大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)7号 判決 1952年2月22日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士木田茂晴、同藤井英男、同牧野芳夫上告理由第一点について。

憲法で保障された、いわゆる基本的人権も絶対のものではなく、自己の自由意思に基づく特別な公法関係上または私法関係上の義務によつて制限を受けるものであることは当裁判所の判例(昭和二五年(ク)第一四一号、同二六年四月四日大法廷判決参照。判例集五巻五号二一五頁)の趣旨に徴して明らかである。そして以上の理は一定の範囲において政治活動をしないことを条件として他人に雇われた場合にも異なるところはない。しからば上告人が自己の自由なる意思により校内においては政治活動をしないことを条件として被上告人校に雇傭されたものである以上、右特約は有効であつて、これをもつて所論憲法または民法上の公序良俗に違反した無効のものであるということはできない。それ故論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決の確定した、著者名「ぬやまひろし」名義の「愛情の問題」なる書籍の発行所が、所論の如く「日本青年共産同盟」の発行であり、したがつて原判決が「日本共産同盟出版部」の発行と判示したのは誤りであるとしても、それは発行所名に関する原判決の誤記であるに止まり、これによつて該書自体の同一性を害するものではない。そして原審は該書をもつて共産党の宣伝を含むものであることを証拠に基づき適法に確定しているのであるから、原判決には何等所論理由不備の違法は認められないから、論旨は理由がない。

同第三点について。

共産党員たる上告人が右校裁縫教師として雇傭せられた後、同校女生徒に共産党の宣伝を含む共産主義者の著書「愛情の問題」の購入方をすすめ、かつ、これを売つた事実は原判決の確定するところであつて、原判決は、かくのごとき上告人の所為は同校が上告人を雇入れた際にその雇傭契約の条件とした「校内では政治活動をしない事」に違反するものと判断したものであることは原判文上明らかであつて、右のごとき上告人の所為が同契約にいわゆる校内における政治活動に該当することは勿論であつて、所論のごとくこれを文化的活動を以て目すべきではない。原判決の判断は正当であつて原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条訴訟費用の負担につき同九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見によつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例