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最高裁判所第二小法廷 平成9年(行ツ)148号 判決 1997年10月17日

三重県鳥羽市浦村町字大吉一七三一番地六八

上告人

財団法人東海水産科学協会

右代表者理事

水谷皓一

右訴訟代理人弁護士

樋上陽

西村秀樹

三重県伊勢市岩渕一丁目二番二四号

被上告人

伊勢税務署長 福永宇一

右当事者間の名古屋高等裁判所平成八年(行コ)第二九号課税処分取消請求事件について、同裁判所が平成九年四月九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人樋上陽、同西村秀樹の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 福田博)

(平成九年(行ツ)第一四八号 上告人 財団法人東海水産科学協会)

上告代理人樋上陽、同西村秀樹の上告理由

原判決には左記に述べる通り、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈に誤りがある。

一、法規の内容と解釈

(1) 消費税法は消費税法附則第一条一項の規定により昭和六三年一二月三〇日の公布の日から施行され、平成元年四月一日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等に係る消費税について適用する、とされている。

他面、国税通則法第一五条第二項六号の規定によれば、消費税の納税義務の成立時期は「課税資産の譲渡等をしたとき」とされている。

右以外に「課税資産の譲渡等をしたとき」、を如何なる基準で判定するかについては何の規定もない。

(2) 通常の認識において「資産の譲渡」とは、当該資産の所有権を中心とした支配権を一方から他方に移転し、この移転について双方の合意(契約)が成立する、ということであろう。

即ち、法律上の所有権移転時期、引渡時期、代金完成時期等の契約内容は、単に譲渡に関する履行条件を定めたものに過ぎず、「譲渡」と「所有権移転時期等々」とは本来別異の法律効果である。

国民は先の「譲渡契約」が成立した以上、当該資産に関し最早や「自己の支配権を離脱したもの」、或いは「離脱すべきもの」と考えるであろう。

(3) しかるに「消費税法取扱通達」は、固定資産の譲渡の時期については、その「引渡があった日」(引渡基準)を原則とし、その固定資産が土地、建物、建築物等については「事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときはこれを認める」(契約基準)としている(消費税法取扱通達九-一-一三)。

そして法人税基本通達も同趣旨の通達を行っている(法人税基本通達二-一-一四)。

(4) しかし「資産の譲渡」とは既述(2)のように解釈すべきであり、これと異なる「引渡」「事業者が効力の発生日を資産の譲渡の時期としている」等の通達基準は大蔵省独自の見解に過ぎず一般的な解釈としては容認しがたい。

よって右通達は法令の解釈を誤ったものとして無効であり、本件事案の解釈基準とはならない。

(5) 最高裁昭和四八年一一月一六日判決、昭和四三年行ツ第九〇号不動産取得税課税処分取消請求事件(民集二七巻一〇号一三三三頁)において「譲渡担保に関する不動産の取得」の解釈について次の様に判示しているが、この解釈は本件事案と軌を一つにするものである。

「不動産取得は、いわゆる流通税に属し、不動産の移転の事実自体に着目して課せられるものであって、不動産の取得者がその不動産を使用、収益、処分することにより得られるであろう利益に着目して課せられるものではない」、「地方税法七三条の二第一項にいう『不動産の取得』とは、不動産の取得者が実質的に完全な内容の所有権を取得するか否かには関係なく、所有権移転の形式による不動産の取得のすべての場合う含むものと解するのが相当である」。

(6) 本件事案は消費税に関するものであるが、右不動産取得税と同じく流通税に属するものであり、「課税の対象」を「課税の趣旨」から判断すれば、その趣旨は同一である筈である。

二、通達の解釈

仮に前記通達が正しく法の解釈基準たり得るものと仮定しても、やはり次の通り原審判決は法令の解釈を誤ったものとして破棄を免れない。

(1) 同通達は、固定資産が土地、建物、構築物等の場合はいわゆる「契約基準」を導入し、「事業者がその譲渡契約の効力の発生の日-一般的には特約のない限り契約締結の日-を譲渡の時期とすることとしている場合にはこれを認める」として、引渡基準の例外を定めていることは先に述べた通りである。

