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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)387号 判決 1953年12月04日

上告人 白井辰喜 外五名

被上告人 熊本電気鉄道株式会社

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告理由第一点について

所論旧組合規約一七条には、組合員総会に諮るべき事項として、組合規約等の外委員会において必要と認むる事項を掲げ、またその二〇条には、委員会に諮るべき事項として組合運営に関する事項の外総会に諮るべき事項を挙げていることはいずれも原判決の確定したところである。そしてこれら両規定を対照して考えれば、組合員総会に諮るべき事項は規約上当然に委員会の先議を経べきことを予想したものと解さなければならない。このことは右両規定の文理上当然なるのみならず、原審の確定した旧組合規約一八条によれば、総会の日時、場所、議案の通知等は緊急の場合を除き、会日の五日前になさるべきことを原則とするのであるが、かかる事項は当然に委員会の権限に属すものと解すべく、従つて委員会の議を経ない議案はこれを予想しなかつたものと見るのを妥当とするのである。

しかし、以上の規定から直ちに委員会の議を経ない議案は絶対にこれを総会に提出し得ないものと速断することはできない。思うに議決機関と執行機関とを分離する立前の下においては、議案の提出はこれを執行機関の管掌下に置くを通例とするも、各構成員にその権限を認めないときは、その権利を適正に保護し得ないことに鑑み、かかる場合に対処し、各構成員にはいわゆる少数株主権の如き、固有の総会招集権従つて議案提出権を認めるのである。(会社法上の制度の如く)。しかるに本件旧組合規約上かかる組合員の権利を保護する規定のあることについては、原審におい何等の主張のないところである。しかしかくては組合員の権利は蹂躙せられ、委員会において議案の提出を肯じない以上、組合員は拱手傍観、ただ委員会の恣意に委ねざるを得ないこととなるであろう。組合規約をかくの如く不合理に解することは解釈として決して当を得たものではない。以上の見地から前記の規約を見れば、上記の規定はただ通常の場合を予想したものにすぎず、緊急な特別の事情ある場合に少くとも組合員より議案を提出するは何等その禁ずる趣旨でないものと解するを妥当とすべきである。

しからば、敍上の規定から組合員総会は旧組合規約二〇条所定の事項以外は当然に委員会の先議を経ずして審議し得るものとした原判決は失当たるを免れないが、本件解散の動議を有効とした結論は正鵠たるを失わないものというべく、これと反対の見解に立ち原判決を非難する論旨は排斥を免れない。

同第二点について

旧組合規約一八条但書に所論の如き規定があることは原判決の確定したところであり、その趣旨が、総会の日時、場所及び議案の通知に五日の期間を置くを要しないとするにあることは論旨にいうとおりである。蓋し組合員総会が総会毎に組合員により選出される代議員によつて構成されるものであること、従つてまた代議員は事前に通知された議案について選出されるものであることは原判決の確定した事実であつて、この事実は議案の通知については緊急を要する場合であつても少くとも代議員を選出するに必要な期間の存置を必要とすることを示すものだからである。しかし飜つて考えるに右一八条は組合員総会の召集の場合に関する規定であつて、既に召集された組合員総会において新たに議案を提出する場合に関する規定ではない。そして第一点において説明したとおり既に召集された組合員総会においては緊急な特別の事情ある場合には組合員より議案を提出することは妨げられないのであつて、しかもこの場合の手続に関しては旧組合規約上何等特別の定めがなされていないと認むべきである以上、組合員よりの議案の提出については事前の通知はこれを要しないものと解するを相当とする。しからば旧組合規約一八条をひいて本件解散決議を無効とする論旨は結局理由なきに帰する。

上告理由第三点について

原判決の引用する第一審判決の事実摘示並に本件口頭弁論の結果によれば被上告人は上告人の所論主張事実中起立による採決の方法を執つたことを認めたに止まり、その方法を執るに至つたのは所論の如き威圧干渉を加えたためであるという事実はこれを否定した趣旨であることが明らかである。所論は被上告人の答弁の片言隻句を捉え、これを曲解した上での論であつて採用することはできない。

