性なきものとして保護対象から除き、社会的に保護に値しない考案として実用新案権付与の対象から排除しているのも(同法第三条第二項)、その当然の帰結である。換言すると、実用新案法は、既成の技術と技術との間に存する隙間を埋めて既成物品の実用性や利用性を増進させ得る考案が多数出願され、実施されることを通じて産業社会の技術が成熟し国民生活の充実化と産業の発達が招来されることを期待しているのであって、其処にこそ、特許制度とは別に実用新案制度という法的性格の近似した技術保護制度を特設した並立の意義が見出せる。

それゆえ、実用新案法において、出願された考案の進歩性の有無を判断する場合の当該考案の内的要素を成すところの目的(産業上の利用分野と技術的課題)、構成(課題解決の手段)、および効果の予測可能性の有無を認定するにあたっても、物品の実用性または利用性の増進の有無、および当該考案の出願前における公知物品との間に存する技術的ギャップの有無(当該考案と公知物品との間のギャップを何らの労を要せずに結合する常識技術が埋め草として存するか否か)が重視されるべきである。ちなみに、平成元年一二月二六日言い渡された東京高等裁判所第六民事部の平成元年(行ケ)第四〇号判決も、「実用新案は、『自然法則を利用した技術思想の創作』(実用新案法第二条第一項)であれば高度のものであることを要しないのであって、その着想に格別のものがあり、しかもその構成によって……優れた作用効果を奏するものである以上」は、……引用例の記載事項を組み合わせれば本願考案の構成を得られるというだけでは進歩性を否定できないと判示しているが、実用新案法第三条第二項の趣旨を、既成の技術と技術との間に存する隙間を埋めて既成物品の実用性や利用性を増進させ得る考案を奨励し、その実施されることを通じて産業社会の技術が成熟し国民生活の充実化と産業の発達が招来されることにあると解釈した結果に他ならない。

そうとすれば、本願考案を引用例考案1と引用例考案2から、当業者がきわめて容易に想到できるとした原判決は、実用新案法第三条第二項の解釈適用に誤りがある。

即ち、原判決は、「審決は、『引用例1記載の考案では、剥離可能な接着剤を有するスタック紙(表葉紙に相当)と葉書表面への接着用の透明粘着剤を下面に有する透明テープ(透明フイルムに相当)が一体となっておらずそれぞれ別体で・・・、積層化アタッチメントではない点』(審決書九頁一一行~一〇頁一行)を本願考案との相違点と認定し、一体化した積層構成物については、引用例2を引用して本願考案と比較しているのである」(判決書二七頁一~八行)と引用例の公知技術を解釈し、不適当な周知技術を引用例考案1と引用例考案2の間を埋める所謂「埋め草技術」として引用して本願考案の進歩性を否定しているが、かゝる原判決の解釈は本願考案の『葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメント』固有の実用性や利用性を完全に無視しており、本願考案に実用新案法第三条第二項を適用するにあたって前提となるべき引用例1(甲第4号証)または引用例2(甲第5号証)に記載されている技術思想、並びに引用例考案1と引用例考案2との間に存する目的、構成および効果上のギャップを埋める「埋め草技術」も全く示していないのである。

上告人が最も強調したい本願考案の特徴は、任意の情報事項を記載可能な不透明の表葉紙と透明フイルムとから成るアタッチメントを葉書の文面文字に貼着させるだけの簡単な処置によって、葉書に何らの前処理も要することなく葉書を複層化することができ、甲第3号証の1の第6図に示すように表葉紙Lにて葉書Nの文面文字を読み取り不能に隠蔽しながら、その表葉紙Lには更に別の情報事項を付加しておくことが出来るようにし(甲第3号証の1:第四欄二九~三五行、および第五欄一~六行)、しかも、任意の情報を記載し(又は記載していない)前記表葉紙を剥した跡には、当該文面文字表面に前記透明フイルムがラミネート加工に劣らぬ美粧化皮膜を形成できるように構成して、既成葉書(官製・私製の双方を含む)の実用性や利用性を増進させて国民生活を利便ならしめた点(甲第3号証の1の第六欄三九行~第七欄一九行)に存するのである。

ところが、原判決が本願考案の進歩性を否定する根拠とする引用例1(甲第4号証)および引用例2(甲第5号証)の何れにも、そのような技術的課題解決の意図の示唆がなく、かつまた、そのような課題の解決手段としての構成も開示されておらず、そして更に本願考案が奏すべき作用効果についても全く予測されていないのである。もっとも、この点に関して被上告人は、原審に繋続してから、乙第1号証~乙第10号証を周知技術と称して提出してきたけれども、その中にも本願考案の『葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメント』固有の実用性や利用性を予測させるべき記載は全くなく、しかも本願考案と引用例1および引用例2との間に存する目的、構成および効果上のギャップを埋める「埋め草」となる技術事項も全く示されていないのである。

よって、本願考案の進歩性を否定した審決を支持した原判決は、実用新案法第三条第二項の解釈適用を誤ったものと言わなければならない。

二、上告人の不服事由(その二)

原判決は、本願考案における「表葉紙」の技術的意義は引用例考案1における「切手」または「スタック紙(切手代用証紙)」や引用例考案2における「面材料シート」と全く差異がないと認定し、この認定を前提にして「本願考案」は、引用例考案1と引用例考案2から、当業者がきわめて容易に想到することができたものといわなければならず、原告主張の本願考案の効果は、引用例考案1と引用例考案2を組み合わせた場合に当然に予測される効果であって、格別のものということができない……」(判決書三七頁六~一一行)と判断している。

しかしながら、「表葉紙」の技術的意義を引用例1における「切手」「スタック紙」、引用例2における「面材料シート」と同一視することは、実用新案法第三条第二項に「その考案については、……実用新案登録を受けることができない」と規定されているところの「その考案」の法概念を無視するものであり、結果的に当該規定の適用を誤ったものと言わなければならない。

そもそも、実用新案登録出願に係る考案の進歩性を審究するにあたっては、出願明細書の「実用新案登録請求の範囲」の記載に基いて当該考案の要旨を認定し、これを出願当時の公知技術(実用新案法第三条第一項各号列記の技術)と対比して「きわめて容易に考案することができた」か否かが判断されるべきである。そして、この場合において「実用新案登録請求の範囲」に記載された用語の意義については、「明細書の実用新案登録請求の範囲以外の部分の記載及び図面の記載を考慮して、実用新案登録請求の範囲に記載された用語の意義を解釈」すべきものとされている(実用新案法第二六条で準用する特許法第七〇条第二項)。ちなみに、平成三年三月八日に最高裁判所第二小法廷で下された昭和六二年(行ツ)第三号「リパーゼ事件」においては、出願発明の要旨を認定するときは「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参照することが許されるにすぎない」と判示しており、この判旨に従ったとしても、「表葉紙」の技術的意義が一義的に明確に理解できなかったときは、本願明細書における「実用新案登録請求の範囲」以外の明細書の記載および図面の記載を参照して、その意義が解釈されねばならないのであって、東京高等裁判所における爾後の判決も、前示最高裁の「リパーゼ判決」の解釈に従って為されている《東京高等裁判所:第六民事部の平成三年九月一九日“平成三年(行ケ)第一四号”判決、同第六民事部の平成四年七月二八日“昭和六三年(行ケ)第二四四号”判決、第一八民事部の平成五年四月二七日“平成四年(行ケ)第三九号”判決など》。

