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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)1620号 判決 1953年2月13日

本籍

京都市左京区一条寺水平町一四番地

住居

横浜市西区境ヶ谷町六二番地 佐藤竹次郎方

会社事務員

白井道子

大正七年九月三日生

右に対する窃盗被告事件について昭和二五年一〇月二四日東京高等裁判所の言渡した判決に対し原審弁護人堀内正己から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人千速賢正の上告趣意について。

窃盗罪の成立に必要である故意ありとするには、犯罪構成要件たる事実につき認識あるだけでは不充分であつて、かかる認識の外なお不正領得の意思あることを要することは所論のとおりである。しかし、不正領得の意思とは単に物を毀棄又は隠匿する意思ではなく、権利者を排除して他人の物を恰も自己の所有物のごとくその物の経済的用法に従つて利用又は処分する意思をいうものであり、(昭和二五年(れ)三三六号、同年五月一八日第一小法廷判決)、また永久的にその物の経済的利益を保持する意思であることを必要としないとすることは、当裁判所の判例とするところである(昭和二六年(れ)三四七号、同年七月一三日第二小法廷判決)。第一審判決挙示の証拠によれば、被告人は本件衣類の保管者である森清之助が金をくれなければ絶対に被害品たる衣類を返さず、半年一年と金をくれるのが長びけば処分する意思であつたことが認められる以上、いわゆる不正領得の意思がなかつたということはできない。論旨引用の大審院判例は不正領得の意思のなかつたことが明らかな場合であつて、いずれも本件に適切でないから判例違反を主張する論旨は採用できない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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