上告理由第四点について

被上告人が所論熊本地方労働委員会の第一、二回委員総会において上告人等を解雇する理由として主張した能率低下の事実その他の解雇理由を明確にし得なかつたということは当事者間に争いがないかのようであるけれども、被上告人が上告人の右主張事実に対し答弁するに当り、その解雇理由を明にし得なかつたのは、旧組合解散後の解雇のため労働委員会での審議を必要としなくなつたからであると附加陳述したことは記録上明であつて、これによると被上告人は上告人の右主張事実を無条件に自認したものでないこと明白である。のみならず労働委員会において主張した解雇理由のみが常に真実の解雇理由であつて、その余の解雇理由はすべて爾後の創作であるということは常に必ずしもいえないから、論旨一ないし三項は畢竟原審の適法に確定した事実を争うに帰し適法な上告理由とならない。

次に原判決は、上告人等を解雇したのは旧組合の解散に協力する意味でしたものであると判示し、被上告人が一見組合の結成運営に介入した事実を確定したかの如くであるけれども、これを仔細に吟味すれば、上告人等の解雇されたのは上告人等が低能率且つ被上告人の業務の運営を妨害したがためであるとした趣旨であることが窺われる。蓋し上告人等の解雇されたのは旧組合の解散決議後のことであつて、被上告人が解散に協力するということはあり得る筈がなく、従つて原判決の趣意は要するに、既に解散により消滅した旧組合の存否に関し更に紛争の継続するを回避しようとする意図もあつたことを説明せんとしたものに止まり、これをもつて解雇理由としたものと認め難いからである。従つて本件解雇を不当労働行為なりとする四項の論旨も理由がない。

なお原判決挙示の証拠によれば上告人等は論旨指摘の如く業務の運営を阻害しまた低能率であつた事実が疎明されないことはない。そして右の事実自体当然に上告人等の不当所為を示すものと認むべく、更に詳細にその具体的な事実を判示しなければならぬものではない(上告人等が所論のように正当の権利行使として右の所為に出たという事実については原審においては何等の主張立証もないところである)。論旨五項も理由がない。

上告理由第五点について

旧労働組合が解散して新労働組合が結成される場合、旧組合当時の労働協約が効力を失うか否かの問題はこれを一概に論ずることはできないけれども、原判決の確定した如く、旧組合の内紛によりその脱皮生長を図るため旧組合を解散し、新にこれと別個の組合を結成したような場合には、旧組合と新組合とはその関連性がなく、団体としての統一的持続性を欠くものと認むべく、旧組合当時の協約はその効力を失うものと解すべきである。所論は旧組合が消滅しないことを前提とし或いは独自の見解により、旧組合の労働協約がその自動延長の定めにより旧組合の解散後も存続することを前提とする論であつてすべて採用に値しない。

よつて民訴三九六条三八四条八九条九五条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判官 霜山精一 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

上告代理人弁護士野尻昌次の上告理由

第一点

一、原判決は上告人の「本件組合解散の決議は委員会の議を経ずに直接総会に解散議案を附議してなされたによるものであるから組合規約第十七条第二十条に違反し無効である」との主張に対し『規約第十七条に「組合総会には左の事項をかける。一、組合規約変更 二、労働争議に関する事項 三、収支予算並びに組合費の額及び徴収方法 四、前各項の外委員会において必要と認める事項」又第二十条に「委員会には左の事項をかける。一、総会にはかるべき事項 二、その他組合運営に関する事項」との規定があり、右八月十三日の臨時総会における組合解散の議案が、予め委員会の議にかけられていなかつたことは、当事者間に争がないけれども、右規約の趣旨からいえば委員会において総会附議事項として決定したものは、それがたとい軽微な問題であつても総会を拘束し、総会においては、その附議を拒否し得ないだけのことであつて委員会の事前における決定事項でなければ総会の附議事項とはなし得ないというのではなく、解散は組合規約の変更よりも重要事項であるから、総会附議事項となり得ることはいうまでもなかろう。』と判示して上告人の申請を排斥した。

二、然し本訴に於ては事項の軽重によつて総会の附議事項となり得る事項と然らざる事項があるとか或は解散が総会の附議事項となり得るとかなり得ないとかの争いはないのであるから原審が右の如く突如として「解散は組合規約の変更よりも重要事項であるから総会附議事項となり得る事はいうまでもなかろう」と説示した趣旨を理解するに苦しむが原審の規約第十七条第二十条に関する前記認定の趣意は「規約第十七条第二十条は組合員総会は委員会が総会に附議する事を決定した事項の総会附議を許否し得ない事を定めたもので委員会の決定事項でなければ総会の附議事項とはなし得ないとの趣旨ではない。