ところで、本願考案における「表葉紙」という用語は、原審の準備書面(第五回)において詳細に説明陳述したとおり、“記載面”あるいは“葉書の表面に貼付する”という用途的意味合いを有する「表」なる漢字と、“かみ”あるいは“文字を書きつけるもの”という意味合いを有する「葉」なる漢字と、“文字を書きつける媒体の代表である用箋”を意味する「紙」という漢字を「表葉紙」と結合して成る合成語であって、全体として「葉」あるいは「葉」という大きな文字記録媒体の概念から「竹簡」「木簡」などの如き剛体製の文字記録媒体を除いたフレキシブルな用箋部材を意味しているけれども、非日常的な用語であるため、その技術的意義は「実用新案登録請求の範囲」の記載だけでは一義的に理解が困難である。したがって、本願明細書における「実用新案登録請求の範囲」以外の明細書の記載や図面の記載を全く考慮することなく、本願考案における「表葉紙」の技術的意義を引用例考案1の「切手」「スタック紙(切手代用証紙)」や引用例考案2における「面材料シート」と同一視した原判決は実用新案法第三条第二項適用にあたっての本願考案の要旨認定に重大な過ちを冒したものと言わなければならない。即ち、原判決は、甲第3号証の1(本願明細書)の四欄二七~三七行に「…、葉書Nを用意し(第3図ないし第5図)、その表面と、複層化アタッチメントMの表面に、それぞれ、所要の文字や図案を印刷し、あるいは手書きで記載する。同図の場合は、能登半島の旅館が暑中見舞の葉書を出すとともに、その旅館の広告を葉書の文面文字として載せたもので、葉書Nにはその広告を、複層化アタッチメントMには「暑中見舞」の文章が記載されている。また、葉書Nの裏面には、宛名を書いておく。すなわち、葉書Nは、普通の葉書と同様に使用する」と複層化アタッチメントの情報多重伝達作用が第3図、第6図、および第8図の図解を付して明記されてあり、更に同五欄一~四行にも「複層化葉書MNは、葉書N表面の広告が表葉紙Lによって隠蔽されているので、その文面文字は読取り不能であり、したがって、その内容が未開ないし秘密のままの状態で配達される」と文面文字隠蔽による機密保持作用が明記されてあって、「表葉紙」の技術的意義が明確に説明されてあるのに、このような本願明細書・図面の記載を完全に無視して本願考案における「表葉紙」の技術的意義を誤って認定しているのである。

したがって、原判決は、実用新案法第三条第二項の適用を誤った法令違背があるものと言わなければならない。

第二点 原判決には、主文の結論に影響を及ぼすべき重要な事項について、判断遺脱ないしは理由不備の違法(民事訴訟法第四二〇条第一項第九号、同法第三九五条第一項第六号)がある。

一、原判決が本件訴訟において示した判断

原判決は、原告の請求を棄却するにあたって「本願考案は、引用例考案1と引用例考案2から、当業者がきわめて容易に想到することができたものといわなければならず、原告主張の本願考案の効果は、引用例考案1と引用例考案2を組み合わせた場合に当然に予測される効果であって、格別のものということができない……」(判決書三七頁六~一一行)と判断し、このような判断を行う際に引用した前記引用例考案1と引用例考案2との組合せ関係に関しては「審決は、『引用例1記載の考案では、剥離可能な接着剤を有するスタック紙(表葉紙に相当)と葉書表面への接着用の透明粘着剤を下面に有する透明テープ(透明フイルムに相当)が一体となっておらずそれぞれ別体で・・・、積層化アタッチメントではない点』(審決書九頁一一行~一〇頁一行)を本願考案との相違点と認定し、一体化した積層構成物については、引用例2を引用して本願考案と比較しているのである」(判決書二七頁一~八行)と判示している。

そして、原判決は、右判断に至る理由として、次の事項を挙げる。

(1) 引用例1について

<1> 「引用例考案1における『親展扱いにする』こと及び『親展内容部』の意味は、それぞれ『葉書の文面文字を隠蔽する』こと及び『葉書の文面文字を隠蔽する部分』であること、スタック紙と感圧接着透明テープとを貼着体と呼ぶことに誤りはないから、引用例1記載のスタック紙は、切手を貼着した場合と同様、葉書の親展内容部を覆ってその機密を保ち、剥離することにより親展内容部が見えるようにした点では、本願考案の表葉紙と変わるところがなく、また、感圧接着透明テープは本願考案の透明フイルムに相当するものといえるから、原告の指摘する点は、いずれも本願考案と引用例考案1との一致点と認められる」(判決書三〇頁一七~三一頁八行:以下、「判断理由<1>」と称す)。

<2> 「被貼着側の基体には何ら加工を施すことなく、単に押し当てるだけで複層化される構成は、引用例2のほか、特公昭五五-一五〇三五号公報(乙第4号証)及び実公昭五七-六〇〇三六号公報(乙第5号証)にそれぞれ記載されたシート類において等しく認められるところであり、そのこと自体周知ということができるから、審決が『貼着シートに共通した目的』と認定した点に誤りはない」(判決書二八頁一八行~二九頁五行:以下、「判断理由<2>」と称す)。

<3> 「本願考案における『あらゆる用途に好適に』という要件は、本願明細書全体を見ても、原告主張のように、各別の葉書一枚一枚にラミネート加工等の煩雑な加工を要しないことを要するものと限定して解釈すべき理由はない。引用例考案1においても、スタック紙の貼着対象となる葉書(私製、官製)については特に限定は認められず、また、その構成からみて本願考案の葉書の文面文字隠蔽用複層化アタッチメントに比して、対象を特に限定して解すべき理由も認められないから、この点で両者に差異があるということはできない」(判決書二九頁六~一六行:以下、「判断理由<3>」と称す)。

<4> 「一方、引用例1(甲第4号証)には、『親展内容部4にあらかじめ・・・感圧接着透明テープを貼着しておれば、めくる時、文字が取られるということはない』との記載(同号証二頁一三~一五行)があり、この記載からみて、引用例考案1においても、スタック紙を剥離したとき葉書の親展内容部表面には上記テープが残存することは明らかであるから、この点において本願考案と引用例考案1とは変わるところがない」(判決書三〇頁五~一二行:以下、「判断理由<4>」と称す)。