(2) 一般的には、先に述べた通り当事者が特別な定めをしない限り「契約締結日」を「譲渡の日」とする認識で契約を締結している。ここに「特別な定め」とは「契約の効力の発生」自体を条件にかからしめている場合等を言い、契約の効力自体とは無関係の「所有権移転時期、引渡時期、代金完済時期」を指すものではないと解すべきである。

三、本件事案の解釈

(1) 原判決は、「本件契約の締結日に資産の譲渡を行う、との当事者の合意があったとは認め難い」旨判示し、その理由として「所有権移転の時期」、「現実に引渡が為された日時」、「代金が完済された時期」それに「第三七期決算報告書の収支計算書に本件固定資産売却収入として本件土地、建物の売買代金全額が計上されていること」等を挙げている。

しかし既述の通り、上告人と訴外岡三証券株式会社との間に於いて、「本件資産の譲渡日を、右らの事実が発生したとき(平成元年七月一七日)にしよう」と合意したものと解釈し得る証拠は何処にも存在しない。

かえって本件契約成立の過程と、本件契約の締結を消費税法の適用期日前に行おうとした「動機」について証言した証人松山常泰、同石田好美、同石原義剛の各証言によれば「契約締結の日」をもって「資産譲渡の日」とする合意が為されたことは余りにも明白である。(両当事者が敢えて三月二九日に契約を締結したのは、消費税の回避が目的であり、四日市税務署や税理士の意見をも聴した上契約締結日を選定したものであり、そこには合理的な動機が存する)

若し前記通達の解釈について「仮に双方当事者の合意が明白であっても、客観的に見て所有権移転の時期、引渡の時期等々の時期が明らかである限りその時期を以って譲渡の日とする」という解釈であれば、それはそれで筋の通ったものではあるが、前記通達の字句、表現(事業者が……譲渡の時期としているときは……)と対照した場合、それは遠く離れた解釈となり妥当性を欠く。

(2) 本件上告人と訴外岡三証券株式会社は、単に売買契約書を取り交わしただけでなく、売買代金の二割に相当する手付金を同契約締結日に授受し(乙第七号証)、所有権移転仮登記を為す合意をした上(乙第七号証中「追加並びに特約条項」参照)、登記申請書類の授受も終わっている(石田好美の証人調書10頁)。

右らの事実は、当事者間で「資産譲渡の日を平成元年七月一七日にする」、との合意とは程遠い行為であるといわねばならない。

(3) 原判決は主文認定の根拠として、同判決書第四(当裁判所の判断)二項の1ないし6記載の事実を認定している。この事実認定に不服は無い。

右のうち、1、3、4記載の事項については、既に述べた通りであるので、2、5、6記載の事項について簡単に付言しておく。

<イ> 乙第一号証ないし乙第四号証(登記簿謄本)によれば確かに仮登記原因は「売買予約」と記載されている。

しかし本件契約の実質は「予約」ではないこと乙第七号証により明白である。

即ち上告人が本書二項(2)で主張した「契約の効力の発生自体を条件にかからしめた」契約ではないのである。

<ロ> 確かに乙第九号証によれば「平成元年七月三一日売却が完了した」、「売却代金の全額が平成元年四月一日から同二年三月三一日の間に収入欄に計上されている」旨記載がある。

しかし前者は「履行が完了した」旨の報告文にすぎないし、後者は明らかに誤りである。

売却代金のうち二割に相当する一億六千万円が前期、即ち第三六期収支計算書(乙第八号証)に計上されず、全額が第三七期のそれに計上されている。

しかし右手付金が第三六期中に入金されたことは乙第七号証と三名の証人の一致する証言により明らかであるから、単に右決算書類の記載を以って「譲渡の時期を繰り下げる」解釈は成り立たない。

四、結論

原判決は右に述べた通り、本件土地、建物の「所有権の移転時期」に拘泥した余り、「確定的に移転したと認められる平成元年七月一七日」に「譲渡日」を認定した点に所論の違背がある。

前期通達が「土地・建物の所有権移転時期(若しくは代金完了時点に)に譲渡があったものと見做す」とせず、「事業者が……譲渡の時期としているとき」と定めた趣旨を忠実且つ自然に解釈すべきである。

以上

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