組合の重要事項は素々委員会の先議を要せずして総会に附議し得る趣旨のものであつて組合規約の変更は重要事項であるから総会の附議事項として規約に定めてあるが解散はそれより重要事項であるから当然委員会の先議を要せずして総会に附議し得る事項である」との趣旨と解せざるを得ない。

三、けれども先ず規約第二十条を見るに同条の委員会には左の事項を諮る一、総会に諮るべき事項二、その他組合運営に関する事項と定めているこの趣旨が(1)総会に諮るべき事項の先議権(2)総会に諮る事を要しない組合運営に関する事項についての決定権とを委員会の管掌事項と定めた趣旨であることは極めて明白である。

従て「総会に諮るべき事項は委員会の先議を要する」ことは極めて明瞭であるといわなければならない。

而して委員会の右の管掌事項を一貫して説明すると委員会は組合の事項中その軽重と規約に基き(1)総会に諮るべき事項と然らざる事項とを区別決定し(2)総会に諮るべき事項は之を先議して総会に附議しその必要なしと認める事項は之を自ら処理すべき趣旨となるものであるが委員会のこの「総会に諮る事項を先議する権能」は総会の権能に対する制約的権能として規定したものと解してのみその理由意義が存するのであるから最高決議機関たる総会と雖も規約に基かずして委員会の右権能を犯すことは之を許されないものとなさなければならない。

四、従て総会の管掌事項は委員会の右権能と抵触しない様に定めねばならないものであるところ総会の管掌事項を定めた規約第十七条は総会には左の事項を諮る 一、組合規約の変更 二、労働争議に関する事項 三、収支予算並組合費の額及徴収方法 四、前各項の外委員会に於て必要と認むる事項と規定している。依て右規定を規約第二十条との関係及右の内四の「前各項の外」の字句に注意して判断すると右規定は総会は全て委員会から附議された事項を審議するものであるが(1)組合規約の変更(2)労働争議に関する事項(3)収支予算並に組合費の額及徴収方法は組合及組合員にとつて慎重審議を要する重要事項であるから総会に於て決定せねばならぬが之を先ず委員会に調査審議せしむることを要するとの前提に立ち、之等の事項については委員会の先議権上の自由裁量権を制限し委員会は之等の事項については之を総会に附議するか否かの自由裁量をなさず先議の上必ず之を総会に附議せねばならないものであること即之等の事項については総会が最終の決定権を行使するものであることを具体的に示したものであり規約第十七条の一、二、三、の事項は委員会が必ず総会に附議せねばならぬ事項を列挙したものであることが明かである。

五、要するに規約第十七条、第二十条を綜合すると組合の重要事項は全て総会に諮つて決定すべきものであるが重要であればある程慎重審議を要するものであるところ斯様な事は総会の性質上総会に之を期待することはその能力の点からして甚だ困難であり従つて危険なことであり且つ非能率的な方法であるから総会に諮る事を要する重要な事項は予めその事に就て知識経験を集約した機関即ち委員会をして予め之を慎重審議せしめ然る後規約第二十三条の制約の下に総会の審議に附し以て総会の決議をして名実共に有効適切且つ能率的たらしむることを目的として定めたものにして斯く解し斯く運営してのみ規約第二十条を以て定めた委員会の権能と規約第十七条を以て定めた総会の権能とは抵触することなく両機関は相制し相補い組合及組合員の為めその機能を発揮し得るものである。

六、之をもし原審認定の如く解するに於ては委員会なる機関を設けた理由及規約第二十条を以て「委員会は総会に諮る事項を諮る」と規定した事は無意味となりその理由趣旨は理解し能わざるにいたるのみならず、斯様な趣旨とすれば組合規約第十七条の四は「四、前各項の外委員会に於て必要と認めた事項」とせずして「四、委員会に於て必要と認むる事項」とし以て組合員総会には左の事項を諮る一、組合規約変更二、労働争議に関する事項三、収支予算並に組合費の額及徴収方法四、委員会に於て必要と認むる事項と規定すべきものであるといわねばならない。

