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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)220号 判決

上告代理人森整治、原矢八の上告理由は別紙記載のとおりである。

上告理由第一について。

論旨は、原判決主文をもつてしては、本件買収計画中の如何なる部分についての訴願裁決を取り消したのか不明である。このような内容の不確定な原判決は当然破棄さるべきであるというのである。

しかし、在村地主がいわゆる保有面積を超えて小作地を所有している場合に、小作地のどの部分を保有せしめるかは農地委員会が自作農創設特別措置法六条四項の趣旨に従い買収計画で定めるべきことであつて、本件の場合においても裁判所が本件買収計画のうち、如何なる部分を買収から除外するかを定めるべきではない。従つて原判決が如何なる部分について取消すかを特定しなかつたことは正当であつて、原判決の趣旨は、上告人が本件訴願裁決で、被上告人に保有面積を認めないで定めた買収計画を是認したことを違法とし、如何なる小作地を買収から除外するかは農地委員会をして特定せしめる趣旨であつて、結局原判決は如上の趣意において、所論裁決全部を取消すというに帰するものと解するを相当とする。従つて原判決に所論のような違法はなく論旨は理由がない。

同第二について。

論旨は原判決がすでに削除せられた自作農創設特別措置法附則二項を適用し本件買収計画の当否を判断したのは違法であるというのである。

しかし、行政処分の取消又は変更を求める訴において裁判所の判断すべきことは係争の行政処分が違法に行われたかどうかの点である。行政処分の行われた後法律が改正されたからと言つて、行政庁は改正法律によつて行政処分をしたのではないから裁判所が改正後の法律によつて行政処分の当否を判断することはできない。本件買収計画は昭和二二年一二月二六日法律二四一号による改正前の自作農創設特別措置法附則二項によつて定められたのであるから、原判決が本件買収計画が右附則二項による計画として適法であるかどうかを審理したのは当然である。前記法律二四一号附則二条は改正法施行前に前記附則二項による買収計画に関してされた手続は改正後の法律の六条の二、三、五の規定によりされた手続とみなす旨の規定であることは論旨のとおりであるが、右は改正前の法律による手続が改正法による手続としての効力を有する趣旨の規定に過ぎず、改正前の法律にてらして違法であつた計画が法律の改正によつて適法になる理由はないのであるから、所論のように本件買収計画が適法であるかどうかについて改正後の法律によつて判断すべきものではない。論旨は理由がない。

同第三について。

論旨は要するに、原判決は、前記改正前の法律附則二項の「相当」に関する解釈を誤つているというのである。

しかし、右附則二項は「第三条第一項の規定による農地の買収については、市町村農地委員会は相当と認めるときは、命令の定めるところにより、昭和二十年十一月二十三日現在における事実に基いて第六条の規定による農地買収計画を定めることができる」と規定しているのであつて、市町村農地委員会は相当と認められる場合に限つて右買収を行うことができるものであることは当然であり、原判決は判示諸般の事情を勘考して、本件買収は相当でないと判断したものであつて、原判決認定の諸般の事情からみれば本件買収を以て相当ならずとした原判決の判断は正しいと云わなければならない。所論はその独自の見解に基いて、右「相当性」を争うに過ぎないものであつて採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い全裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判官 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

上告代理人森整治、同原矢八の上告理由

第一、原判決は「被控訴人が高知県長岡郡大篠村大踊植松坂釣畑甲二〇五七番田十七歩外二十一筆、計一町三反二十五歩及び畑二十三歩につき昭和二十二年九月三十日した訴願棄却の裁決はその農地保有量七反歩に関する限度においてこれを取消す」といつているが、かかる判決では、田一町三反二十五歩及び畑二十三歩の中判決で取消されるべき農地保有量七反歩は、どの部分に相当する土地なのか内容が特定しない。かかる内容不確定な原判決は、当然破毀さるべきものである。