<5> 「切手代用スタック紙でないシート状貼着物であれば、そのサイズ、貼着位置等については切手又は切手代用紙のような規制を受けないことは自明であり(特開昭五四-五六五二六号公報・乙第1号証一頁右欄一八~二〇行、実願昭五二-四六一〇〇号……マイクロフイルム・乙第2号証の明細書二頁六~八行)、葉書の文面文字に合わせて任意の大きさにすることは可能であるし、その表面に文字等を記載することも任意であるということができる(引用例2、前掲特公昭五五-一五〇三五号公報・乙第4号証及び実公昭五七-六〇〇三六号公報・乙第5号証)」(判決書三二頁二~一二行:以下、「判断理由<5>」と称す)。

(2) 引用例2について

<6> 「この引用例考案2の「面材料シート』、「透明な重合物材料層』及び『透明な接着剤層』が、本願考案の『表葉紙』、『透明フイルム』及び『透明粘着剤』に対応することは明らかであり、引用例2(甲第5号証)の記載からすると、引用例2の『基体』には特段の限定がなく、『葉書』を用いることが可能であると認められるから、引用例考案2において基体として葉書を用いた場合、引用例考案2が、本願考案の要旨のうち、『透明フイルムと、該透明フイルムの上面に剥離可能に貼着し……(た)表葉紙と、前記透明フイルムの下面に塗布する葉書表面への接着用の透明粘着剤とからなり、前記透明フイルムに対する前記表葉紙の剥離強度は、葉書に対する前記透明フイルムの剥離強度より小さく、前記表葉紙、透明フイルムは、前記透明粘着剤を介して葉書表面に貼着すること」の構成を有するものと認められる」(判決書三三頁一四行~三四頁八行:以下、「判断理由<6>」と称す)。

<7> 「引用例考案2の面材料シートは、『例えば面材料を業務カード、会員カード又はクレジットカード用に予め印刷しこれまた予め印刷した基体に貼付けて顧客に送ることができ、顧客はカードを積層物の残りの部分から剥ぎ取ることができる』(甲第5号証三頁右上欄二~六行)ものであり、また、『基体も積層構成物で被覆される部分も含めて予じめ印刷可能であり、その部分は透明な重合物及び接着剤を使用する限り面材料を取除くと見えるようになり読み取り可能である』(同号証四頁右下欄五~九行)のであるから、基体は予め印刷可能であり、一体をなす積層構成物は基体に接着可能なものであって、基体に積層構成物を貼りつけて顧客に送ることができ、かつ、面材料を基体から取り除いても基体に付着した透明な重合物は残存し、面材料で被覆された部分の印刷は面材料を取り除くことによって透明な重合物層を通して見えるようになり、それまでは隠蔽状態にあることが認められる。そうすると、引用例2には『隠蔽』や「親展扱い』を目的とすることを明示した直接の記載は認められないとしても、引用例考案2が、この目的を達成できる十分な機能を有することは前記記載から明らかというべきであるから、引用例2には前記目的が示唆されているということができる。・・・・・・、また、原告は引用例考案2の使用形態は、本願考案のそれと全く反対であるとも主張している。しかし、引用例2の記載から引用例考案2の明示された目的が基体から剥ぎ取った後の面材料の使用にあるということができたとしても、それが基体の印刷を隠蔽する機能を持ちうることは前示のとおりである」(判決書三四頁九行~三五頁一八行:以下、「判断理由<7>」と称す)。

<8> 「前示当事者間に争いのない本願考案の要旨によれば、透明フイルムと表葉紙との関係については、『透明フイルムと、該透明フイルムの上面に剥離可能に貼着し、葉書の文面文字が読取り不能な表葉紙」と規定されているのみで、表葉紙と透明フイルムの大きさの関係については何ら限定は認めちれないのであるから、本願考案を表葉紙と透明フイルムが同じ大きさのものに限定して解することはできないというべきであるが、仮に限定して解したところで、透明フイルムとその上に剥離自在に貼着されたシートの大きさを同一にしたものは、引用例2、前掲特公昭五五-一五〇三五号公報(乙第4号証)及び実公昭五七-六〇〇三六号公報(乙第5号証)に記載されているように、それ自身は周知のものであり、しかもその大きさ自体については限定があるわけではないから、原告の主張は失当である(判決書三六頁一一行~三七頁五行:以下、「判断理由<8>」と称す)。

二、上告人が原判決を判断遺脱ないし理由不備とする根拠

拒絶審決取消訴訟における判決には、主文に示す結論に至る理由として本願考案の技術分野における当業者の技術常識や技術水準とされる事実等その判断の根拠を論理則に従って合理的に示すべきところ、原判決は本願考案の重要な構成要素に対する判断を遺脱して原告の請求を棄却する誤つた結論を導いたものであるから判断遺脱の違法事由があり、かつ、結論を支える合理的理由も示していないから理由不備の違法事由がある。

(1) 判断理由<1>~<8>に共通の違法事由

本願考案の要旨が「透明フイルムと、該透明フイルムの上面に剥離可能に貼着し、葉書の文面文字が読取り不能な不透明な表葉紙と、前記透明フイルムの下面に塗布する葉書表面への接着用の透明粘着剤とからなり、前記透明フイルムに対する前記表葉紙の剥離強度は、葉書に対する透明フイルムの剥離強度より小さく、前記表葉紙、透明フイルムは、前記透明粘着剤を介して葉書表面に貼着することにより葉書の文面文字を隠蔽することができ、名宛人において前記表葉紙を剥離することにより、前記透明フイルムを通して葉書の文面文字を読取り可能な大きさにすることを特徴とする葉書の文面文字隠蔽用複層化アタッチメント」にあるとの原判決の認定(判決書二頁一八行~三頁九頁)には、上告人も異論がない。

しかしながら、原判決の判断過程には、本願考案における右「葉書の文面文字が読取り不能な不透明な表葉紙」の語義解釈を左右し、延いては判決の結論をも覆すほどの重大な判断遺脱、審理不尽があるので、不服である。

即ち、原審の記録上も明らかなことであるが、本願考案における「葉書の文面文字が読取り不能な不透明な表葉紙」すなわち透明フイルムの上面に剥離可能に貼着されているところの“表葉紙”の技術的意義については、上告人は「当該表葉紙の表面に「所要の文字や図案を印刷し、あるいは手書きで記載』できるようにして情報多重伝達を可能にするためと(甲第3号証の1:第四欄二九~三〇行参照)、葉書の文面文字隠蔽のため」と陳述し(準備書面<第四回>別紙七頁四~八行)、また、本願明細書(甲第3号証の1:五欄一~六行)にも「葉書表面の記載事項を隠蔽守秘の状態に保ちつゝ暑中見舞いという体裁で情報の多重伝達が可能であること」が明記してあると具体的に指摘し(準備書面<第六回>三頁一〇~一三行)、さらに「葉紙」という語が“葉”あるいは“葉”という大きな文字記録媒体の概念から「竹簡」「木簡」などの如き剛体製の文字記録媒体を除いたフレキシブルな用箋部材を意味していることを甲第9号証および甲第10号証を引用しつゝ詳細に説明陳述している(準備書面<第五回>二頁九行~三頁一行)。にも拘わらず、原判決は、これら上告人の主張事実に対し何らの判断も示すことなく、しかもその判断しなかったことについて合理的説示も全くすることもなく、引用例考案1における「スタック紙』、および引用例考案2における「面材料シート」が本願考案における「表葉紙」に該当するとの事実に反する誤った結論を導き出しているのである。