七、抑々組合が規約を以て機関を定め各々の管掌事項を定めた以上一定の機関は規約に定められた管掌事項についてのみの権能を有するものであり従つて総会は規約第十七条に定めた事項についての決議権を有するに過ぎない事は議論の余地ないところと解する。

故に仮りに原審認定の如く規約第十七条の総会に諮る事項中 一、組合規約の変更 二、労働争議に関する事項 三、収支予算並に組合費の額及徴収方法は委員会の議を経ることを要しない総会の審議事項であるとしても組合解散は右以外の事項であるから之を総会に諮るには結局之を委員会の議を経せしめ規約第十七条の「四、前各項の外委員会に於て必要と認むる事項」として総会に附議せしめねばならないこととなるものであり又斯くするより解散問題を総会に附議する方法は規約上存しないのである。

即ち原審認定の如く之を規約の変更より重要事項であるからとの理由を以て右の要件を飛躍することは許されないところにして若し斯様な解釈運営を許すとせば規約に依て運営されている組合秩序は混乱し之が維持は不可能となるものである。

八、要するに原判決は規約第十七条同第二十条を正文に反して解釈し因て組合員総会及委員会の権能の判断を誤り以て総会は委員会の先議を経ない議案を附議決議し得るとなし右認定に基き本件解雇を有効と認定した法令違反の違法あり到底破毀を免れないものと信ずる。

第二点

一、本訴に於て(1)組合員総会が代議員制の総会にして代議員は事前に組合員に通知された議案について選任されるものであること(2)総会の招集は緊急の場合を除き原則として少くとも会日の五日前に議案、日時、場所、を組合員に通知してなさねばならぬこと(3)昭和二十三年八月十三日の総会は同年七月分暫定給要求問題を第一議案、同年七月分以降の本格的賃金要求問題を第二議案、組合員間の紛糾問題を第三議案とし緊急を要したので規約第十八条但書の規定に依り五日の猶予期間をおかずに招集された臨時総会であつたこと(4)右組合員間の紛糾問題とは上告人白井辰喜が組合幹部の一部の者が会社の饗応を受け組合を御用化せしめ様とする陰謀ありとの組合員の話を委員会に発表した事に因つて生じた紛糾であり所謂白井提言問題と称する問題であること(5)解散問題は総会中の動議により始めて議案となつたものでそれまでは議案となつていなかつたことは何れも当事者間に争なく又原審の認定したところであり、更に「規約上総会の附議々案は組合の存続を前提としている」ものであることは原審の認定するところである。

二、故に(1)総会の代議員は当該総会の事前に組合員に通知された議案についてのみ代議権を有し事前に組合員に通知のなかつた議案即ち組合員が会日前に知らなかつた議案については代議権を有し得ないこと(2)解散議案は大会中の動議に基き議案となつたものでありその以前には組合員も代議員も知らなかつたものであるから解散議案については代議員は代議権を有しなかつたこと(3)規約上総会の附議々案は組合の存続を前提としているものであり組合の消滅を目的とする組合解散の議案の如きが総会の議案となることは特別異常のことにしてその通知予告のない限り之が総会に附議される事は組合員及代議員の予想し得ないところであることは明白である。

三、故に規約第十八条但書の「緊急を要する場合はこの限りでない」との趣旨は緊急を要する場合は「議案、日時、場所の通知に五日の猶予期間を置く必要はない」との趣旨と解さねばならないと信ずるものである。

若し規約第十八条但書の規定を以て「緊急を要する場合は総会の日時も場所も議案も全然通知することを要しない」との趣旨と解するとすれば組合員は議案を知らずして代議員を選任せねばならないのみならず組合員も代議員も共に議案も場所も知らないのに突如総会を開き得ることとなるのであるが斯くては正しい意味の総会の成立は到底之を期待し得られないこととなるものである。

四、故に上告人は「組合解散問題は組合にとり慎重審議を要する重要問題であるから組合員各自にその趣旨を徹底せしめ組合員各自の熟慮研究と代議員、委員、執行委員をして組合員各自の意思を把握せしめるため相当の猶予期間を置かねばならぬものであつて、当然右原則に従い会日の五日前に前記通知をなして招集した総会に於てのみ審議し得る事項であり、総会開催中の動議等に基き審議し得るものではない。

