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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)439号 判決 1948年7月29日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人馬場東作上告趣意書第二點は「原判決は公判に於て取調ぶべき證據の取調を爲さなった違法がある原審判決は主文に於て「押收に係る肉切庖丁一挺(證第二號)は之を沒收する」と判示し、事実記載に於て「その逮捕を免るるため所携の肉切庖丁(證第二號)を振回し、よって被告人に組付き、これを取押えようとした河内源次に對し傷害を負はせた」旨を明かにし、擬律記載の部に於て右肉切庖丁を犯罪供用物件として沒收することを判示してゐる原判決に於ては前示記載の事実に付ては「原審(註第一審)第一回公判調書中、被告人の供述として判示傷害の部位程度を除く外判示同趣旨の供述」を證據として擧示してゐる仍て右第一審公判調書中該當部分を見るに「河内ノ家ヲ出ルト家ノ人ヤ附近ノ人ガ私ヲ追テ來テ私ヲ捕ヘ様ト致シマスノデ私ハ捕ヘラレマイトシテ所持シテ居タ肉切庖丁ノ鞘ヲ取テ振リ回シマシタガ結局捕ヘラレ警察ノ人ニ渡サレタノデス」(一三五丁裏)とあって、所携の肉切庖丁を振回した事実は容易に之を認めうるけれども、果して之が押收に係る肉切庖丁なりや否やに付ての判斷は毫も爲されてゐない押收物件は必ずしも常に證據物件とはならないけれども犯罪供用物件として之を沒收する以上右物件は犯罪の用に供した物件でなければならず右犯罪行爲の用に供した物件なることを判斷する以上右押收物件は證據物件として取調べなければならぬものである然るに原審公判調書に依れば「本件記録中の公判調書、檢證調書、始末書、訊問調書、診斷書、聽取書の要旨を告げ、その都度意見辯解を求め利益の證據があれば提出し得る旨を告げた」のみで右押收物件に關する證據調を行ってゐる事実を発見し得ない然らば原判決は刑事訴訟法第三百四十一條第一項に違反し從って同第四百十一條第十三號によって當然破毀を免れぬものと信ずる」というのである。

しかし、押收にかゝる物件を犯罪の證據とするためには、これを被告人に示し意見辯解を聞いて證據調をすることが必要であるけれども、押收物件を犯罪の用に供したものとして沒收するがためには、その物件について證據調をする必要はない。けだし證據調は犯罪の證據についての審理手續であるからである。また、これを沒收するについて、その物件が犯罪の用に供せられたという證據を特に判決に擧示する必要のないことも勿論である。したがって、原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

よって刑事訴訟法第四四六條に從い、主文のとおり判決する。

右は裁判官栗山茂を除く裁判官一致の意見である。(下略)

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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