最高裁判所第二小法廷 平成9年(オ)1876号 判決 2000年4月07日
上告人
高橋壽
右訴訟代理人弁護士
隅田誠一
被上告人
高橋培之
右訴訟代理人弁護士
徳弘壽男
被上告人
山田瑞子
同
山田佳生
右両名訴訟代理人弁護士
藤原充子
主文
原判決中上告人の被上告人高橋培之及び同山田瑞子に対する金員支払請求に係る部分を破棄する。
前項の部分につき、本件を高松高等裁判所に差し戻す。
上告人の被上告人高橋培之及び同山田瑞子に対するその余の上告並びに同山田佳生に対する上告を棄却する。
前項の上告費用は上告人の負担とする。
理由
一 上告代理人隅田誠一の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
二 職権により、原審の判断の適否につき判断する。
本件訴訟において、上告人は、被上告人高橋培之に対し、原判決別紙家屋目録二記載の建物(以下「本件建物二」という。)の収去及び原判決別紙土地目録一、二記載の土地(以下「本件各土地」という。)のうち本件建物二の敷地部分の明渡し、右収去等までの間の地代相当額の金員の支払並びに本件各土地の登記済権利証の引渡しを、被上告人山田瑞子に対し、右家屋目録一記載の建物(以下「本件建物一」という。)の収去及び本件各土地のうち本件建物一の敷地部分の明渡し並びに右収去等までの間の地代相当額の金員の支払を、被上告人山田佳生に対し、本件建物一からの退去を、それぞれ請求している。その請求原因として、上告人は、(1) 上告人の亡夫である高橋達枝が昭和三一年一二月二五日及び同三三年三月一八日に国有林の払下げを受けて本件各土地を取得し、同五九年一二月四日に達枝が死亡したことにより上告人がこれを相続により取得した、(2) そうでないとしても、高橋坦が前記各日に本件各土地の払下げを受け直ちにこれらを達枝に贈与し、達枝の死亡により上告人がこれらを相続取得した、などと主張している。被上告人らは、上告人の所有権取得を争い、被上告人培之は、本件各土地の払下げを受けてこれを取得したのは高橋廣子であり、被上告人瑞子は、本件各土地の払下げを受けてこれを取得したのは坦であると主張している。原審は、上告人の右(1)の主張事実のうち達枝が本件各土地の払下げを受けたことは認められず、右(2)の主張事実のうち、本件各土地の払下げを受けてこれを取得したのが坦であることは認められるが、坦から達枝が贈与を受けたことは認められないとして、第一審判決のうち上告人の建物収去土地明渡し及び建物退去の請求を認めた部分を取り消して、右請求及び原審で拡張した本件各土地の登記済権利証の引渡請求を棄却し、同判決のうち上告人の金員支払の請求を棄却した部分に対する上告人の控訴を棄却する趣旨の判決をした。
しかしながら、原審は、坦が昭和四二年五月二二日に死亡したこと、坦には妻廣子並びに達枝、被上告人培之及び同瑞子の三人の子があったこと、達枝が同五九年一二月四日に、廣子が平成四年五月二四日に、それぞれ死亡したこと、坦が昭和二九年ないし三〇年に本件建物一及び本件建物二を建築してこれらを取得した上、同四二年四月ころに廣子にこれらを贈与し、同五三年四月一〇日に廣子から被控訴人瑞子に本件建物一が同培之に本件建物二が各贈与されたことを併せて認定している。以上の事実によれば、特段の事情のない限り、坦の死亡に伴い、法定相続人の一人である達枝が本件各土地の九分の二の持分を相続により取得したはずのものである。そうすると、上告人が達枝の右持分を相続により取得したというのであれば、上告人は、同様に坦及び廣子の死亡に伴い本件各土地の持分を相続により取得した共有者である被上告人培之及び同瑞子に対して本件各土地の地上建物の収去及び本件各土地の明渡しを当然には請求することができず(最高裁昭和三八年(オ)第一〇二一号同四一年五月一九日第一小法廷判決・民集二〇巻五号九四七頁参照)、同培之に本件各土地の登記済権利証の引渡しを請求することや同瑞子の所有する本件建物一に居住している同佳生に対して退去を請求することもできないものというべきである。しかし、同培之及び同瑞子が共有物である本件各土地の各一部を単独で占有することができる権原につき特段の主張、立証のない本件においては、上告人は、右占有により上告人の持分に応じた使用が妨げられているとして、右両名に対して、持分割合に応じて占有部分に係る地代相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を請求することはできるものと解すべきである。そして、上告人は右の坦の死亡によるその持分の相続取得の主張をしていないが、原審としては、前記各事実を当事者の主張に基づいて確定した以上は、適切に釈明権を行使するなどした上でこれらをしんしゃくし、上告人の請求の一部を認容すべきであるかどうかについて審理判断すべきものである(最高裁平成七年(オ)第一五六二号同九年七月一七日第一小法廷判決・裁判集民事一八三号一〇三一頁参照)。そうすると、原審の前記判断には、法令の適用を誤る違法があるというべきであり、この違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがって、原判決のうち上告人の被上告人培之及び同瑞子に対する金員の支払請求に係る部分は破棄を免れず、右部分につき、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官河合伸一 裁判官福田博 裁判官北川弘治 裁判官亀山継夫 裁判官梶谷玄)