大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)2313号 判決 1953年12月25日

本籍並びに住居

大阪府泉北郡南松尾村大字春木川二四三番地

農業兼材木商

山本広次

大正九年一月二四日生

本籍

大阪府泉北郡南松尾村大字春木川一五五番地

住居

同村同大字三八番地

農業

北坂宗五郎

大正一三年六月七日生

右賍物故買、賍物寄蔵被告事件について昭和二六年三月一二日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人吉長正好上告趣意第一点について。

所論、第一審裁判所が言渡した判決理由の要旨の告知と、同判決書記載理由との相違の有無に関し、当裁判所がした職権調査の結果によれば、(1)本件控訴申立による、控訴審への記録の送付が著るしく遅れている点、その他諸般の事情に徴すると、所論の如く第一審判決書の原本は、判決言渡後相当長い期間を経過した後に作成されたものであることを推認することができるのであつて、当時裁判事務の渋滞は或程度止むを得なかつた実情にあつたとはいえ、本件の如く第一審裁判所の判決言渡より控訴審への記録送付まで、約一年半を要したことは、まことに遺憾なことといわなければならないのである。しかし、当時本件第一審裁判所には未整理及び未済の事件が相当多く、従つて一般に裁判事務が停滞しておつたものであつて独り本件のみが渋滞したのではない実情にあつたことが認められる。言い換えれば、当時本件第一審裁判所においては他事件の裁判事務に比し、特に本件判決書原本の作成のみが遅延していたため、本件につき所論のような判決言渡理由と判決書理由との喰違いが生ずるに至つたというような関係事実は認められないのである。(2)次に本件第一審裁判所の判決言渡時である昭和二十四年度の事件期日簿及びその対応検察庁である大阪地方検察庁岸和田支部の同年度の公判結果簿中、それぞれ本件第一審判決宣告日である四月一日の部分の記載を見ると、何れも第一審判決書主文と同一の判決言渡の記載があり、しかも右事件期日簿の同年度の他の月日の部分には、公訴事実の一部無罪の言渡事件には、その一部無罪の旨の記載があるのに本件の場合にはかかる記載がないこと、そして、右期日簿の記載状態によれば、その各記載は何れも判決言渡直後、もしくは遅くもその当日中に記載されたものと認められること、(3)本件一件記録を精査すると、原判決も判示する如く、第一審判決理由(一)(二)の事実についても犯罪の証明十分と認められる点並びに第一審裁判所が前示(一)(二)の事実を無罪とし、(三)の事実のみを有罪と認定したとすれば、その量刑重きに過ぎると判断せられること。以上の諸点に徴するときは、第一審裁判所の判決宣告には、その判決書記載どおり、(一)(二)(三)の全事実を有罪とした理由要旨の告知のあつたものと認めるのを相当と思料されるのである。さればたとえ原審において、所論刑訴三九三条一項但書の規定に則る取調べを施行しなかつた違法があるとしても、結局右違法は判決に影響を及ぼさないこと明らかであるから、刑訴四一一条一号を適用すべき事由ある場合に当らない。そして所論は、更に違憲を主張するけれども、その実質は右刑訴法の違反を主張するに帰するものと認められるから採るを得ない。

同第二点について。

所論は違憲を主張するけれども、その実質は第一点所論の判決言渡の際の告知理由と判決書記載理由との喰違いを前提とした立論に基く単なる訴訟法違反の主張に帰するから、刑訴四〇五条所定の適法な上告理由に当らない。

同第三点について。

言渡刑(量刑)を、如何なる部分が有罪となつたかの判断の資料の一つに供することは、決して経験則違背とは云い得ない。そして所論引用の判例は適切のものではないから、論旨は採るを得ない。

同第四点について。

原判決は「……判決言渡調書の記載面からは之を窺い知ることはできないので……一部無罪、有罪の相違は記録を調査し、証拠の内容を検討することにより経験上之を識別し得るのである……」と判示しておつて、所論指摘のような、単なる訴訟手続だけが記載されてある公判調書の記載等をもつて、本件全事実を有罪とした第一審裁判が宣告されたものと推定できる等との判示はなく、また、その如き趣旨と解される判示もないのである。されば、原判決に右所論指摘のような判断があるものとの前提の下における所論引用の判例及び違憲の主張は全くこの場合不適切のものである。論旨は理由がない。

同第五点について。

所論賍物知情の点は、第一審判決挙示の証拠によつて明認できる。そして所論が攻撃する原判決の判示は、所論引用の当裁判所の判例と相反する判断を示しておるものとは認められない。従つて所論引用の判例は本件の場合不適切である。論旨は理由がない。

よつて、刑訴四〇八条に従い、全裁判官一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官栗山茂は出張につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 霜山精一)

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