然るに右決議は右所定の手続を経ずして招集開催せられた臨時総会に於て、而も総会開会中突如一部の者の発音に基き附議せられたものであるから右規約第十八条に違反し無効である」と主張したるに対し(但し右臨時総会はその議案が緊急を要する場合でないのに正規の手続によらずに開催されたものである旨の主張はしていない)

五、原判決は控訴人は『右総会はその議案が緊急を要する場合でないのに、正規の手続によらずに開催されたものであるからその総会において為された決議による右解散は規約第十八条に違反し無効であると主張するが………右総会が規約第十八条本文の手続によらずに、但書の緊急を要する場合として、五日の猶予期間をおかず又解散議案の予告なしに招集された事実は、当事者間に争がないけれども、右総会の招集は前記疎明された事実によつて明かなように、緊急を要した場合であり、緊急を要する場合には、五日の猶予期間をおかず、且つ、議案を予告することなしに総会を開き得るのであつて、この緊急総会においては、解散議案を附議できないとの規約はない』と説示し上告人の申請を排斥した。

六、即ち原判決は(1)上告人は主張していないのに拘らず上告人が「右臨時総会はその議案が緊急を要する場合でなかつたのに拘らず正規の手続によらず開催されたものであると主張した」となし(2)右総会は上告人の右主張に拘らず尚有効に成立した緊急総会であつたとし「この緊急総会においては解散議案を附議できないとの規約はない」から右総会に解散を附議し得るものであるとなしたのである。

七、そこで右臨時総会の招集が緊急を要する場合として規約第十八条本文の手続事項

即ち「会日五日前の通知」「日時場所の通知」「議案の通知」の何れの手続もなさなかつたか怎うかを案ずるに右総会の招集は右手続事項中の「会日五日前の通知」即ち総会招集に五日の猶予期間をおかなかつたのみであつて「日時場所の通知」及「議案の通知」は之をなしたものであることは原判決が「右総会は但書の緊急を要する場合として五日の猶予期間をおかず又解散議案の予告なしに招集された事実は当事者間に争がない」と認定説示しているところによつても明かである。

八、即ち「右総会は緊急を要する場合として規約第十八条本文の規定の手続によらず但書の規定によつて招集されたものである」ことについては当事者間に争のないところであるが具体的に説明すると「会日五日前の通知」即ち総会の日時場所及議案の通知と会日との間に五日の猶予期間をおかなかつたことである。

九、斯様に五日の猶予期間はおかなかつたが「議案及日時場所を通知して招集された総会」に於て事前に全然通知のない解散議案を附議し得るや否やは原審説示の如き「之を附議できないとの規約はない」との理由を以ては到底之を解決し得るものではなくして規約第十七条第二十条に定むる総会及委員会の権限に基いてのみ解決し得る問題と断ぜざるを得ないのである。

十、然るに原審が前述の如く説示し以て上告人の申請を排斥したのは上告人の主張しない前記事項を主張した如くなし更に規約第十七条、第二十条及第十八条の解釈を誤つたによるものであり。

右法令違反理由齟齬の認定を前提として本件解雇の有効を認定した原判決は到底破毀を免れないものと信ずる。

第三点

一、本件に於て(1)解散議案の採決方法を挙手の方法を以て行う事に決定されたこと(2)議長は挙手の方法により解散可否の採決に入つたところ解散派の挙手小数と見るや係長級二、三名の者から解散を可とする者の起立を命じたこと(3)然るに起立者小数と見るや右の者等は更に賛否によつて左右に分れることを命じ態度の表明を躊躇している者を解散賛成者側に狩立て遂に解散派が多数を得たことは何れも当事者間に争のないところにして従て右事実についての疎明は素より之を要しないところである。

二、而して上告人は右事実を以て決定された採決方法に違反し議長を無視し且つ威圧干渉を加へてなされた決議であるから違法無効であると主張しているところである。

三、故に原審は当事者間に争ない右事実が上告人の主張する如き違法無効となるか怎うかの価値判断をなしその判断を示さねばならないものである。

四、然るに原判決は右「なすべき判断をなさずして」威圧干渉を加えたとの事実については「疎明がない」として上告人の右主張を排斥し以て本件解雇を有効と認定したものであるから判断違脱の違法あり到底破毀を免れないものと信ずる。

