最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)67号 判決 1950年7月14日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士千田專治郎の上告理由第一点について
上告人は原審において被上告人の本件賃貸借解除は正当の事由もなく、仮りに然らずとするも被上告人の解除権の行使は信義誠実の原則に反するが故に本件調停は無効であると主張し原判決はこのに点つき判断を明示していないのであるが、上告人の右主張はそれ自体理由がないことが明瞭である。即ち本件調停における当事者の合意は被上告人の解除権の行使が縁由となつたにもせよ、それは解除権の行使とは別箇な、全く新な合意であるからその合意自体に無効又は取消の原因があることを主張するは格別、縁由に過ぎない解除権の行使の不当を理由として右合意の無効を主張することが許されないのは、当然の筋合であるからである。然らば原判決が右の点に関する判断を示さなかつたとしても原判決の違法を来すものではない。次に上告人の新賃貸借契約成立の主張に対しては原判決は甲第一号証によつては勿論、第一審及び原審における上告人本人訊問の結果によつてもこれ認めることができないと判示しているのであつて、かかる認定は実験則に反するものではないからこの点に関する所論は原審が適法になした証拠の取捨判断及び事実の認定を非難するに帰着するものである。なお論旨は最後に当事者間に同居の権利義務関係たる契約が成立したと主張するけれども上告人が原審で右の如き主張した形跡がないのであるから原判決には何等違法の点があるとは認められない。それゆえ論旨はすべて採用することができない。
同第二点について。
上告人が原審において事情変更の事実を立証するため鑑定を申請したこと及び原審がこれを採用しなかつたことは所論のとおりである。しかしながら原審は上告人がその存在を立証せんとした事情変更の事実が不存在であることが顕著な事実であると認定し、その故に鑑定の申請を採用しなかつたものと認められるのである。そして或る事実が顕著であるかどうかは裁判所の判断すべき事実問題であるから、その判断の当否を争うことは上告適法の理由とならない。また顕著なる事実は証明を要しないのであるから原審が前示鑑定を採用しなかつたことは当然で何等の違法はない。また弁論を再開するかどうかは裁判所の専権に属し当事者の再開申請は単に裁判所の職権の発動を促すに過ぎないものである。従つて再開申請に対しては何等の裁判を要しないのであるから論旨は採用できない。
よつて民訴第四〇一条、第九五条、第八九条により主文のとおり判決する。
右裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)