最高裁判所第二小法廷 昭和26年(れ)249号 判決 1951年6月29日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人鹿又文雄の上告趣意について。
論旨は原判決は検察官が公訴事実として陳述をしていない原判決判示第二の偽造公文書行使の罪を認定した違法があり従って憲法第三一条にも違反するものであるというにある。記録によれば原審第一回公判期日において検察官は第一審判決の事実摘示に基いて公訴事実の陳述をなし、そこには公文書偽造の事実の摘示はあるが、偽造公文書行使の事実の記載録のないことは所論のとおりである。しかし行使の目的をもってする公文書の偽造とその偽造公文書の行使とは刑法第五四条第一項後段の牽連犯として科刑上の一罪に属するものであるから偽造公文書行使について公訴事実の陳述がなかったところで裁判所がこの部分についても審判することを妨げられるものでないと解しなければならない。然らば原判決には所論のような違法はないのである。
弁護人谷藤七郎、井出甲子太郎の上告趣意について。
論旨は原審が第一回公判期日を昭和二五年七月一日に、第二回公判期日を同年九月二九日に開きながら一五日以上開廷しなかったものとして公判手続の更新をしなかったのは、旧刑訴第三五三条に違反すると主張し刑訴規則施行規則第三条第三号で「開廷後引き続き一五日以上開廷しなかった場合においても必要と認める場合に限り公判手続を更新すれば足りる」としたのは刑訴施行法第一三条の委任の範囲を超え憲法に違反するものであると論じておる。しかし右刑訴規則施行規則第三条第三号の規定が憲法第七七条に定める最高裁判所の権限の範囲内に属しかつ刑訴施行法第一三条の委任の範囲であることは当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第二一二七号同二五年一〇月二五日大法廷判決)とするところであるから論旨は理由がない。
被告人の上告趣意について。
被告人の論旨は公文書偽造行使詐欺には関与しておらず、相被告人千賀一太郎等の所為であるという事実誤認の主張に帰するが原判決挙示の証拠に照らせば到底採用できないし事実誤認の主張は刑訴応急措置法第一三条第二項の規定により上告適法の理由とならないところである。
以上の理由により刑訴施行法第二条旧刑訴第四四六条により主文のとおり判決する。
右は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)