そしてまた、先にも指摘したとおり、“表葉紙”は「当該表葉紙の表面に「所要の文字や図案を印刷し、あるいは手書きで記載』できるようにして情報多重伝達を可能にするためと、葉書の文面文字隠蔽のため」に採用した手段であって、そのことについては原審において陳述しており(準備書面<第四回>別紙七頁四~八行)、また本願明細書(甲第3号証の1)にも複層化アタッチメントの情報多重伝達作用と文面文字隠蔽による機密保持作用が明記してあるのである。

右の複層化アタッチメントMの表面部を構成する技術要素こそ、“表葉紙”であり、その表面には文字や図形などを記載して意思や感情を表現して、任意の事項を記載した葉書Nに貼着して複層化葉書MNとなし、情報の多重伝達と機密事項の守秘とを同時に満足するための極めて重要な技術要素なのである。

しかるに、原判決は、上告人の右主張陳述ならびに本願明細書(甲第3号証の1)における右記載事実を見落とし、その結果、本願考案における「表葉紙」を、引用例考案1における「切手」「スタック紙(切手代用証紙)」や引用例考案2における「面材料シート」と混同するという錯誤に陥り、引用例1および引用例2において右「切手」「スタック紙(切手代用証紙)」や「面材料シート」が情報の多重伝達を可能ならしめる技術手段として全く意図されていないのに、またそのように解釈すべき合理的理由も全く付することなく、引用例1と引用例2の証拠解釈を誤ったまゝ漫然と「本願考案の効果は、引用例考案1と引用例考案2を組み合わせた場合に当然に予測される効果であって、格別のものということができない」とする特許庁の拒絶審決を支持したのである。

しかして、原判決における判断理由<1>~<8>は、何れも本願考案における「表葉紙」の実体的意味に関する判断を完全に遺脱しているであって重大な瑕疵を含むものであり、また、判断理由<1>~<8>のように解釈すべき合理的根拠も全く明示されてないから、その点において原判決には理由不備の違法があると云わねばならない(昭和一六年一一月一日大審院判決:昭和一六年(オ)第五四三号)。

(2) 判断理由<1>について

原判決は判断理由<1>において「引用例1記載のスタック紙は、切手を貼着した場合と同様、葉書の親展内容部を覆ってその機密を保ち、剥離することにより親展内容部が見えるようにした点では、本願考案の表葉紙と変わるところがなく」と決め付けているが、このような断定は「切手」や切手代用証紙である「スタック紙」を頭から「表葉紙」と同一化させんとする所謂“論点先取の誤謬”を冒すものに他ならず、予断排除の原則に違背していると言わざるを得ない。先にも述べたとおり、「表葉紙」は表面に所要の文字や図案を印刷し、あるいは手書きできるようにして情報多重伝達を可能にすると共に、葉書の文面文字を隠蔽した状態での親展葉書郵送をも可能にするために本願考案において始めて採択された技術要素であって、郵券金額を表示するだけで一切の意思表示・感情表現を許さない「切手」や切手代用証紙である「スタック紙」とは技術的意味が全く異質であり、これを何の合理的根拠も示すことなく、表葉紙と変わるところがないとした判断は理由不備に該当するものであり、到底、世人を納得させるものではない。

そしてまた、判断理由<1>において原判決は、「感圧接着透明テープは本願考案の透明フイルムに相当するものといえる」とも断定しているが、これも不当な決め付けである。引用例考案1にあっては、葉書の文面文字を「切手」または切手代用証紙である「スタック紙」のサイズの範囲内で隠蔽することが可能であるとしても、感圧接着透明テープを目的とする葉書文面文字の上に貼着するためには、まず当該感圧接着透明テープを「切手」または「スタック紙」と同一サイズに切断するという動作が必要であり、次いで、切断した感圧接着透明テープを目的とする文面文字の真上に位置するように確実に葉書に貼着させるという第二の動作が必要となり、そして更に葉書面に貼着された感圧接着透明テープの上に位置を狂わすことなく正確に「切手」または「スタック紙」を貼り合わせるという三つの面倒な作業を必要とするのである。しかるに、原判決は、これらの事情を全く無視して「原告の指摘する点は、何れも本願考案と引用例考案との一致点である」と断定し、その合理的理由は全く示していないのである。

本来、実用新案制度は、既成の技術と技術との間に存する不便や不合理を簡易な工夫によって解決することを本質とするものであるところ、右のような実用上の効果を達成する本願考案は正に実用新案法による保護が与えられるべき適性を有するものである。

よって、原判決における判断理由<1>は、理由において不備であり、そのことは判決の結論に重大な影響を与える事項である。

(3) 判断理由<2>について

原判決は、「被貼着体の基体には何ら加工を施すことなく、単にその表面に押し当てるだけで複層化される構成は、……にそれぞれ記載された「シート類」において等しく認められるところであり、そのこと自体周知ということができるから、審決が『貼着シートに共通した目的」と認定した点に誤りはない」と特許庁の審決を支持する判断をしている。

しかしながら、かゝる原判決の判断は、本願考案が任意の情報事項を記載可能な不透明の表葉紙と透明フイルムとから成るアタッチメントであり、それを葉書の文面文字に貼着させるだけの簡単な処置によって、葉書に何らの前処理も要することなく複層化することができるうえ、甲第3号証の1(本願の明細書・図面)の第6図に示すように表葉紙Lにて葉書Nの文面文字を読み取り不能に隠蔽しながら、その表葉紙Lには更に別の情報事項を付加しておくことが出来るようにし、しかも任意の情報を記載し、又は記載していない前記表葉紙を剥した跡には、当該文面文字表面に前記透明フイルムがラミネート加工に劣らぬ美粧化皮膜を形成できるように構成して、既成葉書(官製・私製の双方を含む)の実用性や利用性を増進させて国民生活を和便ならしめたものであることを見落として為されたものであるから、結論を左右する重要な事項について判断遺脱の違法があり、また右事項を判断しなかった合理的説明も欠如しているから、理由不備の違法事由にも該当する。

この点について更に詳しく検討すると、本願考案が「葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメント」に関する考案であって、単なる貼着シートに関する考案ではないことは、原判決において当事者間に争いのない事実として認定されている「本願考案の要旨」(判決書第二頁一九行~第三頁九行)からも明らかである。それゆえ「葉書そのものには何ら加工を施すことも必要とせず」という本願考案の目的は、本願考案の出願当時における“葉書の文面隠蔽”の技術分野における当業者の常識に照して判断せらるべきであり、それなくしては本願考案の目的の内容を的確に正しく理解することは到底できないはずである。

