最高裁判所第二小法廷 昭和22年(れ)225号 判決 1948年3月20日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人尾山尚介の上告趣旨は「本件被告事件ニ付原判決認定ノ事実ニ依レバ被告人ハ兵庫縣氷上郡上久下村小学校理科室内陳列棚ノ板硝子數十枚窃取ノ事実ト拳銃所持ノ事実トヲ以テ被告人ヲ懲役一年ニ處スル旨判決アリタルモノトス右原審認定ノ事実ニ付テハ被告人ハ當初ヨリ犯罪事実全部ヲ自白シ寸毫モ事実ヲ隠蔽スルガ如キ所爲ナク且改悛ノ状顕著ナルコトハ一件記録ヲ通覽スルモ明白ナル事実ナリ然ルニ被告人ハ昭和二十二年七月四日逮捕状ニ依リ逮捕セラレ續イテ公訴提起(公判請求)トナリ第一審公判廷ニ於テモ公訴事実ヲ卒直ニ全部自白シ居ルニ拘ラズ保釋ノ請求ハ之ヲ却下シ第一審判決ヲ不服トシテ控訴ノ申立ニ及ビ控訴審ノ事実審理終了後始メテ保釋ハ許可セラレタル次第ニシテ逮捕状ニヨリ逮捕セラレタル日ヨリ保釋ノ許可アル迄其ノ間六拾有餘日被告人ノ身柄ヲ不當ニ拘束シタルモノナリ事件ガ複雜ナルカ若クハ證據湮滅ノ虞アルカ逃亡ノ虞アルモノナレバ格別本件ノ如キハ事案極メテ簡單ニシテ當初ヨリ事実ヲ自白シ證據湮滅逃亡ノ虞ナキ本件被告人ヲ如斯長期間無益ナル未決勾留ヲ繼續スルガ如キハ新憲法実施セラルル今日人權蹂躙モ甚シイト謂ハザルベカラズ依テ刑事訴訟法第四百四十七條ニ則リ原判決ヲ破毀シ更ニ相當ノ御判決ヲ仰ギ度茲ニ上告趣意書ヲ提出スル次第ナリ」といふのである。
しかし第二審判決に對する上告は、その第二審判決自體か、又はその判決の基本となった審判の訴訟手續が法令に違反したということを理由とするのでなければならないのであって、かりに、本件被告人に對する拘禁が辯護人の主張するように、不當に長く繼續されたものであったとしても(本件の拘禁が不當に長いものであったかどうかは十分に檢討の上でなくては容易にきめられないところではあるが)不當な拘禁に對しては法律は別途に各種の救濟の方法を規定しているのであって(例へば刑事訴訟法第百十四條、第百十五條第二項、日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第六條第二項等)被告人に對する拘禁が不當に長かったといふだけのことでは、直ちに原判決それ自體を違法とするものでもなければ、また判決の基本となった審判の手續に違法の點があったともいえないのであるから、結局本件論旨は原判決に對する上告の理由として適法なものということができない。
右のとをり本件の上告は理由のないものであるから、刑事訴訟法第四百四十六條によって主文のように判決する。
以上は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎)