最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)1567号 判決 1954年12月24日
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差戻す。
理由
職権をもって調査するに、本件は第一審弁護人石田寅雄が自ら控訴の申立をした事件であって、同弁護人は控訴趣意書差出最終日の前日たる昭和二五年七月一七日控訴趣意書と題する書面を原審に差出していることが認められる(昭和二九年一一月一一日附東京高等裁判所第六刑事部裁判所書記官補田戸美作成の文書受理証明と題する書面参照。なお、弁護人石田寅雄作成名義の控訴趣意書一通が記録中に編綴されることなく不用意に差挾まれているが、原裁判所の受付印は押捺されていない)。ところで、原判決は右書面につき同弁護人は原審(控訴審)において被告人から適法に選任されたものでないから、該書面は適法な控訴趣意書とは認められないとして、これに対しては判断を与えない旨特に説示し、単に原審において国選した弁護人阿部明治太郎の提出した控訴趣意について判断しただけで、本件控訴を棄却したものであることがわかる。しかし、石田弁護人の提出した控訴趣意書と題する書面については、その後適法に撤回されたとか、または原審公判期日において、これを陳述しない旨の明確な意思表示がなされたとかいうような特段の事情は認められないから、該控訴趣意は拒否さるべきではなく、原審において審判の対象とさるべきものであったことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(昭和二四年(れ)第一〇二八号同二九年七月七日大法廷判決「集八巻七号一〇五二頁」参照)。しかも、記録に差挾まれている前記石田弁護人作成名義の控訴趣意書には阿部弁護人の控訴趣意書に包含されていない法令違反および量刑不当の論旨が記載されているから、原判決が前記の如く石田弁護人の提出した控訴趣意書と題する書面を不適法なものとして、これに対して判断を与えなかったことは、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があるものというべく、刑訴四一一条一号によりこれを破棄するを相当とする。
よって、弁護人の上告趣意に対する判断を省略し、刑訴四一三条に則り、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)