しかるに、原判決は、まず本願考案が「葉書の文面隠蔽用」に用途が限定されている事実を看過し、葉書の文面隠蔽用とは到底いい得ない引用例2や乙第4号証、乙第5号証に記載のシート類を根拠にして、本願考案の前記目的が単に「貼着シートに共通した目的」であると断定しているのである。したがって、原判決は、本願考案が葉書の文面文字を隠蔽して郵送することを目的とした技術であることを見落とし、この事実に対する判断を遺脱して為されたものであって、このような判断の遺脱は判決の結論に重大な影響がある。ちなみに、東京高等裁判所(第一三民事部)は、平成二年(行ケ)第一一三号拒絶査定取消請求事件(所謂「クリーンペーパー事件」)の判決(平成五年二月一〇日)において『クリーンペーパーおよびその製造法』の特許出願における“クリーンペーパー”の意義について「本願発明の特許請求の範囲の記載をもって、無塵性の程度につき、一義的な限定があるものと認めることはできないけれども、少なくとも、本願出願当時問題とされていた程度の発塵性を防止し、実施例で達成されている程度の無塵性を有する紙を特許請求したものと解する余地はあり、この点の限定は、明細書の記載事項の範囲内において補充訂正せしめれば足りるものと解することができる」と判断し、このような用途限定があるにも拘らず、それを看過して進歩性を否定した特許庁の審決を違法として取り消している。また東京高等裁判所(第一八民事部)も平成三年(行ケ)第一二九号の判決(平成五年一一月二五日)において、『プログラム可能な補聴器』の本願発明に対し、引用発明1は補聴器に関するものであり、引用発明2はオーディオ機器における音質調整回路に関するものであって、産業上の利用分野を異にすること、両発明の技術的課題・目的、作用効果も相違していることなどの点を根拠に、引用発明1および引用発明2は「音質調整技術」に関する点で共通しているとの被告(特許庁)の主張を斥けたうえ、引用発明2の装置を引用発明1に付加することは当業者において容易に想到し得ることゝは認められないとして特許庁の拒絶審決を取り消しているのである。

しかして、本願考案にあっても、本願の出願当時、「葉書の文面隠蔽」の技術分野において隠蔽用のシールを剥がした後の葉書表面を美麗に保持することが必要とされるときは隠蔽用のシールを貼着する前に、被貼着体である葉書側に対してラミネート加工等の前処理を施すことが必須であった(甲第3号証の1第2欄第一四~二一行、甲第4号証、乙第2号証)。換言すると、「葉書の文面隠蔽」の技術分野において、本願考案の出願当時の技術水準としては、被貼着体である葉書側に前処理を施すことにあったのであり、本願考案の前記目的は、かゝる出願当時の技術水準に徴すれば、コペルニクス的な発想の転回があったのである。

したがって、結論を左右するほど重要な本願明細書の右記載事項や本願考案において特別の付加的条件として明確に特定されている用途限定を見落とした原判決には、審理不尽および判断遺脱の違法があり、また引用例考案1と引用例考案2との間に存する技術上の隙間を埋める適切な「埋め草技術」も合理的根拠も示していない原判決には理由不備の違法もあるというべきである。

(4) 判断理由<3>について

原判決は、判断理由<3>において「本願考案における「あらゆる用途に好適に」という要件は、本願明細書全体を見ても、原告主張のように、各別の葉書一枚一枚にラミネート加工等の煩雑な加工を要しないことを要するものと限定して解釈すべき理由はない」と断定しているが、かゝる判断には、判決の結論を左右するほど重大な影響を及ぼすべき本願明細書の重要な記載を見落としているから判断遺脱の違法があり、また、そのような判断に至る論理的過程および合理的根拠も示していないから理由不備の違法があると言うべきである。

即ち、本願明細書における“考案の目的”の項の後段には、「……私信を含むあらゆる用途に好適に適用でき、また表葉紙の剥離により、葉書の表面にラミネート加工に劣らぬ美粧性を有する透明面が表出されるようにした葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメントを提供することにある」(甲第3号証の1:第三欄一一~一五行)という本願考案の解決すべき技術的課題が掲げてあるが、ここにいう「あらゆる用途に好適に」という目標が、従来においては葉書側にラミネート加工等の前処理を施すことが不可欠で手数が非常に煩雑であり、「葉書の枚数が少ないときにはコスト的に割高となり、したがって単なる私信としては実際上使用できない」という本願考案の出願当時の複層化葉書の不便を解決することに向けられていることは本願明細書(甲第3号証の1:第二欄一四行~第三欄六行)の記載から明らかであり、この記載事実および原審における上告人の陳述を全く無視し、上告人の主張を理由がないとして排斥するだけで合理的理由を全く示さなかった原判決に判断遺脱ないし審理不尽の違法があることは明らかである。

また更に、本願明細書における右「私信」というのは、発送に付される「葉書の枚数が少ない」場合を例示したに過ぎないものであり、それゆえ、「私信を含むあらゆる用途に好適に」という文言が、葉書の枚数が少ない場合であっても、その1枚1枚に対して煩雑でコストが割高なラミネート加工等の前処理を施さなくても利用可能であることを意味していることも、本願明細書の記載から明らかである。

原判決は、「あらゆる用途に好適に」という文言を「格別の葉書1枚1枚にラミネート加工等の煩雑な加工を要しないことを要するものと限定して解釈すべき理由はない」と独断するだけで、その合理的な根拠を全く明示していない点において、理由不備の違法があるものと言わなければならない。

さらに付言すると、原判決は、引用例考案1は、「郵便規則を遵守し併せて葉書の表側の親展内容部の機密保持の問題を解決すべく、葉書に貼着する切手又は切手代用紙(スタック紙)を利用して、それを親展内容部上に貼着することによって、機密を保持するものであると解することができる」と引用例考案1の内容を正確に認定している(判決書二五頁一七行~頁二行)。そして、ここにいう葉書が私製葉書に限られていることは、甲第4号証の記載から明らかである(甲第4号証:二頁右上欄一一行、同頁左下欄一行)。言うまでもなく、官製葉書は料金が納付済であって、切手や切手代用紙の貼着が不要であることが自明だからである。しかるに、原判決は判断理由<3>において、一転して「引用例考案1においてもスタック紙の貼着対象となる葉書(私製、官製)について特に限定は認められず、その構成からみて本願考案の葉書の文面文字隠蔽用複層化アタッチメントに比して、対象を特に限定して解すべき理由も認められないから…」と、先にした認定と完全に矛盾した判断をしているのであり、原判決には結論に重大な影響を及ぼすべき事項について理由齟齬の違法事由も併有するものと云わねばならない。

(5) 判断理由<4>について

原判決は、判断理由<4>において「引用例考案1においても、剥離紙を剥離したとき葉書の親展内容部表面には上記テープが残存することは明らかであるから、この点において本願考案と引用例考案1とは変わるところがない」と結論しているが、その唯一の根拠、は「引用例1(甲第4号証)には、「親展内容部4にあらかじめ……感圧接着テープを貼着しておれば、めくる時、文字が取られるということはない』との記載(同号証二頁一三~一五行)」があることである。

