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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)271号 判決 1953年12月18日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨は、(一)原判決は本件損害を通常生ずる損害であると判断しているけれども、右は特別事情に基くものである。従つてその予見なき以上上告人にその損害金の支払を命じたのは違法である。(二)仮りに通常生ずる損害としても、取引の目的となつた物件につき点検することなくしては損害額の算定はできない。従つて原審が物件の点検をしない鑑定人の鑑定の結果を証拠としたことは違法である。(三)又仮りに上告人に不履行の責任があるとしても、その損害額は履行期を標準とすべきで、契約解除の時を標準とすべきでないから、原判決が契約解除の時を標準としたのは違法である。というのであるが、原判決の確定した事実関係の下においては本件損害はこれを民法四一六条一項に規定する通常生ずべき損害と解するのが相当であるから、右(一)の所論は理由がない。又物の価格の鑑定は必ず目的物を実見しなければ為し得ないものではなく、目的物を実見せずに為された鑑定の結果でもこれを採用すると否とはもとより裁判所の裁量に委ねられているのであるから、右(二)の所論もまた理由がない。

次に、本件の如く売主が売買の目的物を給付しないため売買契約が解除された場合においては、買主は解除の時までは目的物の給付請求権を有し解除により始めてこれを失うと共に右請求権に代えて履行に代る損害賠償請求権を取得するものであるし、一方売主は解除の時までは目的物を給付すべき義務を負い、解除によつて始めてその義務を免れると共に右義務に代えて履行に代る損害賠償義務を負うに至るものであるから、この場合において買主が受くべき履行に代る損害賠償の額は、解除当時における目的物の時価を標準として定むべきで、履行期における時価を標準とすべきではないと解するのを相当とする。従つてこれと同趣旨に出でた原審の判断は正当で、右(三)の所論は採用し得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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