第四点

一、本件に於て(1)上告人等が解雇通知のあつた翌十七日会社の三浦支配人及大津常務を訪ね解雇理由を尋ねたがその理由を示されなかつたこと(2)依て上告人等は辞表を返却し組合の解雇無効、会社の労働組合法(旧)第十一条違反問題として熊本地方労働委員会に提訴したこと(3)依て開催された熊本地方労働委員会の第一回調査委員会に於て会社は馘首理由として能率の低下を主張したがその根拠がなかつたこと(4)斯くて馘首理由不明のまま右労働委員会は第一回委員総会を開くこととなつたが右委員総会に於ては専ら組合解散問題を審議し次に第二回委員総会を開き右委員総会に於て労働組合法第十一条(旧)違反問題を審議することとなり労働委員から馘首理由の質問があつたが会社は遂に解雇理由を明確にし得なかつたと(5)斯くて本件解雇後右労働委員会に於ける審議終了までの間に会社の主張した解雇の理由は「唯一つ能率の低下」のみであつたことしかもその事実根拠は会社に於て明かになし得なかつたので結局馘首理由は不明のままになつていたことは何れも当事者間の争のないところである(仮処分申請書及被上告人会社の昭和二十四年二月五日付準備書面御参照)

二、ところが原判決は『成立に争のない甲第五号証、原審における被申請組合代表者斎藤留蔵(一回)原審並に当審証人魚住進、大賀春光、当審証人大津勇、左山学、田中敬次、林弘、永野今朝雄、古川二三、斎藤留蔵の各証言及右証人大津勇の証言によつて成立の真正を認めらるる乙第十三号証によれば……控訴会社が同月十六日附辞令を以つて被控訴人を解雇したのは煽動的な言動をなし会社当局と従業員との業務上の話合をした者を脅かし、従業員をして漸次会社当局と接触することを避けさせ又低能率で控訴会社の円滑な業務運営に支障をきたす非協力者として被控訴人等を運輸事業の公益性に鑑みて不適格な存在とみなしたからであり且つ控訴会社において新しく生れ出るであろう新組合の健全明朗を期待したればこそ、組合員多数者が組合の脱皮生長を念願して自主的に為した組合の解散に協力する意味で新組合の結成前に被控訴人等を解雇したものである………事実が疎明される』と判示し上告人の申請を排斥した。

三、けれども本件解雇が真に原審認定の如き理由によるものであつたとすれば当然之を明かにせねばならなかつた熊本地方労働委員会に於ける被上告会社の労働組合法(旧)第十一条違反問題の審議に際し之を主張し証明すべきであつたといわねばならない。

然るに之をなさず又なし得なかつた事の争のない事実に基いて判断すると原審認定の如き解雇理由は本件訴訟関係が生じた後に解雇を理由つける為めに創作した理由となすべきであつてこの疑を解消すべき特別の理由事情の主張立証のないのに拘らず右を本件解雇当時の解雇理由であつたとなすことは判断の法則に反するものといわねばならない。

然るに原審が右の如き理由証拠によることなくして前記の如く判示し上告人の申請を拒否したのは経験則違反の判断若しくは審理不尽の違法あり到底破毀を免れないものと信ずる。

四、次に労働組合は労働者が主体となりて自主的に労働条件の維持改善其他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする団体であり斯様な団体として法律は之を保護し斯様な団体又はその聯合体である場合に於てのみ労働組合法上の労働組合たる人格を認めているものである(労働組合法(旧、新)第二条第一項本文)故に法律は使用者又はその利益代表と認むべき者の労働組合への人的参加を禁止し使用者の労働組合への経済的補助を制限し以て労働組合への使用者の干渉を排除し労働組合の自主性の保障に努めているものである(労働組合法第二条但し書)

故に労働組合の内紛に使用者が関与したり関与させたりすることは労働組合法の趣旨からして原則として許されないところとなさねばならないが原審認定の如く組合の解散が上告人白井が「組合幹部の一部の者が会社の饗応を受けて組合を御用化せしめ様としている」旨の発表をなした為めに組合内部に対立的紛争を生じ上告人白井及之と同調する上告人等を排除し上告人等とのつながりを断つために行われたものであり本件解雇がその解散に協力する意味で上告人を解雇したものであるとすれば之明かに組合の自主性を護ろうとする者を組合及会社から除き以て組合の自主性を奪いその御用化を意図したものであると断ぜざるを得ないものであり労働組合法(旧)第十一条違反の不当労働行為となさねばならない。