しかしながら、原判決には、右判断理由<4>に至る過程においても、重要な事項についての判断遺脱があり、かっ、その判断を支える合理的根拠も欠如しているので理由不備の違法があるのである。

即ち、上告人は、本願考案の目的が単に「透明フィルムが葉書の表面に残る」ことだけを意味しているのではなく、表葉紙を剥がすに際し、葉書の表面がむしれたり、透明フィルムが同時に剥がれたりしてしまうことが絶対に起こらないことであることを詳細な理由を付し繰り返して主張陳述している(訴状補充書一八頁六~一九行、準備書面<第一回>二四頁三行~二六頁一三行、六五頁一一行~六六頁一五行、準備書面<第二回>五頁七行~六頁九行、準備書面<第四回>一三頁(d)項)。

しかるに、原判決は、本願明細書における本願考案の効果についての一文のみを根拠にして、上記本願考案の目的の内容を全く審理することもなく、また、その審理を要しないことの合理的根拠を明示することもなく、上告人の主張を一蹴しているのであって、判断遺脱ないし理由不備の違法を冒していることは明らかである。

なお、上告人の原審において陳述した主張では、引用例考案1のように、スタック紙と透明フィルムとを葉書の表面に個別に貼着すると、両者のサイズが同一であっても、また、両者のサイズが同一でなければ猶更のこと、スタック紙が葉書の表面に直接貼付される部分が生じ、スタック紙を剥がす際に葉書の表面がむしれてしまい、葉書表面の美粧性が損なわれることを詳細に説明しているのであるが、原判決は、この主張事実も完全に見落として判断を遺脱し、また右の主張事実を否定する合理的根拠も全く示していないのである。

したがって、原判決には、判断理由<4>の点においても、判断遺脱の違法があり、かつ、理由不備の違法があるというべきである。

(6) 判断理由<5>について

判断理由<5>として原判決は、「切手代用スタック紙でないシート状貼着物であれば、そのサイズ、貼着位置等については切手又は切手代用紙のような規制を受けないことは自明」(判決書三二頁二~八行)であること、そのようなシート状貼着物を「葉書の文面文字に合わせて任意の大きさにすることは可能であるし、その表面に文字等を記載することも任意である」(判決書三二頁八~一二行)ことを挙げている。

しかしながら、本願の拒絶審決に引用された引用例1(甲第4号証)および引用例2(甲第5号証)および原審において被上告人が提出した乙第1号証~乙第10号証の中には、上告人が原審でも繰り返し主張陳述してきたとおり、表面に所要の文字や図案を印刷し、あるいは手書きで記載できるようにして情報多重伝達を可能にすると共に、葉書の文面文字を隠蔽した状態での親展葉書郵送をも可能にする本願考案の“表葉紙”に該当する技術要素を開示したものは一つもなく、それらに開示されているシート状貼着物が、仮にサイズや貼着位置の任意選択が可能であったとしても、それらのシート状貼着物は本願考案における“表葉紙”とは全く技術課題が異なっており、情報多重伝達と親展葉書郵送とを同時的に満足することは決して出来ないのである。例えば、引用例考案2における「面材料シート」は、レッテル、荷札、ステッカー、業務カード、クレジットカードとして用いられるものであり、なるほど、その表面にはレッテルあるいはステッカーとしての文字・図形の印刷、荷札としての宛名書き、業務カードあるいはクレジットカードの目的に合致した印刷が施されるものになるが、其処には発信人の自由意思に基づく意思・思想・感情の個別的な表現は全く矛定されていないから、本願考案における“表葉紙”とは全く技術的性質の異なるものである。

しかるに、原判決は、これらシー状貼着物の表面に印刷されることがある可能性だけを取り上げて「葉書の文面文字に合わせて任意の大きさにすることは可能であるし、その表面に文字等を記載することも任意である」と速断し、これらのシート状貼着物と“表葉紙”との技術的性質に関する異同を全く検討判断せずに誤った証拠解釈を下し、またこれらのシート状貼着物と“表葉紙”とが同一の技術要素であることを納得させるだけの合理的根拠を全く提示していないのである。

また、原判決は、判決理由<5>に先立って「…規則を遵守し併せて葉書の表側の親展内容部の機密保持の問題を解決すべく、葉書に貼着する切手又は切手代用紙(スタック紙)を用いで、それを親展内容部上に貼着することによって機密保持をするものであることは明らかである」と引用例考案1の内容を正確に理解し特定している(判決書三一頁一二~一六行)。ところが、それに引き続いて突如として原判決は「引用例考案1において他の貼着物に代えてスタック紙を選択したのは、あくまで葉書の表面に親展内容部を設ける場合のみの付加的制約があるから」と被上告人が主張もしていない独自の論理を展開する。そして、判断理由<5>において引用例考案1に対し、「切手代用スタック紙でないシート状貼着物であれば」と拡大解釈を付加するとともに、乙第1号証、乙第2号証、引用例2、乙第4号証、および乙第5号証を引用して上告人の主張を否定したのである。そもそも、引用例考案1は、判断理由<5>に先立って原判決が認定しているとおりの技術内容を開示しているのであるから、かかる引用例考案1に対し、前述のような拡大解釈を付与すること自体、引用例に記載のない技術内容を記載してあると事実無根の証拠認定をすることに他ならず、採証法則に反し、かつ、判断結果と理由との間に甚だしい矛盾があり“理由齟齬”ともいうべき違法がある。また、引用例考案1について、かかる拡大解釈をするには、その根拠を挙げて合理的な論理的理由を付すことが不可欠であるのに、この点に関する理由が原判決には全く付されておらず、理由不備であるとの誹りを免れない。

さらに加うるに、原判決が右に引用する乙第1号証と乙第2号証は、審判において全く示されていない“新たな証拠”であって、右のような趣旨で引用することは、上告人から明細書補正の機会、意見陳述の機会を奪うものであって、上告人の前審判断経由の利益を冒していることは明らかである。また、原判決は乙第1号証、乙第2号証の提出自体が違法であるとの上告人の主張(準備書面<第2回>一〇頁ⅱ項)に対して何らの判断も示していない。

したがって、原判決における判断理由<5>には判断遺脱の違法があり、しかも理由不備の違法があるのである。

(7) 判断理由<6>について

原判決は、「引用例考案2の『面材料シート』、『透明な重合物材料層』及び『透な接着剤層』が、本願考案の『表葉紙』、『透明フイルム』及び『透明粘着剤』に対応することは明らかであり、引用例2(甲第5号証)の記載からすると、引用例2の『基体』には特段の限定がなく、『葉書』を用いることが可能であると認められる……」(判決書三三頁一四~一九行)との前提に立って、「引用例考案2において基体として葉書を用いた場合、引用例考案2が、本願考案の要旨のうち、『透明フイルムと、該透明フイルムの上面に剥離可能に貼着し…(た)表葉紙と、前記透明フイルムの下面に塗布する葉書表面への接着用の透明粘着剤とからなり、前記透明フイルムに対する前記表葉紙の剥離強度は、葉書に対する前記透明フイルムの剥離強度より小さく、前記表葉紙、透明フイルムは、前記透明粘着剤を介して葉書表面に貼着すること」の構成を有するものと認められる」(判決書三四頁一~八行)との結論を導いている。

