最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)329号 判決
都道府県農地委員会が自作農創設特別措置法一八条五項、同八条の規定にもとずいて市町村農地委員会の定めた売渡計画を承認する行為は単に上級行政庁から下級行政庁に対する行政庁内部の意思表示に過ぎず、外部に向けて表示せられるものではなく、又これによつて、何ら直接に、農地所有者小作人等の第三者に対し法律上の効果を及ぼすものではないのであるから、かかる行政庁の処分に対しては、行政事件特例法にもとずいて、その取消又は変更を求める訴を提起することはできないものと解するを相当とする。この点に関する原判決の判断は正当であつて論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い全裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。
(裁判官 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)
右上告代理人近藤昇の上告理由
第一点 原判決は長峯村農地委員会が本件土地について定めた売渡計画につき被上告人の為した承認が行政訴訟について取消を求め得る行政処分に該当しないと判示したが、成程自作農創設特別措置法第十八条の売渡計画に対する承認は都道府県農地委員会が市町村農地委員会の定めた売渡計画を審査確認する行為であるから一見行政庁の内部間に於て上級行政庁から下級行政庁に対して為される単なる意思表示に過ぎぬものの如くなるも自作農創設特別措置法に基く農地売渡の法律的効果の発生するためには市町村農地委員会が売渡計画を樹立し、その売渡計画に対しては遅滞なく都道府県農地委員会の承認を得ることが必要であり、その承認はまた都道府県知事を拘束し都道府県知事にその売渡計画による売渡の相手方に対する売渡通知書を交付するの義務を生ぜしめ、その交付に因りてその売渡通知書に記載された売渡の時期に当該農地の所有権がその通知書に記載された売渡の相手方に移転することになる。従て斯様に数個の行為が相連続して一つの手続をなし、その全体の結合によつてその目的とする特定の法律的効果が発生する場合その手続の必要的段階に属する承認行為を切離して考察し単なる行政庁内部に於ける意思表示に過ぎぬものと看るは失当で、之は包括的に観察してこの承認行為は上級行政庁から下級行政庁に対する審査確認の意思表示に止まらず、地方公共団体の代表機関である地方長官に対し公法上一定の義務を生ぜしめる処分をも含み引いては現実に国民の具体的権利義務に影響を及ぼすものであるから外部に対する表示でもあり、また直接国民に対し具体的に法律上の効果を及ぼすものと解して差支なく、結局公共団体又は国民に対して行う公法上の法律行為をも含むもので行政訴訟の対象となり得る行政処分である。
第二点 売渡手続の一段階である承認行為がもし憲法其他法令に違反し、或は承認が自由裁量に属する行為としてもその裁量権行使の範囲が自作農創設乃至農地改革の精神に反し、社会通念上一定の限界を超える場合違法にしてその後に続く処分もまた違法となるから売渡手続上の必要的一段階に属する承認に対し独立して取消を求める利益がある。
之れを要するに原判決は法令の解釈を誤り承認を行政訴訟の対象となり得ないとした点結局法令に違反するものであるから破毀の御裁判を仰ぐ次第である。 以上