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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)703号 判決 1948年10月30日

主文

各被告人に對する原判決を破毀する。

本件を廣島高等裁判所に差戻す。

理由

被告人保野出夫の辯護人青山新太郎の上告趣意について。

被告人に對する本件公訴事実は、記録添付の豫審請求書記載のごとく、被告人は運輸事務官として、その職務に關し金谷傳介より請託を受けて、賄賂を収受し、よって、職務上不正の行為をしたというのであり、第一審判決も右の事実を認定したのであって、右の事実は、刑法第一九七條ノ三第一項第一九七條第一項後段に該當し、短期一年以上の有期懲役にあたる場合であるから、刑事訴訟法第三三四條により、辯護人なくしては、開廷することを得ない事件である。しかるに、原審においては、被告人は自ら辯護人を選任せず裁判長も職権を以て、辯護人を付することなく結局、辯護人の立會なくして、公判を開廷し、審理判決をしたことは、原審公判調書によりあきらかである。もっとも、同調書によれば「被告人保野出夫は辯護人の選任の請求はしない旨述べた」との記載あり、被告人が辯護人の選任を辭退したものとみられるのであるが、刑事訴訟法が重罪事件について、辯護人の立會を必要とする理由は一面において、被告人の利益を擁護するためであることは勿論であるが、また一面においては、公判審理の適正を所期し、ひいては国家刑罰権の公正なる行使を確保せんがためでもあるのであるから、たとえ、被告人がこれを辭退した場合でも、裁判長はそれにもかかわらず、職権をもって辯護人を付するを要するものと解しなければならない。しからば、原審は、刑事訴訟法第四一〇條第一〇號にいわゆる法律に依り辯護人を要する事件につき、辯護人なくして審理をなしたるときに該當するのであって論旨は理由あり、原判決は破毀を免れない。

次に、被告人金谷傳介は、前示保野出夫の収賄に對する贈賄の事実について、公訴を提起せられ、原判決も、右犯罪事実を確定して有罪の言渡をしたのであるが、原判決は、右犯罪事実を認定する證據として、被告人保野に對する前示加重収賄被告事件の公判調書中の同人の供述記載を擧げている。しかるに、保野に對する右原審の公判手續は刑事訴訟法第三三四條に違背し違法の手續であることは前説明の通りであって、從って、右公判調書における同人の供述記載も、これを犯罪の適法なる證據とすることはできない。すなはちこれを證據とした被告人金谷に對する原判決はまた、この點において違法であるといわなければならない。右両被告人は本件贈収賄の必要的共犯の關係にあるものとして、同一手續によって起訴せられ第一審以来共同の手續において、審判せられ、偶々被告人金谷の病気の事故のため、原審においては、公判手續を分離して、審判せられたのであるが、當審においては、また、共同被告人として審理せられているのであり、しかも、被告人保野に對する原判決破毀の事由は、引いて被告人金谷に對する原判決の違法を招来することは、右に説明したとおりであるから、この意味において、右破毀の事由は、両被告人に共通するものというべく、よって刑事訴訟法第四五一條に則り、被告人金谷に對する原判決もまた、これを破毀すべきものといわなければならない。

以上の理由により、両被告人に對する原判決はいづれもこれを破毀すべきものと認め、被告人保野竝びに同金谷の提出した上告趣意に對する説明を省略し、刑事訴訟法第四四八條ノ二に從い主文のとおり判決する。

右は、全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎)

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