然るに原審が『控訴会社が被控訴人等を解雇したのは組合の解散に協力する意味で新組合結成前に被控訴人等を解雇したものである』と認定し乍ら之を労働組合法(旧)第十一条違反の不当労働行為でないとなし以て上告人の本件申請を拒否したのは労働組合法(旧)第十一条の解釈を誤つたによる違法の判決であり因て上告人の申請を排斥した原判決は到底破毀を免れないものである。

五、更に昭和二十年八月の停戦を契機に労働者の団結は保障奨励されその発言権は俄かに拡大強化されるに至つたところその社会的意義を理解出来ず又仮りに之を理解しても資本家的本質からして本能的に之に共鳴し得ない使用者は常に不安に脅へ強い不快感を懐き労働者の法令に基く正しい言動に対し或は使用者の経営権を侵害する不法行為となし或は道徳破壊の行為となし意識的に又は誤解錯覚に依つて労働者の言動を針小棒大にして非難し斯様な労働者の解雇を欲する傾向の存することは顕著な社会的事実であるのである。

けれども解雇は客観的に正当な理由がなければ之を許されないところであるから、使用者の斯かる主張に対してはその抽象的表現に迷わさるることなく事実の具体的真実性を明かにし具体的に証明された事実に対し労働者の権利についての理解を離れることなくして客観的立場に立つて社会的法律的評価をなさねばならぬことは斯かる問題について特に要請された重要な判断の法則であるといわねばならない。

然るに原審は前記の如く解雇の理由を説示し上告人の申請を排斥したが。

(イ) 上告人全員について原審判決認定の如き事実の存在することは原判決引用の全証拠によるも到底之を発見するを得ない、即ち原判決は証拠によらずに不当に事実を認定した違法があり。

(ロ) 又労働者は団結と相互の啓蒙によつてその地位の向上を計らねばならぬものであるから他を啓蒙したり団結を危険にする様な行動を制止したりする権利義務を有し、又連合国及日本の法的措置によつて保障助成されるに至つた労働者の諸権利は必然使用者の資本家的専恣の自由を基調とする使用者対労働者間の封建的秩序に対する破壊的作用を包含するものであるから労働者の諸権利の行使が使用者の意図する業務運営の円滑性に支障となることの生ずることは法律の予定するところでありそれが労働者の権利の範囲内に行われる言動の反作用的結果である限り使用者は之を忍ばねばならないものといわねばならない。

即ち上告人等に会社の主張する如き「煽動的な言動を為し会社当局と従業員との業務上の話合をした者を脅かし従業員をして漸次会社当局と接触することを避けさせ又低能率で控訴会社の円滑な業務運営に支障をきたした」との事実があつたとしてもそれが上告人等の有した正当な権利行為に対する反感的判断であつたり或は正当な権利行為の反作用的結果である場合は解雇の正当な理由たり得るものでないことは明かである。故に斯様な理由事実の認定に於ては何人の如何なる理由事情に基く如何なる言動が行われたかその事実を具体的にし又低能率とは如何なる程度のものかその事実を具体的にし依て証明された事実が労働者の権利行為の反作用でないかどうか労働者の権利行為からする価値を与へねばならないものであり原判決の如く漫然と「被控訴人等を解雇したのは煽動的な言動を為し会社当局と従業員との業務上の話合をした者を脅かし従業員をして漸次会社当局と接触することを避けさせ又低能率で控訴会社の円滑な業務運営に支障をきたす非協力者として為したものである」と判示して解雇を有効と認め上告人の申請を排斥したのは明かに審理不尽理由不備の違法あり原判決は到底破毀を免れないものと信ずる。

第五点

一、原判決は上告人の「従業員の人事に関しては人事委員会を設け組合と協議して定めなければならないのにその手続を経ていないから協約第十七条第七条に違反し本件解雇は無効である」との主張に対し『協約第十七条に「期間満了後も新協約を結ぶまでは本協約は効力を有する」又第七条に「会社は人事に関しては人事委員会を設け組合と協議して定める」との規定あり、本件解雇については人事委員会の議を経なかつたことは当事者間に争がないけれども右協約は前記疎明された事実によつて明かなように組合が有効に解散したため当事者の一方の消滅によつて失効したものであるばかりでなく、人事委員会なるものは現実にはいまだ設けられておらず、且つ解雇当時には組合自体が存在しなかつたのであるから協約第七条の手続をふむ由がなかつたのである』と判示し上告人の申請を拒否した。