しかし、前述のとおり、引用例考案2における「面材料シート」は、レッテル、荷札、ステッカー、業務カード、クレジットカードとして用いるものであって、その表面にはレッテルあるいはステッカーとしての文字・図形の印刷、荷札としての宛名書き、業務カードあるいはクレジットカードの目的に合致した印刷が施されることはあっても、基処には発信人の自由意思に基づく意思・思想・感情の個別的な表現は全く予定されていないから、本願考案における“表葉紙”とは全く技術的性質の異なるものである。

上告人は、原審において、引用例考案2の「面材料シート」は、本願考案の「表葉紙」に対し、その目的、構成、機能のいずれの点においても著るしい相違点があり、両者を対応させることは論理的に誤りであることを繰り返し指摘し、詳細な理由を付して主張陳述している(訴状補充書二六頁三行~三六頁八行、準備書面<第1回>三七頁一三行~四二頁七行、準備書面<第2回>三九頁二行~四二頁一八行、準備書面<第四回>三三頁九行~三四頁一行、準備面<第6回>一〇頁五行~一一頁一七行)。しかるに、原判決は、上告人の右陳述に姓して何らの判断もせず、また判断しなかったことに対する合理的説明もしていないのである。

また、原判決は、「引用例考案2の『基体』には特段の限定がなく、『葉書』を用いることが可能であると認められる……」と判断しているが、かゝる判断は被上告人が原審において新たに提出した乙第3号証を本願考案に対する実質的な拒絶引例として採用していることに他ならず、審決取消訴訟の範囲を著しく逸脱したものと言わざるを得ない。一見明らかなごとく、引用例2には葉書の点が全く記載されておらず、葉書に関する間接的な記載が乙第3号証に見られるだけであるからである。

したがって、原判決は従前の判例(昭和五一年三月一〇日の最高裁判所大法廷:昭和四二年(行ツ)第二八号判決)に明らかに違背する。ちなみに、乙第3号証は一九八二年一月七日の出願公開に係るドイツ国特許公開公報であって、本願考案の優先日(一九八五年一月一七日)当時、それが我国において周知であったとすることも、常識に反すること著しい。また、原判決の判断が乙第3号証に無関係になされたものとすれば、その判断が論理則にも反することは明らかである。考案の引用例として採用する特定の技術が特定の目的に用いることが可能であると認めるためには、その技術に特段の限定がないことを指摘しただけでは合理的説明とは言い得ず、その技術が当該特定の目的に使用可能であることが明示されているか、少なくとも明らかに示唆されていなければならないからである。

したがって、原判決における右判断理由<6>は、結論に重大な影響を及ぼす事項について判断遺脱の違法があり、かつ、理由不備の違法があると言うべきである。

(8) 判断理由<7>について

原判決は、引用例2(甲第5号証)の記載を部分的に引用し、まず、引用例考案2の面材料シートに関し、「……面材料で被覆された部分の印刷は面材料を取り除くことによって透明な重合物層を通して見えるようになり、それまでは隠蔽状態にあることが認められる」と認定する。

しかし、このような認定は、論点先取の誤謬を冒したものであって、甲第5号証方ら特定の結論を誘導するのに都合の良い記載事項だけをピックアップして引用し、引用例2(甲第5号証)が実際に開示している技術的思想を正視していないものであって、結論を左右する重要な事項について判断を遺脱し、また、引用例2における重要事項を十分に審理していないから審理不尽の違法があり、更に判断に至る合理的理由を示していないという意味で理由不備の違法があるというべきである。

まず、引用例2(甲第5号証)には、原判決が引用する記載の他に、「面材料は紙;プラスチックのフィルム、シート及び箔;織物;ガラス;及び金属箔、金属シート等各種材料から製造される」との記載がある(甲第5号証:三頁左下欄五~八行)。この記載に徴すれば、引用例考案2の面材料シートは、それが透明であっても不透明であってもよいのである。換言すると、引用例2における「面材料」は、それが基体の印刷文字を隠蔽し得るものであるか否かに拘らず、各種のシート状の材料が使用可能なのである。

それゆえ、原判決が引用する「基体も積層構成物で被覆される部分も含めて予じめ印刷可能であり、その部分は透明な重合物及び接着剤を使用する限り面材料を取り除くと見えるようになり読取り可能である」との甲第5号証の記載は、透明な重合物や接着剤を使用する場合は、面材料を取り除くことによって、面材料によって被覆されていた基体の表面が見えるようになり、たまたま、其処に文字が印刷されておれば、それが読取り可能になるという極めて当然な自然現象を述べたに止まり、面材料で被覆された部分の印刷が面材料を取除くまで「隠蔽状態にある」ことを意味するものではない。原判決が引用する前記記載内容には、「透明な重合物及び接着剤」を使用することを開示していても、面材料を不透明なものに特定することはもとより、そのような不透明な面材料を使用するという技術的意図も全く記載されていないからである。

また、引用例考案2の面材料は、原判決も認定のごとく、業務カード、会員カード又はクレジットカードであり、かゝる面材料を基体に貼り付けるのは、基体とともにクレジットカードなどを顧客に送付するためである。したがって、基体に印刷文字があるときは、その印刷文字に重ならないように面材料の貼付位置を選定するのが常識であり、殊更、印刷文字に重ねて面材料を貼付することは著しく非常識である。換言すれば、引用例2(甲第5号証)の右記載は、印刷文字がある基体にクレジットカード等の面材料を貼り付けるとき、面材料によって印刷文字が覆い隠されると不都合であるから、そのような不都合が生じた場合の対策として、「透明な重合物及び接着剤」の使用を提示しているに過ぎないのである。

したがって、原判決の引用する右記載が引用例2に存するとしても、それのみを根拠にして、「引用例考案2がこの目的(基体の表面の印刷文字を読取り不能に隠蔽することや、それを親展扱いすること)を達成できる十分な機能を有することが明らかであり、引用例2には前記目的が示唆されているということができる」と結論する原判決の判断は、論理的プロセスに一貫性がなく、引用例2の重要な記載事項を見落とした結果、引用例考案2の技術思想を誤って認定したものであって、判断遺脱の違法があり、また、そのような結論に至る合理的理由が欠如しているという点において理由不備の違法がある。

また、引用例考案2の技術思想は、本願考案の技術思想と正反対であり、両者は著るしく相違しているのであって、それを真っ向から否定する原判決の判断理由<7>は、原判決の結論に重大な影響を及ぼすこと明らがであを。なお、考案の進歩性を否定するに際し、技術思想において甚だしく懸隔のある引用例は、その採用自体が不適切であるということも東京高等裁判所の多くの判例上確立されている(例えば、昭和四五年一一月二七日の「広告装置事件判決」、昭和六一年一月三〇日の「タイヤー車輪組立体事件判決」、平成七年二月七日の「生コンクリート類の製造装置事件判決」など)。

