最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)128号 判決 1953年12月04日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人等の負担とする。
理由
上告理由第一、二点について
所論旧組合規約一七条には、組合員総会に諮るべき事項として、組合規約等に関する事項の外委員会において必要と認むる事項を掲げ、またその二〇条には委員会に諮るべき事項として組合運営に関する事項の外総会に諮るべき事項を挙げていることはいずれも原審の確定したところである。そしてこれら両規定を対照して考えれば、組合員総会に諮るべき事項は規約上当然に委員会の先議を経べきことを予想したものと解さなければならない。このことは右両規定の文理上当然なるのみならず、原審の確定した旧組合規約一八条によれば、組合総会の日時、場所、議案の通知等は少くとも会日の五日前になさるべきことを原則とするのであるが、かかる事項は当然に委員会の権限に属するものと解すべく、従つて委員会の議を経ない議案はこれを予想しなかつたものと見るのを妥当とするのである。もつとも右規約一八条には緊急を要する場合はこの限りでないとして、一見緊急の場合には議案の通知を要しない旨規定したかの如くであるが、他面組合員総会が総会毎に組合員により選出される代議員によつて構成されるものであること、従つてまた代議員は事前に通知された議案について選出されるものであることは原判決の確定した事実であつて、この事実によれば、総会の日時、場所は勿論議案の通知についても、緊急の場合といえども少くとも代議員を選出するに必要な期間はこれを存置すべきものとした趣旨なることを知るに足るのである。しかし以上の事実から直ちに委員会の議を経ない議案は絶対にこれを総会に提出し得ないものと速断することはできない。思うに議決機関と執行機関とを分離する立前の下においては、議案の提出はこれを執行機関の管掌下に置くを通例とするも、構成員にその権限を認めないときはその権利を適正に保護し得ないことに鑑み、かかる場合に対処し、構成員にはいわゆる少数株主権の如き固有の総会召集権従つて議案提出権を認めるのである。しかるに本件旧組合規約上かかる組合員の権利を保護する規定のあることについては原審において何等の主張のないところである。しかしかくては組合員の権利は蹂躙せられ、委員会において議案の提出を肯じない以上、組合員は拱手傍観たゞ委員会の恣意に委ねざるを得ないこととなるであろう。組合規約をかくの如く不合理に解することは解釈として決して当を得たものということはできない。以上の見地から前記諸規定を見れば、右はたゞ通常の場合を予想したものにすぎず、緊急な特別の事情ある場合に、少くとも総会開催中組合員より議案を提出するは何等その禁止する趣旨でないものと解するを妥当とすべきである。そして右の如く組合員に議案の提出権を認むるは緊急特別の事情ある場合であり、これに関する規約上の定めの認むべきものがない以上、議案の事前の通知はこれを要しないものと解するを至当とする。旧規約一八条は組合員総会を召集する場合に関する規定であつて既に召集された組合員総会において新に議案を提出する場合に関する規定でないから、これによつて右の解釈が妨げられるものではない。
しからば叙上の規定から組合員総会は旧組合規約二〇条所定の事項以外は当然に委員会の先議を経ずして審議し得、また緊急の場合に直ちに議案の通知を要しないとした原判決は失当であるが、本件解散の決議をもつて有効とした結論は正鵠たるを失わないものというべくこれと反対の見解に立ち、原判決を非難する論旨は排斥を免れない。
上告理由第三点について
原判決の引用する第一審判決の事実摘示並に本件口頭弁論の結果によれば、被上告人は上告人の所論主張事実中起立による採決の方法を執つたことを認めたに止まり、その方法を執るに至つたのは所論の如き威圧干渉を加えたためであるという事実はこれを否定した趣旨であることが明である。所論は被上告人の答弁の片言隻句を捉え、これを曲解した上での論であつて採用することはできない。
上告理由第四点について
上告人等が「煽動的な言動をなし、職場の秩序をみだし」また「会社当局と業務上の話合をする従業員を脅かし、会社当局との接触を避けさせるなどして、被上告人の円滑な経営を阻害するとともに業務能率を低下させた」という事実は原審挙示の証拠によつてこれを認め得ないことはない。そして右の事実自体当然に上告人等の不当所為を示すものと認め得べく、更に詳細にその具体的な事実を認定しなければならぬものではない。被上告人が所論地方労働委員会において、解雇理由を明にし得なかつたということは(被上告人はこの事実を無条件に認めてはいない、昭和二四年二月一四日附答弁書並に同日の弁論調書参照)、直に本件解雇理由が創作であるという事実を導き出すものでないことは勿論である。そして解雇理由はこれを被解雇者に通知しなければならないという根拠はないから、論旨は畢竟単に名を憲法違反に藉りるだけのものというの外なく、これを採用すべき限りでない。
上告理由第五点について
使用者は原則としていかなる意味でも労働組合の結成または運営に介入することを許されないものと解すべく、このことはこの点について特段の規定のなかつた旧労働組合法の下においても同様である。蓋し労働者の団結に、使用者の介入を許すは団結権を否定することとなるからである。しかし被上告人が上告人等を解雇した理由は論旨第四点について説明したとおり、上告人等が低能率且つ被上告人の業務運営を妨害したがためであつて、しかもそれは旧組合の解散決議後解雇したものであることは原判決の確定したところである。されば原判決が「旧組合の解散に協力する意味で上告人等を解雇した」という措辞は穏当を欠くが、その趣旨は要するに既に消滅した旧組合に関し、更に紛争の継続するを回避しようとする意図もあつたことを説明したものに止まり、これをもつて解雇理由としたものと認め難いから、本件解雇を不当労働行為であるとする論旨は理由がない。
上告理由第六点について
旧労働組合が解散して新労働組合が結成される場合、旧組合当時の労働協約が効力を失うか否かの問題は、これを一概に論ずることはできないけれども、原判決の確定した如く旧組合の内紛によりその脱皮生長を図るため旧組合を解散し、新にこれと別個の組合を結成したような場合には、前組合と後組合とはその関連性がなく、団体としての統一的持続を欠くものと認むべく、従つて旧組合当時の協約はその効力を失うものと解すべきである。されば所論旧協約上の自動延長の定めを根拠とする本論旨はすべて理由なきに帰する。
よつて民訴三九六条三八四条八九条九五条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)