二、けれども右判示は次の如き違法あり到底破毀を免れないものと信ずる即ち

(1) 先づ解散が有効であつたので労働協約の当事者の一方が消滅し労働協約が消滅した旨の認定の誤りについては第一点の上告理由を援用する。

(2) 仮りに解散によつて労働協約の当事者の一方である組合が消滅したと仮定しても右協約は尚存続していたものである即ち労働協約第十七条の趣旨は「新協約を結ぶまでは本協約は効力を有する」ことを定めた趣旨のものであり右は「会社の存続、従つて多数従業員の存在、多数従業員の存在は当然労働組合の存在する予想を前提とし会社とその従業員の団体である労働組合との間には常に労働協約を設けその間に空白の生じない様にし以て会社と労働組合間の関係の円滑を計る」趣旨意図に依るものであると解さねばならない。

然るところ本件組合の解散が「上告人等数名の者を組合から除き之等とのつながりを断つた組合にする為に行われたものであること(従て組合の終局的実体的消滅や上告人等数名の者を除いた従業員と会社との関係は全然予想外のことであつたこと)被上告会社は右の事実を認識し且つ斯くて上告人を除き脱皮した新組合が結成されることを期待し依て組合解散の趣旨に協力する為めに新組合結成前に上告人等を解雇する必要あつたので解散直後速達郵便を以て解雇したものであること」は原審の認定したところである。

故に絶対多数の従業員も被上告会社も共に組合の実質的消滅や労働協約の消滅は少くとも本件解雇当時は意識していなかつたのみならず却て尚存続しているものと予定の上に立つていたものと解すべきであり。

斯様な場合には協約第十七条の「新協約を結ぶまでは本協約は効力を有する」旨の協約の効力は適用さるべきものと信ずるものである。

然るに原審が前記の如く認定し上告人の主張を排斥したのは組合規約第十七条第二十条及労働協約第十七条の解釈を誤り且つ自ら認定した前記事実の実質的性格の判断を誤つた違法あるものと信ずる。

(3) 次に『人事委員会なるものは現実にはいまだ設けられておらず且つ組合自体が存在していなかつたものであるから協約第七条の手続をふむ由がなかつたのである』との判示について論ずるに(イ)人事委員会が現実にいまだ設けられていないことは人事委員会を設ける事が不可能と云うのではないのであるから之が現在いまだ設けられてない事を以て人事委員会を設け組合と協議することの協約上の義務を免れ得るものでなく(ロ)又解雇当時組合自体が仮りに存在しなかつたとしても会社は組合不存在の間に早急本件解雇をせねばならぬ、義務を負うたものではないから当然結成の予定された組合の結成を待つて之を行へば足りるものであつて何も一両日中に組合の結成を予定していながら強いてその形式上の空白に乗じて之をなす必要はないのみならず会社は原審認定の如く『上告人等とのつながりを断つたためになした組合の解散に協力する意味新組合の結成前を期して上告人等を解雇した』ものであるから結局「本件解雇は組合及協約の形式的空白(三日間)に乗じてなしたもの」と云うべく被上告会社の『解雇当時組合がなかつたとか協約は消滅していたとか従て協約第七条の手続をふむ由がなかつた』との抗弁が前後甚だ矛盾する詭弁に過ぎないことは極めて明瞭である。

然るに原審が前述の如く『被控訴人等を解雇したのは組合の解散に協力する意味で新組合の結成前を期してなしたものである』と認定しながら『人事委員会なるものは現実にはいまだ設けられておらず且つ組合自体が存在していなかつたものであるから協約第七条の手続をふむ由がなかつたのでその手続をふまなかつたのである』と判示したのは明かにその理由に矛盾ありというべく要するに右認定は組合規約第十七条第二十条及労働協約第七条第十七条の解釈を誤り不当に事実を認定した違法並理由矛盾の違法あり到底破毀を免れないものと信ずる。

以上

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