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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)100号 判決 1950年11月10日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点について。

原判決は、上告人主張のごとき昭和二〇年九月、同二一年五月頃及び同年九月上告人の親権者松葉フミエが親族会の同意を得なかつたことを理由として被上告人に対し本件売買契約を取消す意思表示をした事実は、本件における証拠上、認めることはできないと判示したのであつて、所論甲第五号証ノ一、二によつても、必ず上告人主張のごとき事実を認めなければならないものではないし、又、個々の証拠について、一々、これによつて主張事実を認め得ない事由を説明しなければならないものでもない。所論は、畢竟原審の裁量に属する証拠の判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することはできない。

同第二点について。

原判決は、母たる親権者が、民法応急措置法施行前に、未成年の子を代表してした契約について、その親族会の同意を得なかつたことを理由として、同法施行後、新民法施行前において取消すことができるかどうかの問題について、次のごとく判断を示している。民法応急措置法二条は日本国憲法二四条二項の規定の趣旨に従い、旧民法中母であることに基づいて法律上の能力その他を制限する規定を適用しない旨を規定したから、応急措置法施行後においては、親権者である母は未成年の子に代つてその財産に関する法律行為をするについて、親族会の同意を得る必要がなくなつた。又新民法附則一五条は応急措置法施行前に親権を行う母が、旧民法八八六条の規定に違反してした行為は、これを取り消すことができないと規定しているから、昭和二三年一月一日の新民法施行後は、応急措置法施行前になされた右のような行為を取り消すことのできないことは明らかであるが、応急措置法施行後新民法施行前は、応急措置法施行前になされた右のような行為を取り消すことができるかどうかは、応急措置法の規定自体からは必ずしも明白でない。しかしながら、旧民法八八六条等において母の親権行使を制限していたのは、母は財産の管理能力が十分でなく、又他家からその家に入つたものでその子及びその子の属する家の利益を重じない虞があるとせられたものであつてこのような規定は日本国憲法の両性の本質的平等と個人の尊厳という立前に反するものであつて、日本国憲法と同時に施行せられた応急措置法二条において母の能力等を制限する旧民法の規定を削除したことからみても、応急措置法施行前に親権を行う母が旧民法八八六条の規定に違反して行為をしたがため、子又はその子の属する家が受け又は受ける虞があるとされる不利益は、日本国憲法乃至応急措置法施行後はもはや法の保護に値しないものである。従つて応急措置法施行前既に取消権を行使したものならば格別、応急措置法施行後は新民法施行前であつても、応急措置法施行前に親権を行う母が旧民法八八六条の規定に違反してなした行為を取り消すことができないものと解しなければならない。応急措置法は同法が日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置を講ずる臨時立法であつた性質上新民法附則のような経過規定を欠いているのであつて、応急措置法に新民法附則一五条のような規定がないからといつて、これを反対に応急措置法を解釈しなければならないものではない。

如上原判決の判断はすべて当裁判所の是認するところである。従つて論旨は理由がない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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