第二、原判決は「自作農創設特別措置法附則第二項の遡及買収の法意は、従来農地所在地以外に住所を有しながら買収計画までに住所を農地所在地に変更しただけで買収を免れるという不当な結果を防止するにあるものと解すべく……(以下省略)」と判示し、本件買収の審理の基準時を行政処分の行われた当時におき、その当時における法規及び状態を標準として判断を行つているかの如くである。しかしながら、行政法規の適用を保障することを目的とする行政事件の裁判は、その対象とすべき行政法規の変遷に伴い、その審理の地盤もこれに応じ時々刻々に補正してなさるべきものである。従つて行政訴訟を提起した後法規の改正が行われた場合には、判決当時における法規を標準として判断すべきものである。原判決の適用した自作農創設特別措置法(以下単に法という。)附則第二項の規定は、その後の法一部改正(昭和二十二年法律第二百四十一号、昭和二十二年十二月二十六日公布即日施行)によつて削除せられ、法第六条の二から第六条の五までの規定として明確化され、その改正前にされた旧法附則第二項による農地の買収計画に関する手続は、新規定によりされた手続とみなされている(昭和二十二年十二月二十六日法律第二百四十一号附則第二条)。原判決は、右の点を看過し、処分の行われた当時における旧法附則第二項の規定を適用した違法なものであつてこの点において先ず破毀を免れない。

第三、第一又は第二では破毀の理由がないとしても、原判決は、旧法附則第二項の「相当」の解釈を誤つた違法がある。即ち「昭和二十年十一月二十三日現在の不在地主であることに基き定められた本件買収計画が相当であるかどうかを考えるに……(中略)……即ち右計画は前記附則第二項に定むる買収を相当と認める場合に当らないから買収計画に対する訴願を棄却した裁決は違法である。」と判示している。しかしながら、旧法附則第二項の法意は原判決のいうような「従来農地所在地以外に住所を有しながら買収計画までに住所を農地所在地に変更しただけで買収を免れるという不当な結果を防止する」点に止まる消極的なものではなく、昭和二十年十一月二十三日現在において農地改革を断行するという積極的な農地改革の基準時を示した原則的規定である。法は同日現在における改革を原則としたが、唯過去の事実が明確を欠くため、小作農の請求があつたときその他過去の事実が明確であるときは、過去の事実に基いて買収し、同日の事実と買収時現在における事実とに相違がなかつたり、過去の事実が明確に捉えられない場合には現在の事実で買収することにしたに過ぎないのである。このことは旧法施行令(昭和二十一年十二月二十八日勅令第六百二十一号)附則第四十三条から第四十五条までに明確に規定されているところである。遡及規定の適用は、「苛酷に失するかどうかは何等問わない。苛酷であつてもその時現在の事実で買収されるのである。このことは現行法第六条の二から第六条の五までの規定から見てもうなずけるところである。即ち第二に述べた昭和二十二年法律第二百十五号附則第二条は、旧法附則第二項によりされた手続を法第六条の二から第六条の五までの規定にされた手続とみなすと規定している。元来手続が同一であるということは、その実体が同一であることを条件とする。このことは、すべての小作農に公正に農地解放がなされるよう劃一的に実施すべきこととされている農地改革の趣旨からみても、自明の理である。即ち旧法附則第二項の「相当」性の判断の基準は、法第六条の二第二項に示されているところのものと同様のものと解釈することが出来るのである。とするならば、遡及買収出来ない場合を規定する法第六条の五第二項において準用する法第六条の二第二項の規定の何れに本件が該当するかは、原判決は単に「苛酷」というに止まり、何等判示していない。

原判決は、単に「外地引揚地主」の這はば自己の従来の職責上当然なすべき残務整理のため引揚の遅れたことに対して同情しているだけであるが、同項にはかかる場合遡及買収計画を定めることが出来ないものとはしてはいない。

又同項第四号に掲げる小作地に該当するかどうか考えてみても、被上告人自陳の如く「被上告人が自作のため小作人から農地を取上げようとするのでなく、唯その所有権の確保を目的とする」本件は、あまりにも同規定からは遊離している。即ち本号適用の前提である本件係争地を被上告人が耕作しているという事実は何等認められない。更に又被上告人自身が認めている通り弁護士を開業していて生活には困つていないという事実からみても、旧法附則第二項による遡及買収計画を不相当とすべき理由は存しないのである。

原判決の判示が、何を根拠として生れるのか理解出来ないところである。

原判決は、右の点において法律の解釈又は適用を誤つた違法なものであり破毀を免れない。

以上

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