最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)3089号 決定 1953年8月28日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人岡林辰雄、同小沢茂の上告趣意第一点の一について。
訴訟法が有罪を言渡す判決において必ずしもその量刑をするに至った所以の理由を説示することを要請していないことに徴しても(刑訴三三五条一項参照)、原判決が「所論に鑑みて訴訟記録を精査しても原審の科刑が重すぎるものとは認められない」と説示したことは量刑不当の控訴趣意を排斥する判示としては充分というべく、所論のごとき理由不備の違法ありということはできない。
次に記録に徴すれば原判決の内容の一部として弁護人安平康、同木崎為之の各控訴趣意書が添付された上、これに対する判断が加えられていることが明認できるから、原判決には所論刑訴規則二四六条違反のかどはなく、従って違憲の主張はその前提を欠くものであるから採るを得ない。
尚上告趣意第一点の二及び三については弁護人から適式に削除する旨の申立がなされたので判断を加えない。
同第一点の四について。
第一審公判において検察官が罰金八〇万円を求刑したのに対して第一審裁判所が被告人を懲役六月及び判示第一の罪につき罰金八万円、判示第二の罪につき罰金三万円に処したこと、この間裁判所が刑訴三一二条二項により検察官に対し懲役及び罰金の併科を定めた酒税法六三条の二を追加すべきことを命じなかったことは所論のとおりである。しかし刑訴二五六条四項、従って同三一二条にいう「罰条」とは訴因の明確なる特定を図り起訴の範囲を一層限定するために附加的に記載されるものを指すものと解すべきであるから、右の酒税法六三条の二のごとき、訴因の特定と直接に関係のない規定は右にいわゆる「罰条」に当らないものというべく、従って裁判所が検察官に対しその追加を命ぜず、判決においてこれを適用したのは何等違法ではないのである。又判決においても右の併科をする情状を必ずしも具体的に明示することを要するのでないことは当裁判所の判例の示すところである。(昭和二四年(れ)三二七号、同年七月二三日第二小法廷判決。判例集三巻八号一三七七頁以下参照)従って第一審判決を維持した原判決には違法のかどはないから、論旨は理由がない。
同第一点の五について。
論旨は原審において主張判断を経ない事項について原判決の違憲を主張するのであるから上告理由として不適法である。(第一審公判において所論差押顛末書の製造物件の数量に関する部分について証拠調をした違法があるとしても、第一審判決はこれを除いた部分の記載のみを採用し、これと他の証拠とを綜合して事実を認定したと解されるのであるから、右の違反は未だ判決に影響を及ぼすことが明らかであるとは言い難いのである。)
同第一点の六について。
本論旨も原審において主張判断を経ない事項に関するものであるから不適法である。(所論の差押顛末書が刑訴三二二条にいう「被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面」にあたらないことは明かであるから、所論の刑訴三〇一条違反の問題は生じない。)
同第一点の七について。
本論旨も前同様原審において主張判断を経ない事項に関するものであるから不適法である。(国税局の収税官吏が国税犯則取締法一三条一項二号により「犯罪嫌疑者逃走ノ虞アル」ものと認めるか否かについては、同収税官吏の合理的な自由裁量に委かされているところ、記録によるも収税官吏の判断が合理性を欠いているとは考えられないから違憲の主張はその前提を欠くものである。)
同第二点について。
本論旨も原審において主張判断を経ない事項について原判決の違憲を主張するものであるから不適法である。(第一審裁判所は被告人の自白のほかに補強証拠を掲げて事実を認定したものであるから憲法三八条三項違反の論旨は前提を欠き採用し難い。)
同第三点について。
論旨は之また原審において主張判断を経ない事項に関するものであるから不適法である。(前叙のごとく第一審判決は差押顛末書の製造物件の数量に関する部分を除いた差押顛末書の記載を証拠としたものと解されるから、論旨は判決に影響を及ぼさない違法について判例違反を主張するに帰する。)
同第四点について。
論旨は刑訴四〇五条に定める上告理由に当らないし、また同四一一条を適用すべきものとは認められない。
被告人本人の上告趣意について。
論旨は縷々として原判決の量刑を非難するものであって、刑訴四〇五条の適法の上告理由に当らない。また同四一一条二号を適用すべきものとは認められない。
よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)