さらに、原判決の判断理由<7>は、「引用例考案2の明示された目的が基体から剃ぎ取った後の面材料の使用にあるとしても、それが基体の印刷を隠蔽する機能を持ちうることは前示のとおりである」から引用例考案2の使用形態が本願考案のそれと全く反対であるとする上告人の主張は採用できないという。

しかしながら、かゝる原判決の判断も、引用例考案2の面材料が基体の文面文字を隠蔽するものであるという誤った前提に基づくものであり、引用例考案2の技術思想を誤って認定した結果に基づくものであって、合理的な論理則によらない判断であり、引用例2における面材料シートの技術的意義に関する審理・判断を欠如しているから、判断遺脱、審理不尽の違法があると言わなければならない。

(9) 判断理由<8>について

原判決は、判断理由<8>において「当事者間に争いのない本願考案の要旨によれば、透明フィルムと表葉紙との関係については、『透明フィルムと、該透明フイルムの上面に剥離可能に貼着し、葉書の文面文字が読取り不能な表葉紙」と規定されているのみで、表葉紙と透明フイルムの大きさについては何ら限定は認められない……」と認定する。

しかしながら、当事者間に争いのないものとして原判決の認定した本願考案の要旨としては、原判決が右に指摘した事項の他に、表葉紙と透明フィルムの大きさについて、「前記表葉紙、透明フィルムは、前記透明粘着剤を介して葉書表面に貼着することにより葉書の文面文字を隠蔽することができ、名宛人において前記表葉紙を剥離することにまり、前記透明フィルムを通して葉書の文面文字を読取り可能な大きさにする」と明確な限定条件が付されてある(判決書三頁四~八行)。原判決は、本願考案の要旨として自ら認定した重要な記載事項を完全に見落としているのであって、結論を左右するほど重要な事項について理由齟齬ともいうべき重大な自己矛盾を含んでいる。きた、かゝる原判決の判断は、明細書の“実用新案登録請求の範囲”の記載を無視して本願考案の要旨を認定するものであるから、実用新案法第二六条で準用する特許法第七〇条にも違背するものである。

そもそも、本件においては、上告人により、審判手続において、本願考案の表葉紙、透明フィルムは、両者が同一の大きさであることが明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて明確に主張されていたにも拘らず、(準備書面<第4回>別紙一八頁一六行~一九頁一四行、甲第6号証、甲第7号証)、審決は、この点に関する判断を何ら示すことなく、本願考案の進歩性を否定したものである。一方、上告人は、原審において、かゝる審決は違法であることを明確に主張しているのであるから、(準備書面<第4回>別紙二〇頁一~一六行)、審決の違法性を審理する原審においては、審決の違法性の有無、上告人の主張の妥当性を審理して明確な根拠に基づく判断を示さねばならなかったのであり、これを欠如した原判決には判断遺脱、審理不尽の違法がある。

また、原判決は、判断理由<8>において「仮に(本願考案を表葉紙と透明フイルムが同じ大きさのものに)限定して解したところで、……大きさを同一にしたものは、引用例2、乙第4号証、乙第5号証に記載されているように、それ自身は周知のものであり…」と判断しているが、かかる原判決の判断は審決が全く判断していない点について独自の判断を加えている点で、また、審判に現れた引用例1、引用例2に代えて、実質的に“新たな証拠”による周知技術によって本願考案の進歩性を否定するものに他ならない点で、技術専門庁としての特許庁の判断を経ず、上告人が当然に有する前審判断経由の利益を侵害するものである。ちなみに、昭和六三年一一月二九日東京高裁判決(等方性高密度炭素材の製造方法事件)は、第1引用例、第2引用例によって本願発明の進歩性を否定した事案に付き、第2引用例に記載された技術内容や、それと類似の技術を審決取消訴訟において周知技術に格上げせんとした被告特許庁長官の主張を明確に排斥している。

なお、乙第4号証、乙第5号証も、引用例2と同じく、「葉書の文面隠蔽」とは無関係の技術であって(準備書面<第4回>別紙三四頁一八行~三五頁一〇行、同三五頁一三行~三六頁七行)、かゝる引用例は、それぞれの技術的課題や技術的思想が本願考案のそれと著しく相違しているために、本願考案の引用例として不適当なものである。

よって、原判決は、乙第4号証および乙第5号証の具体的内容を判断していないという点において判断遺脱の違法があり、乙第4号証および乙第5号証が本願考案の進歩性を否定する公知資料に該当するか否かについて十分に審理を尽くしていないという点において審理不尽の違法があると言うべきである。

また上告人は“表葉紙”と“透明フイルム”との大きさについて、準備書面<第4回>別紙第六頁一七~二四行にC-イおよびC-ロとの符号を付して本願考案の構成要件を分説し、同準備書面の別紙八頁一~一〇行ではその技術目的を説明し、更に同準備書面の別紙一六頁二行~二〇頁五行では、その技術的な意味として“表葉紙”と“透明フイルム”とが同一の大きさであることが明らかである旨を理路を正して詳細に主張陳述しているのであるが、原判決は上告人の右陳述をも見落として、この点に関する何らの判断も示さず、また判断しないことについて合理的説明も全くしていないのである。

したがって、原判決には、判断理由<8>について、判断遺脱の違法があり、かっ、理由不備の違法があるというべきである。

右に説明したとおり、原判決が根拠とする判断理由<1>~<8>は、何れも判断遺脱、審理不尽、ないしは理由不備の違法事由に該当するものである。

第三点 原判決は、従前よりの判例法に違背し、審決取消訴訟の審理範囲を逸脱しており、その結果は判決の結論に重大な影響を及ぼすものである。

一、原判決は、判断理由<6>において審決に全く表れていない乙第3号証を実質的な拒絶理由として引用している。

二、原判決は、判断理由<5>に先立って「引用例考案1において他の貼着物に代えてスタック紙を選択したのは、あくまで葉書の表面に親展内容部を設ける場合のみの付加的制約があるからであって」との審決が全く触れず、被上告人も全く主張していない独自の解釈をしている。

三、原判決は、判断理由<5>において引用例考案1に対し「切手代用スタック紙であるシート状貼着物であれば」との拡大解釈を付加しており、この解釈も審決に全くなく、また被上告人も全然主張していなかった事項である。

四、原判決は、判断理由<8>において引用例1、引用例2に代わる新たな周知技術によって本願考案の進歩性を否定している。

原判決における右一~四の判断は、上告人が本願考案について有する前審判断経由の利益を奪うものであり、昭和五一年三月一〇日の最高裁判所判決(昭和四二年(行ツ)第二八号事件)に違背するものである。

原判決は、以上のとおりの上告理由に該当するから、破棄せらるべきである。

以上

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